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【完結・BL】転校生に学年トップを奪われたから弱みを握ろうと友達のフリして近付いたらとんでもない修羅場が待っていた  作者: Ru
【前編 / 04】 『時よ止まれ』

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 いつもより少し口数の少ない宗像と、ほとんど言葉の出ない俺。

 二人してバス停の前でぼんやり腰掛けていたとき、宗像がぼそりと言った。


「俺、あのバスで行くから」


 ロータリーをゆっくりと回って現れたのは、あのとき宗像が駅には行かないと言ったバスだった。

 宗像とバスを交互に見る。


「えっと……寄り道?」

「そう」


 続けて彼が告げたのは、郊外にある大きな家具屋の名前だった。そんなところに何の用事だろう。


「……模様替え?」


 宗像が黙って首を振る。大きな手が鞄をさらって、さっと立ち上がる。

 ほとんど同時に、目の前にバスが着いた。プシュー、と音を立ててドアが開く。


 宗像がステップを上り、バスに乗ろうとする。その視線が、ちら、と俺を振り返った。あまり見たことのない目をしていた。


 なんとなく、今彼を一人にしてはいけないような気がして、俺は咄嗟に立ち上がる。


「じゃあ、また生研部で──」

「ま──待って!」


 なぜそうしたのかはわからない。俺は気が付けばベンチを飛び出し、勢いよくバスのステップを駆け上がっていた。

 背後でプシュー、とドアが閉まる。車体の傾きがもとに戻る。


 がたん、と大きな揺れとともにバスが走り出して、宗像は、急な動作のため膝に手をついて息を切らす俺を、ぽかんと見つめていた。


「……なにやってんだ、おまえ」

「え? えっと……なんだろう……」


 わからない。どうしてこんな行動に出てしまったのか。

 俺は自分でも首を傾げながら、はあっ、と息と姿勢を整えた。


 宗像は呆れたように俺を見ていたが、小さくため息をつくと、しょうがない、とつぶやく。

「揺れる前に席行こうぜ」と誘って、彼はさっさと席に座ってしまった。


 隣に腰掛ける。宗像は俺を見なかった。ただ黙ったまま外を見つめて、バスに揺られている。整った横顔。

 そろりと伺うも、宗像の表情の奥にあるものは掴めなかった。宗像は俺を見ずに、淡々と外を見つめている。


 バスがかたんと揺れて、走り出した。俺は宗像をこっそり横目で見ながら、揺れるバスに身を委ねた。




 到着した大型家具店は、広々としていて、明るかった。

 物珍しさにきょろきょろする俺をよそに、宗像はまっすぐにカウンターに向かった。


「すみません。取り寄せお願いしてた、これお願いします」


 ひらりと一枚の紙を手渡す。

 店員さんはにこやかに紙を受け取ると、はい、と微笑んで奥に向かった。

 俺はおずおずと宗像を見上げる。宗像はこちらを見なかった。


 店員さんが戻ってきて、宗像にひとつの袋を見せる。

 こちらでよろしかったでしょうか、の問いかけに、宗像は無造作に頷いた。レジを通し、シールを張り、支払いを済ませ、俺は宗像のあとに続く。


 好奇心に負けて、宗像の手元を覗き込んだ。

 そこには季節外れのイルミネーションライトがあった。クリスマスツリーなんかに巻きつけて使う、ちっちゃな細長い電球がコードにいっぱり付いているやつだ。


「飾り付け?」


 宗像が無言で首を振る。彼はそっと紙袋の中から、中身を取り出した。がさがさと紙がこすれる音がする。

 現れたライト、そのひとつの付け根を、宗像は指差した。


「これを、全部ここで切る」


 それだけを言って、とんとん、と指先がひとつのライト、電球部分の根っこを指す。

 俺はまじまじと彼の指先を見た。


 イルミネーションライト、長いコードの途中途中で、ぽつっ、と細長いLEDと思しきライトがついている。その根本から少し離れたところを、宗像は指差していた。


 ちら、と視線が俺を見つめる。それでだいたいのことを察した。


 さっき、病室で宗像が踏み砕いたものは、粉々にされた細い管と、そこから伸びたコードだった。

 目の前にあるイルミネーションライトをばらばらにすれば、病室で見た〝あれ〟に見えなくもない。


 宗像が小さく頷いた。


「この細長いタイプの電球、ここしかないんだ。これが一番それっぽい」


 たしかに、細長い黒い筒の先に透明なライト部分、もう一端から伸びる二本のコードだけを見れば、古典的な隠しカメラに見えないこともない。


 複数あるライトの根っこ、それを全て根本で切ってばらばらにすれば、だいたい十数個の〝隠しカメラ〟もどきができあがる、というわけだ。病室で即座に踏み潰せば、細かく追求されることはない。


 俺はおずおずと宗像を見上げて、口を開きかけて、でもなにも言えなかった。


 宗像はつまり、母の妄想を本当として扱うため、こんなものを毎回買い足しているのか。

 それが良いことなのか悪いことなのか、俺にはどうしても判断ができなかった。


 開きかけた口を閉じて、ぐっ、と下を向く。

 俺にはなにを言うこともできない。判断する基準すらない。

 ただ目の前にあるなんとも言えない事実を咀嚼して、飲み下して、受け入れるほかになにもなかった。


 宗像が、小さく吐息を吐く気配。静かな沈黙。そののち、彼はそっと言った。


「付き合ってくれてありがとな。せっかくだし、この後メシでも食って……そうだな、うちで勉強してくか」

「……っ」


 宗像のうちで、勉強。ちらちらと蝶の死骸が脳裏をよぎる。強烈な、『やめたほうがいい』という本能的な警告。それになんとか抗って、俺はこくりと頷いた。


 宗像が、じゃあ行こうぜ、今度は注文方法わかるよなと笑って、俺を追い越していく。

 俺は黙って頷くと、彼の後に続いた。




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