< 49 この世界に就任した神 十七柱目 26 冒険者ギルド誕生までのお話 25 強制依頼 >
冒険者斡旋所に新しいルールが追加された。
ひっそりと。
そのルールの存在は、そのルールの対象となる者が少なかった事と、そのルールが冒険者たちの常識からかけ離れていた事から、なかなか広まることにはならなかった。
そのルールの名は、『強制依頼』と言った。
< 或る冒険者 >
かなりの収入を得られた。
指名依頼をこなした事で。
褒美として家も貰ったし、ちょっと休もうかな。
恋人にプロポーズして、これまで以上にイチャイチャするのもいいな。
冒険者斡旋所から、また指名依頼が来た。
断る為に冒険者斡旋所に出向いて、受付の者に言う。
「今回の指名依頼は受けられない。少しの間休むつもりだ。」
「そう言われましても、この依頼は断る事は出来ません。」
「…なに?」
俺は驚く。
『断る事は出来ません。』なんて言われる理由など無いはずだからだ。
「ルールが追加されました。上級冒険者には『強制依頼』を受ける義務があります。」
初めて聞いた。
そんなルールも、『強制依頼』という言葉も。
「…断ったら?」
「冒険者斡旋所から除名されます。それと家も返していただきます。」
せっかく家を貰ったのにか…。
『断れない』というのも問題だな。
冒険者斡旋所は国営だ。
『国に盾突いた。』とか言い掛かりを付けられかねない。
他の国に逃げようかな。
「他の国に行くのはお勧めしません。他の国も同様の”国営の冒険者斡旋所”を作る様ですので。」
なるほど。
そうなると、貰った家を捨ててまで他の国に行くメリットは無いのか…。
ぬぅ。
高額の報酬を得られる指名依頼が無くなるのはイヤだな。
以前の様な安い報酬を得る為に魔物を狩るなんてイヤだ。
昔の、安い報酬しか得られずに苦労していた時代を思い出す。
「強制依頼中に怪我をして引退を余儀なくされた場合は、怪我の程度にもよりますが生活費が支給されます。」
「なに?!」
冒険者が怪我で引退しても生活費が出る?
今までには無かった事だし、有り得ない事だ。
何故、そこまでするんだ?
分からない。
美味い話にはウラが有る。
怪し過ぎる話だ。
俺は返事を保留して、家に帰った。
家に帰り、恋人に相談した。
「引退しなくちゃならないほどの怪我を負う心配が無いって事なんじゃないかな?」
そんな簡単な話ではないと俺は思うのだがな。
おっとりとした恋人の、甘すぎる意見に反論する。
「死ぬ様な仕事だからなんじゃないか?」
「死なせる様な仕事はさせないじゃないかな? 悪い評判が立つだけでしょ。『強制依頼を受けると死ぬ。』って。」
なるほど。
そうかもしれないな。
うむ。
俺は、強制依頼を受ける方向で考え始めた。
後日。
恋人に家の事を任せて、俺は強制依頼の仕事先であるダンジョンに向かった。
初めての強制依頼の仕事から帰って来た。
長い仕事だったが、大した怪我も無く無事に依頼をやり終えた。
報酬もたんまり貰ったし、半年の休暇も、褒美の一部として認めてくれた。
休暇に入ってすぐに恋人と結婚し、今の俺は幸せだ。
今思うと、強制依頼を受けようかどうしようかと悩んでいた事が滑稽に思えてくる。
強制依頼を受けて良かったとしみじみ思いながら、妻とイチャイチャした。
< 大臣 >
冒険者斡旋所を統括している責任者から報告を受けます。
「『強制依頼』の件ですが、これまでのところ死者は出ていませんが、怪我で引退をした者が数名おりました。」
「怪我で引退をした者には、ご命令通りに生活費を支給しております。」
「『強制依頼』への反応は、おおむね好意的な様です。」
「上級冒険者への報酬の件もあり、評価を上げる為にダンジョンへ行く依頼を受ける者が多くなっています。」
望んだ結果が出ている様ですね。
死者が出ていない事も、引退した者が多少居る事も、望んだ通りの結果です。
引退した者の口から、生活費が出ている事が伝わるでしょうからね。
目の前に居る彼は不満そうですが。
「何故、怪我で引退した冒険者ごときに生活費を渡してやるのですか? 危険な事を承知で冒険者をやっている者たちなのですよ?」
やれやれ。
やはり思慮が浅いですね、彼は。
この程度では先が思いやられます。
仕方がありません。彼に教えてあげる事にしましょう。
「将来、全滅が有り得る様な危険な状況に、兵士ではなく冒険者たちを投入できる状況を作っておく為ですよ。その為に『強制依頼』が割の良い仕事だと思わせておくのです。」
彼は驚いている様です。
彼には少し言葉がキツ過ぎたのでしょうか?
それとも、掛かる費用の事を考えているのでしょうか?
説明を続けます。
「いつか起きる『その時』の為に準備をしておくのです。『その時』が100年先だろうが1000年先であろうとも。また、『その時』が起きないかもしれなくともです。」
「それが、国に仕える私たちの仕事ですよ。」
「『その時』が来てから『対抗手段が有りません。』では済まないのですし、許されないのです。」
「『斡旋所の為ではなく、国の為に仕事をしているのだ。』と、そう思って、日々の仕事にあたって下さい。それが、国に仕える私たちの仕事です。」
彼は感動している様です。大袈裟ですね。
この程度の事に自分で気付けないのでは困るのですが、人間は知る事が成長の切っ掛けになりますからね。
もっとも、知っただけで、実行できる様になる訳ではありませんが。
そこは、これからの彼の成長に期待しましょう。
私は、彼が”実行できる”側の人間である事を祈ります。
これまで、多くの者にしてきた様に。




