< 46 この世界に就任した神 十七柱目 23 冒険者ギルド誕生までのお話 22 二代目クレイトンの奮闘01 >
冒険者斡旋所が国有化されてしばらく経った。
国有化直後に引き上げられた魔石の買い取り価格は、多くの冒険者たちの予想に反して未だに引き上げられたままだった。
その事により、少なくない変化が起きていた。
先ず、森の魔物が激減した。冒険者たちに狩られて。
次に、魔物を狩る為にダンジョンまで足を延ばす者が現れた。
そして、彼らは気が付いた。
遠いダンジョンまで行っても、利益が出る事に。
魔石の買い取り価格が引き上げられたままだったから。
盗賊が駆逐された事で商隊の護衛の仕事が減り、さらに森の魔物が激減した今。
冒険者たちがダンジョンに向かう様になるのは、当然の流れだった。
冒険者たちが、こぞってダンジョンへ向かう様になる前。
クライス王国の北西の端に位置する街、カカーラ。
二代目クレイトンはこの街に新たな拠点を作った。
ダンジョンに光明を見出したからこその行動であった。
本当はダンジョンの在る街、グラム王国のグシククに拠点を作ろうと思っていた。
これから盛んに冒険者たちが訪れる様になって、さらなる発展が見込めると思ったからだ。
だが、それは幹部たちに止められた。
「国(クライス王国)が良い顔をしないでしょう。それどころか邪魔をされるかもしれません。グシククで利益を上げても国には何の利益も無いのですから。」
「ダンジョンからは遠いですが、北西の端の街カカーラで利益を出す方法を考えましょう。冒険者向けにあらゆる物の需要が高まって来るはずです。」
そう言われて、彼はグシククに拠点を作るのは諦めた。
彼の目標は、父を超え、国王を始めとした国の重鎮たちに認めてもらう事だ。
だから、『国が良い顔をしない』と言われれば、避けざるを得ない。
今、悪い方向で目を付けられてはいけない。まだ、商会を継いだばかりなのだ。
いきなり、悪い評判が付いてしまっては、この先、苦労することになってしまうだろう。
『焦らずに慎重にやろう。』
二代目クレイトンは自分に言い聞かせる。
出来る範囲でじっくりやろう。
認められさえすれば、新たな扉が開かれるだろう。
そうとも。
焦る必要は無いのだ。
クレイトン商会の”強み”を活かせばいいのだから。
ふと、彼の脳裏に父の姿が思い浮かんだ。
『そうとも。『焦らない』というのも大事なのだろう。父上が焦っているところを見た事など無いではないか。』
そう思い、彼の心は落ち着くのだった。
二代目クレイトンがカカーラに拠点を作ったのは、この街で、新たにダンジョンに挑もうとする冒険者たちや、既にダンジョン探索を生業にしているダンジョン探索者たちに魔道具を売ろうと思ったからだ。
実は魔道具製造が、クレイトン商会の”強み”であった。
魔道具が、引退した漁師たちの手により作られるようになった時。
クレイトン商会は、その情報を早くから得る事が出来た。
以前から、漁師たちと良好な関係を築いていたお陰だった。
その為、クレイトン商会は魔道具を作る職人を多く抱える事が出来ていたのである。
また、二代目クレイトンの動きに追従しようとする者は、何故か現れなった。
これは、王都で有数の規模だったブレナン商会が、バレリィ商会に吸収され消滅したゴタゴタが、王都で起きていたからである。
クレイトン商会から『クレイトン冒険者斡旋所』を奪ったブレナン商会の消滅が、意外な形で二代目クレイトンに追い風となっていた。
二代目クレイトンがカカーラに拠点を作ってからしばらく経った。
彼が見越した通り、多くの冒険者たちがこの街を経由してダンジョンに向かった。
彼の店では冒険者たちに魔道具を販売し、『王都と同じ品揃えだ。』と喜ばれていた。
だが、彼は不満だった。
この街はダンジョンから遠く、ここを”拠点”としてダンジョンに行き来する冒険者は少なかったから。
ダンジョンに関する情報が十分に得られず、冒険者たちがどの様な魔道具を欲しがっているのか知る事が出来なかったから。
さらに、他の商会もこの街での活動を活発化させていたから。
『このままではいけない。』
彼は対策を考える事にした。
ダンジョンの在る街グシククに拠点を作る事は、以前、幹部たちに反対されていた。
グラム王国で商売して利益を出してもクライス王国に利益をもたらさないからだ。
グシククでの魔道具の製造は、それ以上に反対された。
「魔道具を作れる職人を国外に連れ出しては、国に何を言われるか分かったものではありません。最悪、商会を潰されかねません。」
そこまで言われて。
会議の席で幹部の一人が言う。
「グシククに冒険者を支援する施設を作るのはどうでしょうか?」
「これまで国がした事を考えると、国の方針はダンジョンに冒険者を向かわせたい様に思います。」
「その冒険者を支援する施設なら、国の反感を買う事は無いのではないでしょうか?」
良いアイデアだと思った。
冒険者向けの宿を作り、酒場を併設して、酔った冒険者たちの口から色々とダンジョンの情報を得られるのではないだろうか?
また、国営となった冒険者斡旋所と冒険者たちの間を仲介して、魔石の買い取りをする施設を作るのも良い。
そう方針を決め、国にお伺いを立てに行くことにした。
王宮を訪れた二代目クレイトン。
冒険者斡旋所を統括している責任者と会う事が出来た。
ダンジョンの在る街グシククに、冒険者向けの宿と、魔石の買い取りを仲介する施設を作る意向を伝え、反応を見る。
これらの施設が、この国にどの様に恩恵をもたらすかを説明しながら。
冒険者向けの宿は歓迎されたが、魔石の買い取りを仲介する施設については注文を付けられた。
「すべての魔石を確実に冒険者斡旋所に引き渡す方策が必要だ。」と言われて。
この対策として買い取り量と買い取り価格を監督する者の派遣を受け入れる事で、同意を得られた。
負担にはなるが、断られる可能性も有った事を考えれば、十分に満足できる内容だった。
王都の隣街カムデンに在るクレイトン商会の本拠地に戻った二代目クレイトン。
ダンジョンの在る街グシククで始める事業について幹部たちと最終確認を済ませ、父に挨拶し、彼はすぐにカカーラに戻って行った。
今回の仕事は、彼が父から商会を継いでから初めての大きな仕事であったので気が逸ってしまい、すぐにカムデンを後にしたのだった。
そんな二代目クレイトンの様子に、幹部たちは好意的だった。
今の幹部たちが仕えていた先代クレイトンも、よく現場に行っていたからだ。
特にこのカムデンで起きた騒乱の鎮圧の際には先代クレイトンも参加し、その事がこの地に本拠地を築く事に繋がっていたのだから。
二代目クレイトンは、ダンジョンの在る街、グラム王国のグシククにやって来た。
既に幹部たちが、商売の許可を取るなどの準備は進めていたが、『領主が会いたがっている』と聞かされたからだ。
二代目クレイトンはグシククに着くと、この街で商売の準備をさせていた幹部たちからこの街の様子を聞いた。
「治安はよくないです。『冒険者の街』と思っておいた方がよいでしょう。」
「それと、ケイニル王国の兵士が多いですね。」
「ケイニル王国がダンジョンに大勢の兵士を向かわせているという噂は本当の事みたいです。」
他国の兵士が多いのは不安材料だ。
「他国の兵士が多いのは歓迎できないな。揉め事に巻き込まれない様に注意しないといけないな。」
「領主が会いたがっているのは、街の治安維持についてでしょう。」
クレイトン商会が手掛けている仕事の一つに、街の治安維持業が在る。
その噂がこの街にも届いていたのだろう。
「それは困るな。」
他国の兵と他所の国で面倒事など起こしたくなどない。
「やるべきではないな。」
「はい。領主がどのくらい本気なのかは会ってみないと分かりませんが、断られて当然と思って無理な事は言ってこないでしょう。」
領主の館に使いの者を行かせ、領主には明日会う事になった。
翌日、二代目クレイトンは領主に会いに行った。
腰の低い領主で驚いた。
だが、この街に在るダンジョンは、『何処の国の者でも入れる』と決められているので、あまり我の強い者を領主に出来ないのかもしれないな。
二代目クレイトンは領主にこの街でする事業について簡単に説明した。
「治安維持業はしないのかね?」と訊かれたが、「他国の兵士と揉め事を起こしたくありませんので。」と言ったら、それ以上その話は出なかった。
結局、ただの挨拶で終わり、彼は安堵して領主の館を後にしたのだった。
カカーラの拠点に戻り、ここから資材調達と施設建設の指揮を執る二代目クレイトン。
現場から遠く離れる事については不満に思ったのだが、幹部たちの助言に従ってこうしている。
「資材の調達は国内で行い、『国(クライス王国)の利益になる事をしているのだ』と示しておきましょう。そうしておけば、他国で何か問題に巻き込まれてしまった時でも、助けてもらえますから。」
そう言われてしまっては、幹部たちの助言に従わない訳にはいかなかった。
特にグシククにはケイニル王国の兵士が多いのだ。
国に縋れる状況を作っておいて損は無いはずだ。
『焦らずに慎重にやろう。』
そう自分に言い聞かせて、日々を忙しく過ごした。
施設の建設を始めて一年。
二代目クレイトンは再び、ダンジョンの在る街グシククを訪れた。




