< 44 この世界に就任した神 十七柱目 21 冒険者ギルド誕生までのお話 20 >
『冒険者斡旋所』が国有化された。
その事を報らされた冒険者たちの反応は、意外と薄かった。
以前にも一度、運営する商会が変わった事が有ったから。
その時の事を、まだ憶えている者が多かったから。
「また素材の買い取り価格が引き上げられるぞ。そして、すぐに引き下げられるんだ。以前よりも安くな。」
「斡旋所の運営は利益を出せないのだろう。だからすぐに商会が手放すんだ。」
「国が手放したら、その次はどうなるんだろうな?」
「また職員が減らされるのだろうな。『引退した冒険者たちの雇用先』という最初の話は、何処に行っちまったんだろう。」
そんな反応だった。
多くの冒険者たちが想像していた通りに、素材の買い取り価格が引き上げられた。
もちろん、冒険者たちの反応は醒めたものだ。
「やっぱりな。どうせまたすぐに引き下げられるぞ。」
「慌てて何かをすることはない。慌ててもいいことなんて無いんだからな。こちらは命を懸けてるんだから。」
『冒険者斡旋所が国有化された。』という話は、すぐに冒険者たちの話題にも上らなくなった。
斡旋所で働く職員たちには少なくない動揺が有った。
急な話だったので、前もって話を聞けていた者など、王都に居た極僅かな者たちだけだったから。
特に、遠くの街の支店に派遣されている商人たちほど、今回の急な報らせに大いに困惑した。
情報のやり取りが組織に大きな負担となっている事は皆が知っていたので、『商会から切り捨てられた!』と取り乱す者が多く出て、多くの支店で混乱が見られた。
だが、続報が届き、詳細を知らさせるにつれて混乱は終息し、いつの間にか以前の状態に戻っていたのだった。
国有化された後も引き続き冒険者斡旋所の本店店長を任されているベイカー。
彼は上機嫌だった。
彼は今後も本店店長の地位に就き続ける事が内定していたから。
国からの要請だったので、ベイカーは上機嫌だった。
『国が私のことを認めてくれたからだ!』と喜んでいたから。
今日は、さらにベイカーを喜ばせる事が起きた。
彼は、先ほどまで行われていた軍との話し合いを思い出す。
軍との話し合いは、『冒険者の情報のやり取り』についてのものだった。
その事を切り出された時は、とても不安に感じた。
『冒険者の情報のやり取り』は、この斡旋所にとっての一番の問題だったから。
さらに、その情報を盗賊たちに悪用されて大きな問題になり、斡旋所で対応し切れずに国に盗賊の討伐をお願いしなければならない事態にまでなったのだ。
彼が不安に感じるのも当然だった。
だが、彼が軍から言われた事は、想像とは正反対とでも言えるものだった。
なんと、『冒険者の情報のやり取り』を軍が無償で請け負ってくれると言うのだ。
街道警備の巡回のついでに、冒険者の情報を運んでくれるとのことだった。
その代わりに、『素材の買い取り価格を引き上げてほしい。』とは言われたが。
だが、その程度の事は大した事ではない。
『冒険者の情報のやり取り』に掛かる経費がとんでもなく大きかったのだから。
斡旋所を苦しめていた、『冒険者の情報のやり取り』に掛かる経費の問題。
多額の経費が掛かり、斡旋所の経営を酷く圧迫していた。
その多額の経費が消える事になるのだ。国有化によって。
これはとんでもない事だった。
有り得ない事だった。
とてもビックリしてしまって、会議の最中であるにも関わらず、深く考える事が出来なくなってしまうほどだった。
会議を終えて、一人になってから改めて考えてみた。
本当に、とんでもない事なんだと実感した。
五つの商会が手を組んでさえ、経営を圧迫し続けた大問題。
それが国有化によって、きれいさっぱりと消えた。
『有り得ない事が起きた』と感じた。
そして、気付いた。
『この斡旋所の将来は安泰だ。』と。
この先、経費削減で苦労する事など無いのだ。
ベイカーは、自分がこの将来が安泰な斡旋所の本店店長である事を誇らしく思った。
今までの自分の頑張りが認められたのだ。
才能が認められたのだ。
苦労が報われたのだ。
そう思って、感激し、彼は喜んだのだった。
経費削減の必要の無いこの組織に、『何故、経費削減を率先して行ってきた彼が求められたのか?』なんて事を、彼はまったく疑問にも思わなかったのだった。




