< 43 この世界に就任した神 十七柱目 20 冒険者ギルド誕生までのお話 19 冒険者斡旋所、国有化される >
< ブレナン視点 >
大臣の使いの者が会いに来た。
その者に言われたことに、俺は耳を疑った。
「今…、何と…。」
「冒険者斡旋所は国有化されます。これは決定事項です。」
「一時的に職員を借り受けますが、順次返還されますのでご心配なく。」
「………………。」
利益を生み出せる様になって、今までの損失を取り返せる様になったところなのにか…。
「明日の午後、大臣がお会いになられます。王宮までいらしてください。」
そう言って、『用事は終わった』とばかりに、使いの者は帰って行った。
幹部を集めて対策を話し合う。
斡旋所を国に獲られるのは癪に障るが、国に逆らう事など出来はしない。
そんな事をすれば、より状況を悪くしてしまうだけだ。
それよりも、より良い状況に持って行く事を考える方が大事だ。
タダで手放すなんて納得できるはずがない。
多額の損失を出しているのだからな。
幹部の一人が言う。
「拒否する事など出来はしませんが、何の見返りも無いという訳ではないでしょう。その使いの方は何と?」
「いや、見返りについての話は無かった。ただ、明日、大臣が会って下さるそうだから、そこで何らかの話があるのだろう。」
他の幹部たちが言う。
「見返りを要求するのは危険でしょう。下手を打つと”没収”になってしまいかねない。」
「国には盗賊の始末をしてもらった負い目が有りますし…。下手な要求は機嫌を損ねてしまうだけでしょうね。」
「金銭の要求は止めておいた方がいいでしょうね。」
うーむ。
幹部たちの言う事はもっともなのだが、多額の損失を出しているのだ。見返りは欲しい。
「きっと、何らかの優遇措置が有るのでしょう。大臣がお会いして下さるのも、その話が有るからなのでしょう。」
うむ。きっとそうなのだろう。
別の幹部が言う。
「斡旋所が”お荷物”である事は以前と変わっていません。利益が出る様にはなりましたが、それは魔石の価値が上がったからです。相変わらず多額の経費が掛かる”お荷物”を切り離せるのです。今まで以上に魔道具の販売で利益が出せるのではないですか? 我々が一番多くの職人を抱えているのですし。」
ふむ。
そう言われれば、確かにそうだな。
そう考えれば、悪い話という訳でもないのか…。
斡旋所を国有化されると言われた時は、目の前がまっ暗になる思いだったが、俺が思っていたよりも悪い話ではないのかもしれん。
うむ。
断れない以上、気前良く国に献上して、我々の、いや、俺への心証を良くするのが最善か…。
と、なると、他の商会の反応が気掛かりだな。
変に反発されると、おかしな事態に陥りかねん。
明日の午後まで、碌に時間が無い。
早急に、他の商会の商会長たちと会わねばならないな。
国に従う事を決め、幹部たちとの会議を終わらせた。
そしてすぐに、他の商会へ使いの者を走らせた。
他の商会の商会長たちを集め、斡旋所の国有化について話し合う。
「今朝、大臣から通達を受けた。冒険者斡旋所を国有化するとのことだ。」
「「!!」」
「国には逆らえん。差し出すべきだと思うが、どうだろうか?」
「…見返りについては?」
「今はまだ何の話も無いが、明日の午後、大臣がお会いして下さるそうだ。その場で何かお話が有るのだろう。」
「「………………。」」
「…ブレナン殿はどうするおつもりで?」
「国に逆らう事など考えられん。差し出さなければならないだろう。下手に見返りを求めるのも危険だと考えておる。」
「「………………。」」
悩んでいる様だ。
彼らも多額の損失を出しているのだ。悩んで当然だろう。
予想外に多かった損失に耐え抜いて、やっと利益を生み出せる様になったのだ。
それを差し出すなんてとんでもない話だ。
簡単な話である訳がない。
「国有化の話は、意外と悪い話ではないと思っている。」
「「!!」」
俺の言葉に、驚いた様な表情をする商会長たち。
「うちの幹部たちの意見は、『多額の経費が掛かる”お荷物”を切り離せるのだから、今まで以上に魔道具の販売で利益を出せるだろう。』とのことだった。」
「「………………。」」
商会長たちは複雑な表情をしている。
きっと、絶望の中から何か掴み取れる物がないか探しているのだろう。
「………持ち帰って検討したい。」
一人がそう言い、明日の朝、もう一度会う事を決めて、解散となった。
翌朝。
再び、他の商会の商会長たちと会った。
彼らから、支店の買い取りの打診が有った。
「斡旋所の国有化に対して何らかの優遇措置が有るのだろうが、それで利益を上げられるまで商会を保たせる事が出来るかどうか分からない。今すぐ現金か、すぐに捌ける物が欲しい。支店を買い取ってもらえないだろうか?」
意外な申し出に、『何かウラが有るのではないか?』と思ったのだが、大臣に俺一人で会える状況になるのは、俺にとって都合が良いのではないだろうか?
国に協力しているのが”俺”だとアピール出来るのだからな。
大臣に良い印象を与えておけば、この先、国とより良い関係を築き上げていけるだろう。
他の商人たちには、俺と国との強い繋がりをアピール出来て、俺の『王都一の商人』の肩書きを不動のものにしてくれるだろう。
うむ。悪くない。
彼らから少なくない金額を要求されたが、交渉の結果、ほどほどの金額で合意できた。
彼らも妥協しなければならないと思っていたのだろう。
大臣いお会いしに行くまで時間が無いのだしな。
急な話だったので十分な現金を用意できなかったが、不足分の多くを魔石で支払うことにすることが出来た。
彼らが捌くには多過ぎる量だから、後で不良在庫になった時に買い叩けるだろう。
悪くない成果だ。
契約書にサインをし、商会長たちが帰るのを見送った。
共に大変な苦労をしてきたので、少しだけ感傷的な気持ちになった。
一人、執務室で考える。
昨日、大臣からの使いの者が来て『斡旋所が国有化される』と聞かされた時は、大きな衝撃を受けた。
だが事態は、思いの外良い方向に向かっている。
これから大臣にお会いしてお話を伺うので、まだ何も終わっていないのだが、俺にとってかなり良い状況になっている気がする。
望外の結果が得られていると感じる。
運が、俺に巡って来ているのを感じる。
いや、世界が俺を必要としているのかもしれないな。
うむ。そうとも。
俺は、気分が高揚するのを感じた。
『俺こそが『王都一の商人』なのだ!』と。
いや。
俺は、『王都一の商人』などで終わる男ではないな!
そうとも!
いずれ、『大陸一の商人』になるのだ!
「はっはっはっはっ!!」
「はっはっはっはっはっ!!」
そうとも!
俺は『大陸一の商人』になるのだ!
そして気付いた。
あの男の影を気にしていない自分に。
そうだ!
俺は!
あの男に勝ったのだ!!
午後。
王宮で大臣にお会いした。
「冒険者斡旋所を国に献上させていただきます。」
そう大臣にお伝えした。
俺一人がこの場に訪れた事に関して、「内部で分割されていると聞いていたので、君が一本化してくれたのは有り難い。」と、言ってもらえた。
「国のお役に立てて光栄です。」
そう言って、アピールしておくのは当然の事だ。
引き続き、対価として得られる優遇措置や、現在働いている職員の雇用についてのお話があった。
さらに、報奨金もいただけるとのことだった。
これまでに出した多額の損失と比べれば微々たるものだったが、金銭をいただけるとは思っていなかったので嬉しかった。
何よりも、大臣ご自身からお伝えいただけた事に感激した。
望外の待遇と言っていいだろう。
そして、このことで俺の『王都一の商人』の肩書きが確かなものになったと、誇らしく思った。
これが『大陸一の商人』への確かな一歩なのだと、俺は信じて疑わなかった。




