< 42 この世界に就任した神 十七柱目 19 冒険者ギルド誕生までのお話 18 クレイトン引退する >
王都の隣街カムデン。
クレイトンは、ここに拠点を移していた。
彼は、この街に多くの土地を所有し多額の賃料収入を得、治安維持の仕事を請け負っていた。
この街の発展が自らの利益となる為、この街の発展に貢献していた。
本人はその様な素振りを見せないのでその様には見えないが、この街の者たちからは”領主以上の存在”だと認識されていた。
< クレイトン視点 >
拠点の自室で、一人思索に耽る。
考えているのは、あの斡旋所のこと。
ブレナンたちに奪わせた、『クレイトン斡旋所』。
大きくなり過ぎたので、多額の損失を出す組織になる事は目に見えていた。
だから、ブレナンたちに奪わせた。
彼らに気付かれる前に。
しかしあの斡旋所は、今は利益を出せる組織になっている。
魔道具が作られる様になったから。
その事で魔石の価値が上がったから。
魔石の価値が上がるとは思っていなかった。
魔道具が作られる様になるなど、誰にも予測できなかった事だ。
だから、気にする様な事では無い。
あのタイミングで斡旋所を手放すのは最善だった。
悔やむ様な事では無い。
そうとも。
この先、どうするのかが重要だ。
幸い、本業の商会と治安維持の仕事は順調だ。
この街で起きたあの事件の後に始めた賃貸業も、思いの外好調だ。
急いで何かをしなければならない状況ではない。
一方、ブレナンたちと冒険者たちとの関係は、良好だとは言い難い。
出来る事はいくらでも有る。
魔道具を作れる職人を、抱え込めるだけ抱え込むのは当然として…。
他はどうしよう? どう動こう?
出来る事はいくらでも有る。
有り過ぎて、決められない。
『何もしない』という選択肢まで有るのだ。
決められる気がしなかった。
息子のクルスに相談しよう。
クルスを呼んで、訊く。
「私は何をすべきだろうか?」
敢えて、漠然とした質問をした。
「あの斡旋所を買い戻さないのは何故ですか?」
クルスも、”あの斡旋所”の事を訊いているのだと気が付いた様だ。
いや、私が気に留めていると思われていたのかな?
あの斡旋所に執着などしていないのだがな。
「失敗したと思われるのが怖いのですか?」
「そういう事は、思っても口に出してはいけないぞ。」
クルスに注意する。
侮辱した様な事を言われれば、怒り出すのが当たり前だからな。
「当たり前です、父上だからです。」
そう言ったクルスが、ちゃんと理解しているのか理解していないのかは、判断がつきかねるがな。
「魔石の価値が上がって、以前よりも利益が出ているが、巨額の経費が掛かる事は変わっていない。そのリスクが在るから買い戻さない。それだけだ。」
クルスにそう言って、気が付いた。
リスクを恐れて動こうとしない自分に。
ハッとした。
俺は、いつの間にか安定を求めていた様だ。
いつの間にか牙を失っていた様だ。
以前は、かなり危ない橋を渡ったものなのにな。
無茶をした自覚も、もちろん有る。
俺のしたことで多くの人が死んだりもした。ならず者も、そうでない者も。
俺は、今の自分が、自分らしくない事に気が付いた。
今の自分は、俺が目指していた商人の姿ではない。
俺は………。
………………。
俺は…、どうしたいのだろう?
俺は、何をしたいのだろう?
俺は、どうありたいのだろう?
俺は、何を目指したいのだろう?
………………。
俺の心の中に、その答えは何も無かった。
俺は………、既に商人として終わっていたのかもしれない。
いつ終わったのだろう?
斡旋所を手放した時か?
いや、売り抜けるのには最善のタイミングだった。…はずだ。
そうとも。
最善で、最高なタイミングだった。
利益を上げる事が出来ない組織だった。
かつ、その事が知られる前だったので、高く評価されていた。
そうとも。
最善で、最高なタイミングだった。
その為に、出来る準備をしっかりと行った。
『強い感情を持つ者は利用しやすい。』
それを知っていたから利用したし、それどころか、強い感情を持つ様に仕向ける事さえした。
先ほど、クルスに言われた言葉を思い出す。
侮辱された様な言い方だったが、何も気にならなかった。
俺は強い感情を持たない様にしていたのだろうか?
確かに俺は、強い感情を持つ事は無い。
怒っている様な演技をした事は、何度も有るが。
以前は、もっと怒りっぽかった気がする。
いつから、俺は強い感情を持たない様になった?
何故、俺は強い感情を持たない様にしていた?
利用されない為に?
自衛の為?
保身の為?
安定の為?
認められるか! そんなこと!
そう。認められない。
だが、気付いてしまった。
自衛の為だったと。
保身の為だったと。
安定の為だったと。
こんなものは、俺が目指していた商人の姿ではない!
いつの間にか一人になっていた部屋で、俺は考える。
自分の事を。
自分が目指していた商人の姿を。
必死に考えた。
そう。
必死に。
何かを捕まえたくて。
あるいは…。
何かから逃げたくて。
俺は、商会を息子に譲り、隠居することにした。
商人として終わっていた事に、気が付いてしまったから。
この先、失敗を恐れて動けなくなる自分に、失望したくなかったから。
隠居することにしたのは、何が失敗だったのかを考える為だ。
何としても見付け出したい。
見付け出して、息子に伝えたい。
失敗の出来ない大切な仕事だ。
俺の最後の仕事にふさわしい。
そうとも。
俺の最後の仕事にふさわしい。
そして、やり遂げる。
絶対に。
そう。
絶対にだ。
< 二代目クレイトンの失敗 >
クレイトンの息子クルスは、父親から商会と共に名前も引き継いだ。
クレイトンの名は、国中はもとより、他国にまで轟いていたから。
『使わない』という選択肢は無かったし、父親も『当然だ。』と言ってくれたから。
父親から名を継いで、二代目クレイトンとなったクルスは、真っ先に王宮に挨拶に向かった。
まったく期待していなかった国王への面会が叶って、驚いた。
緊張しながら国王に挨拶をする、二代目クレイトン。
彼が見たのものは…、父親の引退に衝撃を受ける国王の姿だった。
同席していた者たちも動揺していた。
そして、彼は気付いた。
誰も”彼”を見ていない事に。
全員が”彼の父親”を見ていた事に。
舞い上がっていた気持ちが怒りに変わる。
彼は屈辱を感じたのだった。
彼も、彼の父親の偉大さは知っている。
だから、国王とその側近たちが動揺するのも理解できる。
そう。理解はできる。
だが、それでも、彼にとっては屈辱だった。
『今に見ていろ!』
そう思い、彼は王宮を後にした。
『父上を超える! 絶対に超えてやる!』
それが彼の目標となった。
彼は失敗した。
彼の新しい最初の一歩で。
父親から『舟を支えているのは水面の下にある部分だ。』と教えられていたのに、”水面の上”ばかりを気にする様になってしまった。
新しい最初の一歩を踏み出した直後の、最初の出来事で。
彼自身が、その失敗に気付くこと無く…。




