< 40 この世界に就任した神 十七柱目 17 冒険者ギルド誕生までのお話 16 >
< ベイカー視点 >
斡旋所の経営は上手くいっていない。
盗賊が討伐されたことで商隊の護衛の仕事が戻ってきたし、経費削減の効果も出ている。
冒険者の情報の共有に多額の経費が掛かる事は変わっていないが、最悪の状況は脱した。
だが、経費削減の影響で冒険者たちとの関係が悪化してしまった。
仕事を受けてくれるベテランの冒険者が減ってしまい、若くて経験の浅い者が多くなってしまった。
その所為で、商人たちとつまらない事で揉めたりする事が増え、つまらない苦情が増えた。
何かが好転すると、何かが悪くなる。
苦労が絶えない。
何とかならないものだろうか…。
そんな時に、ブレナン様に呼ばれた。
碌に利益を上げられない斡旋所の経営について、叱責されるのだろう。
憂鬱な気持ちでブレナン様の元に向かった。
私の予想に反して、ブレナン様は上機嫌だった。
「魔石を買い集めろっ。新しい利用方法が見付かった!」
そう言って、私に説明して下さった。
魔法を発動させる事が出来る道具の作り方が発見されたのだそうだ。
「なんと………。」
驚きつつ考えた。
『魔石の価値が上がる。』と。
魔石の在庫は有る。装飾品として使えるので買い取りを続けていたから。
それらの売り値が上がり、利益が出る。いや、大きな利益が見込める。
『斡旋所の経営が好転する!』
そう思い、私は喜んだ。
しかし、今は、冒険者たちとの関係が悪化してしまった為に、魔物の素材を売りに来る冒険者が激減してしまっている。
魔石の買い取り価格を引き上げるべきだろう。
彼らとの関係を修復し、魔石を売りに来てくれる様にすべきだろう。
だが、魔石の買い取り価格を引き上げて良いのだろうか?
そのままの買い取り価格にしておいた方が、利益は大きい。
だが、魔石の価値が上がったのに、買取り価格をそのままにしていた事に後で気付かれたら、冒険者たちの心証がさらに悪くなり、魔石を他の商会の支店に売りに行く様になってしまうだろう。
魔石の買い取り価格をどうするか、色々と考えた。
ブレナン様は、「割り当てが海沿いの地域になったのは幸運だった。」、「いや、運も実力の内だ。」、「やはり俺は王都一の商人だ!」、「やがて俺は、この国で一番の商人になるのだ!」などと言って上機嫌だ。
ブレナン様が『海沿いの地域』とおっしゃった事から察した。
『魔法を発動させる事が出来る道具』には、漁師たちが製作に関わっているのだろう。
この国で一番上手に魔法を使う者たちだからな。
そして、漁師たちが居る『海沿いの地域』には、我々の商会の支店が多い。
斡旋所の中でエリアを三つに分割した際、我々の商会には一番南の海沿いのエリアが割り当てられた。
”王都一の商人”であるブレナン様が、王都に強く拘られた結果だ。
海沿いである為、舟を使った海上輸送便と競合し、商隊の護衛の仕事が少なく、斡旋所としては”ハズレ”のエリアでもあったので、商隊の護衛の仕事を増やそうと、小さいながらも商会の支店を増やしていた。
その支店の情報網が、今回役に立ったのだろう。
情報統制はどうなっているのだろうか?
魔石の利用方法が広まっていないのならば、魔石の買い取り価格を引き上げない方が良いのだろうか?
ブレナン様に訊いてみる。
「情報はどうなっているのでしょうか?」
「情報も職人も押さえておる。」
さすがはブレナン様だ。
「魔石の買い取り価格はどういたしましょう。魔石の新しい価値は知られない方が良いのは分かりますが、知られた後、冒険者たちの心証を悪くしてしまいます。」
「うーーむ。」
目を閉じて考えるブレナン様。
「冒険者たちとの関係を修復する良い機会です。魔石の価値は、今後、高止まりするでしょう。冒険者たちとの関係を良好な状態にしておくべきです。我々のところに魔石を持って来てもらえるように。」
「…うむ。そうだな。」
この後、ブレナン様と買い取り価格をどうするか話し合った。
失敗続きだった私の意見を、ブレナン様はしっかりと聞いて下さる。
そんなブレナン様の元で働ける事を、私は嬉く思った。
それと同時に、『自分が優秀だからこそ、ブレナン様も私の意見を聞いて下さるのだ。』と、気分が高揚するのも感じていた。
斡旋所に戻り、すぐに人を派遣した。海沿いの支店へ。
『魔石の買い取り価格を、すぐに引き上げろ。』と。
先行して、海沿いの支店でだけ魔石の買い取り価格を引き上ることにした。
『海の魔物から採れる魔石を十分な数確保してから、他の支店でも魔石の買い取り価格を引き上げる。』
それが、ブレナン様と話し合って出した結論だった。
他の商会が少ない海沿いの地域で、冒険者たちと接点の少ない漁師たちから魔石を十分に確保し、その後で冒険者たちからも魔石を買う様にする。
他の商会を出し抜きつつ、冒険者たちの心証を悪くしない方法だ。
これで、斡旋所の利益を増やせるだろう。
自分の失敗を取り返せるだろう。
私は満足した。
自分の功績なのだと信じて。




