< 38 この世界に就任した神 十七柱目 15 冒険者ギルド誕生までのお話 14 >
『冒険者斡旋所』の本店店長、クレイブが殺害された。
それを切っ掛けにして、色々とクレイブの悪い噂が流れた。
『前の店長を追放し、店長の座を奪った。』
『以前の商会も追放し、別の商会を騙して資金を出させた。』
『多額の資金を横領していた。』
『盗賊と密かに通じていた。』
などなど。
そして、クレイブの悪い噂が広まると、こうも言われる様になった。
『やはり冒険者は、”ならず者”だな。』と。
新しい『冒険者斡旋所』の本店店長には、副店長だった者が就いた。
”ならず者”ではなく、商人が就いたので、『これから良くなるだろう。』と期待する人たちが、それなりに居た。
『今まで悪かったのは、クレイブの所為だ。』
『以前の良かった時の状態に、すぐに戻るだろう。』
内情を何も知らない大勢の人たちが、そんな事を囁いていた。
新店長となったベイカーは苦戦していた。
信頼回復が、まったく進まないから。
盗賊を討伐できなかったから。
盗賊と通じている者を見付けられないから。
大きな問題ばかりだった。
しかも、これらの事が起きた切っ掛けは、ベイカー自身が進めた経費削減だった。
自分が進めた経費削減により、冒険者を評価する仕組みが上手く働かなくなり、冒険者の情報が劣化した。
評価を下げる様な事をした冒険者の情報が正しく更新されず、また、その事を知られた事により、それを悪用されてしまった。
しかも、そんな状態になっている事さえも、冒険者を評価する仕組みが上手く働いていない事により、発見できなかった。
冒険者を評価する仕組みを立て直さなければならない。
各支店の冒険者の情報を、早急に更新して。
しかし、その情報を運ぶ者の中に、盗賊と繋がっていて邪魔をする者が潜んでいるのだ。
問題の解決を上手く進められない。
情報を信用していいのかさえ分からない。
せめて、盗賊の討伐が出来ていれば。
盗賊さえ討伐できれば、事態の好転が見込める。
『冒険者斡旋所』を経営している商会が中心となって、国に盗賊の討伐の要請をした。
ベイカーは思う。
国が盗賊を討伐してくれるのを待とう。
そうすれば、事態は好転するはずなのだから。
そう。
確実に、事態は好転するはずなのだから。
『失敗を取り戻さなければならない。』
自分の失敗で多額の資金を失っている。
資金だけでなく、信用も、収入も。
国が盗賊を討伐してくれるまで『何もしない。』なんて、出来る訳が無い。
『自分に出来る事をしよう。』
そう思い、ベイカーは行動する。
失敗を取り戻す為に。
それがこの斡旋所の為になると信じて。
ベイカーは更なる経費削減を行った。
元冒険者の職員を、全員解雇したのだ。
『盗賊に通じているかもしれないから。』、『”ならず者”だから。』と、そんな理由で。
クレイブが殺害された後に、広く世間にクレイブの悪い噂が流れていた。
クレイブを知る者たちは、その噂をまったく信じていなかったのだが、世間の冒険者を見る目が、以前の”ならず者”を見る目に戻っていた事は知っていた。
しかし、その噂を肯定するかの様に、自分たちが解雇されるとは思ってもみなかった。
クレイブの悪い噂がただの噂だということは、ベイカーも知っているはずなのに。
こんなことになるとは思っていなかった。
しかし、冒険者たちの為に奮闘してくれていたクレイブはもう居ない。
どうすることも出来ずに、彼らは斡旋所を解雇された。
ベイカーは更なる経費削減を行った。
素材の買い取り価格をさらに引き下げたのだ。
また、買い取る素材も、容易に捌ける物だけに限定した。
これで、素材を買い取る為の資金を節約できる。
冒険者たちから強い反発が起きた。
しかし、今の斡旋所には、冒険者の味方をしてくれる者は誰も居なかった。
クレイブも元冒険者の職員たちも居なくなっていたから。
職員はすべて商人たちになっていたから。
冒険者たちは、斡旋所に失望した。
そして、怨嗟の声を、斡旋所と斡旋所に関わる商人たちに向けて上げるのだった。
ベイカーが店長になってから、間も無く二月になる。
ベイカーは未だに苦戦していた。
経費削減をしたが、その効果は微々たるものだったから。
支出は減らせたが、収入も大きく減っていたから。
知恵を絞り出そうと、ベイカーはこの日も悪戦苦闘していた。
そんな時に、ブレナンからの使いの者が来た。
使いの者から、待ち望んでいた朗報を聞いた。
『盗賊たちが討伐された。』と。
< 国王視点 >
報告を受けた。
以前、命令した『盗賊の討伐』のだ。
「盗賊どもの討伐は完遂いたしました。」
ほう。”完遂”か。
ワシは密かに満足しながら、報告の続きを待つ。
「すべての街で網を張り、逃走を試みた多数の冒険者を捕縛し、尋問も終了しております。」
ほうほう。よいぞよいぞ。
ワシは上機嫌で報告の続きを待つ。
「盗賊どもは、自分たちの情報網を過信していた様です。その為、我らが動いた事に対応できなかった様です。」
ふむ。上手く行き過ぎたが故の油断か。
教訓として憶えておいた方が良さそうだな。
「ブレナンの不手際の証言を多数得られました。それらは、我らの得た情報を裏付ける物でした。」
うむ。よくやった。
これで、ブレナンに恩を売りつつ、弱味を握る事が出来たな。
上出来だ。
ワシは、内心の喜びを表に出さずに言う。
「ご苦労だった。」
「クレイトンは、何の動きも見せていません。」
続けて受けたこの報告には不満だった。
クレイトンが、ブレナンたちにあの斡旋所を奪われた事は広く知られている。
奴が奪われたまま何もしないはずはない。
必ず奪い返しに動くはずだ。
そう思い、クレイトンが動くのを見張らせている。
しかし、奴は動きをまったく見せていない。
あの斡旋所を奪われた後に奴が始めた『クレイトン護衛会』。
その運営と、本業の商会の運営だけで満足している様に見える。
しかし、ワシの目は欺けんぞ。
奴は必ず動く。
必ずあの斡旋所を奪い返すと、ワシは確信している。
そして、奴があの斡旋所を奪い返そうと動いた時。
ワシが、すべてを手に入れるのだ。
冒険者は欲しい。
使い捨てに出来る便利な”駒”だからだ。
それに、上手く活用すれば利益を生み出してくれる。
それを教えてくれたのは、クレイトンだった。
奴が『クレイトン斡旋所』を奪われた後に始めた『クレイトン護衛会』。
街の治安維持の仕事を専門に行っている組織だ。
冒険者を雇い、彼らに街の治安維持の仕事をさせている。
冒険者が移動しない為、その分経費が抑えられる事と、冒険者が街に留まってくれる様に領主が自発的に動いている事で、奴の組織は経費があまり掛かっていない様だ。
そして、利益を上げ過ぎない様に領主から受け取る報酬を抑える事で、他の商人たちに利益の出ない仕事だと思わせつつ、領主と良好な関係を築いている。
また、カムデンの街の事件で治安を回復させた手腕が国中に轟いていたので、『クレイトンだから可能なのだ。』と、他の商人たちが勝手に言っている。自分たちが食い込めない事の言い訳に。
そして、その言い訳は、周りの者たちの行動を牽制するだけでなく、言った者自身の行動をも縛っていた。
そこまで計算して、他の商人たちが手を出し難い状況を作り出せるのが、クレイトンという男だった。
見事だった。
冒険者は欲しい。便利な”駒”として。
だが、クレイトンは、もっと欲しい。
ワシは、両方を手に入れる方法を考える様に指示を出した。
そして、両方を手に入れる為に、”エサ”として使えるのが、クレイトンがブレナンたちに奪われた、あの斡旋所だった。
ブレナンたちの持つ『冒険者斡旋所』を手に入れる。
その事は、既に決めている。
しかし、あまり価値の高い時に手に入れては、強い反感を買ってしまう。
だからと言って、儲けが出ていない物を手に入れる気は無い。
価値が下がり、反感が限定的で、儲けが出ている。
さらに、クレイトンが取り戻そうとしている。
そんな状況で手に入れるのが最善だ。
クレイトンが取り返すのを手伝い、恩を売る。
そして、奴もワシの”駒”に加えるのだ。
続けて報告を聞く。
「今、あの斡旋所は危機的状況にあります。このままでは潰れてしまうかもしれません。」
「そうなったら、クレイトンに新たな組織を作ってもらおうと動き出す者が出てくるでしょう。」
ふむ。
そうなってしまったら、クレイトンに恩を売れないな。
「立て直せるか? ブレナンたちに。」
「…難しい様に思われます。」
「盗賊を討伐した事により、状況は改善に向かうと思われます。ですが、そろそろ資金面で限界が見えて来るかと。」
うーむ。
潰れてしまうのは困るな。
「商人たちに仕事を発注させろ。『斡旋所を潰させてはならん。』とな。」
「はい。」
時間稼ぎにしかならないだろうが、仕方が無い。
そろそろクレイトンも動き出すだろう。
奴が何もしない訳が無い。
そうとも。
奴は必ず動く。斡旋所が潰れる前に。
ワシは、奴が動くのを待てばいい。
”その時”。
クレイトンに恩を売って首輪を付け、ワシがすべてを手に入れるのだ。




