< 35 この世界に就任した神 十七柱目 12 冒険者ギルド誕生までのお話 11 冒険者マレルの転落 >
護衛の仕事に失敗した。
盗賊に襲われて。
俺に出来たのは、逃げることだけだった。
行先だった街に行く気も、元居た街に戻る気にもなれず、俺は少し離れた別の街に向かった。
逃げた時に自分の居場所を見失ってしまっていたので、街に着いたのは、翌々日だった。
そこそこの金を持っていたので、疲れを癒す為に宿を取り、ヤケ酒を呑んで寝た。
二日酔いで一日を無駄にした後。
ふと、『俺が護衛の仕事を失敗した事に気付かれる前に別の仕事を請ければ、以前の評価のまま、良い報酬を得られるのではないか?』と、気が付いた。
早速、斡旋所に行き、護衛の仕事を請けた。
今日はまだ、以前の評価のままだった。
有り難い。
申し訳ない気持ちも有ったので、気合いを入れて護衛の仕事をした。
あれから一月が経った。
沢山の護衛の仕事をしたので、俺の評価は上がり続けた。
だが、おかしい。
どうなっているんだ?
あの失敗が無かった事になっている。
そんなバカな事は無い。
冒険者を評価する事が、斡旋所のもう一つの重要な仕事だったのではないのか?
おかしいとは思ったが、俺は護衛の仕事を請け続けた。
『有り難い。』という気持ちと、『申し訳ない。』という気持ちを抱えながら。
商隊の護衛中に盗賊に襲われた。
俺は剣を振るって依頼主を守る。
こちらは劣勢だ。
だが、俺は頑張って剣を振るう。
『あの時の罪滅ぼしをしなければ!』
そう思って。
しかし、俺の心の中で『逃げても大丈夫だ。逃げよう。』と言う声もする。
くそっ、黙ってろ!
俺は、心の中の声に動揺しない様に、剣を振るい続けた。
逃げたくなる気持ちも一緒に切り捨てる様に。
奮戦むなしく捕らえられてしまった。
心の中の声に動揺してしまったのが、いけなかったのだろう。
心の中で、何度も何度も『逃げても大丈夫だ。逃げよう。』と言う声がしていたからな。
その声に従う事も、依頼主を守る事も出来なかった訳だが。
一度は護衛に失敗した身だ。
あの後、どういう理由かは分からないが、あの時の失敗が無かった事になっていた。
だが、世の中、そんなに甘い事ばかりでは無いって事なのだろう。
俺は諦めて、大人しく盗賊たちの捕虜になった。
縛られて、男から尋問を受けた。
「お前のランクは何だ?」
「…Bだ。」
「ほう。」
「………。」
「お前を解放してやろう。」
「! ………何が目的だ?」
「商隊の護衛の仕事をしてほしいだけだ。今までと同じだ。簡単だろう?」
「!」
『盗賊の手伝いをしろってことか! ふざけるな!』
そう言おうとした。
しかし、俺の口から、その言葉は出て来なかった。
もう一人の男が、その男の後ろに立って居たから。
俺と一緒に護衛の仕事を請け負っていた男が、縛られもせずに、まるで盗賊の仲間の様にそこに立って居たから。
言葉が出ない。
そして、察した。
護衛の仕事が失敗した理由を。
さらに男に言われた。
「俺たちの仲間は多い。護衛の仕事を請けても失敗するぞ。今回の様にな。」
「………。」
護衛している者の中に盗賊の仲間が居れば、それはそうなるだろう。
『護衛の仕事を請けても失敗する。』
その言葉で頭の中がいっぱいになる。
護衛の仕事で食っていけなくなったら、俺はどうしたらいいんだ?
魔物の討伐が、素材の買い取り価格の引き下げによって割に合わなくなったから、護衛の仕事を専門にするようにしたのに。
男に言われた言葉で、頭がクラクラした。
俺と一緒に護衛の仕事を請け負っていた男を、もう一度見た。無意識に。
後悔した。
見た事を。
見てしまった事を。
俺は理解してしまったから。
『アレが俺の未来の姿だ。』と。




