< 34 この世界に就任した神 十七柱目 11 冒険者ギルド誕生までのお話 10 >
< ブレナン視点 >
あの斡旋所は、とんだ荷物になっている。
いや、”荷物”なんて生易しい言葉では済まない。
何とかしなければならない。
最後に我々に合流した…、いや、食い込んで来た、二つの商会が離脱した。
身勝手な奴らだ。
だが、まぁいいだろう。
『抜けたい』と言うのなら抜けさせてやろう。『タダで』ではないがな。
抜けたい気持ちも分かる。
あの斡旋所は、予想外に大量の資金を消費したからな。
だが、削減できる経費も、まだまだ有るのだ。
この国で唯一無二の大きな斡旋所だ。独占状態なのだ。
いくらでも、やりようが有るはずだ。
そうとも。
俺の手で必ず利益を出して見せる。
俺は、奴に負ける訳にはいかないのだ。
絶対に。
幹部を集めて、経費削減について話し合った。
20日間限定で引き下げた素材の買い取り価格は、さらに引き下げる事にした。
以前と同じ買い取り価格まで引き下げているものを、さらにだ。
経費削減の為には仕方が無い。
それに猛烈に反対する者が居た。
本店副店長のベイカーが連れて来た、店長のクレイブだ。
「話が違う!」とか「そんな事は認められない!」とか喚いていたが、仕方が無いのだ。
「二つの商会が勝手に離脱して資金繰りが厳しくなった。こちらも想定外な事態で困っている。」
俺は、そう言って理解を求めた。
しかし、クレイブは納得してくれなかった様で、怒って出ていってしまった。
クレイブは、他の商会に声を掛けるつもりなのだろう。
しかし、それは無駄だ。
離脱した商会が、色々と言いまわっているからな。自分たちの評価を下げない様に。
新たに斡旋所に関わろうとする商会など、居ないだろう。
次に、素材の買い取り以上に多額の経費が掛かる、冒険者の情報のやり取りについて話し合った。
本店副店長のベイカーから経費削減案が出た。
「現在、すべての支店で同じ情報を共有する仕組みになっていてます。」
「この冒険者の情報の更新が週に一度と高い頻度になっている事が、多額の経費が掛かっている原因です。」
「これを改め、冒険者の情報の更新の頻度を減らします。」
「具体的には、街から街へ移動する護衛の仕事を受けた冒険者に、情報も一緒に運ばせます。これを各支店間の情報共有の柱にします。」
「それを補なう形で、月に一回、本店と各支店間で冒険者の情報を運ばせます。」
「素材の買い取り価格を引き下げた後は、冒険者たちの主な仕事は商隊の護衛になると思われます。」
「ですから、冒険者の情報の更新と共有はこれで十分になると思われます。」
「これで、相当の経費の削減が見込めます。」
ほう。
なるほど、良さそうな気がするな。
しかし、冒険者の情報は重要だ。
情報の質を下げてしまう事にならないのだろうか?
気になった事をベイカーに訊く。
「護衛の仕事が失敗した場合はどうするのだ?」
「失敗を失敗と正直に申し出た場合は、今までと同じ下げ幅とします。未着の場合は、評価を一律で一段階引き下げます。」
「ほとんどすべての街に行く護衛の仕事が有りますので、一度の未着があっても、すぐに次の護衛の仕事で行った者が情報を補完してくれますので、問題にならないと考えています。」
ふむ。
それならいいのかな?
「本店と各支店間で冒険者の情報を運ばせるのが月に一回では、少な過ぎなのではないか? 情報は”最重要”だぞ。」
俺の右腕とも言えるグレンが、ベイカーにそう言った。
「そのくらいにしませんと、斡旋所の存続自体が危うくなります。」
うむ。
経費の問題は、あの斡旋所の存在自体を危うくしている事は確かだ。
「情報の質は、あの斡旋所の一番の財産だ。劣化させてはいけない。」
グレンがそう言うのはもっともだが、それに経費を掛け過ぎてはいけない。
その為に掛かる多額の経費は、削減しなければならないのだ。あの斡旋所を存続させる為に。
「グレンの言う通り、情報の質を下げてはならない。しかし、経費の削減もしなければならない。」
「本店と各支店間で冒険者の情報を運ばせるのは、月に二回だ。しばらくは、それで様子を見る。」
これらの方法で、斡旋所の経費削減に取り組むことになった。
経費削減に取り組んで、そろそろ二月になる。
経費削減の効果について報告を受けた。
心配していた情報の劣化は起きなかった。
『利益を出せる。』、『奴に勝てる。』
そう思い、俺は気分が高揚するのを感じた。
報告に来たベイカーに指示を出す。
「本店と各支店間で冒険者の情報を運ばせる頻度を、月に一回に減らせ。」
「はい。」
「お待ちください。もう少し様子を見てからの方がよいのではないですか?」
グレンが言った。
「ん? 何を見ると言うのだ?」
「コレと言うモノは有りませんが、何か悪い影響が出ないか、慎重に見極めるべきではないでしょうか?」
「何も悪い影響は出ていないと言ったではないですか。聞いていなかったのですか?」
ベイカーがグレンに言う。不機嫌そうに。
何か言い掛けたグレンを手で制して、言う。
「グレンの心配は分かる。情報の質が”最重要”だとな。」
「しかし、経費削減も重要だ。何も対策をしないだけで、かなりの資金を失うのだからな。」
「ですが…。」
「経費削減を進める。いいな、グレン。」
「………はい。」
ベイカーがさらに言う。
「さらなる経費削減案を考えて来ました。」
「ほう。言ってみろ。」
「現在の各支店に居る人員は多過ぎます。各商会から人が来ていますので。」
「うむ。そうだな。」
「一つの大きな組織である事は変えずに、内側を三つに分けましょう。各商会ごとに。そうすれば、一つの支店に一つの商会の者だけになりますので、互いを監視する必要が無くなり、人員を大幅に減らせます。」
「おお、そうだな。」
以前、あまりにも早く資金が消えたので、横領を疑って互いを監視する様になってしまった。その時の悪癖が未だに尾を引いていたのか。
経費削減に有効だな。
三つに分けて互いが競い合う様になれば、利益を底上げする効果も見込めるだろう。
よし、そうしよう。
「うむ。良い考えだ。早急に話し合いの場を設けよう。」
俺はそう言って、ベイカーが上機嫌で帰るのを見送った。
グレンを見る。
こちらは不機嫌そうだ。
「何か気に入らないのか?」
「拙速過ぎる気がします。」
「経費削減は急がなければならない。組織が大き過ぎる事の弊害だな。何もしないだけで、どんどん資金が消えていく。」
「大事なのは未来です。過去の損失は忘れた方が良いのではないですか?」
「………。」
くっ。グレンの言う事は理解できる。
だが、今までの損失がデカ過ぎるのだ。
早急に手を打って、立て直さない訳にはいかないのだ。
そう。
奴に笑われない為に。
奴に押し付けられた斡旋所の経営で、いつまでも苦労している訳にはいかないのだ。
< グレン視点 >
ブレナン様の傍に控えながら考える。
『あの斡旋所は危ない。』
『成功する可能性なんか在るのか?』
『既に袋小路に入ってしまっているのではないか?』
そんな悪い考えが頭の中でグルグルと回り続けた。
一度、悪い考えを頭の中から消して、上機嫌で帰って行ったベイカーの事を考える。
ベイカーにそれなりに大きな仕事を任せる事には、反対ではない。
そこそこ難しい仕事を経験させてもいいだろう。
だが、あの斡旋所はダメだ。
ベイカーには難し過ぎる。
いや、誰がやっても難し過ぎる。
成功する道筋が、まったく見えてこない。
きっと、ベイカーは失敗するだろう。
熱心に経費削減を考えている様だが、遠くのゴールだけを見ていては失敗する。
『ゴールに向かう』と『ゴールに辿り着く』は、まったくの別物なのだから。
ゴールに近付き続けていれば、いつか必ずゴールに辿り着けるという訳では無いのだ。
ゴールから遠ざかっている様に見える道こそが、実はゴールに辿り着ける唯一の道だったりすることもあるのだ。
現実を見ていないといけない。
ゴールばかりを見ていてはいけない。
自分の歩いている道が、”ゴールに辿り着く道”なのかを考えなければならない。
ベイカーは視野が狭過ぎる。
それを自覚して、慎重にならなければならない。
あいつは、ゴールに辿り着けないだろう。
ゴールに向かって、いくら歩みを進めようとも。
ブレナン様とベイカーが、同じ方向に歩みを進めている様に見える事も気掛かりだ。
ブレナン様はブレナン様で、やはり視野を狭めてしまっている様に感じる。
過去の損失は忘れていただきたい。
未来を見ていただきたい。
しかし、ブレナン様は、”あの男”を見ている様だ。
それよりも未来を見ていただきたいのだが…。
この先、どうなるのだろうか?
まったく分からない。
今までは、ブレナン様に付いて行くだけで良かった。
だが今は、それだけではいけない気がする。
私はどう動けばいいのだろうか?
ブレナン様の右腕として。
この、未だかつてない困難な状況に対して。
分からない。
まったく分からない。
< ブレナン視点 >
商会長を集め、斡旋所を内側で三つに分割し、商会ごとに担当エリアを分ける案を話し合った。
この案は受け入れられた。
人件費を大きく削減できるからな。当然だな。
ただ、線引きでは揉めた。
どこも少なくない損失を出しているからな。
可能な限り利益を出したいと強く思っているのは、どこも同じだ。
利益の見込めないエリアを宛てがわれでもしたら、とんでもない事になりかねない。
国全体に及んでいるエリアを、縦に線を引いて三つに分割し、一番東側の川沿いのエリアを手に入れようと思っていたが、それを許してくれなどしなかった。
そのあまりの必死さから、他の商会の出した損失の程が窺い知れた。
どうやら、俺が思っていた以上に経営を圧迫している様だ。
強く出られる状況ではなさそうだな。
ヘタに手を引かれでもしたら、より、立て直しが困難になってしまう。
譲歩しなければならないだろう。
二日に渡る紆余曲折を経て、エリアは、横に線を引いて三つに分割することになった。
王都は死守したが、その為に一番南側の海沿いのエリアが割り当てられる事になってしまった。
舟を使った海上輸送便が在る為、商隊護衛の仕事が少ないエリアで、利益を見込み難い支店が多い。
人件費は減らせるが、出せる利益も減りそうだ。
だがこれで、さらに経費の削減が出来る。
成功への道筋を考える時間的余裕が出来るのだから、それで良しとしよう。
何としても成功させなければならない。この斡旋所を。
奴に押し付けられたこの斡旋所を成功に導くのだ。絶対に。
そして、奴に『俺の方が上だ!』と見せ付けるのだ。
< クレイブ視点 >
経費削減。
俺は、この言葉に悩まされている。
20日間だけの約束だった素材の買い取り価格の引き下げは、守られなかった。
それどころか、さらに引き下げられた。
俺は強く抗議した。
しかし、俺の抗議は、『経費削減』の言葉の前にあっさりと却下された。
各支店に冒険者の情報を送る仕事が減らされた。
この斡旋所で、特に重要視されていた仕事だ。
得られる報酬と評価が良いので、まじめに働いている者たちに人気のあった仕事だ。
これも『経費削減』なのだそうだ。
多くの者たちが落胆していた。
本店で働く商人の数が、かなり減った。
これも『経費削減』なのだろう。
半分程度まで減ったので、ここで働く元冒険者たちに動揺を与えている。
『俺たちも解雇されるのではないか?』と。
「俺たちは大丈夫なのか?」と、俺に訊いてくる者も多いが、俺の意見が通るとも思えない。
ビクビクしながら、”その日”が来るのを待つ事しか出来ないのかもしれないな。俺も含めて。
そんな嫌な不安感が、店中にわだかまっていた。
俺は、俺に出来そうな事をした。
素材の買い取り手を増やそうと、他の商会に声を掛けた。
だが、どこの商会にも相手にされなかった。
まったく相手にされなかった事に、俺はショックを受けた。
二つの商会が、この斡旋所から手を引いた事は知っている。
手を引いた商会は、この斡旋所の未来に見込みが無いと判断したから手を引いたのだろう。
恐らく、その事を知ったから、他の商会もこの斡旋所と関わろうとしないのだろう。
目の前が暗くなる思いだった。
こんな状況になり、俺はハッキリと自覚した。
自分の失敗を。
『クレイトンを追い出したのは失敗だった。』と。
(ひとりごと)
「横に三つに分割」と言った場合、分割した物は、縦に並ぶんですかね? 横に並ぶんですかね?
横に分割したら、分割した物は縦に並ぶ気がして、書き方に悩みました。
誤解が生じない様に「横に線を引いて三つに分割」とか書かなくてはならなくなって、モヤモヤしました。
ええ、ただの愚痴です。




