< 33 この世界に就任した神 十七柱目 10 冒険者ギルド誕生までのお話 09 国一番の商人 バレリィ >
クレイトンの商会から、貸していた金が返ってきた。
少なくない利息が付いている。
だが、俺は、まったく喜べない。
それどころか、あの男がやった事を知って…、体が震えた。
あれは、半年ほど前のこと。
冒険者に仕事を斡旋する新しい組織が、王都に出来た。
商人のクレイトンが冒険者の男と一緒に立ち上げた、『クレイトン斡旋所』だ。
その斡旋所では、冒険者たちから持ち込まれる素材をすべて買い取っていた。
その話を聞いて、俺は驚いた。
『素材の新しい使い道を見付け出したに違いない。』と思ったから。
是非とも知りたいと思った。
探りを入れてみたが、分からなかった。
余程、知られたくのだろう。
俺は、ますます知りたくなった。
そんな時に借金の申し込みがあった。そのクレイトンから。
斡旋所を立ち上げて、資金が必要になったのだろう。
俺は、新しく見付けたであろう素材の使い道を教える事を条件としたが、さすがにそれは断られた。
当然だな。
金儲けの種だ。他人に教えないのは、商人として当然だ。
焦り過ぎたな。
だが、どうしても知りたい。
交渉した結果、利息を通常の三割まで下げる事を条件に、奴らが買い取った素材の使い道を、半年後に教えてもらえる事になった。
奴は頑なに、『買い取った素材の新しい使い道なんて無いですよ。』なんて言っていたが、そのまま受け取る商人なんて居ないだろうに。
教えてもらえるのが半年後なのは、仕方が無い。
奴の商会が儲けを出す為の期間なのだから、当然だ。
俺は強欲ではないからな。
欲を出さずに、他の商人たちと良好な関係を築いてきたからこその、今の地位だ。
この程度の事を認めるのは当然のことだ。
期日まで残り二か月ほどになった頃。
クレイトンの商会から『人を派遣してほしい。』と連絡があった。
『買い取った素材の使い道を、少しずつ教えるから。』と。
重要な案件だ。
俺は、それなりのクラスの者を派遣した。
派遣した者から報告を受けた。
在庫の山を見せられたそうだ。
帳簿の一部も見せてくれたそうで、「ただ、溜めているだけの様に見えました。」とのことだった。
どういうことなのだろうか?
俺の見込み違いだったのだろうか?
しかし、クレイトンは『買い取った素材の使い道を、少しずつ教えるから。』と言ったのだ。
何かに使う事は、間違いないのだろう。
報告に続きがあった。
その素材を移送させるとのことだった。
移送先で加工するのかと思ったが、『ただ移動させるだけです。』と言われたという。
『移送先まで人を付けたいのなら、どうぞ。』とも言われたのだそうだ。
どういうことなのだろう?
『ただ移動させるだけです。』とのことだが、そもそも何の為に移送させるのだ?
コストが掛かるだけではないか。
分からない。
奴らが何を考えているのか分からない。
「仕方が無い、人を派遣しよう。」
俺は、人を派遣する様に指示をした。
何があるのかは分からないが、何かが行われるのは確かだろうと思ったから。
期日が近付いた頃。
クレイトンが、『クレイトン斡旋所』を手放した。
驚いた。
国中に支店を持つ、唯一無二の斡旋所になったばかりだ。
『市場を独占している。』と、言っていい状態なのだ。
手放す訳が無い。
騙し取られたのだと直感した。
奴には”後ろ盾”が無いから。
商会を立ち上げる場合、商会長から認められて独立したり、他所の商会から引き抜かれた後に独立したりすることが多い。
だが、クレイトンは自分で商会を立ち上げた。
その為、奴には”後ろ盾”が無い。
それ故に、悪い奴らの標的にされてしまう恐れがあった。
むしろ、今まで無事だった事がおかしかったとも言える。
今回、奴が受けた被害は、斡旋所だけの様だった。
本業の商会が無事ならば、再起は出来るだろう。
さぞかし落胆していることだろうと、気の毒に思った。
才能の有る男だ。
頑張ってほしい。
その話を聞いた日に、クレイトンが面会に訪れた。
泣き付きに来たのだと思ったが、様子がおかしい。
泣き付きに来たどころか、落胆した様子さえ、奴からは見えなかった。
どういうことだ?
「これから言う事は、内密にお願いしたいのですが。」
「分かった。」
秘密の話は日常的にあるからな。何も特別な事では無い。
「素材をすべて売り払います。斡旋所に買ってもらいます。」
「…売るのか?」
「はい。」
「全部か?」
「はい。」
「素材の新しい使い道を見つけ出した訳ではなかったのか?」
「そんな事はないと言いましたよね?」
「…ああ。…確かに言っていたな。」
俺は言葉通りには受け取らなかったが、確かに奴はそう言っていた。
「期日になったら、お借りしているお金はちゃんとお返ししますのでご心配なく。では。」
それだけ言って、奴は帰って行った。
「………。」
奴は、あの斡旋所をわざと手放したのか?
いや、そんなはずは無い。
そうとも。
奪われた斡旋所が、素材を以前と同じ価格で買い取れば、奴に利益は出ないのだ。
俺からした借金の利息や、倉庫代も掛かるのだ。
どう見ても赤字だ。
そうとも。
そうだとも。
不思議と、安堵に似た感情を、俺は抱いた。
一体、俺は、何に安堵したというのだろうな。
『冒険者斡旋所』と名前を変えた、かつての『クレイトン斡旋所』。
『素材の買い取り価格を改定した様です。』と報告を受けた。
素材の買い取り価格が、倍近くになっていた。
驚いた。
なぜ、買い取り価格を引き上げたのだろう?
理由は分からなかったが、一つ、別の事が分かった。
『クレイトンが素材を売ると利益が出る。』
………。
奴は、こうなる事を知っていたのか?
以前、奴が素材を移動させていたのは、分散させて、より早く素材を買い取らせる為か?
それと、奴が素材を買い取らせていると気付かせない為でもあるのだろう。
………。
一体、奴は、いつからこの計画を立てていたんだ?
奴は、斡旋所を奪わせたのか?
国中に支店を持つ、唯一無二の斡旋所を?
いや、そんなはずはない。
そんなバカなこと、ある訳が無い。
どうなっているんだ?
………。
訳が分からない。
おかしい。
そうだ、おかしい。
だが、気になる。
気になって、考える事を止められない。
奴が俺に借金を申し込んだのも、奴の計画の内だったのか?
俺が利息を下げると分かっていて、俺に借金を申し込んだのか?
おかしい。
訳が分からない。
繋がっている様で、繋がっていない、……はずだ。
何かがおかしい。
有り得ない。
そう。
有り得ない。
頭の中で組み上がるソレを、俺は『有り得ない。』と、打ち消した。
震えながら。
クレイトンの商会から、貸していた金が返ってきた。
少なくない利息が付いている。
だが、俺はまったく喜べない。
奴がやった事は異常だ。
有り得ない。
そう。
有り得ない。
有り得ないし、理解も出来ない。
あの男と敵対するのは危険だ。
敵対なんて、する気になれない。
見せつけられた。
奴の凄さを。
もし、奴に助けを求められたり、協力を求められる様な事があれば、俺は断れないだろう。
奴は、俺という”後ろ盾”を得たのだろう。
いや、違う。
そんな、生易しい感じなどしない。
これは”首輪”かもしれない。
そうだ、”首輪”だ。
この言葉がしっくりくる。
良い気分はしないが、仕方が無い。
奴の凄さを見せつけられたから。
俺はこの先、奴の顔色を窺う様になるのだろう。
だが、仕方が無い。
むしろ、奴の凄さを、敵対することなく知れた幸運を喜ぶべきかもしれない。
奴と上手く付き合っていこう。
俺の資金力と組織力は、奴にとっても魅力的なはずだ。
そうとも。出来るはずだ。
奴とも上手く付き合っていくのだ。
今まで、俺がやってきたことだ。
そうすれば、俺と俺の商会は、この先も安泰だろう。
クレイトン。
恐ろしい男だ。
そして、俺は想像する。いや、理解した。
クレイトンに敵対した奴らの未来を。




