< 26 この世界に就任した神 十七柱目 03 冒険者ギルド誕生までのお話 02 >
我々の『クレイトン斡旋所』の仕事は順調だ。
冒険者たちに求められて支店を増やせたし、商隊の護衛を求める商人たちにも好評を得ている。
戦闘訓練の目的で、冒険者たちにチームを組ませて森で魔物の討伐をさせたところ、『魔物が減って助かった。』と、あちらこちらの村長や領主からも感謝された。
俺が想像していた以上に冒険者たちが評価されるようになって、俺も嬉しくなる。
クレイトンも『やがて国王陛下からも感謝の言葉をいただけるかもしれない。』なんて言って、有頂天になっている。
いや、トップ二人が有頂天になっていてはいけないな。
自分よりも上機嫌なクレイトンを見て、俺はちょっとだけ冷静になれた。
冷静になる為に、これから起こりそうな問題の事でも考えておくか。
現在、討伐した魔物の素材は、すべてクレイトンの商会が買い取っている。
その事に文句を言う冒険者が、僅かながら居る。
どうやら、とある商人に言わされている様だという事は分かっている。
そんな奴には『これからも支店を増やす為に、まだまだ資金が必要な時だ。今はまだ納得してくれ。』と言って、言いくるめている。
今はまだ、言いくるめる事が出来ている。
支店が増える事は、冒険者たちにとっても利益になるのだから。
この『クレイトン斡旋所』を、一緒になって大きくしている冒険者が多い内は大丈夫だろう。
だが、支店がある程度まで増えたら、不満の声がもっと大きくなるだろう。
いずれ、その不満を解決しないとならなくなる日が、来るかもしれない。
クレイトンと袂を分かたなければならなくなる、そんな日が。
有頂天なクレイトンを見ながら、俺はそんな事を考えた。
他の商人が、同じ様な組織を立ち上げたと聞いた。
俺は、クレイトンと対応を話し合う。
「他人のお金で支店を作ってくれるのなら有り難い。その組織が大きくなったら協力し合いましょう。」
「でも、こちらの持つ情報に期待しているのならお断りです。私たちの持つ冒険者たちの情報が、何よりも価値が有るのですから。」
クレイトンはそう言う。
なるほど、その通りだな。
では、放置しておくことにしよう。
それと、情報が盗まれない様に、各支店に注意を促しておかないといけないな。
とんでもない事が起きた。
王都の北の隣街、カムデンの支店が、他の組織に奪われた。
もちろん、『何よりも価値が有る』とクレイトンが言っていた”冒険者たちの情報”もだ。
やられた。
裏切ったのは、最初期に雇った、引退した冒険者だった。
初めて勧誘した時に、多くの”ならず者”たちの中から僅かに残った者の一人だった。
奴はこの時を待っていたのだろう。
やはり、奴も”ならず者”だった! 根っからのな!
しかも、カムデンの領主もグルだった様だ。
その街の先へ行く商隊の護衛が出来なくなった。
その街の先にも支店が在るのに、その支店へ冒険者の情報を届けることが難しくなった。
やられた。
一番、獲られてはいけない場所だったと、獲られてから気が付いた。
くそう。
クレイトンは怒り心頭だ。
クレイトンと対応を話し合いたかったが、話し合える状況ではなかった。
翌日、王都に別の”冒険者に仕事を斡旋する店”が開店した。
ガザルド斡旋所。
俺たちからカムデンの支店を奪った商人の店だ。
ムカついた。
クソがっ。
クレイトンが店に来た。
大臣に会ってもらい、隣街カムデンの領主の非道を訴えたが、ダメだったそうだ。
「舟を使うしかない。」
クレイトンはそう言う。
王都から北に舟で行くには、川を遡らなければならない。
その為、荷馬車を使うよりも時間が掛かる。
さらに、荷物の積み替えにも人手と時間が掛かるので、荷馬車が普及した現在では、舟は大量の荷物を運ぶ時にしか利用されていない。
「川の向こう岸に渡してから荷馬車を使うという手はどうだ?」
川を渡る為に、やはり荷物の積み替えが必要になるので有効な手ではないと分かっていたが、クレイトンに訊いてみた。
「きっと既に手が回っている事でしょう。」と、クレイトンに言われた。
しばらく黙って、頭の中で対策を考えた。
クレイトンは、一つ溜息を吐いてから、「カムデンの先まで舟を使って荷物を運びましょう。」と言う。
クレイトンのその考えは理解できる。
商人の考えはそうだろう。
だが、この店は冒険者に仕事を斡旋する店だ。
舟を使って荷物を運ぶのは商人の仕事。
冒険者の仕事は、それを護衛する事だ。
だが、舟に護衛は必要無い。漁師たちが強いからだ。
漁師たちが強いから、護衛の為の冒険者を舟に乗せる必要は無い。余計な荷物になるだけだ。
護衛の冒険者は必要なく、冒険者が移動しないならば、冒険者の情報をやり取りする必要もない。
その事に気が付いた。
これまで商人と冒険者が協力してこの組織をやって来たが、初めて齟齬が生じた。
舟を使う事で。
漁師が強くて、護衛の冒険者が必要無い事で。
それに気付いた俺とクレイトンは、交わす言葉を失ったのだった。
舟で荷物を運び始めた。
一応、冒険者の情報も運ぶ事にした。
その為に冒険者を雇って。
”余計な荷物”と分かっていながらも、荷物と一緒に舟に乗せた。
この事に俺もクレイトンも、無駄な事だと思いはしたが、この組織の根幹に関わる事だ。
やらないという選択肢は採りたくなかった。
俺たちは何とも言えない気分で、最初の舟を送り出した。
仕事を頼んだ漁師組合の人たちが、快く協力してくれた事だけは嬉しかった。
北へ行く主要街道を押さえられた事は、痛手ではあった。
だが、舟を使って隣街カムデンを回避した先で護衛の仕事が出来たし、西へ行く商隊の護衛は今まで通りに仕事が出来ていた。
支店を増やす為の資金が捻出できなくなったが、仕事はなんとかなっている。
クソムカつくガザルド斡旋所は、主要街道を押さえているのだから、さぞかし大儲けしていることだろう。
クソがっ。
事件の衝撃を忘れた頃、新たな衝撃的な報せをクレイトンが持って来た。
「あの隣街が、川に関所を作るそうですよ。」
「クソがっ。」
思わず、声が出た。
俺とは対照的に、クレイトンは意外なほど落ち着いている。
「国王陛下に訴えることにするよ。」
そう言うクレイトン。
さらに、「もしかすると、何とかなるかもしれない。」とも言う。
俺には、何とかなる気など、まったくしないがな。
だが、クレイトンに任せることにする。
冒険者に出来ることなど、何も無いだろうからな。
それに、王様みたいな偉い人に会うのなんか御免だ。
クレイトンに対応を任せて、俺は自分の仕事に戻った。
何も起こらないまま、しばらく経った。
店にクレイトンが来た。
「クソ領主がクビになりましたよ。」
笑顔でクレイトンがそう言った。
想像以上のコトが起きたことに、俺は驚いた。
クレイトンに詳しく話を聞いた。
なんでも、『川に関所を作る。』と言い出したクソ領主に、王様が激怒したんだそうだ。
『川を利用した水運でこの国を発達させてきたご先祖様たちを愚弄する行為だ!』と言って、それは凄い激怒ぶりだったらしい。
クレイトンが笑顔で言う。
「クソ領主は一族ごと国外追放だそうですよ。」
「え?」
一族ごと国外追放…だと?
想像以上の厳罰に、俺は驚いた。
だが、山のそばで生まれ育った俺と、水運で発達したと言うこの国の人では、価値観が違うのだろう。
この国では、それほどの大罪だったということなのだろう。
俺は、そう納得した。
気を取り直して、今後の事をクレイトンと話し合うことにした。
「カムデンに支店を出すのか? それとも奪われた支店を取り返すのか?」
「しばらくは様子見としましょう。大事件が起きたので混乱があるかもしれません。」
クレイトンがそう言うので、しばらくは様子見となった。
店に客が来た。
カムデンの新しい領主からの仕事の依頼だそうだ。
そう言えば、前のクソ領主が国外追放になったと聞かされてから、それなりの日数が経っているな。
一体、どんな依頼なのだろうか?
詳しく話を聞いた。
カムデンの街中の治安回復の仕事だそうだ。
治安回復という言葉に驚く。
一体、カムデンで何が起きているのだろうか?
それに、カムデンにも冒険者が居ただろう。『ガザルド斡旋所』を利用していた冒険者が。
そいつらに依頼をすればいいだろうに。
そう言ったら、その客は声を荒げた。
「アイツらに仕事を頼むなんてとんでもない! 治安を乱しているのはアイツらだ!」
客のその様子から、カムデンがとんでもない状況になっている事が、窺がい知れた。
下手を打つと、こちらも痛手を受けるかもしれない。
一通り状況を聞かせてもらってから、考えることにしよう。
話を聞くと、潔白を主張し領主の屋敷に立て篭もる”前の領主”と、ガザルドたちがひどく揉めたらしい。
揉めるだけで済まずに刺客を送り合ったらしく、屋敷を守る領兵と冒険者たちが殺し合う事態になったそうだ。
街の治安を守る為に人手を回せる状況になく、街の中は混乱しているという。
新しい領主が街に入る事も出来ずに、本当にどうにもならないらしい。
大事だ。
大事過ぎて言葉を無くす。
クレイトンと相談しないといけない。俺の手には余る。
「これほどの大事件は扱ったことが無い。情報収集と検討をする時間をくれ。」
そう言って、その客には一度帰ってもらった。
クレイトンに会いに行って、一通り説明した。
クレイトンは言う。「もう少し待ちましょう。」と。
そんな事を言うクレイトンに、俺は驚く。
「隣街は、かなりひどい状況だぞ。」
「隣街だからです。すぐに国が扱う事案になるでしょう。同じ恩を売るのなら、国に売った方が良いでしょう?」
「………。」
クレイトンの言う事は理解出来る。
冒険者の考える事と同じだ。
つまり、『同じ仕事なら、より報酬の高い方を。』って事だ。
理解は出来るが、納得はし難い。
こんな事を考える俺は、現場から離れ過ぎてしまったのかもしれないな。
認めたくなどないがな。
納得し難かったので反論したが、理解してしまっている俺の反論など、クレイトンに通じる訳がなかった。
翌日、客が再び店を訪れた。
「状況を把握してから検討する。返事はその後にさせてくれ。」と言って、情報収集の為に冒険者を派遣する事だけを約束して、客を帰した。
あれから五日ほど経っただろうか?
店にクレイトンが来て、笑顔で言った。
「大仕事ですよ。」と。
クレイトンは、国から仕事を引き受けてきたのだった。




