< 21 この世界に就任した神 十四柱目 >
異動の時期がやってきた。
今期は、俺も”神”に就任できるだろう。
応援で実績を残したしな。
だが、どうにも嫌な予感がしてならない。
あの世界の神に就任するなんて事にはならないよな?
”神”と名乗った俺を、”残念な人”を見る様に見た、あの目を忘れられないのだが…。
あの世界でさえなければ、どの様な世界でもいいんだが。
呼び出しを受けた。
笑顔の母親に見送られて家を出る。
どうにも嫌な予感が消えない俺は、ぎこちない笑顔を母親に返し、議事堂に向かった。
担当者に会った。
前回の応援の時に会った人だった。
嫌な予感がしたが、笑顔で応対し話を聞いた。
俺の嫌な予感は的中した。
呆然としながら、担当者から説明を聞いた。
呆然としながら、家族に喜ばれた。
呆然としながら、一人、支度をした。
呆然としながら、喜ぶ母親に見送られて家を出た。
俺が”神”に就任した世界の、人間たちの住む星に来た。
雲よりもはるかに高い場所から人間たちを眺める。
「はぁ。」
いきなり溜息が出た。
やる気なんか、まるで無い。
どうすればいいんだろうな…。
「はぁ。」
何もやる気の起きない俺は、目の前の光景を呆然と眺めて過ごした。
しばらくの間、ただダラダラと過ごした。
家で自習と称してダラダラしていた時のことを思い出す。
母親には見せられない姿だ。
この世界に来てから、俺は何もしていなかったのだが、神力が少し増えていることに気が付いた。
『人間たちの活動などによって、神力が増える。』と、学校で教わっていた。
学校で教わっていた通りのその現象が起きていることを、俺は初めて実感した。
何もしないまま、任期の半分ほどが過ぎた。
何もしていないのに、神力がさらに増えていた。
その事を喜んでいる自分が居る。
まるで、お小遣いが貯まっていくことを喜んでいる様な感じだ。
任期が残り少なくなった。
何もしていないのに、お小遣い…じゃなかった、神力がさらに増えていた。
人間たちの様子を眺める。
神力が増えたのは、人間たちの交流が活発になった事が原因の様だ。
この星の経済はまだ未発達だな。
貨幣すらまだ無く、未だに物々交換が主流だ。
工業もまだまだだ。
信仰は……。この星では無理だな。
そんなことを考えていたら、ふと気付いた。
この星の”伸び代”に。
この星の文明を発展させれば、お小遣い…じゃなかった、神力がどんどんどんどん、とんでもなく増えるんじゃないだろうか?
俺は、やる気が湧いてきた。
それから俺は、経済を発展させて、神力を増やす方法を考える様になった。
あれこれ考えている内に、任期が残り少ないという事を思い出した。
慌てて、任期延長のお願いを議会に提出した。
任期の延長が認められた。
やった。
俺が考えていた神力を増やす方法を実行に移そう。
先ず、この世界の経済を発展させよう。
その為に貨幣を導入させる。
そのことに多くの神力を使ったりなどしない。
少ない神力で、より大きな効果を出せる方法は、ちゃんと学校で教わっている。
初めてなので緊張する。
慎重にやっていこう。
商人たちに、夢の中で貨幣の有用性を教えた。
全部で100人くらいにやったかな?
役に立つとは思っても、普及させるのも、使いこなすのも簡単なことではないだろう。
これでしばらくの間、様子を見よう。
俺は、どうなっていくのか楽しみに思いながら、ダラダラと過ごすことにした。
任期の半分が過ぎた頃。
神力の増え方が変わった事に気が付いた。
神力が、より多く増える様になっていたのだ。
それだけでなく、神レベルも上がっていた。
『来たかっ。』と思った。
きっと、貨幣の導入が上手くいったのだろう。
俺は上機嫌で、人間たちの様子を見てみることにした。
人間たちの様子を見てみた。
大きな商会を持つ大商人が何人も生まれていた。
輸送の途中で作物を腐らす事が減って利益が大きくなったからかな?
それだけでは組織は大きくならないよな?
貨幣を使った雇用と言う形態に変わったことで、大きな組織が生まれる様になったのかな?
ダラダラしていないで、観察しておけばよかったな。
他にも、離れた場所に在る別の商会と連携する事で、貨幣の利便性を上げたり販路を広げている商人や、別の貨幣との両替を行なう商人も現れたりしていた。
それらの様子を見て、俺の行なった貨幣の導入が、俺の思っていた以上に上手くいっている事を知った。
やった。
これで、これからも神力が貯まっていくだろう。
俺は上機嫌になった。
さらなる経済の発展の為に何かしようと思ったが、すでに十分な成果が出ていたので、俺はダラダラすることにした。
任期の終わりが近付いて来た頃。
神レベルがかなり上がっていることに気が付いた。
俺はただ、ダラダラしていただけなのにな。
ただ、神レベルの上がり方がおかしい気がしたので、俺は何が起こっているのか調べてみることにした。
或る大商人のところに行って、様子を見てみた。
神に祈りを捧げていた。
『商人の神』と言って崇め、感謝していた。
その様子に俺は感激した。
以前、応援としてこの星に来た時には、”神”と名乗った俺は、”残念な人”を見る様な目で見られた。
それがどうだっ。
この商人は俺を崇めている。祈りを捧げている。
感激したっ。
神になれて良かった。
俺は心からそう思った。
その商人が祈りを終えるまで、俺は感激しながらそれを眺めていた。
他の大商人のところにも行ってみた。
他にも、神を崇め祈りを捧げている者たちが居た。
そして気が付いた。
神レベルが上がった原因に。
商人たちが俺を崇め、祈りを捧げてくれたからだ。
俺は、自分がこの世界でしたことに大きな満足感を覚えた。
異動になるという知らせを受けて、話を聞く為に天界の議事堂に来た。
担当者は、「栄転ですよ。」と笑顔で言ってくれた。
しかし、あの世界には、まだまだ”伸び代”が有る。
そう思うと、今、あの世界を離れるのは、もったいないという気持ちになる。
しかし、”栄転”と言われては、断ることなど出来ないだろう。
残念な気持ちを出さない様にしながら、担当者の話を聞いた。
異動する日が来た。
この世界とはお別れだ。
まだまだ発展する余地があるので、残念だという気持ちもかなり有るが、栄転させてもらえるのだからそれでいいだろう。
最後にもう一度、俺を崇め、祈りを捧げてくれていた、あの大商人のところへ向かった。
俺のことを崇めてくれているのを見た、最初の人間だからな。
『名前ぐらいは憶えておきたい。』と、そう思った。
あの大商人のところに来た。
忙しく仕事をしている。
繁盛している様で結構なことだ。
こっそりと、彼のステータスから名前を読み取る。
ドロシスという名前だった。
「ドロシス…。」
記憶に留める為に、その名を小さく口にする。
よし、憶えた。
「壮健でな。」
小さくそう言って、俺は次の任地に向かう為に天界に転移した。
彼は知らなかった。
この異動が、或る派閥の意向であったことを。
彼は知らなかった。
後任の神が、この星で何をしようとしているのかを。
彼は知らなかった。
彼が名を口にした事で、ドロシスという男に”神の加護”が付いたことを。
彼は知らなかった。
ドロシスという名の男が、”神の加護”が付いた事により、神を盲信するようになることを。
彼もドロシスも知らなかった。
多くの神たちが、戦争という名の”遊び”をしていることを。




