7.白い犬を連れた少年とモブ兄の思い出
◆パルセノス領地屋敷 リカルド(7歳)視点9
王都から一週間かけてやっと領地に到着した。遠すぎん?将来絶対に鉄道作ってやるからな!
父上に付いて、領地の視察や有力者との挨拶をこなす。エステルは寂しがっていないだろうか…
「父上。魔法の練習がしたいから、アダンの森に行ってきてもいいですか?」
今日はもう予定が無いので自由時間だ。覚えたばかりの魔法を色々試したい。王都の屋敷じゃ気軽に使えないからね。
俺の属性は【風と水】実は【氷】も使えるんだけど、【氷】【雷】持ちは王国軍からの勧誘がえげつないらしいから秘密にしている。相手が折れるまで菓子折り持って日参するらしい。
元日本人の俺は危うく頷きかねない。クワバラクワバラ
「あの森は強い魔物はいないはずだが油断はしないようにな。まぁお前なら大丈夫だろう。夕食には間に合うように帰るんだぞ」
父上はずっと俺を神童だと思っているが、ごめん中身が20代なだけだから。
「了解です。では行ってまいります」
アダンの森は屋敷の裏に広がる侯爵家の私有地で、マキ集めや山菜取りの領民も入って来ない。
魔法の練習には打ってつけなんだ。風魔法で枯死した木や倒木を切断したり、広範囲に水やりしたり…
「誰か!誰かいる⁉助けてっ‼」
人がいたのか?領民?まさか俺の魔法でケガしたんじゃ…
慌てて声の方に向かうと、桃色の髪で同い年くらいの少年が涙目でこっちを見て、
「リコスが!火蜥蜴の火でっ‼」
灰色の毛玉の毛が焼け焦げていた。…広範囲だな。
「トカゲは?」
「いきなり水が降ってきて逃げて行った!」
俺の水魔法か。けどこの火傷は水だけじゃ足りないな…
「冷やさないと」
靴下を脱いで、生成した氷を詰め込み毛玉に押し当てる。
「きゅ~~~ん」
ぐったりしていた毛玉が頭を持ち上げた。…豆柴の子犬?
「リコス!」
少年が手に光を集めて子犬に押し当てる。光の治癒魔法だ。
だが…小さい。少年も魔力が少ないのか辛そうだな。
「毎日少しずつ掛けるしかないか…君はパルセノスの領民?」
「…ここはパルセノス領なの?森の向こうの親戚のトコに来てて…リコスとはこの森で会って遊んでいたの」
「つまり、野生の子犬に名前つけた…と」
子犬のうちは普通の犬と魔犬の区別はつかない。この森が私有地と知らないところを見ると領民ではなさそうだし…
「よその家の敷地って知らなかった…親戚の家には連れて帰れないから、リコスの傷が治るまでこの森に通ってもいいかな…頑張って治すから」
ん~魔犬かもしれないなら、こっちも連れ帰れないしな~
「わかった!俺も時間ある時は見に来るよ」
これがリコスと彼との出会いだった。
「ミース。リコスの具合はどうだ?」
「リカ!見て!少し産毛が生えてきたよ!」
リコスの火傷跡は綺麗になり白い産毛が生えている。…そうか、灰色は汚れていただけだったか。
ミースは隣領の平民の子で、仕事関係で父親とこちらに来ていたらしい。
父親の仕事はまだ1年はかかるそうで、気長にリコスを治療していた。これだけ頑張って魔法を使っていれば、ミースの実力もどんどん上がって行くだろう。
「ほい。差し入れ」
「いつもありがとう。リカ」
たまにしか来れないけれど、ここに来る時間は俺にとって癒しだった。
「きゅん!」
リコスがおやつの干し肉を食べた口でベロベロ舐めてくるが、エステル不足で気落ちしてる俺には必要な癒しだ。
それを見てるミースの笑顔も、乙女ゲームの事をひと時忘れさせてくれる。
攻略対象の事とか、流行病の事とかやる事は山積みだけれど、王都に戻るまで少しくらいはのんびりさせてもらおうかな。
それから半年が経って、王都に戻る日がやってきた。
リコスの火傷もすっかり治ったんだが、半年前からあまり成長していないところを見ると、普通の犬では無いようだな…
「ヘッヘッヘッ!」
リカルドに撫でられて嬉しいリコス。どう見ても駄犬にしか見えないけど…
「リカ帰っちゃうんだね。また会えるよね」
「会えるよ、同じ国に居るんだ。リコスも飼える事になったんだろ?また一緒に会おうな」
「きゃん!」
俺は大きく手を振って、アダンの森をあとにしたのだった…
[おまけ]~『お揃い』の思い出~
リカルド「もうお別れだけど、お揃いのシャツを作って貰ったんだ。これ着て俺の事思い出してくれよな」
ミース 「嬉しい!ありがとう!絶対忘れないよ」
後日…
ミース 「お父さ~ん。このシャツなんか着づらいんだけど、何でかな?」
ミース父「これは男物だな。女物とボタン位置が反対なんだよ」
ミース 「へ~そうなんだぁ」
◆聖バルゴ学園 リカルド(16歳)視点10
約10年後の現在…
なぜか胸元で白い塊が、千切れんばかりに尻尾を振っていた。
「え?リコス?」
「きゃん!きゃん!」
サイズ感、ほぼ変わってないぞ。ちょっとコロコロ気味だけど。
「ごっごめんなさい!うちの犬が!」
肩ほどの桃色の髪、グレーの瞳の女子が俺の前で頭を下げている。制服の色合いから見るとエステルと同じ一年生…なんだけど…
「え?…ミース…か?…スカート?なんでスカート履いてんだっ⁉」
「え?リカッ?会いたかっ…え、ちょっと待って!男だと思ってたの⁉ 酷っ‼」
「きゃんきゃ~~ん!」
驚きのあまり固まってる俺を、リコスがベロベロ舐めるのだった。




