6.影ちゃんとの出会いと学園初日のハプニング
◆パルセノス邸 エステル(15歳)視点4
朝食の時間にはもうお兄様は出掛けておられました。お見送りしたかった…
「明日からはご一緒できますから。気を取り直してご準備ですよ。はいチャチャとなさる!」
アリサは今日も手厳しい…わたくしが赤子の頃からお兄様とタッグを組んで(何ソレ羨ましい)わたくしの育児を担ってきたベテラン侍女です。逆らえない…
「影ちゃん様も!学園でもしっかりとお嬢様をお守りするのですよ」
影ちゃんが影から飛び出して、アリサにピシッと敬礼していますわ。わたくしより影使いが上手いのではなくって。ナンテコト…
お兄様が7歳わたくしが6歳の時に、お兄様はお父様とおふたりで領地に向かわれたのです。
領地は馬車で一週間は掛かる遠方につき、わたくしとお母様はお留守番になりました。
寂しい淋しい寂しい淋しい……お兄様がいないと、世界はどんよりとして心が黒く染まっていくようでした。
アリサやお母様も色々と構ってくれましたけれど、寂しさで黒く塗りつぶされた心が具現化したのでしょうか…
目の前に現れた暗い穴がわたくしを呼んでいる…一歩また一歩と穴に近づいていくと…突然!
「ッ‼」
穴から黒い物体が飛び出してきたのですわ!黒いスライムのような感じで、ふにょふにょと形を変えます。
「あ!いにゅ(いぬ)」
正解!と飛び上がって、次のかたち
「とりさん!」
正解!
とても楽しい時間でした。気付くといつの間にか黒い穴は無くなっていたのです。
わたくしは黒いその子を影ちゃんと呼んで、毎日楽しく過ごしました。
アリサも最初こそ驚いたものの、今では…
「影ちゃん様よろしいですか。図書室の本を借りる時は、一旦カバンに入れた本を影収納して必要時に出すのですよ。お嬢様のカバンが重くならないようにご配慮を!教科書が多い日も同様です!」
影ちゃんがコクコクと頷いていますわ。ズルみたいでお兄様に怒られないかしら。
でも、影ちゃんをお兄様に紹介しようと思いましたのに、お兄様が一緒の時は影に隠れて出てきませんの。素敵すぎて恥ずかしいのかしら?結局紹介できずに今に至るのですわ。
「エステル。準備はできましたか?学園に参りますよ」
「はいお母様」
聖バルゴ学園の制服に身を包み、さぁ出発です。
「よく似合ってるぞ」
「ありがとうございます。お父様」
明日からはこの馬車道をお兄様と…あ、レオン様もでしたわ。
入学式が始まりました。学園長やステファン殿下のご挨拶を聞き流して、目線は生徒会役員席のお兄様です。
高位貴族は親と一緒ですので『あらあら、エステルったら。レオン様にご執心ね♡』と、お母様とお父様が笑っていますが…あら、お兄様のお隣はレオン様でしたのね。
◆パルセノス邸エントランス レオン(16歳)視点4
次の日、約束通りにパルセノス邸にふたりを迎えに行く。
「レオン様。お迎えありがとうございます」
婚約者として当たり前の事なのだが、『ちゃんとお礼が言えてエライ』と彼女の後ろで褒め称えている奴がちょっとウザイ。
「おはようエステル嬢。カバン持とう。…え、軽っ……あぁ成程」
エステル嬢が《にっこり》見つめてくる。余計な事言うなという圧がすごい。
また影ちゃんの仕業か…ステファン殿下から初めて聞いた時は驚いたし、正直怖い気持ちもあったが、使っているのがポンコツ令嬢だけあって可愛げがある。
私がらみの嫌がらせや自分に対する口撃に、影ちゃんで仕返しする事は無いらしい。もちろん実害があろう場合は影ちゃんが自分勝手に動いているようだ。
彼女が過剰に反応するのは凡そリカルドがらみだからな。
私に対してもそれ位の熱量を持って欲しいと思う…一応婚約者なのだから。まったくもって、
「…羨ましい」
「あら。あげませんわよ(影ちゃんは)」
ふふ…やはりかわいいな。私の愛すべきポンコツは。
[おまけ]~ヒットマン・エステル~
エステル「でも!偶になら貸してあげてもいいですわ。だって、こ…婚約者ですもの!」
レオン 「‼‼」
レオン、ツンデレポンコツ娘にヤラレてうずくまる。
◆パルセノス邸エントランス リカルド(16歳)視点8
レオンが約束通りうちに迎えに来てくれた。
幸い昨日の入学式は何事の無く終了したけど、今日からは気を引き締めていかないとな。
ふと、昨日の式場のエステルを思い出す。ずっと隣のレオンを嬉しそうに見ていたな。ほほえましいが、ちゃんと学園長やステファン殿下の話も聞かないといけないぞ。
「レオン様。お迎えありがとうございます」
婚約者なんだし当たり前、なのにちゃんとお礼が言えてエステルはえらい!レオン、なぜジト目で見てくる。
「おはようエステル嬢。カバン持とう」
にっこり見つめ合うふたり、ホント仲良しだな。もうヒロインの入る余地無し!レオンルートは回避できたんじゃなかろうか。
馬車が学園に到着して、レオンにエスコートされた妹の後ろをついて行く。
さすがに美男美女の横は遠慮したいからな。ほら、皆が道を開けて行く…【モーセの海渡】かよ~。もしかして俺ってば従者に見えてるんじゃないか?一応未来の侯爵様なんだけどなぁ。
「三人とも。おはよう」
前方にステファン殿下と護衛のカイゼル殿が待っていた。あれ?この映像…なんか見たこと…
「待って!待って!止まって~~~~~~!」
後ろからの叫びに振り返ると、猛スピードの何かが突っ込んでくる。
「リカルド‼あぶないっ‼」
「うわっ‼」
咄嗟に風魔法を展開して受け止めた。
「イテテ…」
何とか吹っ飛ばされずには済んだが、勢いで尻餅をついた状態だ。ケガは…無いか。ケツが痛いだけだな。俺がケガすると心配性のエステルが過剰反応するからな~
「きゃん!」
胸元にいる白い塊が、千切れんばかりに尻尾を振っている。
「え?リコス?」
ソレは7歳の時、領地で出会った白い子犬だった。
[おまけ]~便利機能~
カイゼル 「美男美女のお二人が歩いてくると勝手に道が開くのですね。便利で良いですね」
ステファン「お前の眉間の皺が深い時も、皆避けていくから便利だぞ」
カイゼル 「………」




