27.セイテンの霹靂 《本編最終話》
◆パルセノス侯爵領 リカルド(21歳)視点27
結婚して一年ちょっとが経って、はじめてミリアを領地に連れて来た。
「リカ!ねぇアダンの森に行きたいな!」
と、ミリアが元気に言った。
まだ鉄道は通っていない…線路計画の段階だからね。蒸気機関に関しては基礎的な話を(鉄道博士ミリアが)してからは専門家がバリバリやってくれてるし、すでに俺たちはノータッチになっている。
おかげでこうして何か月も王都を離れてもOKになった。王様の許可は貰ったし。たまにはちゃんと次期領主としてのアピールをしないとねぇ。
実はエステルも久々にパルセノス領に行きたいと言っていたのだが、寸前に妊娠が発覚して安静を促された…主にレオンに。
そうして、相変わらず一週間かけて今着いたトコなのに、うちの奥さん超元気。
「落ち着いたらね。今日はまず…ほらっ挨拶挨拶!次期領主夫人の威厳を見せてあげてチョーダイ」
「ええ~~~」
「ワンワン」
ははっ、リコス共々不服そうだな。だけどやる事は山積みなんだからな~。
うちの領地はそもそも漁業以外の一次産業が主体の土地で『可もなく不可もなく』な領地だったんだけど、俺が子供の頃に行った改革(孤児院改革・教育改革・治水対策・公共施設医療施設の増設)の成果で、なんと領民が増加傾向にあるようだ。
鉄道が出来ればもっと発展するだろう。二次産業も三次産業も…
「リカ~…リカさ~~ん……エイッ!」
「イテッ‼」
後頭部にミリアの手刀がお見舞いされたようだ。うちの奥さんがぶすくれている。
「もう5日たったよ!アダンの森にい~き~た~い~~~」
「ワンワン!ワンワン!」
君ら本当にいっつも仲いいね。わかりましたよ。
「じゃあ行こうか。お弁当持ってあの場所に」
「やった~~~」「ワンワン」
『あの場所』とはリコスを治療していた小さな岩陰。俺とミリアがいつも会っていた場所だった。
草木が増えて以前とはだいぶ変わってしまっていたので、たどり着くのに苦労してしまった。
まぁ森林浴には良かったと思っておこう…。リコスは森が気持ちいいのか、あちこち走り回っている。
「リコス~!あんまり遠くに行っちゃダメよ~」
ちょっと遠くで「オン!」て聞こえた…アイツ本当にわかっているのかな?…魔犬だけど首輪してるし、この森は私有地だから猟師や冒険者も来ないし大丈夫だと思おう。
「平和だなぁ」
持ってきたシートを広げてゴロっと横になる。空は青く澄み渡っていて、ふとあの日の黒い笠雲を思い出した。
あの日、ミリアの提案を聞くまでは『世界の終わりが来たのかもしれない』と思っていた。
でも、今こんな空を見る事ができている。ミリアに『この場所』で出会えて良かった。
本当に様々な偶然や奇跡が重なって『今』があるんだろうな。
「どうしたの?リカ」
「笑うなよ。俺さ、前に『こんな平和がずっと続きますように』って祈った事があるんだ。【セイテン】の聖女じゃあるまいしって思うだろ?」
ミリアは『ん~~~』と少し考えてから、
「確かにリカは【聖女】じゃなくて、男性だから【聖人】だよね」
はい?ミリアさん…なにを言っているのかな?
「わたしの前世日本人の感性によれば、流行病を制した事で多くの人の命を救ってるよね?あと、妹さんを真っ当に育てた事で彼女は聖女にもなれたし世界も救えたよね?その世界を救う過程で【自分の未来の全財産】まで投入するって……【聖人】以外のなに?って思っちゃうんだけど」
今俺は、恐らく真正『キョトン顔』…だろうな。
……正論です。俺の前世日本人の価値観も同じでした。
「だからこれからも、聖人リカの祈りは天に届くよ!きっとね♪」
「リ~コ~ス~!もう帰る時間よ~!」
すこし日が傾いてきたので帰り支度をはじめたが、リコスはまだ戻っていない。
メシも食わないままだ。一応魔犬なので自分で狩りをして食べてるかもしれないし、そこのところは心配していなかったのだけれど…
「迷子かしら…」
ちょっと本気で心配になって来た…。リコスならありえなく無いぞ!
「リ~コ~ス~!はやく戻って来ないと、置いてっちゃうぞ~!」
…ん?遠くで「ワンワン」聞こえる…良かった。戻って来たみたいだな。
犬の足音と草をかき分ける音がどんどん近づいて来る。何か音多くない?
≪ガサガサガサッ‼≫
「「ワンワン」」
……リコスの後ろにもう一頭。真っ黒な……魔犬か?
「えっ!?…リコスってば、もしかしてお婿さん!?お婿さん連れて来たの!?やった~~~!」
思わぬところでミリアの夢が叶いそうだ。魔犬はトコトコやってきて、俺の前に座った。
「うちに来るかい?」
行儀よくお座りをしているその魔犬の前にしゃがみ込んで、目を合わせる…
黒い魔犬は、嬉しそうに『横揺れ』をはじめた……それが、あの日のアイツと重なり……まさか、
「カゲロー…なのか?」
「バウッ!」
【新生カゲロー】は大きく頷いた。
エステルに初めて「に~ちゃ」と呼ばれて前世の記憶を思い出した。その時に強く思ったのは『悪役令嬢なんかにしない、絶対幸せにする!それで出来たら俺も幸せになりたい』というものだった。
エステルは愛するレオンと結ばれて子供もできた…きっとこれからも幸せに生きていくだろう。
そして俺も、家族がいて友人がいて…リコスや愛するミリアがいて…カゲローも帰って来た……。
そんな俺は今ぜったいに『幸せになっている』と思うんだ。
END
ここまでお読みいただきありがとうございました。
本編は今回で完結ですが、
[おまけ]として、後日談や作中の補填などを追加投稿させて頂きます。
お時間が御座いましたらご覧くださいませ。




