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26.月日は流れて

◆パルセノス邸 リカルド(19歳)視点26


 あの波乱の卒業式から一年半が過ぎた。


 俺はまだしっかり侯爵邸に住んでるし次期侯爵様だ。没落はしなかった!なぜなら、国が補填してくれたのだ!


 流行病の新薬事業で儲かったお金を、財務大臣が『やっとパルセノス家に恩返しできる』と言って嬉しそうに置いて行ってくれた。もちろんステファンが上申してくれたからなんだろう……ありがたや。


 【聖獣】【聖女】の事は公表されてはいない。されるとエステルが困るしもうすでに聖女でもない、聖獣がいなくなったからな……。


 アレはあくまで【奇跡】として扱われる事に決まった。


 隣国王子ルシファー殿下の口止めはディアナ嬢に任せた。…彼女とステファンの二人に詰め寄られる殿下に少しだけ同情したよ。


 ステファンから事情を聞いた王様は『国…いや世界を救うための投資だった事は明らか』とわかっているので、うちへの【出資】に対し、事情の知らない貴族達が不服に思う意見を、会議で片っ端から論破したらしい。

 主に【鉄道】への投資という観点から……王様、どんだけ土木工事やりたいんだよ。


 土木工事で思い出したが、この一年半俺は尋常じゃない程忙しかった!


 【鉄道】に乗り気の王様や大臣・関係各所相手に、会議に視察に打合せ…と!王様が『はやく引退したい』とか言い出すから、俺はステファンからジト目で見られるし!


 あの【騒ぎ】で捕まったオーフィスは、クロタリアス公爵家が無くなった事で平民になった。もちろん罪人であるから収容所に居る。今は破落戸達と一緒に囚人労働者として線路工事の開拓現場で働いているらしい。 


 王様が言うには、地味だと馬鹿にされてきた【土属性】が、現場では称賛される事実に接して、憑き物が落ちたようになったそうだ。

 王様が引退したら弟子入りしたいとも言っているらしい。父親の呪縛から解き放たれて、本来の自分を取り戻せるのかも知れないな。ホント環境って大事……とエステルに思いを馳せる。




「お兄様。今よろしいですか?」


 そんな事を考えていたからかな?うちの女神が、開いている扉から顔を出す。

 明日、とうとうお嫁に行ってしまうエステルだ。


「いいよ。一緒にお茶しようか」

 そう言えば、何度もこうやって一緒にお茶したなぁ。もう簡単には出来なくなるんだな…。


 エステルはいつものように隣に座って、なんかもじもじしている。

「あっあのお兄様。…その…今までお世話になりました!」


 エステル……それ、親に言うヤツ。お兄ちゃん泣いちゃうよ。ほら、アリサなんか後ろで目頭押えてるし…


「お兄様はずっとわたくしの面倒を見て下さって…なんのご恩返しも出来ぬまま、わたくしはこの家から出ることになります…本当に、今までありがとう…ござい…ました…」


 あ~~~。ほんと泣きそう。目頭熱くなってきたよ。


 もう頭を撫でられる歳でもないから、エステルがグッと握りしめている手を包み込む。


「面倒だと思った事もないし、恩だなんて思わなくていいんだ。エステルがいてくれたから俺たち家族は幸せだった。それにこれからだってずっと家族だ、レオンと喧嘩したらいつでも帰ってきていいんだぞ!出戻ったって全然OKだ。部屋だってそのまま置いておく!」


「ふふ…お兄様ったら。まだ式も挙げておりませんのに」


 

 式を明日に控えているのは実は俺自身でもあったりする。そう、両家の母たちの目論見で【ダブル挙式】なのだ。


 ミリアん家は巻き込まれたかたちだな。まぁ…ペタルーダ子爵夫人も俄然やる気で混ざっていたし、俺たち男連中は完全に蚊帳の外でレオンも苦笑いしていたな~。


「ミリアお義姉様も今頃、明日の準備で大忙しでしょうね」


 エステルとミリアはあれから仲良くなってお互い『ミリアお義姉様』『エステルさん』と呼び合っている。


 明日からはエステルがいなくなり、ミリアがやって来る…きっと『寂しい』と思う時間も無いんだろう。

 ん?この【ダブル挙式】ってうちの親が寂しくならないように企んだのか?




 因みにステファンとディアナ嬢の挙式は三ヶ月後、ステファンが20歳を迎えて行われる。


 ディアナ嬢はあの【騒ぎ】の後、留学を終えて帰国した。元凶がいなくなったからな。


 三年から学園に通いエステルやミリアと仲良くなって、俺たち幼馴染三人の妻たちは妻同士で親友関係になったというわけだが……いろいろ筒抜けになりそうな気がして俺たちは戦々恐々だ。



 ヨハンは卒業後、辺境伯領へ出張しているらしい。次期宰相として色々キャリアを積んでいる最中だ。

 なぜ辺境伯領なのかは…推して知るべし…だな。


 カイゼルは相変わらず眉間に皺を寄せてステファンの護衛をしている。

 皺の理由の8割がステファンな事が不憫でならない。

 でも最近二人目(娘)が産まれたらしい。時々思い出しニヤニヤしてるのを見かける。



「そうだな。自分の事もあるけど、リコスも連れてこなきゃだしな~」


 リコスはあれから【聖獣印】が消えた。そして成長しはじめ、今は普通の白い魔犬になっている。

 ちょっとおバカっぽいのは変わらない。おやつも大好きでアリサによくおねだりしている。



 そう言えばミリアが『時々自分の影をじっと見つめているのよね』と言っていた。

 きっとカゲローが出て来ないか見ているのだろう…。



 リコスの気持ちはよくわかる。俺もあの日から、心のどこかでずっと…探しているんだから…。





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