25.かくして闇は消え去りぬ
◆ 他視点
一方その頃、
空に異変を感じたローズマリーは飛竜に乗り、部下の竜騎士達と王都の空を哨戒していた。
飛竜が恐れて黒いモヤの笠雲には近づけない為、どうすればいいのかと考えあぐねていた時だった。
突然、雲を突き破った何かが上空で停止する。
「ローズマリー隊長!アレは何でしょう!?」
「わからない…けど、あれだんだん大きくなって…!総員!あれよりも上空へ退避!」
黒い点だったものがだんだんとシート状に伸びて、黒いモヤの雲の上に広がっていく…
伸びる黒い何かは端が無数の手のようにも見え、それは黒雲をまるで大きく包み込むかのように見えた。
王都の市街地の火災現場、
「王様!黒い雲がだんだん落ちてきてます!はやく逃げないと!」
市街の火災を消し止め、焼け落ちた家屋から犠牲者を運んでいた王は、民の声で空を見上げる。
開けた場所に遺体を並べていた騎士たちもそれを見ていた。
上空からのおぞましい気配に民衆はパニック状態だ。
恐らくあれは【禁術】ここにいる者は無事では済まないだろう。
「これまでか…」
と、王が諦めかけた時であった。
迫る黒いモヤ雲の上から何かが覆いかぶさってきている事に気付く。あの気配は…
「影ちゃん殿…なのか?」
やがてシートが全ての雲を覆いつくすと、シート状だったものは深淵へと変化した……
巨大なブラックホールである。
≪シュウウウウーーー・・・≫
……ただ、その穴が吸い込むのは『黒いモヤのみ』で、ほかのモノに被害は及ばなかった。
「黒い雲がっ‼消えたっ‼消えたよ!」
父に抱えられ震えていた子供が歓喜の声をあげる。
すると今度は、ブラックホール自体が黒いモヤへと変化していった。
一瞬恐怖が蘇ったがそのモヤにはおぞましさが一切無く、キラキラした光と共に降り注ぎ被害のあった場所すべてを覆いつくした。
◆リカルド視点25
カゲローがやってくれたようだ…。
ブラックホールは今黒いモヤとなり、キラキラと降り注いできて…モヤに包まれると不思議とあたたかい気持ちになった。負った傷もなんだか癒されていく気がした……
「……って!何で傷どころか破れた服も直ってんだよっ!?」
モヤが消え去ると、無傷の一同がソコにいた。
「確かオーフィス殿と戦っていた時に欠けた筈なのですが…」
カイゼルは刃こぼれした筈の剣を心底不思議そうに見ているし、
「さっき竜巻に飛ばされた時、壊れたと思ったんだけどなぁ…」
ルシファー殿下は飛竜の鞍をペタペタ触っていた。【光竜】は『クルル』とくすぐったそうにしている。
「…『無かった事』になったんですよ。影ちゃんの固有魔法なんです」
ミリアが事の次第を説明してくれた。
『無かった事にする』は、時間を戻す訳ではなく、文字通り『ケガや破損等の【不都合】だけを無かった事にする』トンデモ魔法だそうだ。さすが元媒体が【ご都合ゲーム】なだけあるな。
エステルが使っていた『イタイノイタイノ…』もカゲローがこっそり『無かった事』にしていたのだろう。
リカルド達は知らないが今現在、王様達のいる市街では亡くなった筈の犠牲者も焼けた建物さえ『無かった事』になっていて『奇跡がおきた‼』『神の御業だ‼』と大パニックになっていたりする。
王宮でも『奇跡』は起きていたが、飛竜や竜騎士にコテンパンにされた破落戸達は、縛られたままの状態な事には変わりなく。元気になってもあまり喜ばしくは無かったかもしれない。
そうかぁカゲローに感謝だな。
「おいカゲロー…?エステル、カゲローを呼んでくれないか?」
エステルを見ると、レオンのジャケットの下はボンテージではなく、学園の制服に戻っていた。
「…お兄様。影ちゃんはもう……もう戻りません…うう」
大粒の涙を零しながらエステルはそう言った…。
どうやら聖女と聖獣になった時、初めてカゲローの声が聞こえたらしい。
あの大魔法は一度しか使えないし、恐らく自分は消滅するだろう…だから、もうお別れだ…と…。
「だから…わたくし!『今までありがとう。また何処かで…会いましょう』と…答えましたの」
あの時の小声は…それだったのか。
日は傾きはじめ、波乱の一日が終わろうとしている。
『奇跡』のおかげであの惨状は文字通り無かった事になり、明日もまたいつもと同じ一日が始まるのだろう。
ただ、そこにはもう『あいつだけ』が居ないのだ…。
エステルの嗚咽と、リコスの物悲しい鳴き声がいつまでも耳から離れなかった。




