19.モブ兄の婚約と誰かの悪だくみ
◆聖バルゴ学園 生徒会室 リカルド視点19
「で、この駄けゴホンッ…魔犬が聖獣ではないかと?…確かに昔見た聖獣印に酷似しているな」
やってきたステファンに先ほどの事情を話す。尻尾をぶんぶん振る白い毛玉を持ち上げて、毛を弄るステファン…シュールな絵面だな。
「ふむ。ほんの少しだが【聖】らしき気配は感じるが、昔お会いした聖女様の聖獣には程遠い」
前にいた聖女様は俺たちが子供の頃にすでに老齢で、寿命でお亡くなりになったのだ。聖獣もその時に聖獣印が無くなり、どこかに去ってしまったと教わった。
「聖女が覚醒しないと、聖獣も進化しないのだろうか?」
と、ミリアに視線を移すステファン。ヨハン、カイゼルもミリアを見ている。
「わ…わたしが聖じょ…なんて無理無理‼ヒロインポジなんて無理ゲーが過ぎるんですけどーーー‼」
「リコスっ‼絶対に進化しちゃ駄目だからね‼おねがい毛玉のままでいて~~~~!」
…パニック状態である。
この世界が【エステルルート】なら、ミリアの覚醒は無いはずだ。けれどリコスの事が公になれば、ミリアの置かれた状況は大きく変わる。
「この事が知られれば、おそらく【教会】は黙っていないな」
「嫌です嫌です嫌です。教会になんて行きたくないです~~~」
涙目でステファンに訴えるミリア。相手はこの国の王太子だが、構ってはいられないらしい。
「ミリアはおそらく覚醒しない。聖女にはなれないのに教会に囲われ続けるのは、ミリアにとって地獄だ」
「確信しているのだな。例の【乙女ゲー】とやらか?」
こくりと頷くと、ステファンは納得したのか顎に手をやり考えはじめた。
そして、
「私たちは何も見ていないし何も知らない。な、カイゼル。ヨハンも…」
そして天井も見る。(今日はソコにいるんだな)
「私は殿下以外の者の事は興味ありませんので、何も把握しておりません」
「見ざる聞かざる言わざると言う事ですね!はい、父上にも言いません!」
ふたりも了承してくれたようだ。
「しかし、万が一の事もあるからな。リカルド、彼女と婚約しておけ」
「「えぇっ⁉」」
……いやまてよ、良策か。
【婚約・結婚】は教会に対して有効な手札だ。隣でミリアはアワアワしているが…
「そうだな、よし!ミリア・ペタルーダ子爵令嬢!俺と結婚してください」
「婚約の申し込み飛ばしてプロポーズとか…さすがリカルド。無駄がないな」
ステファンがクスクス笑っているが無視だ、無視!
「リカと?結婚?」
「嫌か?」
嫌だと言われたらさすがに凹む!
「でも、わたし子爵令嬢だけど養女で!元々平民だよ?侯爵家になんて…リカが周りから何て言われるか」
俺や侯爵家の心配か?うちの両親はミリアが出入りを始めた時点で過去情報を入手している。アリサを筆頭に使用人達からも好印象だ。何なら『はやくゲットしろ』とせっつかれる始末だし…
「リカルドの今までの功績を考えれば、コイツのする事に異議を唱える者はいないと思うぞ。まぁ腐っても高位貴族だから、ミリア嬢は多少嫉妬されるかもしれないけれど」
腐ってもってなんだ‼腐ってないぞ!ぴちぴちの18歳だぞ!
「それにこれからも期待されている次期侯爵だ。不興を買いたい貴族はいないだろう…何だった、ああ『鉄道を走らせる』だったか?その話、父上は乗り気だったぞ。王を退いたら土木工事がしたいらしい」
引退後、引っ張りだこになる王様が目に浮かんだ…。地味と言われている【土属性】はきっと人気者になるのだろう。
「鉄道⁉鉄道って言いました⁉わたし【乗り鉄】だったんです!まさか、こっちの世界でも乗れるかも知れないなんて!」
突然ミリアがステファンに食いついた。鉄オタでもあったんだね…。
「リカ!結婚しよう!わたしめちゃくちゃ手伝うね!あ~楽しみ~」
さっき迄の不安げな様子はどこへやら、リコスと一緒にぴょんぴょん跳ねている。
鉄道は何十年と掛かる一大事業だが、ミリアと共になら頑張れそうだ。
◆パルセノス邸 アリサ視点4
とうとうリカルド様がご婚約を決められました。お相手はもちろんミリアお嬢様にございます。
「リカルド、ミリア嬢。婚約おめでとう」
お祝いされるレオン公子様に、おふたりは照れくさそうにしていらっしゃいます。微笑ましいですね。そのお隣で…
「…ぐぬぬぬぬ…」
大変悔しそうなエステルお嬢様。大好きなお兄様を奪われてしまうご心境は察せられますが、淑女は『ぐぬぬ』など発したりいたしませんよ。
けれどリカルド様の幸せそうなお顔を見て、一所懸命に噛みつきたいのを我慢しているお嬢様…尊いです。
「エステル。リカルドも良い人を見つけたみたいだし、これからの侯爵家も安泰だ。義兄の幸せを祝福しよう」
「お嬢様。そろそろ【ブラコン】も卒業にございますね」
レオン公子様とわたくしの言葉を聞いて、考え込んでしまわれました。そして、
「たまに耳にしますがその【ブラコン】とは何のことですの?」
真正キョトン顔でございます。まさかご存知無かったとは…公子様『ぐふっ』ではありませんよ。
◆クロタリアス公爵邸 オーフィス視点2
クロタリアス公爵邸では、未だ謹慎の解かれないオーフィスが窓の外を見ていた。
公爵は何やら忙しくしているし、品の無さそうな輩の出入りが増えている。何か企んでいそうな事は確かだろう。
オーフィスがしでかした事を公爵は怒るというよりは呆れていた。『何故もっと上手くやらないのか』と…
確かに見切り発車だった感は否めない。思うように噂が広がらなかったのは計算外だった。それにしても、まさか虐げられたいたはずの令嬢が、あれ程反論してくるとは…
いや、あれは本当に【令嬢】か?当時のミリアのマシンガントークを思い出す。
「ありゃあ【令嬢】なんてもんじゃねぇだろ。【令嬢】ってのは、ディアナみたいな淑やかで心遣いの出来る女の事だ」
それに、自分から【闇】をカミングアウトして不敵に笑うステファン…
「やっぱりあんな腹黒野郎にはディアナ勿体ねぇ」
(初恋の令嬢はそんな腹黒がタイプだとは知らぬオーフィスである)
ステファン達の卒業式を一か月後に控えたある日
「オーフィスよ。お前にもそろそろ伝えておこうと思う」
と、ここ数か月の間、姿を見なかった公爵が部屋にやってきた。あまり良い予感はしない…
「…では、当日の準備をしておけ。魔法の鍛錬もな。出来の悪い【土属性】のお前でも、多少は役に立つところを、この父に見せてみろ。ハハハ……」
と、計画を詳らかにした公爵は笑いながら去っていく。
それは『クーデターの計画』だった。
確かにディアナを手に入れるには王権を手にする事が必須だが……それで【王国】自体無事で済むのか?父は本当のところ王位に拘っているのだろうか?何かうすら寒いモノを感じる…。
オーフィスは手紙を書くべく、久しぶりに便箋に手を伸ばした。
[おまけ]~クロさんちからお手紙ついた~
隣国侍女 「ディアナ様。祖国から『王太子殿下以外の』お手紙が届いております」
ディアナ 「あら、めずら………光竜ちゃん。食べていいですよ」
ルシファー「うちの子、ヤギじゃないからね。読まずに食べさせようとしないでね」




