雪華2加筆
毎週末翼が椿の家に泊まりに来るようになって来たと同じ頃、不審な手紙が送られて来るようになった。
初めはただの悪戯かと思って放っておいた椿だったが、それが三日と明けずに送られて来るとただの悪戯と言うよりも故意だと言わざる得なくなって来る。
毎回送られて来る手紙には『早乙女椿様』と書かれているが、住所も記入されていないし差出人不明。
《またか…。でも…春じゃないのにね》
そう。こう言ったのは椿にとって毎度の事と言ってもおかしくない。普通なら警察や家族に相談するのだが、椿の場合は毎年春になるとこう言った事が一月ほど続くのが普通だと言う。
《何処かのアニフェスサイトにでも、私の動画を出されちゃったのかな…》
椿の感覚が世間一般とはかなりずれていることを椿本人は知らない。
椿自身、まだ冬なのに…とブツブツ呟きながらも今日も手紙を郵便受けから取り出す。
こう言った変な手紙を椿がもらったりするのはいつも春の季節。なのに今は秋。
《まあ、気にしないで捨てよう。》
手紙は毎日届いたが、毎回読まれる事なく即ゴミ箱へと消えて行った。
そうこうしている内に、今年も残す所後一ヶ月弱で終わる。
「もう嫌!!」
百合が携帯を床に投げつけると鳥飼に抱きつき嗚咽をあげて泣き出した。
「「「どうした(んだ)(の)百合?」」」
「実は…」と震える百合の体を抱きよせた鳥飼が百合に起こった事を話し始めた。
「「「いたずら電話?」」」
「でもなんで?」
百合は確かに美人だが、彼女はいつも同性の友達にがっちりと護られていて、うかつに他人がおいそれと彼女の携帯電話番号を手に入れる事などできない。
「俺も最初は驚いたさ。百合が突然助けて!って電話口で泣き叫んでたから、外出先からすっ飛んで百合の元へと行ったんだ。大学の近くのコーヒー店で会ったんだが、頭から毛布を被ってて震えてたんだよ。被害? ないに超した事はないが、服をカッターかなにかで斬られていたし、髪の毛も一房切られた。百合からは何となくだけど誰かに後を付けられている気がすると言っていたんだ。俺もその事はまともにとらえてなかったし、もしかしてよくある同性同士の足の引っ張り合いかと思ってたんだよ。だからな、牽制のためにって防犯グッズを百合に持たせてたんだ。犯人は怯える百合の様子が面白かったんだろうな。怯える百合に追い打ちをかけるかのように、百合の携帯に卑猥な内容の悪戯電話がかかってくるようになったんだ」
「じゃあ…百合の電話番号がここ最近コロコロ変わったのって…」
「あ、それ。俺」
椿の言葉に軽く手をあげた鳥飼が俺が金を出して携帯を買い替えさせたとゲロはいて来た。
怖くなった百合は大学の前で必ず鳥飼課長と待ち合わせをして帰るようになったと言うではないか。
それを聞いた蘭は鳥飼にまさかあんたがへんな電話を百合の携帯に送ってるんじゃないでしょうね!と問いつめる場面もでるほど、百合は窶れて行った。
「桜姉は大丈夫なの?」
「桜さんなら…大丈夫ですよ。なんせ粘着質な婚約者がいますからね」
臣の言葉に思わず頷いていた。
確かに、桜姉は独占欲の塊である新倉浩之に護られている。住んでいたマンションを解約させて、今は新倉浩之と一緒に甘い婚約期間を過ごしている。まあ、それだけあの人は桜姉の事を愛しているからね。
「問題は椿、あんたよ」
「へ?」
私?何で?
蘭からビシッ!と指を指された椿は目を点にした。
椿には狙われる理由も何もない。(と思っている)
百合は大学入学した年にミスキャンパスに選ばれるほどの美人だが、椿は違う。
「私は大丈夫だよ。だって、私はそんな百合にみたいに美人じゃないし、それにもう居残り保育とかだって、冬時間ってことで四時までになったし。だから、大丈夫大丈夫。ま、これが春だったら話は違うけどさ、本気で蘭姉ちゃんのお弟子さん達に護衛を頼みたいけど、今は冬だよ。大丈夫ってそんな怖い顔しないでよ」
すっかり自分は今回のターゲットじゃないとばかりに力説する。
「椿ちゃん、本当に本当に君は狙われてない?」そう義兄である臣に真面目な表情で聞かれても、椿は思い当たる節がない(手紙の事はすっかり忘れている)ため臣達に「ないよ」と即答していた。
あまりにも臣や蘭から本当なのか、大丈夫なのかと突っ込まれたが、今はそんな季節じゃないから大丈夫だの一点張りだ。
そんな椿の言葉を聞いた蘭はストーカーは蚊と違って一定の季節に出て来るってわけじゃないのよと諭すも、頑固な椿の言い分は変わらない。
椿の言うように職場は定時の五時で終わるので、そこまで心配する事はないと言う結論になった。
蘭の心配が稀有に終われば良いんだが…と臣は思いながらも椿に目をやった。
百合の携帯事件から一ヶ月過ぎた頃、そろそろ早乙女家のみんながホッとし始めた頃にそれは起こった。
「ただいま〜蘭」
「おかえりなさい。臣ちゃん。あら、椿と一緒じゃなかったの?」
「僕は今日会議があってね。そこから直帰」
椿はまだかと聞くと蘭は小さく首を振った。
まさか事件とかに巻き込まれたりしていないといいけど。
椿もいい年齢をした大人なんだし、明日にはすぐに帰って来るだろうと軽く考えていた
この日、とうとう椿は帰宅して来なかった。
幼稚園は既に冬休みに入っているから、出勤日する必要がない事だけが救いだ。
「まあ、幼稚園は冬休みに入ってるからまだ良かったが、一体椿ちゃんはどこにいるんだか」
「明日になったら帰ってくるわよ」
そう高を括っていた蘭と臣だったが、二人の予想に反して椿からの連絡は次の日の朝になってもまだない。
過ぎてく時計の針を眺める。
今までの椿だったらこんなことなど考えられない。
慌てて、蘭が何度も椿の携帯に電話を入れているが、電波が届かないところにいるのか、全く繋がらない。
「臣ちゃん…」
「霧島さんに連絡を入れよう」
「でも!!」
「蘭。霧島さんは椿ちゃんの婚約者だ」
もしも霧島さんの家にいてくれてたらどれだけホッと出来るか…。
そんな望みをかけて臣は霧島に電話を入れると彼からは椿とは婚約を交わした日以来、会っていないがどうしたのだと逆に聞かれ、臣は真実を言うか言うまいかと悩んだが、彼が出した答えは、家族の問題は家族で解決すべしとなった。
「…そう、ですか…なら、良いんです。もし、椿から連絡があれば折り返し実家に連絡を入れるように伝えてください」
突然の臣からの電話に戸惑いを感じた霧島は液晶画面に出て来た番号へと電話をかけ始めた。
だが、流れて来るのは無機質な音声の言葉ばかり。
暫く何か案はないかと考えた時に、椿の指輪を思い出した。
椿の指輪の石にはGPSチップが内蔵されている。そこを辿ればすぐに見つかる!
「社長!霧島社長! ご警備の者からの緊急連絡です」
「何なんだ一体!?分かったから繋でくれ。」
緊急連絡の内容に言葉を返せないほどに絶句している、
社長室の重厚なデスクの上で頭を抱えながらも、霧島は椿ともう一人の愛する者の事を考えていた。
「どっちをとればいい?」
教えてくれ…椿…。




