壊れそうな笑顔で
義兄さんも霧島さんを凝視してるし…でもこの人ってやっぱり佐々木さんじゃないのよね。
食事をしながら椿と臣は目の前の霧島をずっと凝視していると、加藤から『そろそろお若いお二人で…』なんて言われれば、置いて行かないでと臣に縋るような目で懇願するも、いつも園児にするみたいに優しく頭を撫でてく。
『すまん、椿ちゃん』と小声で言われてしまえば、もう何も言えない…。
売られた子羊ってこう言うことを言うんだよね。
はぁ〜って心の中でため息を何度も吐いたけど、椿の周りには誰も助けてくれる人なんていない。
臣も加藤さんも帰っちゃったし…。何で本当に帰っちゃうのよ。
「あ、あの…」
「え?」
「椿さん、中庭に出ませんか?」
「はい」
言われるままに霧島さんに促されるように二人は中庭に出た。
「どうして?」
「どうして私との見合いを決めたんですか?」
「え?」
「あなたのような方でしたら、他にも良い家柄のお嬢様とかいらっしゃるでしょう」
「……」
「私はこんな髪の色だし、どうひいき目に見ても日本人には見えないってことぐらい知ってます。あなたの前にも四回ほどお見合いをしましたが、みなさん初っ端から不躾な事ばかり言って来て…。髪は黒に染めるのかとか本当に日本人なのかと。本当に大の大人が人に対して言って良い事と悪い事の区別もつかないなんて、私の職場の子供達の方がよく分かっていますよ。だから私は聞きたいんです。どうしてあなたみたいに家柄も外見もいい人が私なんかを見合い相手に選んだんだって事を」
ー違うの。本当はこれでもし物珍しかったからなんて言われたら、それこそ私は立ち直れないわ。
自分じゃ分かってる。どれだけ日本語を堪能に話せても、着物を愛して普段着のように着付けが出来るようになっても、椿の外見は日本人ではない。
銀の髪、紺碧の双眸、白磁のような白い肌。
「申し訳ありませんでした…つい感情的になってしまいました。突然、このような変な質問をしてしまいました事、どうか忘れてください」
男性に対してすぐに喧嘩腰みたいな話し方は止めなさいって桜姉からも言われてたのに…。すぐに頭を切り替えて相手に謝ったが、どう見ても椿の言葉遣いが硬いのは歪めない。彼女自身自分を護るために敬語を使っているが、時としてそれが強固な鎧になると言うことを知らない。
「どうして…ですか…。あなたはこうは考えられないのですか? たまたま見合い写真の君を一目見て私が君を気に入ったからだと。そう言ったらあなたは信じてくれるかい?」
吃驚して目を大きく見開いた椿は呆気にとられながらも、子供のようにぶんぶんと首を横に振った。
あ…ため息を吐かれちゃうよね。だって面倒臭いしやっぱり霧島さんに呆れられたかもと恐る恐る面をあげた椿の目の前には、春の木漏れ日のように眩しい笑顔でこちらを見ている霧島がいた。
「君には聞こえなかったのかな?私は君が気に入ったんだけどさ」
へ?
今、ナントオッシャイマシタカ?
もし今、お茶を飲んでたら百パー噴いてたって断言しても良い。それくらい椿は吃驚していた。
「もう一度言うよ、私は君が気に入った。この話は進めても良いと私自身そう思っている。その月の光を集めたような銀の髪も、深海の穏やかな海の色を称えた君の瞳も」
この人は何を言ってるの? 緊張して口の中がカラカラで声も掠れそう。いくらお水を口に含んでも砂に水をやるように体の中へと拡散されて行く。
どうしてこの人は私を気に入ったんだろう?
「椿さんのお仕事は幼稚園の先生なんですよね?」
何故幼稚園の先生になったのかと聞かれて、椿は迷いながらも自分の暗い過去を話し始めた。霧島さんは笑ったりごまかしたりすることもせずに、たまに相づちを打ったりして椿の話を聞いていた。いきなり初対面の人にこんなにディープな内容の事を話すなんて初めてだった。
差し出されたハンカチに漸く自分が泣いていたと言うことに気がついた。
「私はあなたのそんな真っ直ぐで不器用なところが気に入りました。私と結婚を前提としたお付き合いを考えてはくれませんか」
この日、椿はどうやって家に帰って来たのかさえ思い出せないほど、ぼぉ〜っとしていた。
「椿、お見合いどうだった?」
蘭姉からの言葉に、椿はあり得ないほど頬を染めると「気に入ったから話を進めたいって言われた…」そうポツリと口にすると急いで二階にある自分の部屋へとかけていった。
「まーダメだったか…。この世の中の半分は男なんだからさ、その内絶〜対椿のことを気に入ってくれる人がいるわよって…ええええ?!! うそぉぉぉぉぉ〜!! ちょっとぉし、臣さん〜!!」
やっぱり蘭姉もダメだろうって高をくくっていたんだね。私も投げやりで行ったお見合いだったけどさ。そこまで騒ぐ事なの?
呆気にとられて玄関で立ち尽くす椿を置いて、蘭は方々に電話をかけ始めた。
そんな姉を見て、いつも熱血漢で涙なんて見せない姉の目に光る物を見た時、どれだけ自分が家族に心配をかけていたのかを知って、椿はそっと目を反らすと自分の部屋へと逃げてった。
その後正式に霧島さんからお見合い話を進めて欲しいと言う依頼があったと加藤さんからの電話で受話器がミシミシと悲鳴をあげるほど握りしめて「ありがとうございます」と何度もお礼を言っては頭を下げている蘭と隣で涙を零さないようにと天を仰いでいる臣がいた。
「今日は、たこ焼きよ!!」
目出たい時の夕食はたこ焼きと言うのが早乙女家の伝統。かつて臣と蘭が喧嘩し仲直りした時もたこ焼きで祝ったほど。
熱々のたこ焼きを家族で奪い合いながらも、椿はこの幸せが陰る事のないようにと願いながら、丸いたこ焼きにかぶりついた。
「あー椿姉ちゃん、それ私の!」
「今日は私のためのたこ焼きなんだから、ゆりは遠慮なさい」
「椿、あんたねーいつも食い意地張ってんじゃないわよ」
「やーい怒られてんの」
「ゆり!椿!」
「「ごめんなさい…」」
早乙女家は今夜も賑やかだ。




