浴衣と花火とあの人と2
今回は椿にとって一種のトラウマみたいな話です。
回想なども入っています。
翼君にはああ言ったものの、まさか自分の同僚にまであんな風に思われてたなんて…ショックだった。
今更私の外見を変えるなんて出来っこないし。
一度、マジに整形外科に駆け込んだ事もあったけど、その時は医師から『モデルみたいな顔してるくせに、何そんな事言ってるんですか!そんな悩みは贅沢だ』と反対に叱られたっけ。
髪を黒く染める事もやったし、カラコンも入れた事もあった。
それでも、彫りの深さと白人と同じくらいに白い肌が殊更椿を目立たせるようになり、一時は他人の目が怖くなり引きこもりになってしまった。
鏡の中の自分は確かに深海のような鮮やかな青色の目をしているし、髪だってつややかな銀髪だ。姉妹でどうして私だけ祖母の遺伝が強く出るのよ。何も知らなかった幼い頃は学校や街で自分が人から注目を浴びる事に嫌悪も何もなかった。
だけど、それが嫌悪に変わったのは、中学になったあたりから。
普通の公立校に通っていた姉達と一緒に私もそこに入れられた。最初は物珍しいこともあって、最初の数週間は優しくしてくれたわ。
そんな平和な時はすぐに終わりを迎えた。
恋の季節がやってくると、学校の女子達が男子を意識し始めて来た頃、女子の中でも力の強い子を中心としてませた子達は淡い恋心を募らせて行った。
そんな中、昨日まで普通にしゃべっていた子達から急に距離を置かれるようになった。
仲良かった友達になんで無視するの?と聞けば、私までハブにされるから話しかけないでと言われ、何が何だか分からなくなって泣いてしまった。
そんな椿に男子は優しく接してくれた。
椿をハブにする女子にそんなことをするのは悪い事だと諭した男子もいた。でもそれが返って女子達の反感を買うこととなり、椿は更に学校で孤立するようになった。
椿は男の子と一緒に居たかったわけじゃないのだ。ただ、以前みたいに仲の良い同性の友達と話したかっただけ。なのに同性の友達は皆椿を嫌煙してく。
上履きが隠されるのは日常茶飯事だった。だから上履きは毎日持って帰るようにしていた。
教科書を破られたり落書きされるのはいつものこと。だから教師に言って新しい教科書を貰っていた。
体操服など隠されたりするのはいつものこと。だから姉のお下がりを使っていた。
ロッカーにゴミを入れられたりするのもいつものことだった。だから証拠写真を撮って犯人を捜し、教育委員会に封書付きで送った事もあった。
だからと言って劇的に解決出来るわけじゃない。ドラマじゃあるまいし。
どんなに虐められても無反応な椿に飽きた女子達は、次のターゲットを見つけるとそれに向かって群がるように攻撃するようになった。
教師に言えば良いじゃないかと大人は言うけど、教師だって自分が可愛いから強く言わない。ただ虐めているグループの子達に向かって「やめなさい」と言うだけだ。
それで苛めが止まれば誰も苦労なんてしない。
椿がいない教室で数人の女子達がわいわいと話し込んでいた。
椿もその輪に入ろうと教室の扉の前まで来た時、彼女達の話の内容を耳にした途端、体が震えた。呼吸が止まりそうになった。
『椿って、最低。5組の有馬、椿に告ったんだって〜。信じらんない。さゆみが有馬のことをずっと好きだって知ってて、思わせぶりな態度をとってるし』
『もう、何人彼氏をあの子に取られた? あんな子いなきゃいいのに』
私は思わせぶりな態度なんてとったことないのに。ただ、先生に頼まれたノートを有馬くんに手渡しただけなのに。
笑顔になれない椿を見た家族は学校に何度も苛めが横行しているんじゃないかと問い合わせたが、学校側は苛めがあった事実はないと言って苛めがあった事を認めなかった。
『椿、転校しても良いんだよ』
『え?』
『椿、聖南十字学院って知ってる?』
『聞いた事はあるけど、私立の学校でしょ?』
学費だってただじゃないのに…。
『そうよ。そこだったら、海外からの留学生達も沢山来てるの。行ってみない?』
『…留学生?』
『そう。月曜日にでも見学に行ってみようよ』
あまりの姉の押しに負け、椿は見学だけと言う名目で聖南十字学院に行く事になった。
その後、聖南十字学院中等科に編入した。
ここだったら、私は大丈夫。
もう傷つかない。
聖南十字学院は色々な国からの留学生がいるせいか、椿のような見かけでもそれが普通って見られる。
そんな学院生活に椿はどっぷりと嵌って行った。
同短大を卒業してすぐ、就職先を探してみたものの、椿の外見でことごとく落とされた。
ーえ?君って日本人だったの?
ーはい。そうですが…。
いきなり不躾な言葉を投げかけて来た面接官に内心ムッとしながらも、椿は冷静にこたえていた。
ー戸籍ごまかしてない?
ーいえ、そんな事はありません。戸籍をごまかすってどう言うことですか!
戸籍をごまかしてないかと聞かれた事は今までなかった椿は、目の前の黒いスーツの男をキッと睨んだ。
ー国籍事態をごまかしてないかって言う事だよ。そんなチャラチャラした外見で男を釣ろうって言う魂胆が見え見えなんだよ。
ーそ、そんな…。
日本は外国人には優しいって言われているけど、私は日本人なのにただ単に見かけが銀髪で碧眼だからいつも差別を受けてる。
何で?
目立つから良いじゃんって言われてもちっとも嬉しくない。
二十社受けて、二十社とも落ちた。例え一次と二次は受かっても、いつも面接で落とされる。その事で椿は参ってしまい、結果家に引きこもるようになった。
そんな時に蘭が聖南十字学院で幼稚園教諭を募集しているわよと言う情報を持って来てくれた。
最後の頼みの綱である母校にある幼稚舎にダメ元で受けた所、見事採用される事になった。
それから早くも六年。
毎年春は嫌い。
「髪が…あなたの髪はキラキラと輝いて…その…綺麗ですね」
「……」
いきなり仏頂面の佐々木に言われ、無理して言わなきゃ良いのにと椿は心の中で呟いていた。
「そう言えば…何年か前に就職試験の時にあなたみたいな髪の人が来ましたよ」
「え?」
佐々木の言葉に驚いて顔を上げた椿は食い入るように佐々木の方を見ると「ようやく僕の事を見てくれましたね」そう彼は笑っていた。
「どうなったんですか?」
「え?なにがです?」
「その私みたいな髪をした人が就職試験に来たと言ってたでしょ?どうなったんですか?」
「結果は不採用でした。筆記は確かに社内でも1、2位を争うくらいに良かったけど、会社は個人プレーで成り立つものではないんだ」
そうか…ここにも私と同じように理不尽な理由で不採用にされた人がいたんだ。自分だけじゃなかったんだ、そう椿は心の何処かでホッとしていた。
「でも今でも悔やんでいるんだ。あの時…就職試験の時なんだが、彼女に酷い事を聞いたよ」
酷い事?
ドクン…ドクン…。
体中が心臓になったみたいに音がうるさい。
「ど、どんな、事を、聞かれたんですか?」
まさか…まさか…違うと言って欲しい。
そう願いながらも椿は食い入るように佐々木の顔を見上げた。
「 」
佐々木の言葉に椿は目を見開くと突然ホロホロと涙を流した。
「大丈夫ですか?」
自分に差し出されたハンカチをいらないと突き返した。
こんな…同情なんていらない…。私はこんな髪に生まれたくって生まれたわけじゃないのに!!
心配そうな顔で自分を見上げる翼の目線と同じくらいにすると、「ごめんね、翼くん。先生今日は帰るね」引きつった笑顔でさよならを告げた。
「早乙女先生!」
「佐々木さん。今日は一人で帰りますから、結構です」
佐々木の止める間もなく、彼の手を振り払った。




