09 山の中で
麓の宿で休憩した時、俺はパエリアを作った。
山で獲物が捕れたら料理してくれるかという問いがあり、大事な一座の仲間の願いだし、鳥系ならいいと俺は了承した。
猪みたいなでかい獣は12歳の今の俺には重いし、臓物多くて大変だから。
◆ ◆ ◆
俺たちは山道を進み、休憩時間になると、吹き矢とブーメランを得意とする連中が山へ入っていった。
しばらくすると、雉や山鳥を何羽か仕留めて戻ってくる。
血抜きを済ませ、羽根を抜いて内臓を処理した鳥を、俺は丁寧に解体していく。
「せっかくだし、うまいものを作るか」
焚き火に鍋をかけ、鳥の骨やガラを入れて煮込む。
塩と香草を加え、じっくり煮出していけば、透き通った旨味のあるスープになる。
一方、肉には塩、胡椒、チューブニンニクと料理酒をスキルで取り出して揉み込み、しばらく置いて味を染み込ませる。
雉の肉は鶏より脂が少ない。
火を入れすぎれば硬くなりやすいから、炭火の強さを見ながら慎重に焼いていく。
皮目を炭火に当てると、じゅう、と音がした。
香ばしい匂いが立ち上り、余分な脂が炭へ落ちる。
時折ハーブを振り、表面を香ばしく焼き上げながら、肉が乾きすぎないよう火加減を調整する。
焼き上がった肉を皿に盛り、仕上げに鳥のガラスープを別の鍋で温め直す。
これで、雉の炭火焼きと、鳥の旨味がたっぷり溶け込んだスープの完成だ。
「……うまい」
座長のイートンが最初の一口を噛みしめた瞬間、太い声が漏れた。
「これ、貴族の宴席でも出せるぞ。いや、それ以上だ」
マリンがうっとりと目を細める。
「皮が香ばしくて、お肉も柔らかい……。リオ、ほんとに料理上手よねえ」
一座の連中は次々と手を伸ばし、夢中になって雉肉を食べていく。
やがて皿は綺麗になり、鍋に残ったスープまでガッツリ飲み干されていった。
火の周りに笑い声と満足げな溜息が広がり、夜の山は温かな空気に包まれていた。
俺は静かに爆ぜる炎を見つめながら、かつて地球で体験したキャンプを懐かしく思い出していた。
翌朝。
一座が移動の準備をしている間、俺は水を汲みに山中の水源地へ向かう。水音するから滝か川的な何かがあるはず。
木々の間を抜け、澄んだ水音が聞こえる場所に出ると、小さめの滝の流れる泉の中で一人のエルフが水浴びしていた。
プラチナブロンドが朝の光を受けて神秘的に輝き、新緑の瞳が山の木々を映している。
彼女は静かに水浴びをしていて、プラチナブロンドの長い髪を絞りながらこちらに気づいた。
「……人族?」
涼やかで綺麗な声だが、少し警戒しているようだった。
俺は驚きの異世界版ラッキースケベ状態に慌てて視線を逸らし、一歩下がる。
「すみません。水を汲みに来ただけで……お邪魔しました」
エルフの少女——いや、見た目は少女だが、エルフの寿命的には100を超えててもおかしくないが。
「謝る必要はない。ここは私の領地でもない山の泉だ」
彼女は木の枝に引っかけて置いてあった衣服を手に取り、ゆっくりと身支度を始めた。
慌てる様子が無いのは俺が子供に見えてるからか? 俺は背を向けたまま、丁寧に水を汲む。
「昨日の夜、生き物を焼いてる匂いがした」
後ろから声がし、ギクリとした。確かに俺らは鳥を仕留めて食べた。
「鳥を焼いていたのだろう? 風に乗って、ここまで届いていた」
俺は振り返らずに答えた。
「ええ。一座の連中が獲ってきた雉を」
「……今度、少し分けてもらえないか?」
その言葉に、俺はようやく顔を上げた。
ここのエルフ、別にベジタリアンじゃないんだな。
森の仲間の動物を殺したなってキレるタイプじゃなくて助かった。新緑の瞳が……穏やかにこちらを見ていた。
「いいですよ。また機会があれば」
エルフは微笑んで小さく頷き、木々の間に消えていった。
別にこれからついて来る訳じゃないんだ。そして残されたのは、せせらぎの音と、森の香りだけだった。
俺は水を満杯にした皮袋を担ぎ、一座のところへ戻る。イートン座長が大声で呼んでいた。
「リオ! 準備できたぞ! 次の街まで山越え行くぞ!」
「はーい」
俺は返事をし、山道を歩き始めた。しっかりと大地を踏み締めて。そして、陽に透ける葉っぱの緑を眺めつつ、新緑の瞳のエルフの事を思い出した。
鳥ハムでも作っててやれば良かったなと思った。




