07 商人ギルド
二度目の公演を無事に終え、俺は間仕切りの衝立の向こうで夜寝る前にこっそりスキルウインドウを開いて見た。
すると「商品パッケージ、外装の変更が可能になりました」とお知らせが出ていた。
つまりビニールやプラスチック容器に入っていたものを、陶器製の瓶や壺、あるいは布袋やガラス瓶にできるそうな。
メリットはこの世界観に溶け込むこと。つまり悪目立ちしない。
デメリットは割れたり重くなったり、強度に問題があるかもってところだった。
「いいな、それ、ダンジョン産とかの嘘の説明が省ける」
しかし重さと強度の問題はあるから……なんか沢山入る魔法のカバンってやつ欲しいな。
そういや貴族時代に兄貴が持ってた気がする、あれ、買えるなら買いたい。
俺はあんまり外に出なかったから、そういうカバンは、必要としてなくて持ってなかったけど。
……手っ取り早く胡椒や砂糖を売るか?
アイテムボックスとかインベントリスキルがあれば良かったんだけどないならカバンを買うしかない。
しかし商品をどこで売るか、それが問題だ。
公演の後に人が集まってるし、胡椒とかを売ってもいいかな?
しかしどこで手に入れたんだ? とか突っ込まれるのもめんどくさい。変な客に絡まれて一座に迷惑はかけたくない。
となると、やはりどこかの店に買取に出すか。
異世界ファンタジーのお決まりのパターンだと商業ギルドってやつに登録するパターンなんだが……。
ちなみに俺も異世界ファンタジー作品は多少読んでる。何故かと言うと、ホスト時代に取材に来た漫画家さんとラノベ作家さんがいたからだ。
本人の作品をちゃんと読んで感想を言うとめちゃくちゃ喜ぶから、マジでいくつか読んだ。
漫画やラノベ読むだけでシャンパンが入るのだし、悪くなかった。
ラノベはネットで無料公開されてたし、漫画も漫画アプリで無料分は全部読んでた。
話のネタにも困らない。
でも本当に気に気に入ったのはちゃんと金出して買ったりもした。
すると相手は余計喜ぶ。
ちょろ、いや、ありがたい話だよ。
◆ ◆ ◆
朝の空気はまだ冷たく、露に濡れた石畳が靴裏にひんやりと伝わる。
俺は旅一座の天幕をそっと出て、町の中心部へと、また一座の馬を借りて向かった。
昨夜のうちにスキルウィンドウで確認した通り、「商品パッケージ・外装の変更」が新たに解放されていた。
「道具屋に直接持ち込むより、商業ギルドの方が買い叩かれにくい……はずだ」
独りごちながら、俺は朝の涼しいうちに動くことにした。夜には一座のステージがある。それまでの空き時間を、無駄にはしたくない。
商業ギルドの建物は、町の広場に面した立派な石造りだった。扉を開けると、すでに何人かの商人がカウンターの前で書類をやり取りしている。俺は列に並び、自分の番が来るまで静かに待った。
「次の方」
窓口の職員が声をかけた。中年の男性で、眼鏡をかけた真面目そうな顔立ちをしている。
俺は麻袋から、昨夜のうちにパッケージを変更しておいた巾着袋を八個取り出した。四つは黒胡椒、もう四つは白砂糖。どちらもこの世界では高価な貴重品。
「この調味料を売りたいのですが。品質は確かです」
職員が壺の蓋を開け、慎重に中身を確かめる胡椒の刺激的な香りと、砂糖の甘い匂いがかすかに広がった。彼の目が、わずかに見開かれた。
「……これは、素晴らしい品質ですな。どこで手に入れました?」
「僕は旅芸人で旅の公演途中に貴族のお客様からいただいたものです。なので、ものはいいはずです」
俺は穏やかに、しかしはっきりと答えた。何より十二歳とはいえこの元貴族の美貌がものをいう。金持ちの客が入れ上げて貢いだのだと信じさせることができる。
職員は少し考えてから、隣の部屋にいる鑑定士を呼んだ。短いやり取りの後、職員はペンを走らせた。
「胡椒は四袋で金貨十二枚。砂糖は銀貨二十二枚。ギルドを通す分、手数料は差し引きますが、市場価格よりは確実に高い買い取りになります」
予想以上の値段だった。道具屋に直接持ち込めば、もっと安く買い叩かれていただろう。俺は内心で安堵しながら、静かに頷いた。
「お願いします」
登録手続きも済ませた。
旅芸人として一座に所属していること、今後は旅先で今回の資金を元手にして商売をする可能性があることを伝えた。すると簡単な身分証明と、ギルドへの登録料を支払うと、小さな金属製の登録証が渡された。
「これでリオさんは商人として取引ができるようになりました。何かあったらまた来てください」
「ありがとうございます」
俺は登録証を懐にしまい、ギルドを出た。真昼の陽光が石畳の上に降り注ぐ。手元に硬貨が沢山。これで、あの魔法のカバンが買えるはずだ。
しかしその前に腹が減った。ギルドの手続きが思ったより長引いたしな。
通りの屋台で焼きソーセージとハード系のパンを買う。
噴水広場のベンチに座り、ナイフで真ん中に切れ目を入れ、ソーセージを挟んで食ってみる。が、物足りない。
仕方ないのでスキル仕入れで得たケチャップとマスタードを追加! これで即席ホットドッグの完成だ。
マスタードの酸味と辛味、ケチャップの甘酸っぱさが加わる。
「……うん、これだ。美味い!」
マスタードとケチャップの力は偉大だ。
次に向かったのは、道具屋の並ぶ通り。魔法のカバンを探すのだ。見た目は普通の革鞄なのに、中は見た目の何倍もの容量を持つ。追放された今、あの便利さは喉から手が出るほど欲しい。スキルで買い込んだ品を運ぶにも、旅を続けるにも、絶対に必要だ。
道具屋の扉を押し開けると、店主の老人が棚の奥から顔を出した。
「おう、若いの。何か用か?」
「収納の魔法がかかったカバンを探しています。見た目より中が広いやつです」
店主は目を細め、棚の奥からいくつかのカバンを取り出してきた。普通の革鞄、布製の袋、そして——俺の目に止まった。
斜めがけできる大きめの茶色い革鞄だ。馬に乗る事もあるし、斜めがけで手が空くのは助かる。
「これだな。容量は見た目の六倍近くある。ただし、値段もそれなりだぞ。金貨四枚だ」
俺は鞄を手に取り、中を確かめた。確かに、見た目以上の空間が広がっているっぽい。迷う理由はなかった。
「買います」
店主がにやりと笑い、鞄を渡してきた。俺はそれを肩にかけ、軽く揺すってみる。重さは普通の鞄と変わらないのに、中は広い。これで、スキルから取り出した品も金貨も安心して運べる。
「ここのカバンのタグにお前さんの血を少しつけて所有者登録をしな」
なるほどこれは盗難防止のやつだ。誰にでも使えては困るからな。
「はい」
登録を済ませて麻袋の荷物も突っ込んで店を出ると、朝の空気はすでに少し温かくなり始めていた。俺はは新しい鞄を斜めがけにし、肉と野菜をついでに買って一座の天幕の方へ馬を走らせる。
あっさり金が稼げて最高にチート!
商業ギルドへの登録と、魔法のカバン。これでこれから先の道が大きく開けた気がした。
「……まずは、今日のご飯だな。とりま山越え前に海の幸と野菜を買ったけど何作ろう?」




