04 スカウト
街の通りは、夏の陽射しに照らされて賑やかだった。
石畳の上を行き交う人々の足音、商人の呼び声、遠くから聞こえる馬車の轍の音。そんな日常の喧騒の中で、俺は歌でひと稼ぎしていた。
かつて貴族だったが今はただのリオと名乗っている俺は、道具屋で安値で買い求めたシチュー皿をチラリと見た後、深呼吸をした。
さっき一曲目を歌った後、皿の中の金は即回収して懐に入れたので今は空っぽだ。スリや強盗がいないとも限らないから。
金は大事だ。元手を作らなければ、スキルで手に入るあの【️地球産の調味料】も活かせない。
ホストだった前世の俺は三十八歳で死んだが、ラスソンで女性達をメロつかせたりしていた時の記憶がある。
俺は軽く喉を鳴らし、口を開いた。
俺は二曲目に移る。今度は少しテンポの速い曲。声を張るほどに街の空気が弾むかのようで、流れるような旋律が通りに広がった。
この歌詞は誰にも理解できないだろうが、かまわない。
地球でかつて流行ったラブソングの甘い調べが空気を震わせる。
意味など知らなくても、心に響くものはある。
最初は好奇の目を向けるだけだった通行人が、また次々と足を止める。
そして一人、また一人と、シチュー皿の中に銅貨や銀貨を落とす者が現れた。チャリンチャリンという音が、耳に心地よく響く。
内心でやったぜと思いつつ三曲目を歌っていたら通りの向こうから、軽やかな足音が近づいてくる。華やかな裾を翻しながら歩く女性。
どうやら旅の踊り子だった。美人だ。鮮やかな色の衣装に、手首には小さな鈴。彼女は俺の歌声に足を止め、じっと聞き入った。
曲が終わる頃、踊り子は微笑んで近づいてきた。
「ねえ、そこの君。歌声、すごくいいわね」
俺は少し驚いて顔を上げた。相手は自分より少し年上に見える、明るい青い目をした女性だった。
「ありがとうございます」
営業用スマイルで対応した。
「私、これからこの通りの広場で舞を披露するの。その間、バックで歌ってくれない? 君の声、私の舞に合うと思うのよ」
突然の誘い。俺は一瞬、シチュー皿の中の硬貨を見下ろした。
元手を増やすための歌。だが、一人で歌うより、誰かと組んだ方が華やかで大勢の目を惹く。脳内でそう計算した。
「……いいですよ。その話、乗らせてもらいます」
俺がそう答えると、踊り子は嬉しそうに微笑んだ。
「決まりね! じゃあ、すぐに始めましょう。私の一座の名前はソレイユ。私の名前はマリンよ」
彼女の自己紹介が続く中、俺は素早くシチュー皿の銅貨を回収して立ち上がり、彼女と握手した。
ここはまだ地元の伯爵領。しかし旅芸人一座なら移動する。スキルがクソだからって子を捨てるような親のお膝元で長居もしたくない。渡りに船って感じだ。
「この後、すぐに広場に行けばいいんですか?」
「そうよ」
彼女の後ろを徒歩でついて行くと広場についた。緑の多い公園みたいな場所に小上がりのステージも作られている。観客席の椅子は藁で編んだものが置かれてる。
旅の一座が天幕も張っていた。遊牧民のゲルに近い見た目のものだ。
「日中は暑いからステージ本番は夕刻からよ、まず座長に紹介するわね」
「はい」
恰幅のいい、お髭のおじさんが座長のようだった。樽の上に座って豚バラに見える肉の串焼きを食ってる。この串焼きが昼食なのかもしれない。
「座長! ちょっと話聞いてちょうだい」
「んん? マリン、この少年は?」
モゴモゴと、口の中の肉を急いで咀嚼して問いかけてくるおじさん。年齢は40代くらいか?
「この子、街中で歌ってて、いい声してたし、見栄えもするからさっきスカウトしたの。バックコーラスで入ってもらうわ。いいでしょ?」
強引である。押しが強い。権力者の気配がする。
「稼ぎ頭のお前さんが言うなら仕方がないな」
座長はそう言うと、がははと笑った。豪放磊落って感じの人だ。
とにかくこれからマリンと細かい打ち合わせの後、俺はバックコーラスでデビューって事になる。




