第53話 涙と忘却
深夜。玄女峰。
玄霜は闇の中で目を開けた。
自然に目覚めたのではない。――何かに引き戻された。何に、とはわからない。心臓が速く打ち、胸の奥でその音がはっきりと響く。まるで長い距離を走った後のよう。掌には薄い汗が滲み、敷布に触れるとひやりとした。
寝台に横たわったまま、天蓋を見上げる。殿の中は暗く、天蓋の輪郭は闇と溶け合っていた。わずかに窓の隙間から月光が差し込み、縁に細い光の線を描く。
何を夢見ていたのか、わからない。ただ、心臓の鼓動の速さだけが残っている――あまりに速くて、指先まで震えていた。手を敷布から持ち上げ、胸の上に置く。指先は冷たい。
しばらく横たわっていたが、鼓動は収まらない。
身を起こし、裸足のまま冷たい床に足を下ろす。戸口へ歩み寄り、扉を押し開けた。
夜風が流れ込む。草木の匂いと、昼にはなかった冷ややかさを含んで。月光は廊下の石段に降り注ぎ、灰白の静かな光を落としていた。
俯く。そこに、割れた花盆があった。
まだそのまま。土は少し乾き、ばらばらに石段に散らばっている。白い磁片が混じり、花の根が夜風にさらされていた。細い根が乾きかけて微かに縮れ、水分を失ってゆくように。ひとつの磁片が裏返り、月光を受けて淡い冷光を放っていた。
しゃがみこむ。
背後から月光が差し、地面に細長い影を落とす。長く見つめた――それは、ただ壊れた花盆を見るという見方ではなかった。知っているはずなのに、知らない。だが、自分の戸口にあり、壊れているのを見て、胸の奥にぼんやりとした負い目を感じた。――まるで、机の上の水の杯が、自分の留守の間に割れてしまったような。誰が割ったのかはわからないが、それでも自分のせいのように思える、そんな感覚。
手を伸ばし、磁片のひとつに触れる。冷たい。次に土に触れる――半ば乾いた粗い感触が指先に残る。
そのとき、記憶が来た。
ひとつずつではない――一度に、すべてが。頭の中の壁が砕け、その向こうにあったものが一気に流れ込んできた。
一つの手。窓辺にしゃがみ、泥のついた手で花の土を替えている。その人が顔を少し傾け、何かを言った――言葉の内容は聞き取れない。だが、その手の輪郭を覚えている。袖口が少しめくれ、手首に細い古傷が一本あった。
門口に立つ人がいた。振り返ってこちらを見る。背後から射す陽光がその輪郭を金色に縁取っていた。言葉はなかったが、その一瞥に長い時間があった。
誰かが窓辺で詩を吟じていた。「綠蟻新醅酒,紅泥小火爐」(緑の泡立つ新酒、紅い土の小さな火炉)。声は重くなく、まるで聞かせるように。傍らに座り、言葉を発さず、ただ微笑んでいた――口の端がわずかに上がる。誰にでも向ける笑みではない、その人だけに向けた笑み。
自分が話している――彼ではなく、自分の声。花盆の前に立ち、指先にまだ土が残るまま、振り返って言った。「次は花の肥料なんていらないわ。」少し間を置いて、「あなたが来てくれれば、それでいいの。」
耳の後ろにぞくりとした感覚が走る――この言葉。この数文字。午後、あの人が庭門に立ち、この言葉を覚えているかと尋ねた。覚えていないと答えた。だが今、思い出した。あれはある夕暮れ、窓辺に立ち、指先に泥をつけたまま、彼に向かって言った五つの字。彼は一瞬黙り、耳の先が熱くなり、「じゃあ、できるだけ来るようにする」と言った。その表情を覚えている――受け止めきれなかったが、確かに心に刻んだ。あのとき思った――この言葉だけで、数日は幸せでいられると。
その後、彼が下山する日、見送った。分かれ道まで歩きながら、今日の出来事を一つ一つ数えて話した――詩を一首覚えたこと、宗門の話をしたこと、花の土を替えたこと、そして彼が「また来る」と言ったこと。最後に言った。「これだけで、しばらくは嬉しいわ。」そのとき彼を見ず、暮色の向こうを見つめていた。それは自分自身に言い聞かせるような言葉だった。
すべてを思い出した。
「林瓶。」
突然、その名を呼んだ。
強く――まるで、この一声を呼び終えたらもう呼び方を忘れてしまうかのように。声は静かな夜に遠くまでは届かず、夜風に包まれて散っていった。だが、確かに口にした。名を言ったのだ。
さらに多くの断片が押し寄せた。
詩を背誦した日――陽光が斜めに差し、窓辺に座る横顔を照らしていた。最後の一句を唱え終え、横を向くと、彼は笑っていた。花の土を替えた日――彼が窓辺にしゃがみ、その背を見つめていた。「あなたが来てくれれば、それでいい」と言った日――花盆の前に立ち、指先に泥をつけたまま、振り返ってその言葉を告げた。言い終えた後、彼は一瞬黙り、耳の先が赤くなった。その様子を見て、胸の奥が何かにそっと触れられたように感じた。
思い出した。思い出した。名も、顔も、笑みも、すべてを!
割れた磁片の前に跪き、両手を膝の上で固く組む。指の節が白くなるほどに。記憶が戻ってきた――
だが、その瞬間、気づいた。
その記憶が、消え始めている。
ゆっくり薄れていくのではない――縁から燃え尽きていくように。紙が火に包まれ、炎が四方から中心へと進み、灰が黒く巻きながら落ちていく。思い出したばかりの光景――彼が窓辺にしゃがんでいたとき、着ていたのは青灰の短褐だった。だが、その色が曖昧になっていく――青灰だったのか、灰青だったのか。確かに青灰だと思っていたのに、今は灰青かもしれないと思う。
必死にその色を留めようとした。だが、力を込めるほどに色はぼやけ、指の隙間から流れ落ちる水のように、握るほど速く流れ去る。短褐が長袖だったのか短打だったのかさえ、もうわからない。顔を思い出そうとする――鼻の形、眉の濃さ――だが、それらは揺らめく濁った水の向こうからこちらを見ているようで、輪郭は見えるのに、はっきりとは見えない。掬い上げようとするたびに、それらはさらに散っていった。
跪いたまま、全身が震え始めた。
「林瓶。」
もう一度呼んだ。先ほどよりも小さな声で。
「林瓶……どうしてなのか、私にもわからない。」
顔を上げる――月光が頬を照らす。空の庭を見つめながら、まるでそこに誰かが立っているかのように。涙が流れた。音も嗚咽もなく、ただ一粒ずつ落ちていく。割れた磁片に当たり、月光を反射して細かな光を散らす。拭わなかった。自分が泣いていることさえ、気づいていないようだった。
「こんなふうになりたくないのに……どうして、こうなるのか……」
肩が震え始めた――それでも涙を拭かず、身を縮めもしない。跪いたまま、両手を膝の上で絡め、指をきつく結んでいる。涙は手の甲に落ち、そこを伝って石の隙間へと染み込んでいった。
俯いたまま、涙は止まらない。長い沈黙ののち、かすれた声で呟いた――ほとんど聞き取れないほどの声で。
「次にあなたが来たときは……もし私があなたを覚えていなかったら……教えてほしいの。」
「あなたが――私に詩を教えてくれたって。」
「あなたが――」
言葉が途切れた。口を開いたまま、後の言葉が喉に詰まった。頭の中でその名を探す――さっき呼んだ、あの名。確かに呼んだ。必死にその音を掴もうとする。だが、それは指先から滑り落ちていく。砂を掴むように、握るほど速く零れ落ちる。
林……誰?
目が虚ろになった。
ゆっくりではない――一瞬だった。暗い部屋の電源を誰かが突然落としたように。さっきまであった映像も、温度も、音も、色も――すべてが同時に断ち切られた。手はまだ震え、涙はまだ流れている。だが、その顔の表情はもう、さっきの彼女ではなかった。跪いたまま、頬の涙の跡が乾かぬうちに、割れた花盆を見つめている。それは、まるで初めて見るもののようだった。
わずかに首を傾げた。
――私は、今、何をしていたのだろう?
なぜここに跪いているのか、なぜ泣いていたのか、なぜ手に泥がついているのか、わからない。さっきまで全力で呼んでいたその名が、何だったのかも。
夜風が庭を渡り、土と砕けた石の匂いを運ぶ。檐鐸が鳴った……リン……リンリン。月光が磁片に反射し、細く冷たい光を散らす。
跪いたまま。薄い中衣が夜風に揺れ、身に貼りつき、細い腰の線と肩の曲線を描き出す。月光の下のその顔は、清らかで、瑕なく、端然としていた。まるで寺に祀られた玉の観音像のように。
ただ、その頬にはまだ乾ききらぬ涙の跡があった。
月光がその涙の筋を照らし、一滴が顎の端に留まり、微かに震え、やがて落ちた。割れた磁片に触れ、かすかな音を立てた。
拭わなかった。
自分が泣いたことを、もう覚えていなかった。




