第49話 林師兄
次に林瓶が薬を届けに来たとき、天気はもうすっかり暑くなっていた。
春の名残といえば、道端にわずかに残る数株の遅咲きの桃花だけ――花弁はまばらに散り、色も月初めよりずっと淡い。日差しと雨に幾度も洗われ、褪せてしまったかのように、極めて薄い粉白に変わっていた。山道の両側の草木はすでに伸び放題で、枝葉が道の上まで張り出し、歩くときには身を少し傾けねば通れない。石段の隙間からは新しい草が芽吹き、翠緑の葉が半指ほどの高さまで伸びていた。空気の匂いも変わっていた――もはや春の、花粉と湿った土の混じる匂いではなく、草木が伸びきったあとの、わずかに渋みを帯びた乾いた緑の香り。
この道を何度歩いたか分からない。以前は考える必要もなかった――身体が自然に覚えていた。どこで曲がり、どの段で足を一寸高く上げ、どの石板が緩んでいるか。だが今日、歩きながらそれらに気づいている自分がいた。意識しているわけではない。ただ、頭の中が空白になると、足裏の感覚がやけに鮮明になる。石段の角は幾多の足に磨かれて丸くなり、隙間から伸びた草は踏まれてもまた立ち上がる――そんなことを、これまで見たこともなかった。
玄女峰の院門は開いていた。以前よりも静かだった。人がいないわけではない。ただ、風の音さえ遠慮しているような静けさ。院の壁を這う蔦は前よりさらに高く伸び、門枠の上に届こうとしている。柔らかな若緑の巻きひげが宙に伸び、掴むものもなく、ただ空中に漂っていた。
林瓶は中に入り、庭の真ん中で立ち止まった。
窓辺に玄霜がいた――廊下ではなく、窓際の机の前に。手には筆もなく、机の上にも何も広げていない。横向きに座り、視線は窓の外のどこか。蔦の葉が風に揺れるのを見ているようでもあり、何も見ていないようでもある。今日の衣はごく淡い色。何度も洗われて色が抜け、青とも灰ともつかぬ古衣のよう。袖を一折り上げ、細く骨ばった手首を露わにしていた。
動かない。それは思索のための静止ではない――一度座ったら、もう動かないという静止。まるで、置かれた場所から二度と動かされぬ物のように。
林瓶は門口に立ち、見つめた。陽光が窓の外から差し込み、肩と頬の側面を照らす。色褪せた衣は光の中で古絹特有の柔らかな光沢を放っていた――温かみのない、冷たく静かな光。まるで月光が磁器の表面に残した白のよう。肌もまたそうだった。以前、その白さに気づいたことがある。だがあの白は生きていた。温度があり、血の色があった。今日のそれは違う――匣に長く仕舞われた玉のような白。冷たく、塵を寄せつけぬ白。寺院の供物のような白。
窓辺に供えられた塑像のようだった。精緻で、遠い。これまで彼女をこのように見たことがあっただろうか――いや、見る必要がなかった。以前なら、林瓶が入れば、玄霜は動き、振り向き、声を発した。だが今日の静けさはあまりにも完全で、その完全さゆえに、林瓶はその静けさそのものに気づかざるを得なかった。
足音を聞いて、玄霜は顔を横に向けた。
見た。表情は平静――笑みも、驚きも、不快もない。ただ、入ってきた者を認め、その目的を確認しただけの顔。
口を開いたとき、最初の一音がわずかに詰まった。
「林――師兄。薬を持ってきたの?」
声は穏やかで、礼儀正しく、日常の調子。だがその呼び名の最初の一音が少し躓いた。言いたくないのではない。その呼称が新しく、口がまだ慣れていないのだ。
林瓶はその三文字を聞き終え、腰の薬包を解いて窓下の机に置いた。「ああ。」
玄霜は薬包の位置を一瞥し、確認してから視線を戻した。何も言わなかった。
林瓶は部屋の中央に立ち、すぐには去らなかった。
玄霜は窓辺に座り、見もせず、無視するでもなく――ただそこにいた。林瓶は立ち、玄霜は座り、二人は同じ空間にいながら、それぞれの場所にいた。窓の外では風が吹き、庭の枯葉を一枚巻き上げ、地を滑るように回してから落とした。
林瓶は呼んだ。「玄祈使。」
玄霜は顔を向けた。澄んだ目――温かみも、敵意もない。見つめ、次の言葉を待っていた。その眼差しは磨かれた硝子のように清らかで、透き通っており、その向こうには何もない。
「最近、元気か?」
玄霜はその問いを聞き、少し考えた――ごく普通に、自分の近況を思い出すように。そして言った。「まあまあ。」
さらに少し考えて、言葉を継いだ。「宗主《そうしゅ》が、もっと修行をしろと。」
声は自然だった。何の感情もなく、ただ事実を述べるように――言われたことを覚え、それを実行するだけ。疑問も、余計な思いもない。
林瓶は見つめた。表情には何の異変もない――疲れも、不満も、倦怠もない。ただ平静で、叙述的。まるで「明日は庫房に薬材を取りに行く」と言っているかのよう。
胸の奥で、何かがわずかに動いた。
「どうしたんだ?」
玄霜はその言葉を聞いても、表情を変えなかった。林瓶を一瞥した――探るようではない。道を歩いていて、隣の人に突然理解できない質問をされたときのような視線。少し首を傾げた。
「どうしたって、何が?」
真剣な困惑だった。とぼけているのでも、逃げているのでもない――本当に理解していない。玄霜はそこに座り、林瓶の顔を見つめ、答えを待っていた。その表情には警戒も苛立ちもなく――ただ、純粋な「分からない」があった。
林瓶は立ち尽くした。目の前には、自分の問いの意味を本気で理解していない人間がいる。次の言葉が出てこなかった。
玄霜は二、三呼吸のあいだ待った。
部屋は静まり返っていた。窓の外の風が吹き込み、机の上の一枚の紙の端をそっと持ち上げ、また落とした。その音は極めて軽いのに、静寂の中でははっきりと響いた。
林瓶が何も言わないのを見て、玄霜は追及しなかった――視線を戻し、再び窓の外を見た。気を悪くしたわけでも、怒ったわけでもない。ただ、「この人は私を呼び、分からないことを聞き、そして黙った――ならそれでいい」とでも言うように。目は再び蔦の葉に向かい、先ほどの会話など最初からなかったかのようだった。
部屋は再び数呼吸の静けさに包まれた。
林瓶は立ったまま、
言った。「それじゃ、俺は行く。」
玄霜は言った。「ええ。林師兄、気をつけて。」
今度の呼び方は少し滑らかだった――先ほどよりも、最初の詰まりが短い。まるで一度練習した言葉が、二度目には自然に出てきたように。
林瓶は院を出た。門口で立ち止まり、振り返った。何を言えばいいのか分からなかった。玄霜の横顔を見た――座る場所には陽が届かず、影の中に沈んでいた。輪郭は柔らかくなっていたが、同時に曖昧で、はっきりとは見えなかった。だが、その身に宿る「日常に属さぬ気配」は、影の中でも薄れなかった――むしろ暗がりの中でいっそう白く、まるで自ら光を放つようであった。塵に埋もれていた玉が洗われて姿を現したように、温潤で、しかし遥か。かつて林瓶が玄霜を見たとき、心に浮かんだのは「今日は機嫌がいいだろうか」「ちゃんと食べているだろうか」という思いだった。だが今、横顔を見つめると、心に浮かぶのはただ一つ――この人は日常の存在ではない、ということ。玄霜はこの山峰に供えられた供物であり、外門の弟子が薬を届けるついでに目を向けるような存在ではない。ここに座り、端正で、静謐で、まるで世界のすべてが彼女とは無関係であるかのように。先ほど、真剣に困惑したように「どうしたの?」と問うたとき――林瓶は悟った。玄霜は遠いだけではない。もはや自分が見えていないのだと。
廊柱の影が青石の地面に斜めに伸びていた。門は半ば閉じられ、室内からは音ひとつ漏れない。窓台の上の花鉢――林瓶はそれを見た。前回来たときよりもさらに萎れ、葉の縁には枯れた黄が混じっていた。鉢の下の受け皿には灰が積もり、乾ききっている。以前、来るたびにその花を見ていた――土を替えたのも、肥料を買ったのも林瓶だった。今、それは窓辺に置かれ、玄霜は毎日その傍に座っているのに、見もせず、水もやらない。ただそこにあり、静かに枯れていく。
林瓶は視線を戻し、来た道を下っていった。
歩みは遅かった。
山道を下り、竹林を抜ける。陽光が頭上から差し込み、地面に短い影を落とす。竹林の中は外よりも暗く、風が竹の葉を渡って「さらさら」と音を立てる。その音は密で、まるで誰かが近くで絶えず本をめくっているようだった。林瓶はゆっくりと歩き、足元で乾いた竹の葉を踏み砕き、「かさり」と細かな音を立てた。
住まいに戻り、空の薬包を机に置いた。すぐには座らず、部屋の中央に立ち尽くした。
今日見た玄霜の姿を思い出した。窓辺に座り、顔を横に向け、陽光が肩から滑り落ちて床に届く。まるで光そのものが彼女を避けて流れていくようだった。横顔の輪郭は、もはや生者のものとは思えぬほど明瞭で――まるでそこに供えられた玉像のように、白く、冷たく、喜びも悲しみもない。その美しさを知りながらも、その美は人を招かない。それは神像の美――遠くから見ることしか許されず、触れることはできない。
かつての玄霜は、そうではなかった。
林瓶は思い出した。年の初めのこと。あの日、玄霜は窓辺で詩を暗唱していた――この窓ではなく、別の窓で。陽光が顔に落ち、暖かく、柔らかかった。最後の一句を唱え終えたとき、顔を傾け、口の端をわずかに上げた。その光景を林瓶ははっきりと覚えている。そのときの玄霜と、今日の玄霜――わずか三月も経っていないのに、まるで一生を隔てたようであった。
いつからこのことを確信していたのか分からない。おそらく、今日だ。
――玄霜は、どうしてしまったのだろう。




