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第27話 替



一週間後。化霊丹(かれいげん)を届ける日が来た。


林瓶はまず、丹霞峰へ薬を受け取りに向かった。前よりも、いっそう冷え込んでいる。薬草を干していた竹ざるはほとんど片づけられ、棚の上には乾いた樹皮が数枚残るだけだった。淡い陽射しの下で、その端がくるりと巻いている。あの乾いた薬草の匂いも、冬の冷気に紛れて薄れていた。


蘇晴(スー・チン)は入口で待っていた。薬袋を手渡しながら、声をひそめて言う。


「師匠が自ら煉ったものだ。問題ない。」


林瓶は薬袋を受け取り、手の中で重さを確かめた。間違いない。


そのまま控えの間へ視線を走らせる。——顧青煙(グー・チンイエン)の姿はない。だが、彼女の机の上には古びた玉が一つ置かれていた。何かに掛けられているわけでもなく、ただそれだけがぽつんと置かれている。その隣には、畳まれた布が一枚。半分ほど使った跡があった。ついさっきまでそれを拭いていて、外の物音に気づいて立ち上がったばかり——そんなふうに見える。


林瓶の目が、その玉に一瞬とまった。半輪の花の紋様。前に見たものと同じだ。紋様の縁は擦れて丸みを帯びている。長い年月、誰かに握りしめられてきたようだった。


霊目術が、ほとんど無意識に玉の表面をなぞる。すると、紋様のもっとも細い部分で、霊力がわずかによどんだ。浅瀬に差しかかった水流が、小さな澱みをつくるように。


そのひびは新しい傷ではない。玉が彫られた時から、そこにあったものだ。ひびの奥から、かすかな熱が伝わってくる。手で温めた熱ではない。玉そのものの質から、じわりと滲み出しているような熱だった。


丹霞峰には炉の火が多い。玉が温まっていても不思議ではない。そう片づけかけて、林瓶はわずかに引っかかった。


この熱は、丹房の熱気より強い。


外から移った熱というより、内側から発しているように感じられる。


半輪の花。その意匠だけを記憶に留め、薬袋をしまい、踵を返して歩き出す。


――


玄女峰(げんにょほう)へ通じる山道には、相変わらず見張りが立っていた。鎮獄峰(ちんごくほう)の巡回弟子は、林瓶の腰に下がった配送令牌へ目をやった。止めはしなかったが、その視線は前より一拍長く林瓶に留まる。「またお前か」とでも言いたげな目だ。林瓶は気にせず、足を速めた。


唐執事(タンしつじ)は殿の入口で待っていた。化霊丹を受け取ると、いつものように倉庫へ納めようとする。そこで林瓶は呼び止めた。


「執事。前に届けた輔薬で、まだ残っているものはありますか。見せてください。」


唐執事は林瓶を見た。その目に、あからさまな疑問は浮かばない。ただ一瞬だけ動きを止め、それから振り返って倉庫へ入っていった。


しばらくして、小さな布袋を持って戻ってくる。それを林瓶の手に渡した。


林瓶は布袋を開き、中の薬粉を掌にあけた。霊目術を走らせる。


その手が止まった。


正常な輔薬の霊光は均一で、柔らかな淡青色をしている。薄い月光に包まれているような光だ。だが、今、掌にあるこのロットは違う。色が暗い。霊光も均一ではない。濃い部分と薄い部分がまだらに混じっている。まるで麦粉に別の粉を混ぜ込んだようだった。


霊目術の視野では、その暗い部分の霊力が、布に落ちた墨のようにむらをもって広がっている。偶然混ざったものとは見えない。——意図して混ぜられた痕だ。


林瓶は、たった今届けた化霊丹へもう一度目を向けた。こちらは正常だ。霊光は均一で、どの粒も霊目術の下で安定した淡い青色を保っている。


だが、唐執事の倉庫に残っていたあの輔薬は——明らかにおかしい。


林瓶は布袋の口を閉じ、唐執事に返しながら、声を落とした。


「執事。この輔薬、すり替えられています。」


唐執事の表情は動かなかった。だが、布袋の口をつまむ指先が一瞬だけ強く締まる。関節が白くなるほどに。すぐに、その力は抜けた。


――


二人は倉庫の入口に立っていた。冬の風が扉の隙間から吹き込み、壁際に積まれた空の薬袋をかすかに揺らしている。


林瓶は、この一週間で調べたことを話した。声は低く、淡々としている。確認済みの事実を並べるように。


「化霊丹の検品署名は、三ヶ月前から何章——伝功長老師門下——に変わっています。同じ時期に、輔薬の調達先にも新しい供給元が加わり、署名者も何章です。時期は、宋明遠が玄女峰に通い始めたのと完全に一致します。」


唐執事は何も言わない。


林瓶は続けた。


「さっき見た倉庫の輔薬は、霊光がおかしい。色が暗く、成分も均一ではない。これは湿気や保存状態の問題じゃない。人為的に、別のものが混ぜられています。登記簿だけでは分からない。ロットごとの検品記録がないからです。ですが——霊目術で見れば、昼と夜ほど違う。」


最後まで聞いても、唐執事はしばらく黙ったままだった。うつむいたまま、手元の布袋を見つめている。袋の口をつまんだ指は、まだ離れない。


やがて、彼女は口を開いた。低い声だった。独り言のようでもある。


「あの方が来るときは、いつも私が付き添っている。一度も——近づけていない。」


林瓶が言う。


「ですが、毎回、書物を持ってくるのでしょう。」


唐執事が顔を上げた。


「もし、その書物の中に、すり替え用の薬包が挟んであったとしたら——」


林瓶は続ける。


「あなたが茶を淹れようと振り向いた、その数息のあいだに——入れ替えることはできます。」


唐執事の目が、かすかに揺れた。


林瓶はさらに言葉を継ぐ。


「奴が帰るとき、手にしている書物は毎回別のものに替わっている。私はずっと、上の記録を確認したものだと思っていました。ですが——もしあれが、持ち込んだ書物ではなく、上から持ち帰る記録簿だったとしたら。奴は持ってきたものを庫に置き、入れ替えた薬包を書物の間に挟んで持ち帰った。最初から最後まで、手には一冊の書物がある。あなたは書物が見えているせいで、それ以外のものは持っていないと思い込む。」


唐執事は長く黙った。


風が扉の隙間から吹き込み、灰がかった髪をかすかに揺らす。彼女はその場に立ち尽くし、布袋を握ったままだった。


やがて彼女は口を開いた。声は低い。だが、一語一語が重かった。


「十年間、守ってきた。誰も彼女に近づけなかった。だが——奴が薬櫃(やくき)を漁るとは思わなかった。」


林瓶は何も言わない。これは林瓶に向けた言葉ではない。自分自身に向けているのだと分かっていた。


しばらくして、彼女の声はさらに低くなった。自分に言い聞かせるように。


「十年だ。奴は三ヶ月足らずで、私の(かべ)を迂回した。」


唐執事は俯いたままだった。その横顔はいつもと変わらない。だが、どこか違って見えた。


林瓶は一呼吸置いて言った。慰めではない。ただ、事実を告げる声だった。


「今日からは、防げています。」


唐執事は顔を上げ、林瓶を見る。その視線はしばらく動かなかった。頷きもしない。首も振らない。礼も口にしない。


ただ、手の中の布袋をぎゅっと握り直し、振り返って倉庫へ入っていく。そして、布袋を元の場所へ戻した。


林瓶は入口に立ったまま、もう何も言わなかった。彼女には、この事実を受け止める時間が必要だと分かっている。


やがて踵を返し、山を下り始めた。玄女峰の地界を出るころ、林瓶は頭の中でもう一度、線をつなぎ直す。


輔薬はすり替えられていた。


何章が署名していた。


宋明遠の書物が運び役になっていた。


三つの断片が一つにつながった。


次の一手は、宗主に伝えることだ。



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