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第18話 共謀


翌朝、林瓶は丹霞峰へ向かった。


山道を登るにつれ、薬草の苦みと炉の焦げついたような匂いが混じり合う、重たい空気がまとわりついてくる。丹房の入口まで来ると、蘇晴(スー・チン)が水場で手を洗っていた。蘇晴は顔を上げ、林瓶の姿を認めても、意外そうな様子は見せなかった。


「話があるんだろう。入ってこい」


そう言って手を拭き、蘇晴は丹房の中へ入る。林瓶もそのあとに続いた。


中には薬の香りが濃く満ちている。壁際の丹炉には、まだ熱が残っていた。中央の長机には記録簿が開いたまま置かれ、墨もまだ乾ききっていない。


蘇晴は椅子に腰を下ろし、林瓶を見上げた。


「で、何の用だ」


林瓶も向かいに座り、単刀直入に切り出す。


「化霊丹に、異常はあるか」


蘇晴の指先が、机の縁でぴたりと止まった。


蘇晴は林瓶をじっと見つめる。やがて記録簿をめくり、そのまま林瓶の前に差し出した。


「自分で確かめろ」


林瓶は記録に目を落とした。


八月十五日——化霊丹 10顆配送。


九月二十日——化霊丹 14顆配送。


十月初七日——化霊丹 18顆配送。


その三行を、林瓶は二度読み返した。


数字は確かに増えている。10から14、14から18。毎回、4顆ずつだ。


「いつからだ」


「先月だ」


蘇晴は声を潜めた。


「九月の10顆で、一ヶ月は持つと思ってた。なのに、二十日も経たないうちに『もう足りない』って催促が来た。修煉が過酷なんじゃないかとも思ったが……」


そこで言葉を切り、記録簿を閉じる。


そして机の上の陶罐へ視線を向けた。


「十月の18顆も、おそらく月末までは持たない」


林瓶はその事実を胸に刻み、続けて尋ねた。


「宋明遠が記録を見に来たんだろう」


蘇晴の眉がかすかに跳ねた。


「どうしてそれを知っている」


「奴の動き方を見れば分かる。少し考えればな」


蘇晴はしばらく黙り込み、やがて小さく頷いた。


「あの日、俺は外で薬材を取り込んでた。戻ったら、奴が記録簿を手にして立ってた。『ご苦労さま、蘇師妹。記録はよく整ってますね』って、笑いながら言いやがった」


蘇晴は冷たく笑った。


「何も言われないほうが、かえって気味が悪いよな」


「ああ。だから俺も、何か探れないかと思って、奴と二、三言葉を交わした」


蘇晴は息を呑んだ。


「林瓶、お前変わったな。前は、自分から誰かに探りを入れるような性質じゃなかったはずだ」


林瓶はそのまま丹房の入口まで歩き、外の薬草畑に目をやった。灰色の葉が風に揺れている。


「宋明遠は二つの場所を動いている。ひとつは玄女峰だ。もうひとつは、お前の記録簿だ。偶然とは思えない」


蘇晴は記録簿の表紙を指でなぞりながら言った。


「私は丹薬師だ。玄女峰からの薬の申請は断れない。宗主が直々に許可したものだからな。だが、この記録は捨てずに残してある。いつか誰かが調べに来た時、これが証拠になるはずだ」


林瓶は蘇晴を見た。小柄な背中には、揺るぎのない芯があった。


「何か分かったら知らせる」


蘇晴が言う。


「お前もそうしてくれ」


林瓶は短く頷いた。


丹房を出ると、秋の日差しが薬草畑をやわらかく照らしていた。


林瓶は足を止め、一度だけ振り返る。蘇晴はもう記録簿に向かっていた。


林瓶は再び歩き出す。


いま手元にあるのは、細い一本の手がかりにすぎない。だが、それだけではまだ動けない。


必要なのは、玄女峰へ近づく方法だ。あるいは、宋明遠が何をしているのかを確かめる手段。


次の一手は決まっていた。


謝臨平に会う。玄女峰の話は出さない。まずは配送の人手について聞く。



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