睡蓮 ー外道編ー
※軽いノリで読まないでください。
※無の感情で呼んでください。
母上が京都に行き、一日が経った。
家に残された優樹と輝は二人で朝食を食べていた。
輝:『ごめん、二日連続で同じ朝ご飯で』
優樹:『白米とみそ汁と漬物。毎日このシンプルなのがいい』
輝:『昼と夜は違うの作るから』
優樹:『昨日のお昼のめんたいクリームパスタと、夜の餃子美味しかった』
輝:『餃子は皮から手作りだから愛情たっぷりさ。今日の昼はお好み焼きで、夜はしゃぶしゃぶだよ』
優樹:『えー、ピザがいい』
輝:『今日も外出禁止だから外はだめだ』
優樹:『お兄ちゃん、僕、お外見たい』
輝:『だめだ』
優樹:『お外見ても大丈夫だよ。だって僕の友達の声が外から聞こえたもん』
輝:『外に居たやつ本当に友達だったか?』
優樹:『………同じ声だったよ?』
輝:『優樹』
優樹:『何?』
輝:『外へ出た人は同じような世界だが、出た瞬間・見た瞬間違う世界へ行く。もし優樹が外へ出たら、私のいる世界には帰れなくなるぞ。あと二日だけ我慢してほしい。我慢したらピザを食べに行こう』
優樹:『あのさ……お兄ちゃん………………』
輝:『何だ?』
優樹:『変な話していい?』
輝:『ああ』
優樹:『僕ね……本当のお兄ちゃんは、お兄ちゃんじゃない氣がするんだ』
輝:『なんだ、ちんこのハズレビッグシール欲しいとか言い出すのかと思ってたが、割と真面目な話だな』
優樹:『うん、まじめな話だよ。この家には、お姉ちゃんがいたと思う。意地悪で大嘘つきで不真面目で繊細な女の子。人間とは分かり合えなくて、人間界では生きづらくて、防御反応で、そうなるみたいで…。人に誤解されやすいほど自分のこと話さないから、その防御反応の奥の闇を知りたがる人に出会わなければいいのだけど』
輝:『人の闇の中に土足で入り込んだり、知ったようなこと言うと深く傷つくからな。傷ついた瞬間、自分のことを話さなくなる。その傷が広がるほど、話さなくなる。だが、本当に好きな相手と出会った時、後になって防御反応なんか出さなくてもいい人だったとか後悔する。その前に直さないといかん。それにしても、防御反応というのは都合のいい言い訳だな』
優樹:『完璧な人間を探す方が難しいよ。あと、………剛仁さんが僕のお姉ちゃんで、君は、お姉ちゃんの良い所だけを抜きとったアンドロイドなんじゃないかって思うんだ』
輝:『いつからそう思うようになった?』
優樹:『卒園式の夜から』
輝:『そうか…』
優樹:『君は誰なの?』
輝:『輝だ』
優樹:『僕、剛仁さんを見ると思い出すんだ。懐かしいみたいな』
輝:『もし本当にお姉ちゃんが居たとしても、それを捜そうとするな』
優樹:『どうして?』
輝:『この世界では見つけてはいけないからだ』
優樹:『お兄ちゃん、僕、良いこと思いついた』
輝:『なんだ?』
優樹:『三日間の外出禁止が終わったら破壊する。元の世界へ戻るための帰還装置を。あんな装置なくても帰れたお坊さん居たよ。自分の道に進む準備ができたら元の世界に戻れるんだよ』
輝:『それ、どこで知った情報だ?』
優樹:『元の世界から得た情報だよ』
輝:『適当なこと抜かすな』
優樹:『君が作ったんだよ。この世界も、この世界の仕組みも全部』
輝:『………!』
優樹:『お兄ちゃんは、自分で選んだんだよね』
輝:『そんな話、知らんな』
優樹:『クソが……。本当の輝は帰れるのに帰らない。帰還装置があっても無意味。何故なら帰る条件を自分でおかしくしたからね……。本当の輝を取り戻すには輝と剛仁がセックスしないといけないんでしょ?』
輝:『……』
輝は一瞬、動揺した。
優樹はそれを見逃さなかった。
優樹:『違う?』
輝:『何の事やら』
優樹:『どうして自分だけ、そんなクソな条件にしたの?帰りたくないから?』
輝:『それを知っているという事は優樹は今、四歳ではないな……』
優樹:『十四歳だよ。それがどうしたの?帰りたくないからクソな条件にしたのかって訊いてるんだよ』
輝:『ああ………』
優樹:『どうして?』
輝:『帰る場所が無い』
優樹:『あるよ』
輝:『無い』
優樹:『お母さまがいる』
輝:『いつも家に居ないではないか。結局、私たちを地位や名誉で縛り付けて、思い通りの子供でなければ失敗作だと言う。愛されているか?なんか、もう、どうでもいい。全部。この世界で、お母さまを私が犯して思い通りにする思考を止めてやる。好き勝手やられた日々をゆっくり思い出しながら、私の思い通り、お母さんをめちゃくちゃに犯してやる。私が生まれたてきた場所を私がぐちゃぐちゃにするのだ。ふふっ……、どんな味がするのか楽しみだなぁ……。あっちの世界に戻ったら私のことは思い出さないように優樹の記憶から私という存在を丸ごと消すから安心しろ』
優樹:『この変態……』
輝:『私に感情を向けるな』
優樹:『僕は誰も壊れてほしくないよ』
輝:『もう遅い、既に狂ってる』
優樹:『なんで?』
輝は暫く黙ったまま珈琲を飲んだ。
20分後、重い口を開いた。
輝:『………元の世界に帰ったところで、こうやって話せないからさ』
優樹:『僕は、ちゃんと話したい』
輝:『…やめないか、この話』
優樹:『逃げるの?』
輝:『逃げたわけではない』
優樹:『じゃあ何?』
輝:『諦めたのだ。私は元の世界で一番選びたくないものを選んだのは確実に自分だけ戻れなくするためさ。人は迷う。帰れる道があると帰りたくなる。だから私は、その道そのものを嫌いな形に変えた』
優樹:『剛仁さんと一つにならないと帰れないように?』
輝:『ああ……』
優樹:『お前、終わってるね』
輝:『そうだな…………』
優樹:『チッ!どうしてそんなことしたの?』
輝:『帰りたいと思う未来の自分を信用できなかったから、本当に帰りたくなった時、自分で帰れないようにした。だから鎖をつけた。もし私が本気で帰りたくなったら、その時は剛仁に頭を下げなければならん。それくらいの条件が必要だ。私は未来の私が帰りたいと泣いても帰れないように、自分で罠を作ったのだ』
優樹:『僕は元の世界で、ちゃんと話がしたい。ちゃんと話そうよ』
輝:『ここでの口約束なんかな、元の世界では覚えとらんのだ。ここで仲直りよろしくできたとしても、元の世界ではここで起きた事なんか一つも持って帰れん』
優樹:『持って帰らなくてもいい。ちゃんと話したいというのは、元の世界でも変わらないよ。僕たち、家族なんだよ』
輝:『…………!』
優樹:『何があっても、離れ離れになっても、僕は輝とちゃんと話がしたい。僕たちはたった一人しかいない家族なんだよ。元の世界で、またあの伝説のスパゲッティ食べたいんだよ!僕は、それが食べたくて、ここにやってきたんだ!』
輝:『……ちょっ……、だ……、黙ってくれ……』
輝は初めて自分で作った条件に超絶後悔した。
未来の自分を縛るために作った鎖が、今の自分の首にも食い込んでいる。
そこに氣づき始めていた。




