睡蓮ー輝編ー
いよいよ、遠足の日がやってきた。
朝、窓から差し込む日差しで輝は目を覚ました。
時計を見ると、まだ集合時間まで余裕がある。
輝はベッドから起き上がり、パジャマから服に着替えてから食堂へ向かった。
輝:『おはよう……』
優樹:『おはようございます』
白石:『おっはよぉ~~~~~~~ん!輝ちゃーん、優樹ちゃーん、大阪でお土産買ったんだけど食べる?』
朝帰りに酔っぱらって金太郎の服装で帰ってきた白石は輝と優樹にタメ口で会話した。
輝:『いつもそれでいいのに』
白石:『いつもこうだよ~』
輝:『~でございます、輝さま、いってらっしゃいませ。だぞ。今のままの白石がいい』
白石:『いつもこうやって~。昨日は縄文クッキー食べたやん』
輝:『いやいやいやいや、食べてない!昨日は友達とお菓子買って、夜は優樹とピザ食べに行ったんだ!一人の時は縄文クッキー食べてるのか?そういうシンプルなおやつでいいんだってば』
白石:『昨日、ピザ食べたの?』
優樹:『そう、マルゲリータとカレーチーズ食べた。あとパフェも食べた』
白石:『今度、ピザ作ろうか?』
輝:『ああ、楽しみにしてる』
優樹:『明日になったら覚えてないよ』
酔っ払いにマジになって返す輝を優樹は笑いながら返した。
なんと、白石は完全に酔っぱらっていた為、巨大な縄文土器に貝や野菜をたっぷり入れて煮た煮物と炊きたてのご飯が机にドォーン!と置いてあり、それが朝ごはんだと堂々と言っていた。
いつもと違いすぎる朝ごはんに優樹と輝は目を輝かせながら、白石が作った朝ご飯を食べた。
輝・優樹:『いただきま~す!』
白石:『いただきまんもすりすり』
三人で土器の煮物をよそい、湯気の立つ朝食を輪になって味わった。
味は驚くほど本格的だった。
楽しいほど切ない時間だった。
今の白石はよく笑い、気軽に話しかける。
酔いが醒めたら、この朝の事も覚えていないかもしれない。
こんな日が毎日続けばいいのに。
そう思っても、それは叶わない。
この時間は一瞬だけ訪れた、貴重な時間だった。
輝は煮物の味を忘れないように、ゆっくりと噛みしめた。
朝ごはんを食べ終えた二人は、食器を片付けていた。
白石は椅子にもたれながら、ぼんやりと二人を眺めている。
輝・優樹:『ごちそうさまでした』
白石:『ごちそうさまんもすりすり』
優樹:『美味しかった』
白石:『それはよかった~』
どこか嬉しそうにほほ笑む白石。
そして、ふと思い出したように立ち上がった。
白石:『あ、そうだ。二人のお弁当、お母さんが朝方に張り切って作ってたよ』
白石は、優樹と輝に母上が作ったお弁当を指差した。
手で支えると、まだ温かかった。
母上の温盛だ。
優樹は思わず笑った。
白石は再び椅子に腰を下ろした。
二人は並んだお弁当箱を見つめる。
朝ごはんだけでも十分嬉しかったのに、さらに手作りのお弁当まで用意されていた。
朝ごはんを食べ終えた三人は洗面所に集まった。
歯ブラシを口にくわえ、並んで鏡を見た。
優樹はまだ背が届かず、鏡には頭が少し映るだけだった。
顔を見ようと背伸びをしている。
酔いの残る白石は鏡を見ながら、自分の美しい筋肉を披露して笑っいた。
輝は吹き出してしまい、優樹は白石のギャップに耐え切れず、歯磨き粉を吹いてしまった。
歯を磨き終えると、今度は洗顔だ。
冷たい水で眠気を飛ばし、泡で汚れを落としてから、再びお湯で流してからタオルで顔を拭いた。
準備を終えた輝はリュックを背負った。
優樹もお弁当が入ったバッグを手にした。
優樹:『いってきま~す』
白石:『いってらっしゃ~~~い!』
輝:『いってきます』
玄関で靴を履き、二人は家を出た。
朝の空気は夏のにおいがした。
学校へ向かう輝と、幼稚園バスの停留所へ向かう優樹。
途中で道が分かれる。
優樹:『遠足楽しんでね』
輝:『優樹もな』
二人は手を振って別れた。
やがて優樹はやって来た幼稚園バスに乗り込み、輝は学校へ向かって歩き出した。
その頃、家では白石が一人、食卓の片付けをしていた。
縄文土器を流しへ運び、皿を洗い、テーブルを拭く。
静かになった部屋で、白石は大きくあくびをした。
白石:『ふわぁぁぁぁぁ!マンモス!マンモス!』
昨夜は遅くまで起きていたうえに、朝から朝食の準備までしていた。
すべて片付け終えると、白石は寝室へ向かった。
布団に倒れ込むように横になった。
窓の外からは子どもたちの元気な声が聞こえてくる。
白石:『艦ちゃん、立派な警察官になれたのかな……。また三人で縄文会やりたいなぁ………』
小さくつぶやいた。
そして数秒後には、すうすうと寝息を立て始めていた。
遠足へ向かう子どもたちと、ようやく眠りにつく白石。
それぞれの一日が、静かに始まろうとしている。
その頃、輝は竜太と遭遇していた。
竜太:『おはようございます…』
輝:『おはよう、今日は遠足だな』
竜太:『くだらないので、僕は遠足行きません』
輝:『リュック背負ってるのに行きませんてことないだろう』
竜太:『梅美さんの所に行きます』
輝:『いつでも行けるぞ。それに今日だけ恐竜に食われるアトラクションとかあるのだぞ。人間が食われるのを生で見れるチャンス滅多にないぞ』
竜太:『騙されません、そんなくだらないアトラクション』
輝:『竜太の班の人だって竜太が居ないとなると困るぞ』
竜太:『僕の班には大和さんと剛仁さんが居るんです』
輝:『……っえ?』
竜太:『同じ学校なんです』
輝:『そうなのか、知らなかったぞ。だが、竜太、ドタキャンはだめだ。人として最低行為だぞ!恐竜に食われるアトラクションを見てほしいのだ。マジで食われるから』
竜太:『そう見えるやつですよね…吸い込まれていくのが横から見えるみたいな…』
輝:『ああ、だまされたと思って行ってくれ』
竜太:『騙されてるのに行くとか頭悪いって』
輝:『いいから行け!行かないとキスするぞ!』
竜太:『むりむりむりむりむり!遠足行く!遠足行きます!』
竜太は全力で頭を振って拒否し、全速力で学校へ向かった。
学校に着くと既に生徒たちが集まっていた。
翔:『よう、輝』
輝:『おはよう、リュック持ってきたか?』
翔:『やっべぇ!忘れちまったぁぁぁぁ!………なんちゃって☆持ってきました~』
輝:『うぜぇー!』
翔:『輝は全部持ってきた?』
輝:『家ごと持ってきた』
朝からテンションが高い二人である。
輝:『翔、ありがとな、約束守ってくれて』
翔:『人に約束をしたのは初めてだったよ』
輝:『ケツの穴はちゃんと守れよ』
翔:『………は???』
その後、美月と亨が同時に学校に到着した。
美月:『おはよう!私、水筒じゃなくてカルピス持ってきたんだぁー』
翔:『おはよう、そういうのは大きな声で言わなくていいんだよ、美月ちゃん』
亨:『おはよう!俺も珈琲持ってきた!しかもこう見えて中はペットボトル!』
翔:『おはよう、声でかいって。飲み物チートアピすんな。没収されたら、この世の終わりだよ』
輝:『飲み物くらい、いいじゃないの』
翔:『真面目に氷水なんか持ってきた俺って………バカみたい……』
亨:『水筒の中をチェックする変態教師なんか居ないから大丈夫だよ。輝は何持ってきた?』
輝:『ジンジャーエール持ってきた』
翔:『えーっ!ちゃんと水かお茶持って来いよ』
輝:『しょうがないじゃないの、それが飲みたいんだもの』
亨:『良かった、お酒持ってくるんじゃないかってハラハラしてたんだ』
輝:『おしい!お菓子におしゃぶり昆布がある!』
翔:『おっちゃんかよ』
美月:『やだ!私、ニンジンまで持ってきちゃったぁぁぁぁ!!』
翔:『何と間違えちゃったの?!?!』
輝:『翔、リュックごと忘れてないか?』
翔:『持ってきてるって!!!』
亨:『手ぶらで遠足って夢だよね』
輝:『わかるわー。リュックいらんよな』
翔:『大人になってもリュックで遠足行くのが夢だよ。パンパンに物を入れて、自分の子供と並んでリュックファミリーの夢を叶えたい!』
美月:『素敵なお父さん。叶うといいね!』
翔:『うん!』
そして、生徒が全員集合した頃、いつもより気合を入れたオシャレな郷谷先生が登場。
いつもより少し気持ちが高揚しているのか不思議な笑顔で今日の遠足について挨拶をした。
いよいよ待ちに待った遠足の始まりである。
そして郷谷先生とバスへ向かう生徒達。
輝達が全員揃って歩いている。
誰もがワクワクが止まらなかった。
バスの中に生徒達が入ると翔と亨と美月と輝が足を揃えて前日に決めた座席へ座った。
一番後ろの席である。
美月は景色を見たい為、窓ぎ側に座っている。
その横に輝、次に亨、翔という並びになっており、竜太はクラスが違う為、違うバスで出発していた。
その頃、竜太は大和に恐ろしい竜が人を食べちゃうアトラクションがあると話し、盛り上がっていた。
ちょっと話が違うのがポイント高いが、大和は笑いながら聞いていた。
亨:『なぁ、輝』
輝:『なんだ?』
亨:『恐ろしい竜が人を食べるアトラクションあるらしいよ』
輝:『恐ろしい竜???』
言い方が違うだけで、ここまでも分からなくなってしまう輝であった。
こうして、遠足バスは遊園地へ向かっていったとさ。
【次回】
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