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睡蓮ー随縁編ー

いよいよ、輝が退院する日がやってきた。

この日は平日だった為、優樹は既に幼稚園に行っており、輝は母上と一緒に車で学校へ向かった。


輝:『今日一緒に優樹と一緒にピザ食べに行くんだ』


母上:『お金、多めに机に置いてあるから行っておいで』


輝:『ありがとう』


母上:『輝、白石さんのご飯も残さずに食べてるんだって?えらいね~』


輝:『ねぇ、お母さまのご飯がいい』


母上:『優樹も同じ事言うのよ…。ごめんね、できるだけ早く帰れるようにするから、もう少し待ってね』


輝:『うん…』


母上:『あと、遠足のおやつのお金も置いてあるからね』


輝:『おやつ300円迄らしい』


母上:『ちゃんと守ってね、輝。お家では値段のきまりがないけど、遠足のお菓子選びは自分で考えて買うんだよ。この前、ホットプレートでご飯作ってたって学校から電話かかってきたよ。学校に食べ物持ってっちゃ駄目よ』


輝:『持ってくの重かった』


母上:『重かったじゃないよ。持っていかないの。わかった?』


輝:『はい』


輝は叱られつつも、母上と一緒に車の中で過ごした時間が幸せだった。

学校に到着すると輝は少し寂しそうだった。


母上:『いってらっしゃい』


輝:『いってきます』


輝は母上の車を見えなくなるまで見つめていた。

母上がランドセルの中に食べ物は何も入っていなかった。


教室に入ると、既に朝の会が始まっており、この日は輝にとって重い話が重なる最大の苦痛が待ち受けていた。

それは遠足のグループ別けというもの。

このクラスの生徒は未だにバラバラで友達を作っている様子はない。

期限は今日と迫っており、話し合いで決まらなければ究極のくじ引きが待っている。

亨と翔は口喧嘩していたが輝が亨の前で遠足の約束を翔に確認すると、あっさりと仲直りをして遠足の班長を誰がやるか話を進めた。


翔:『どんなに喧嘩しても他のやつと行くのは勘弁だから仲良くしてやるよ』


亨:『俺も他の人と行くのは不安だから一応仲良くするよ』


輝:『ウゲェェェーップ!』


翔:『きったねぇな』


輝:『ごべんで』


亨:『ぶっ(笑)すんごい謝り方』


翔:『輝は班長却下で。このターーーーコ!』


輝:『せめてオブラートに包んでオクトパスと言ってくれないか』


亨:『変わらないよ』


このグループに入りたがっている生徒は全く居ないわけでもない。

清水愛子は輝と遠足に行きたいと思っているが、立候補して目立つのは避けたい様子。

しかし、近付ける隙が無かった。


翔:『遠足の班どうしようかなぁー。あと一人なんだけど誰か入ってくれる人居ないかなぁー。俺達と遊園地に行ったら最高に面白い思い出になるんだけどなぁー。亨は素直で愛嬌があるし、輝はヤクザの息子だけど明るくて楽しいのになぁー』


翔は生徒達に聞こえるようにわざとハッピーなアピールをした。


亨:『先生を入れたらいいかも』


翔:『それいいね!』


輝:『賛成!これで決まりだな!』


遠足のグループについて真剣に話し合っていたが気が狂っているのか、このクラスには20人の生徒が居るのに先生を自分の班に入れようとしている。

これだと一人余る計算になる事を気付いていない。

気が狂っているのは正常だ。

もう私しか居ないと思った清水愛子がついに立ち上がった。


愛子:『………………おしっこ………』


こんな事が言いたいわけではなかった。

愛子は恥ずかしそうに座った。


最終的にくじ引きで決められてしまった。

密かに輝の班に入りたがっている愛子は神頼みに集中した。

くじ引きの結果、輝の班に入った者は女の子であった。

長髪のツインテールが揺れる可愛い美少女、その名も因幡美月(いなばみつき)


亨:『ねぇねぇ、美月ちゃん。くじを男と交換してしてきてくれないかな?俺さぁ、女と遠足行きたくないんだよねぇ』


視線を逸らし、究極のクズ発言を連発する亨。

何故か顔が赤くなっている。


翔:『男と女、くじ別けろよなぁ。男一人女3人の班とかあるらしいよ。あぁ気持ちわりぃ』


異性が居ると気まずくなる翔。


輝:『……え…あ…………えっと……あ……どうも………』


コミュ障が発動する輝。

何を話したいいのか分からず、固まってしまった。


美月:『……………』


この治安の悪いグループに最後までついていけるか不安になる美月。


輝:『さて、グループ決めはクリアした。次は肝心な班長決めをしなくてはならん。班長は、この私で決まりだな!フハハハハ!』


突然喋りだし、おまけに勘違いも爆発する輝が潔く班長になろうとしている。

だが、完全にスルーされるのである。


翔:『なんか気ぃ狂ってきた。やっぱ3人がいい。3人だったら間違いなく楽しいのに。やっぱり途中で新参者が現れて仲良くしようなんて無理だよ。全然楽しくねぇよ!!!!!』


亨:『俺も賛成。美月ちゃん、くじを男と交換してきてって言ったの聞こえなかった?早く変えてきてよ』


輝:『いい加減にしろ。美月ちゃんだって望んでこの班に入ったわけではないのだぞ。くじ引きで決めるという事は望まぬ結果もあるのは当然であり、初対面で不安が生じるのもお互い様だ。だからといって始めから投げ出す事はないだろう?それにくじで決めると忠告した時に男女別にしろと何故意見を言わなかったのだ?気に入らない結果になったからといって後からブウブウ文句を言っても何も変わらんぞ』


翔:『うっせぇんだよクソタコ!俺、遠足行かねぇわ!』


亨:『俺も遠足行かなぁーい』


輝:『は?何故そうなるのだ?マジで言ってるのか?』


美月:『もういいよ…。3人で遠足に行ってきなよ……。私、一人で行くから!!!』


そう言って美月は笑顔で遠足のプリントをビリビリに破いて床に落として、自分の席へ戻ってしまった。


輝:『………………ああ言われたら嫌にもなるわ』


輝は破り捨てられたプリントを無言で1枚1枚拾い、机の上に並べた。


翔:『そんなモン拾うなよ』


亨:『それ捨てたのはアイツなんだからアイツに掃除させようよ』


輝:『…………』


輝が本気で怒ると無口になる。

ここまで怒ったのは初めてだ。


亨:『これでいいじゃん。邪魔なやつが勝手に消えたしちょうどいいじゃん』


翔:『そうだよ!これで遠足に行けるんだぜ!3人揃って行けるんだぜ!』


輝:『貴様ら、ちょっと表出ろ』


輝は怒りに震え、翔と亨の胸倉を掴んで教室から出ていった。

三人で乗り越えてきた壁は再び閉ざされようとしていた。


担任の郷谷は追いかけなかった。

三人は例えボロボロになっても教室に戻ってくると信じていた。


郷谷:『引き続き、各班は班長と副班長を決めておきましょう』


生徒達は不安そうな眼差しで郷谷を見つめている。

亨と翔は自分の仲間を大切だと思う反面、自分達の領域に新しい環境を受け入れる事が不器用なのである。

曲がった事をしたらお互いに教え、どんな時も本音で語り合える仲にまでなれた3人の間に美月が加わる事で何かが壊れるわけではない。

それを翔も亨も理解しているが、自分達の領域を乱される事を一番恐れている事を郷谷は知っていた。


郷谷の小学生時代にも同じような経験をしたからだ。


そこで友情の間に割り込んで臆病者と言うのは教師ではなく仲間の役目であり、どうにもならない時に最終手段として使おうと干渉する事もなく生徒を信じて見守った。


輝:『亨よ、翔よ、美月と共に遠足に行くのは本当に嫌か?』


亨:『嫌だよ』


翔:『嫌に決まってんだろ!!!!』


輝:『何故そう思う?』


亨:『関わったら我儘で面倒くさそうだから』


翔:『つまんなさそうだから』


輝:『何故それが分かる?』


亨:『なんとなく』


翔:『顔を見て分析して、そう思ったから』


輝:『そうやって自分達も人に勝手に決めつけられたら傷付かないか?』


亨:『それは……』


翔:『どんな奴かなんて外見で大体分かる。顔に人相が出てるから』


輝:『話してみなければ分からない事もあるぞ。今日、美月ちゃんと遊んでみないか?もしかしたら思っているよりも楽しいかもしれん』


亨:『後でつまんないって言うより始めからつまらないって言った方が傷付かないよ』


輝:『そうではない、人を顔や見た目で決めつけるなと言っているのだ。やられた方は、たまったものではないのだぞ。美月ちゃんが今、どんなに傷付いている事か想像してみろ。それでも自分が正しいと言い張るのであれば私にも考えがある』


亨:『……分かったよ。遊べばいいんでしょ?』


輝:『ああ』


亨:『もし、つまらなかったらどうする?』


輝:『その時は好きなだけ私を殴っていいぞ』


翔:『…………!!!!!!!!』


亨:『へぇ…殴っていいんだ……?もう結果が見えてるのにサンドバック希望とかドM確定じゃん』


翔:『暴力はダメだ!!!!!絶対にそれだけはダメだ!!!!!!!』


亨:『ドMだからいいじゃん』


輝:『私はドMではないッッッ!!!!!!それより翔、あの時の約束はきっちり果たしてもらうぞ』


翔:『……………!!!!!!!!!』


病室で約束した言葉を思い出した翔は顔を見られたくないと語るように走って教室へ戻っていった。


亨:『遊ぶのは構わないけど輝が美月ちゃんを呼んでね。俺は無理だからさ』


輝:『私はまだ一度も話した事もないのにいきなり遊ぼうとか言いにくい……』


亨:『言い出しっぺは輝なんだから責任は輝って事で。じゃあ、あとはよろしくね』


輝『……………まぁ、そうなるよな』


輝は教室へ戻る亨の後姿を見て、うっすらと笑いながら教室へ戻った。

美月と遊んで楽しくなかったらという心配は一切していない。

美月が班に決まった事を知った亨の顔を見た輝は、ある事に気付いていたからである。

だが、それを本人に言ってはならないと輝は口を閉じていた。


そして教室へ戻った輝は勇気を振り絞って美月に遊びに誘うのである。

もう他の班は班長も副班長も決まっており、どのルートで遠足を楽しむか話し合いをしていた。

輝の班だけがバラバラになり、取り残されている。

輝はミッションが簡単にクリアできない状況に置かれ、感情的に怒る美月を相手に冷静に説得させるのである。


輝:『や…やぁ…さっきはその……すまない…。あまりにも美月ちゃんが可愛いものでな…皆その……恥ずかしがっているだけなのだよ……。今日の放課後、お互いを知る為にも私達の班の者と一緒に遊ばないか?』


美月:『ううん、そういうのいい。私、遠足なんか行かないからほっといて』


輝:『本当にすまない。二人にはちゃんと謝らせるから許してやってほしい』


美月:『謝らせるとか許してやってほしいとか、そんな強引なやり方でいつも人を操作させてるの?』


輝:『それは否定できん。曲がった事を正すやり方が強引なのは確かだ。だが、私の仲間は口は悪いが根は優しいのだ』


美月:『あれのどこが根が優しいの?私は全然そんな風に思わなかったけど?』


輝:『あの態度は良くなかったな。私も黙ってしまって申し訳ない。それについてもさっき叱っておいたぞ』


美月:『強引なやり方で?』


輝:『くっ……それも否定できん…。だが、翔も亨も人間だからずっと良い人とも限らず、私にも最低な部分は沢山ある』


美月:『うん、知ってる。強引なところでしょ』


輝:『ぐぬぬぬぬ……それはもう言わないでくれ……』


美月:『……ぷっ』


しつこい美月の言葉に分かりやすく傷付く輝に思わず笑う美月。


輝:『美月ちゃんは笑った顔が一番可愛いな。私の班に美月ちゃんが選ばれたのは、その笑顔に私達が出会う為だったのかもしれんな』


美月:『そんな事を言ったら皆がそうなっちゃうよ……』


輝:『さぁ、その笑顔を亨達にも見せに行こう!大丈夫だ、私についてこい』


そう言って輝は美月の手を引き、亨と翔が待っている席へ歩き始めた。

強引すぎる輝についていくのは不安だと感じた美月は、ただただ不安でいっぱいなのである。

しかし輝の瞳と強引に引っ張る手の温かさにどこか信用ができるような氣がした。

美月を強引に連れてきた輝を亨と翔が気付き、何かを素早く隠した。


輝:『……なんだ?』


亨:『…………いや、なんでも』


翔:『……………ああ、なんでもねぇんだよ』


輝:『……?………そうか。私は美月ちゃんを連れてきたぞ』


亨:『見れば分かるよ……』


輝:『今日の放課後に4人で遊ぶ事になったぞ』


美月:『それはまだ決まってないよ!!!!!』


輝:『と言ってるが、本当は遊んでみたいと言っているのだ美月はこの通りツンデレなのだ』


翔:『本当かよ?』


輝:『ああ、本当だ』


翔:『何して遊ぶか決めたのかよ?』


輝:『遠足のお菓子を一緒に買いにいく!そして、300円までというのを皆で学ぶ!どうだ?楽しそうだろう?』


翔:『お、おう………』


亨と翔は嫌な予感しかしなかった。

このままだと輝が大暴走して班長の座まで奪うつもりなのではないかと。

既に班長は翔、副班長は亨がやるのだと亨と翔の間だけで話が進められていた。


放課後になると4人が約束通り集合した。

妙な空気のままお菓子を買いに行く事になった美月と亨と翔が輝についていき、他の生徒が謎の生物を見るかのように無遠慮に見ている。

下校時の寄り道は禁止されている校則をどうしても破れない美月は一度家に帰ってからと言い、三人は静かに従うのである。


そして指定の場所に最初に到着したのは亨であった。

その次に翔が現れ、時間通りに美月がやってきた。

三人は無言のまま輝を待った。


20分も大幅に遅れた輝は3人からボロクソに責め立てられながらお菓子屋へ向かった。


翔:『なんで20分も遅刻するんだよ?許せねぇよ!』


亨:『俺なんか30分も前に来てたんだけど遅刻とかないわー』


美月:『ほんと最低…』


輝:『そうプンプン怒るな。怒ってばかりいると顔が不細工になるぞ』


輝が遅刻した理由は弟から退院祝にイラストを貰い、喜んでいたからであった。


翔:『お前が先に提案したのにお前が遅刻するなんてひっでぇよ!』


亨:『ずーっと待ってたんだよ!』


美月:『輝くん、聞いてる?ねぇ?聞いてるの?人の話聞いて!不細工になるわけないって言ってるの!私は不細工にならないし、輝くんが私達を怒らせたんだからまず謝って!不細工になったら輝くんが責任を持って不細工病を治して!』


翔:『遅刻した輝が一番不細工なんだよ!聞いてんのか!輝!』


亨:『俺すごく傷付いちゃった!』


輝:『分かった、分かった…、落ち着いてくれ。いつの間にそんなに仲良くなったのさ』


美月:『いつだっけ?』


亨:『わかんない』


翔:『今かもしれない…』


輝:『それはよかった。では、お菓子屋に出発ちんこー!』


翔:『ちんこ言うな。女の子いるんだから!』


こうして、四人はお菓子屋へレッツゴーした。

【次回】

お菓子屋さん編

六月十五日公開


反応や応援メッセージありがとうでござる。

ワールドカップ全国応援します。

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