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睡蓮ーうんこったれ編ー

入院2日目、輝の病室は夕方になっても誰も来なかった。

優樹も母上も来ない事を謎に思い、父上に電話したが出なかった。

隣の部屋から家族達がお見舞いに来ている話し声や足音が聞こえ、悲しい思いをした輝は絵本を作って退屈を凌いだ。


この頃、亨は父から暴力を受けた自分を助けてくれなかった不満を翔に向け、口論になっていた。

翔は亨が怒りを吐き出し終えるまで口を閉じて聞いていたが、これまでの亨の言動が体罰に繋がっていると追い打ちをかけてしまい、喧嘩になったのである。


父の暴力で傷付いている亨と、逃げるな甘ったれるなと叱る翔。

学校では翔や先生に説教され、家では父から体罰が繰り返される事に耐えられなくなった亨は父が入浴している隙に家から飛び出してしまった。


そして、輝の入院先へ亨が駆け込み、自分の病室へ足を運んでくれた事に勝手に喜ぶ輝。

しかし、様子がおかしい事に気付いた輝は亨にお見舞いに来たのではないのではないかと問う。

素直に家出をしたと亨が打ち明けた事により輝は亨に自ら作ったとある絵本を渡し、一度家に戻って父に読み聞かせしてもらうようにとやんわりと伝えた。

それでも家に帰るのが怖いと泣いて怯え、病室から出ようとしない亨に輝は頭を撫でた。

病院で治療している輝が今できる事がこれしかなかった。


亨が居なくなった事に気付いた亨の父は真っ先に輝が入院している病院に亨が居ると勘付き、病院へ直行。

父が病室へ辿り着くと亨は輝の後ろに隠れて泣き、父は鋭く強烈な目つきで接近してきた。


父:『輝くん、ごめんね。うちの亨が勝手に来ちゃって』


輝:『亨は反省しているから、もう怒るのやめてくれないか』


輝は突然、暗い表情を見せた。


父:『家出をした時点で反省なんかしていないんだよ。甘やかす事は親の役目ではない。家出の件はバカ息子の甘えだ。それに乗ったら癖になる』


輝:『バカ息子ではない、この世に一人しか居ない亨だ。そこ間違えるな。子供が家出する時、どんな時だと思う?』


父:『気に入らない時かな?』


輝:『愛情不足さ』


病室に冷たい風が流れ込み、父の全身を襲った。

それは骨に染みるような痛みが混じっていた。


輝:『亨』


亨:『……?』


輝:『私は怒らないから正直に答えてくれ』


亨は小さく頷いた。


輝:『何故、道路の真ん中で蟻を見ていた?』


亨:『蟻が葉っぱを運んでて……面白くて……』


輝:『周りは見えていたか?』


亨:『見えてなかった……』


輝:『車は?』


亨:『全然……』


輝:『私や翔の声は?』


亨:『聞こえてなかった……』


輝:『もしあの時、私が間に合わなかったらどうなっていたと思う?』


亨:『……死んでたかもしれない。輝も……翔も……』


輝:『そうだな』


亨:『ごめんなさい……』


輝:『何がごめんなさいなんだ?』


亨:『周りを見なかったから……皆を危ない目に遭わせた……』


輝:『ああ』


亨:『輝、頭怪我したし……翔もいっぱい心配したし……お父さんも怒ったし……』


輝:『次は、どうする?』


亨:『周りを見る』


輝:『ちゃんと約束できる?』


亨:『約束する』


父:『……』


輝:『亨は反省しているよ』


父:『口では何とでも言える』


輝:『一緒に亨を信じよう』


父:『………』


亨:『ごめんなさい……』


父:『……本当に分かったんだな?』


亨:『うん……』


父:『二度とするな』


亨:『うん……』


輝:『今日は、もうご飯食べたのかい?』


亨:『……まだ』


輝:『今日のラッキーアイテムはお子様ランチなんだとさ。占いでやってた。私は机の上にいつもお金が置いてあるのだが、いつかお母さまと弟と一緒にお子さまランチ食べたいなぁ……。きっと楽しいんだろうなぁ……』


父:『……』


亨の父は冷たい札束を受け取る自分の息子の表情を思い出し、言葉が出なくなった。

思い返すと嬉しそうな表情ではなく、寂しそうな顔をしていたのを父は漸く気付いたが、警察という職業に休みが簡単にとれるものではない。

ここで父は輝と亨が同じ境遇で苦しんでいる事を知る。


亨:『お父さん、輝から絵本貰ったんだ。うんこ・まんこ・ちんこの仲間たちっていう自作の絵本なんだって』


父:『うんこ・まんこ・ちんこ?ぶふっ(笑)こんなの全国の親たちが知ったら、今すぐ返してきなさいって言われちゃうよ』


輝:『そうかな?かっこいい名前だと思うんだけどな。すご~く真面目に真剣に作ったんだ』


亨:『お父さん、これ、夜に読み聞かせしてほしいなぁ』


父:『輝くん…、確認だけど……、これって……、大丈夫なやつ?』


輝:『うんこがぶりぶりで元気でした、まんことちんこはいつまでも仲良しでした、ちゃんちゃんってやつだ』


亨:『ネタバレやめてよ!』


父:『本当に大丈夫か、これ……』


輝:『亨、お父さまが真面目にビチビチうんこが流れた音はボンガラガガラガラガラ~♪でちた☆と読む時は、ちゃんと絵本の絵を見るんだぞ。スペシャルにカラーなのだ』


亨:『楽しみー!』


父:『……うっ、なんか恥ずかしくなってきた…』


輝:『なんでやねん。じゃあ、夜ご飯が運ばれてくるから、二人でお子様ランチ楽しんできてくれ。また、明日会おう、亨。絵本とお子様ランチの感想楽しみにしとく』


亨:『輝、今日はありがとう』


父:『……輝くん』


輝:『……?』


父:『…亨を……その…………ありがとう』


輝:『どういたしまして。亨の話をいっぱい聞いてくれ』


そう言って輝は亨の手を握り、父の手の平に差し出した。

父の傷だらけの分厚い手と小さな亨の手がゆっくりと握られた。

輝の背後から顔出す亨。

父の手を握って泣き出してしまったが、輝はそれ以上手助けしなかった。

そして父は亨の手を握ったまま輝に手を振って病室から出た。

この後、亨は家出をした説教をされるが、父は手をあげなかった。


蟻を踏んだ輝を殴ったこと、翔の首を絞めたこと、輝のお弁当をひっくり返したこと、家出をしたこと、事故に遭ったこと、一つ一つ理由を聞き、これからどうするか一緒に話し合いをした。


それと同時に父は亨に手をあげた事を謝った。

その晩、二人でお子様ランチを食べた。

父は幼いころの自分を思い出し、子供に戻った氣分を味わっていた。

親が弟ばかり味方して自分だけ厳しくされて理不尽で嫌だったなとか、お子様ランチで玩具選んだのに弟に取られて親にお兄ちゃんなんだから譲りな、大人げないと言われて嫌だったなとか、マイナスな事ばかり話し、亨は『お子様ランチが不味くなっちゃう!』と言って笑っていた。


家に帰ると亨は父に絵本を読んでほしいと甘え、父は布団の上で輝が作った絵本を読み聞かせていた。


父:『大きなうんこはビチビチいいません。ぶりぶりぶりと元気よくぶぅーーーーーーっととぐろを巻き巻きします。飛び散りうんこも勢いが凄く、ブチチチチチチッ!っと元気がいいのです。これを下痢といいます……』


亨は途中で寝てしまったが、父は亨が輝と友達でいる事を心の底で反対している。

それはヤクザの子というのが問題であり、認める事のできない大きな理由があった。

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