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異世界ライフは美しい!  作者: 清水悠


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99【ギルバートのリバイバルストーリー①】

「 ではギルバート、頼む。」


「 ハッ!グレン様!! 」


 俺が敬礼すると、グレン様とリュカは廊下を進み階段へと折れ曲がった。


 …… やっと行ったか。


 フゥと肩の力を抜きかけたとき、リュカが角からヒョコッと顔を出し慌てて背筋を伸ばす。


「 ギル、セナ様の部屋を覗いたら斬りますよ。」


 さっさと行けば良いものを! アイツ!!ウルセェ! オレ様が覗くわけねぇだろ!!


 今度こそ二人の足音が遠ざかりホッとする。

 リュカは以前ほど苦手じゃなくなったけど、代わりにとても生意気に感じるようになった。


 いや、前だって生意気だったか?

 …… それにしても静かだなー。


 あ〜あ、今夜はせっかく非番だったのに、あいつがカッコつけてセナ様の護衛を買って出るから、俺もつられて挙手しちまったよ。


 まーいいけどね? セナ様の護衛だし。…… ちょっとくらい覗いてもバレないかな?

 いやいや、と首を振って部屋の扉へ寄りかかった。たぶんだけどリュカはマジで俺を斬る。


 それにしても今夜のセナ様はヤバイくらい美しかったー!なんかもうスパークリングに溢れちゃってる感じ?女性は化粧で化けるって言うけど、そういった小細工なんかじゃなくて、なんていうの?


「より一層映える」って感じ?


 うん、これだな!まぁグレン様がぴったりと横に張り付いてて、俺らに付け入る隙なんて全然なかったけどね。


 そう言えばセナ様の第一印象は最悪だった。


 召喚式で勇者様を呼んで、グレン様が団長を務める俺達の隊が護衛をする事に決まった。それを聞いたときは本当にゾクゾクしたよ。やったー!体験した事のない冒険が始まるーつってね。


 だけど俺達の護衛すべき勇者様は、たった数日で元の世界に帰るって言うし、何だそれ? って思ってるうちに今度は数人で石探しに出てしまった。


 あの時はほんと「 はー? 何だそれ?」て思ったね。


 それにその旅のお供ってのが、グレン様は団長だから当然だけど、何でリュカまで一緒なの?って不満だった。


 アイツは今十七歳だったか? リュカと俺は騎士団の同期だ。三年前の入団テストの時から子供がいるなっては思ってたけど、まさか四つも年下とは思わなかった。


 ラグドールの騎士団テストはレベルが高いことで有名だ。俺もその時点で二回落とされてたから、目をキラキラさせて試験に挑むリュカを見て「まぁ記念受験として頑張んな!」くらいに思ってた。


 したら入団式にいるんだもんなー、あん時は素直にすげー奴だって思ったよ。


 騎士団として日々過ごす中で色んな噂を耳にする。リュカはあの名高いローゼンタール家の人間だった。そして騎士団へはコネ入団だったらしい。


 いや生活を共にしてれば分かるけど、リュカは真面目に訓練するし、弓の腕前は騎士団全体の中でもトップクラスだ。普通に実力じゃねえの?


 でも十四歳で入団ってのは流石におかしいか。


 そういう貴族様あるあるの「ひがみ」っての? 醜いね〜って思ってた。そういう点では俺は気が楽だ、うちは貴族といっても没落貴族。爺さまがギャンブルにのめり込み散財、挙句に知人貴族の金を騙し取ることまでやってのけた。今の俺がこんなにステキな青年に育ったのは、心優しい両親のおかげかな。


 だからラグドール王国にも感謝してる。よく俺を雇ったもんだと思うよ? まぁ俺も二重に三重にいい子ちゃんの皮を被ってるしね。本当の自分なんか絶対に面に出すものか、苦労して手に入れた地位を意地でも守り抜いてやる。


 それにしても退屈だな、セナ様は今頃フカフカのベッドで夢でも見てるのだろうか?


 一度元の世界に戻ったセナ様が、またこっちに戻って来たときチャンスだと思った。他のメンバーは、グレン様や他の隊員の安否を心から心配していたけど、俺は手柄を立てることができるかも!って腹の中で思ったんだ。

 俺の代で必ず家を立て直してやる!っていう志しの第一歩だって。


 …… ところがだ。


 せっかく俺達が護衛してやるって言ってるのに「足手まとい」と一蹴されたよ? 確かに俺も「 何言ってんのコイツ?」って思ったけど、他のメンバーの顔を見て笑いそうになった。あんた達は今まで女性に言われたことないんだろうね? こんなセリフ。


 最初はフレデリック様が一緒だから強気なんだと勘違いしてた。だからちょっとくらい痛い目見ればいいって思っちゃってたし。…… ほんのちょっとだけだよ?


 そしたら強いんだもんな〜!

 異世界ってなに? 戦国時代なの?世界戦争でも勃発してんのかい? なんであんな細身の美女がサクサク魔物を倒せちゃうの?


 床に穴を空けてダンジョンを突っ切るという前代未聞の方法で、次々と階下へ降りまくったけど、俺達はガチで「足手まとい」だった。


 そりゃあもうただただ必死についてくだけ。

 騎士としてせめて一太刀くらい手助けしたいと思っても、セナ様には無駄な動きが全くないからね。下手に手を出せば巻き込まれる。間違って首チョンパなんてそんな死に方したくないし、邪魔をしないよう、遅れを取らないよう細心の注意を払うことしか出来なかった。


 階下へと降りるにつれて魔物はだんだん強くなっていったけど、それに合わせてセナ様の強さも増した。信じられる? 早送りでレベルアップ見てる感じ。

 俺だって騎士の端くれだからね、後半は降りるのにも慣れてきて、セナ様がどんな剣さばきで魔物を倒してるのか盗み見る余裕ができてたんだ。


 倒した魔物のドロップ剣をセナ様が蹴り上げたとき、剣先が俺にかすりそうになった。「 え?何すんの?」てビビッたけど、彼女は目の前の魔物にとどめを刺すと、振り向きざまにその剣を受け取めた。


 えっ? ウソでしょ?チョーカッコイイんだけど。まさか今のって計算なの? 俺の歩幅まで把握してるってこと?


 流石にそんな訳ないか、と思い直したのは間違いだったと直ぐに気付かされる。二刀流になったセナ様の動きは見ていて鳥肌が止まらなかった。連続技なんてもんじゃない。と言うか動きの半分も理解できてなかったかもしんない ……。


 フレデリック様との呼吸も完璧だったな。

 セナ様の足が速いか、フレデリック様の足場が速いか、少しでもタイミングを間違えば大怪我では済まされない。


 自分も剣士や武闘家としての才能があると思ってたけど、レベルの高い者同士の連携技は想像以上だった。あんな風に誰かと息ピッタリの動きが俺にも出来る日は来るのだろうか? いや来ない。…… 反語( 笑 )。← だいぶ眠いんだ、許してよ。


 そういや歌を歌ってたな。


 セナ様は魔物を倒しながら歌ってたんだよ。彼女の表情は悲しそうなのに、割と大きな声でなんか歌ってた。


 こえーよ。

 あなたの精神状態はどうなってるんです?


 無意識なのか分からないけど、異世界の子守唄なのかそれはそれは物哀しい音程で。あれは何? ゾーンに突入するとああなっちゃうの??

 仲間の一人はあの後あれを思い出して「 私はあの時セナ様に殺されても良いと思ってしまった 」と話してたけど。


 それ分かる〜、それって俺も思ったもん。


 なんかねぇ、状況が異常だった。剣を振るセナ様は本当に神々しいんだよね。悪魔に魅了される的な?


 そういえばあれはなんだったんだ?


 結構下層まで降りてきたとき、セナ様は魔物の姿を見て動けなくなった? ほんの一瞬だったしすぐにフレデリック様が対処してくれたけど、骸骨の魔物が襲ってきてから驚いたのか?


 そこら辺は女の子なんだな。


 そうそう、あん時な。かすり傷どころかザックリ斬られてた。フレデリック様からは死角になっていたんだろうな、あの骸骨兵の一振りは急所こそ避けれたが、セナ様の足をとらえてしまった。

 斬られた患部から流れる血は、セナ様が踵を返す度に容赦なく滴り落ちる。というかあんなに出血してるんだから、もっと気にしてよ。


 何故これほどまでに頑張れる?

 これが『勇者』と呼ばれる者なのか?

 そこまで危険を犯して急ぐ必要があるのか?

 …… もっと弱音を吐けば良いのに。


 そんなことばかりが俺の頭の中をグルグルと回っていた。


 このままグレン様と合流すれば、俺達は本当に何しに来たのか分からない。せめてダンジョンの戦利品として、宝箱や魔物のドロップ品を回収したかった。


 俺がそれを提案したのが間違いだった。

 セナ様は俺達だけでなく、あろうことかフレデリック様まで見限って、一人で先へと進んでしまった。


 その後はマジでつらかった。恐ろしいくらいの殺伐としたあの空気は今後二度と味わいたくないね。

 フレデリック様は俺達を無視して片っ端から床に穴を開けるし、その動揺っぷりも半端なくてさ。

 何度かあの美しい顔から聞くに耐えない暴言が放たれてたぜ?


 それに俺らが何を意見しても完全無視を決め込んでたね。正直感じ悪りぃっても思ったさ。

 俺達だってこんなに下層まで来て魔導師に置き去りにされたら死んじゃうじゃん。そりゃもう命懸けでついてったよ。ようやくセナ様を見つけることができた時にはもう涙が出ちゃった。


 そんでさぁ、セナ様もセナ様だよ。

 あれだけ超強気だったのに、再会したら腕から血を流してて「やっぱりフレデリックがいないとダメね?」って寂しそうに笑顔でさ。めっちゃ素直。めっちゃ可愛いの。


 あの言葉はすっげ〜 凹んだわ。

 なんだろ? 俺ら全く必要とされてないじゃん!ってね。完全に二人きりの世界だったよね?

 挙句に俺らは宝箱につられて罠に引っかかる始末だし。

「足手まとい」って大会があったらぶっちぎりで優勝できたんじゃない?


 そうだった。あの穴に落ちたからリュカを見つけれたんだ。確かに驚いたよ、同じ騎士の同期が冷たくなってたんだ。そりゃ俺だって半端なく動揺した。


 だけどセナ様の取り乱しようが凄すぎて逆に冷静になれたわ。あの時まではもっと冷たい人だと思っていたけど、見ていて痛々しいくらい狼狽してた。セナ様をここまで悲しませるリュカって凄くない? 逆に聞きたいよ、俺が最初から旅のメンバーだったなら、あんな風に心を乱してくれましたか?って。


 リュカが生き返ったときの( 死んでなかったけど )セナ様の笑顔は、悔しいけど俺の記憶から一生消えないだろうな。


 復活したリュカはセナ様を叱りっぱなしだった。

 …… ってかね?

 リュカは一回死んだせいか( だから死んでないって )少しばかりキャラが変わっていた。以前はもっと気位が高くて刺々しい感じだった。人前であれほど感情を出すなんて見たことがない。それにセナ様もかなりリュカには心を許してるみたいで、リュカから片時も離れなかった。

 男女の間柄とは全く違うけど、兄弟のように深い絆で結ばれているようだった。


 虫の魔物を怖がるセナ様にイタズラとか、まるっきし子供じみたことをして( 子供だけど )、呆れるほどグレン様に注意されてたな。


 なんだそれ、つまんねーの。お前だってずっと仮面被ってただろ? 自分だけすっきり爽やか生まれ変わっちゃってさ。


 そういや、あいつあんなこと言ってたな。

 ジャングルを抜けてセナ様が目隠しを取ったとき、俺は彼女の据わった目を見て思わず「 やばい!暴走するぞ!?」と口走った。


 案の定セナ様は憂さ晴らしをするかのように突っ走った。その後フレデリック様にガミガミと怒られてて皆が笑ってたけど、リュカは俺を見て口を尖らせた。


 何だよ?と睨み返すと露骨に不満気で「 なぜ暴走すると分かったのです?」と質問された。「 何となくだがどうしてだ?」と答えるとリュカは「 私よりセナ様の事が分かるなんて、面白くありませんね。」と可愛いことを言ってプイッとそっぽを向いた。


 あれはダメだね。何その独占欲、お兄さんちょっぴりキュンとしちゃったじゃないの。セナ様はこれにやられたんだろうか?


 あ〜あ、俺もみんなみたいに地で生きられたらなぁ。ほんとは今夜の宴だってもっと酒を飲みたかったし、今だって何で護衛なんてしてるんだろって泣きたくなっちまう。


  でもさー……。

「 一緒に来てくれて良かった 」って言ってくれたんですよねー。


 セナ様の口添えがあったことで、無許可でダンジョンへ行ったこともお咎め無しになったし、それどころか未開拓ダンジョンへの報告報酬や、少しばかり後ろめたいけど、グレン様やリュカの手に入れた宝箱などの換金も山分けできるらしい。


 何もかもが良い方向へ進んでるのを感じる!

 このまま突き進めば御家復興は近いかもしれない!!


 え〜!なになに? やめてやめて〜!?…… 今いい気分なんだから邪魔しないでよ〜。


 不快な感覚に目を開けると、そこには俺の顔を覗き込み、頬をツンツンしているセナ様の姿があった。


 …… うっそ、俺ってもしかして寝ちゃってた!?




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