↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ライフは美しい!  作者: 清水悠


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

98/174

98【グレンの乙女心⑥後編】

いつも読んでいただきありがとうございます!


今回でグレン編は終了です!


えーと、抑えたつもりではありますが

割と血の表現とか過激な描写がございます。

苦手な方はお控えください。


どうぞご覧ください!

 …… 何かがおかしい。


 頭の片隅でそう感じつつも、繰り返しその柔らかな唇に重ね合わせることを、私は止めることができない。むせ返るような花の香りが辺り一面に充満していた。


 彼女の背中に腕を回し身体ごと強く引き寄せる。細くしなやかなその背筋を確かめるように掌でなぞると、彼女の小さな唇から甘い吐息が漏れた。

 ゾクリとするその声をもう一度耳にしたい気持ちと、その吐息までも逃したくない複雑な感情が、更に興奮を高め再び唇を塞いだ。


 頭の角度を変える度に、彼女の髪が自分の頬に掛かる。私はその髪に指を通し何度も撫でた。

 先ほどのゆるゆると巻いた宴用の髪型も悪くないが、自分はやはりこのサラサラで真っ直ぐなストレートのほうが好ましい。


 ずっとこの刻が続けばと思えたが、ふいに彼女は唇を離すと、私の肩口へ小さな頭を俯いて、代わりに私の背中に回す腕に力を込めた。当然私もそれに応え彼女を強く抱き締める。

 二人の距離は一分の隙間もなく互いに抱き合った。


 自分の想いがようやく彼女へと届いたのか、そして彼女もまた自分と同じ想いなのか。

 それとも相手などたまたま通りかかった者なら誰でも良かったのか。一瞬そんなことが頭をよぎるが、今はどうでもよかった。

 夢ではあるまいかと腕に力を入れると、彼女は切ない声を上げる。


 ダメだ、そんな声で私を煽らないでくれ。


 完全に自制が効かなくなる。彼女の着衣は薄い布地のワンピースを身にまとってるのみで、その感触から下着などつけていないことが感じ取れた。


 いや、こうなれば自制する必要など無いのか?…… というか、いったいどれだけの時間この姿でここに居たのだろうか?


 いくら暖かくなってきたとはいえ、深夜にこの薄着はそぐわず、彼女の身体は完全に冷え切っていた。離れがたい気持ちはあるが彼女の身体の方が大事だ。まずは自分の上着を彼女に着せてやろうと私は体を起こした。


 そのとき掴んだ彼女の手がぬるりとすべる。なぜ濡れている?の疑問と同時に、その手からは不快な鉄錆の匂いがした。


「 セ … ナ…… ?」


 これは血の匂いじゃないのか? 彼女の表情を確認したいが、この暗闇の中では相変わらず黒い影が見えるだけだ。

 相手も自分を見てることは分かるが、その影はぽっかりと穴があるようにひたすら影であり、感情が読み取れない。


 私は呪文を唱え小さな炎を灯した。


 明かりの前に浮かび上がったのは、紛れもなくセナだった。しかしその様子には目を見張るものがある。彼女の全身は血で赤く染まっていて、手のひらから手首にかけておびただしい傷があり、そこからポタリポタリと血が流れていた。


「 …… ケガを …… してるのか!?」


 相手は血まみれなのだ、間抜けな質問だということは分かっている。しかし彼女自身が穏やかな笑みを浮かべたままなので、痛くはないのかと錯覚してしまう。


 私の質問に彼女はゆっくりとその視線を自分の手へと移すと、そのまま私の手ごと絡めた手を自分の口元へと運んだ。


「 フフッ …… あなたの手も汚れちゃうわね …… 。」


 セナは私の手に優しいキスをすると、小さな可愛らしい舌を出し舐め上げていく。指から伝わる彼女の唇や舌の感覚にクラリと目眩がする。

 いけないと分かっていても人差し指を彼女の口の中へと入れると、彼女は抵抗なくヌルヌルと舌を這わした。


 もう何がなんだか分からない。この花と血の混ざる異常とも呼べる状況に、もはや冷静な判断が出来なくなっていた。


 彼女の首筋から耳元へ顎のラインをなぞると、セナはその手に自分の頬を擦り付けて嬉しそうに笑みを浮かべる。その笑顔は心からの笑顔であり、先ほどの宴で見せていた作り笑いとは次元が違うほど美しかった。


 彼女の口から指を抜き、顎を上げさせると再び自分の唇を彼女に重ねた。血でずるりとする感覚とキスの感覚、そして辺りに散らばる花の香りで、頭がおかしくなりそうだった。


 何度も唇を重ね、そのキスを彼女の首筋へ、そして胸元へと降りたとき、頭上で彼女がクスリと笑った。


「 この炎はあんまり好きじゃない ……。 」


 その言葉を合図に私の赤い炎がフッと消える。

 一瞬の暗闇後、周囲にポツリポツリと淡い水色の炎が灯り始めた。


「 ホラ …… なんて綺麗 ……。」


 顔を上げると、彼女は恍惚とした笑みを浮かべてその炎を眺めている。私と視線を合わせると口角を上げた。


「 …… ね? あなたもそう思うでしょう??」


 彼女はうっとりと首を傾ける。


 そこで漸く私は思考回路の混乱を戻すよう努めた。目の前の女性に疑問が芽生える、彼女はこんな自信に溢れた笑い方をするような女性だっただろうか。


 私は炎を消してなどいない、それにこの蒼い炎を出したのは誰なのだ? 異世界人は魔法を使えない、ありえない状況に喉がカラカラに乾いていった。


「 この炎はお前が灯したのか?」


 彼女はクスクスと可笑しそうに笑い続けるだけで、質問には答えない。


「 セナ!! …… お前がやったのか!? 」


 私が少し強めな口調に変わると、彼女の顔から笑みが消えた。


「 なぜ私をその名前で呼ぶの?」


「 何故って …… お前はセナなのだろう?…… 違うのか??」


 彼女は表情を変えず、私から離れて裸足のままベンチを下りた。近くの薔薇を無造作に引きちぎると、それの香りを確かめながら私を振り返った。


 あぁ、あの傷は薔薇を折る時にできた傷なのか ……。


 頭の中で妙に納得する。これだけ大量の花を素手で摘めば、その手は悲惨なことになる。足下でひしゃげている薔薇を拾い上げようとすると、それがフワリと浮かび上がった。


 目の前に信じられない光景が広がる。浮かんだのはその花だけでなく、辺り一面の薔薇が彼女を取り囲むように宙に浮いていた。


 一体、どれだけの花を引きちぎったのだ?


 問題はそこではないのだが、その量の多さに彼女の闇がシンクロする。


「 私はそんな名前じゃない。」


 …… セナじゃない?


 では誰なのだと彼女を見返すと、その女性は慈しむように薔薇に頬を寄せる。枝の鋭い棘が彼女の美しい顔に傷を作ると、彼女は頬に触れ手についた血を眺めて微笑んだ。


 確信に近い、彼女はセナではない。

 何がどうなってる? どこから見てもセナにしか見えないその女性は、セナではないと思わざるを得ないほど毒気を帯びた笑顔を向ける。


「 お前は …… 誰なのだ!? なぜセナの姿を真似する!? 」


 瞬間、薔薇がバッと散らばった。

 切り離された枝がボタボタと床へ落とされ、数千の花弁だけが一枚一枚浮いたままになり、それはまるで美しい静止画のようだった。


 視界が花びらのカーテンで遮られ、彼女の姿がよく見えない。唯一はっきりと確認できるその足が一歩ずつ私の方へと向かって来た。


 これほど複雑な魔法を使えるのだから、この者はセナとは別人だ。そう思っても花弁の中から現れた彼女を拒むことができない。


 彼女は私の頬に手を添えてキスをする。その体を引き寄せたくて手を伸ばすと、彼女はそれを制した。

 何とも哀しげな表情で私を見つめる。


「 私はアシュレイ …… この国の女王 ……。」


 この言葉を引き金に花びらが嵐のように渦を巻きはじめ、彼女はその渦の中へ一歩ずつ下がりはじめた。


 ……… 忘れないで ………。


 そう言ったような気がした。

 だんだんと蒼い炎が小さくなっていく。


「 待ってくれッ!! 行くなッ!! 」


 嵐のような渦はその声に反応したかのように、ピタリと動きを止め、そして辺りに静寂が訪れる。


 手を伸ばし花びらに触れると、ファサリとそれらは床へと落ちた。そして蒼い炎が完全に消え真っ暗になる。


 呪文を唱え明かりを灯す。


 分かっていたことだが、そこにはもう彼女の姿はなかった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「 グレン様! 交代なさるおつもりですか?」


 私の姿を見てリュカが小声で駆け寄る。


「 何があったのですッ!? 」


 私の姿を近くで見てリュカの顔色が変わる。


「 騒ぐな、これは私の血ではない。…… 確認したい事がある。」


 セナの部屋のドアノブに手を掛けると、リュカに止められた。


「 何事です!? いくらグレン様でも就寝中の女性の部屋へ立ち入るのは ……。」


 私は構わず扉を開いた。

 部屋の中は静まり返っている。


「 テラスに誰かいないか見てきてくれ。」


 リュカは私が部屋へ入ったことに戸惑っていたが、その言葉で表情を引き締め頷いた。


 迷わずベッドへと近づく。

 ベッドの脇にある夜光石が薄く光っているため、人が眠っている形は薄らと確認出来る。本日何度目かの呪文を唱え辺りを明るくすると、確かにそこにはセナが眠っていた。


 彼女は眠りが深いのか部屋に灯りがついても穏やかな寝息を立てている。シーツからはみ出る手を持ち上げると念入りに調べた。傷ひとつないキレイな細い指だ。

 それから彼女の頬を確認するが、やはりそこにも薔薇の棘で切った跡など見当たらなかった。


 躊躇わずにシーツを下げ、彼女の寝衣も確認するがやはりそこにも血痕はなく、呼吸により上下運動を繰り返すのみだった。


 そうだ、あの時に付けた跡は?


 鎖骨よりもっと下のほう。私はそれを確認するため、寝衣の首回りの紐を解こうと手をかけた。


「 …… おやめください。」


 静かな声と共に首筋に剣が当てられる。

 セナから手を離し振り向くと、リュカが口に人差し指を立て、無言で部屋の外へ出ろと合図をした。


 ち、違うんだリュカ!おかしな誤解をしないでくれ!!


 慌ててシーツを元に戻し、灯りを消して部屋から出る。扉を閉めると、リュカは廊下の反対側に寄りかかり腕を組んでいる。


「 ご説明下さい。テラスは施錠され不審な者はおりませんでした。…… 事と次第によっては、いくらグレン様でも許しませんよ?」


 彼からこんな蔑んだ目で睨まれるのは初めてだ。


「 事、この部屋の下の庭園が何者かに荒らされた。次第、その何者かが忽然と姿を消したので、セナの安否を確認に来た。これで納得か?」


 こちらは酒の匂いを撒き散らしているのだ、酔っ払いの珍行動だとでも思っているのかもしれない。だからといって、自分の身に起きたことを事細かに相手に説明するわけにもいかない。


 リュカはしばらくの間何かを考え込んでいたが、

 やがて長い溜息を吐くと、意外なことを言った。


「 その何者かとは、セナ様に見た目がそっくりな女性のことですね?」


「 彼女を知ってるのかッ!? 」


 驚いた。私が知らなかっただけで元々この城に滞在している者なのだろうか?もしくはあれだけの魔法を使えるのだから城に仕える魔導師なのだろうか?

 だけどリュカは首を横に振った。


「 知ってると言いますか、私も一度グレン様と共に見ております。あの時はセナ様をよく知りませんでしたから、セナ様ご本人だと思いましたが、今考えるとどことなく雰囲気が違うような気がします。」


 なんだそうなのか。私はリュカの推察に落胆を隠せなかった。一瞬でもあの女性の素性が分かるのかと思ってからの落差は大きかった。


「 あぁ、あの者はセナとは別人だ。庭にいた女性は魔法を使えるからな。」


「 魔法を!? それなのにここへ確認しに来られたということは、余程似ておられたのですね。」


 そうだな……。と私はうなだれ寄りかかった壁からずるずるとしゃがみ込む。

 宴のために整えた髪をクシャクシャにする。


「 似てるなんてものじゃない …… 正直もう訳が分からない ……。」


 たとえセナが双子であったとしても、異世界から召喚されたのはセナだけだ。ああそうか、異世界の者は魔法が使えない。では何者かがそっくりに化けていたのか? いつかのフレデリックの魔法のように? だとすれは目的は何なのだ? 何の為にこんな事をする必要がある??


「 グレン様その血は何です?…… まさかその女性を斬りつけたのですか?」


 あぁこれは ……と薔薇の事をリュカに説明した。


「 なんてことを。枯れた花まで慈しむセナ様とは大違いです。…… なるほど、それでそうなんですね。」


「 …… そうとは何だ?」


「 えっ! いえ、あの …… ご自分でお顔をご覧になった方が良いかと思います。」


 リュカは顔を赤らめ視線を私から逸らした。顔を見る?? 私はもう一度部屋の中へ忍び込み洗面所へと向かった。


 小さな明かりで鏡を見ると、頬や口にあの女性の指跡が血で残されている。彼女との逢瀬を思い出し指でなぞるが、すぐにブルブルと首を振り洗い流した。


 廊下へ出ると交代の隊員が到着していた。

 リュカが現場である庭園を見たいと言ったので、二人でもう一度あの場所を訪れる。


「 これは想像以上の狂気ですね。」


 痛々しい現場は先ほどと変わりない状態で静けさを保っている。至るところに残された血痕が凄惨さを物語っていた。


 リュカが魔法で全ての血痕を回収し、これで良し!と頷いて私を見る。


「 この事は我々の内密に致しましょう、下手に衛兵に話してもセナ様が犯人扱いされるだけです。」


 リュカの言うことも最もだった。

 朝になれば騒ぎになるだろうが、私は最短距離でセナの元へ駆けつけた上に、彼女は魔法が使えない。あの女性とセナが同一人物じゃないことは私が一番よく分かっている。…… どれだけ二人が似ていても、別々の感情を持った者達なのだ。


「 人目につかぬよう戻りましょう。」


 名残惜しげにその場から動けずにいる私を、リュカはそっと気遣った。


 …… 彼女は名前を名乗った、そしてそのあと恐ろしい事を口にしていた。


『 私はアシュレイ この国の女王 』


 この国に女王は存在しない。現国王とその継承者である皇太子殿下……。アシュレイという名の姫君など聞いたことがない。


 私はゆっくりと首を振ってその場を後にした。

最後まで読んでいただきありがとうございます!


いや〜 …… 疲れました。

今回は苦手な描写が多すぎて精神力が削がれました。


次回は気楽なお話にしましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。