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異世界ライフは美しい!  作者: 清水悠


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95【温冷の表裏一体】

 グレンの視線がパトリックで止まったのを見て、私は慌てて間に入った。


「 彼がロウの手紙を運んでくれるパトリックさんなの!絶対に攻撃しないからその手を離して? 」


 さすが騎士と言うべきか、魔物を見た途端二人とも剣に手をかけている。


「 ほう、これはこれはようこそと歓迎すべきかな?」


 私は真っ直ぐにパトリックを目指すグレンの前に立ちはだかり、彼の行手を遮った。


「 セナ、どいてくれないか?」


 私は首を横に振った。

 言い方は穏やかだけど、グレンをまとってる空気は全然穏やかじゃない。さっきまで一緒にいた人とは別人のように殺気立っている。


 私とグレンは数秒間、お互いから視線を外さなかった。背中に嫌な汗が流れる、根拠はないけど私を信じて欲しい。


「 …… 分かったよ、ひとまず話を聞こう。」


 良かった。グレンはいつもの彼に戻り、テーブルから椅子を引っ張ると、パトリックから距離を置いてドカッと座った。


 それでも一触即発の状況には変わりない。グレンとパトリックが何を話すか心配で私も同席すると、フレデリックは信じられないといった顔で私を見た。


 リュカは座らずグレンの背後に控える。

 彼の表情も氷のように冷たく、本当に十代かと思えるほどピリッとした空気をまとっていた。


「 パトリックだったな、私はラグドールの騎士でグレンだ、セナの護衛をしている。だからお前が勝手に彼女とコンタクトを取っている事に少なからず不満があるわけだが …… 聞いてるのか?」


「 大丈夫!聞いてる、聞いている。彼は大体こんな感じだから続けて?」


「 この魔物にいくつか尋ねたいことがあるのだが …… フレデリック。」


 グレンが話の矛先をフレデリックに向けると、少し頬を膨らませてたフレデリックは美形に戻り頷いた。


「 彼は転移の方法も、屋敷の場所も知らないようです。やり方から察するに、恐らくロウという者に往復転移を掛けられてるようです。」


「 往復転移か? そうか、それなら魔力の低い者でも転移が可能だな。 …… 標は何なのだ? 」


「 それもパトリックは分からないようです。毎回手紙を配達する度に主人に飛ばされてるようです。」


「 しかしたとえ往復転移だとしても、この城の結界を突破できる理由が分からない。それに往復転移なら必ずこちらにも標があるはずだ。…… ロウという男については?」


「 それも主人であるの一点張りで、本当の名も何者であるかの詳細までは分からないようです。」


「 まぁ当然そう答えるだろうな。」


 口調から察するに、グレンはパトリックの言葉を全く信用していない。それはそうかもしれない、

 国の騎士が魔物の言葉をあっさりと信じてしまってどうにもならない。


 もちろん今までのパトリックの態度だって、全部演技だという可能性もある。でもそんなこといちいち疑ってたら、この世界を楽しむことができないと、以前は思っていた。


 他にもフレデリックは、自分がパトリックから聞き出したことをグレンに伝える。どれも私が知っている事ばかりで、目新しい情報は特になかった。


「 殆ど収穫なしだな、いっそこのまま衛兵に引渡したいところだが ……。」


 グレンはそう言いながら私の顔を伺う。私が首を横に振るのを見て深い溜息を吐いた。私の立場も考えてくれ、と困り顔で腕を組む。


「 なんでそんなにロウ様の事を知りたいのでしか?」


 ここにきて漸くパトリックがグレンに話しかけた。何だか知らないけど、私までドキリとしてしまう。グレンが無言で彼を見返すと、パトリックは首を捻ってどこまでも空気の読めない提案をする。


「 ロウ様はとても人気なんでしね 〜!だったら会いに行けばいいのでしよ。」


 相変わらずグレンは無言のままだ。パトリックの子供みたいな物言いに驚いてるのか、もしくはその内容の真偽を読んでいるのか判断ができない。

 ヒリつくような沈黙はフレデリックが破ってくれた。


「 会いに行くとは、私達もお屋敷へ行っても良いのですか?」


「 モチロンでし! きっとたくさんの人が来てロウ様も喜ぶでし。」


 そう言ってパトリックは勢いよく立ち上がる。パトリックは思い立ったら即行動がモットーだ。それを知らないみんなは驚いて同時に立ち上がった。


 グレンとリュカが剣を構えるのは予想できたけど、フレデリックも黒手袋を装着した手を前に出している。部屋の奥ではサラもターニャを庇って蹲っていた。


 改めて実感する、この世界で魔物というのはこんなに警戒すべき相手なのね。私は自分のガードの緩さを少し反省した。


「 どうしたのでし? 行かないのでしか?」


 パトリックはキョトンとして、場違いな言葉を続ける。みんなが彼を怖がってるとは全然気付いてないようだ。


「 ねぇパトリックさん? そもそも今日はここへ何しに来たの?」


 私の質問にパトリックは首を傾げた。

 そしてハッとする。


「 ロウ様の手紙を持ってきたのでしよ!昨日はアクシデントで渡せなかったでしから。」


「 それでその手紙は?」


 私が手を伸ばすと、彼は自分の手に手紙がないことに気がつき、それから足下やベッドの方をウロウロと探し出した。ひどく動揺していて、だんだん見ていて可哀想になってくる。


「 その手紙って多分これよね? 昨日サラの部屋に落ちてたわよ?」


 手紙をテーブルに置くと、パトリックは「あるなら早く出しでしよ!」とプリプリと怒りまたテーブルへちょこんと座った。その様子を見てターニャがクスクスと笑い出す。


「 返事は書いたでしか?」


「 まだ、ちょっと待ってね、いま準備するから。」


 紙とペンの用意で立ち上がろうとすると、すかさずリュカがテーブルにそれをスッと差し出す。

 今までと違ってずいぶん上質な紙に向かうと、私はペンを手に取りみんなを眺めた。


「 さぁ、何を書く?」


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 パトリックは封蝋した手紙を受け取ると、私の顔をジッと見た。


「 どうしたの?」


「 ちゃんと約束守ったでしよ?」


「 約束?? 」


「 仲間に攻撃するなって言ってたでし。」


 パトリックは褒めて欲しそうに胸を張った。


「 そう…… だったわね。…… ありがとう、これからもそうして下さい。」


 そう言い終える前にパトリックの姿は消えた。


「 オイッ!なぜパトリックを返したのだ!? 」


 グレンの大きな声に飛び上がった。別に私が返したわけではない、パトリックはいつだって唐突なのよ。


「 せっかく奴らの屋敷へ行くチャンスだったのに!」


「 えっ!? 今から行くつもりだったの!? 」


「 当たり前だッ!」


 … それならそうと事前に言ってくれないと!

 … あの流れなら当然行くに決まってるだろッ!!

 … そんなの言われないと分かんないわよ!

 … 空気を読め!大体なんだあのとぼけた奴は!!


 私とグレンがヤーヤー言い合いしていると、リュカがそれを制した。


「 今更騒いでも仕方ありません。セナ様、パトリックの事はこれから国王様に報告致します。また次回魔物の屋敷へ行ける機会がありましたら、我々はそのチャンスを逃したくありません。今後はその事を念頭において話を進めるようにして下さい。」


 一息で簡潔にその場を締め、リュカはグレンに「 行きましょう 」と告げると、さっさと部屋から出て行ってしまった。


「 私よりアイツのほうが団長に向いてるかもな。」


 グレンはボソリとそう呟いて、部屋から出て行った。入れ替わりに宮廷魔導師が部屋へ訪ねてきて、フレデリックが呼び出される。どうやら溜まっている仕事の処理の催促に来たらしい。


 フレデリックは部屋を出るときにふと扉の前で立ち止まる。


「 今夜のドレスの色は決まりましたか?」


「 えっ? ええ、水色と若草色の中間色だけど?」


「 良い色ですね、それは楽しみです。」


 本当はもう一つの色を着てみたかったけど、最終的には『勇者』として比較的好ましい色を選んだ。


 部屋から男性陣がいなくなると、ターニャが温かい紅茶を入れてくれて、ひとまず三人で落ち着く。

 時刻は18時手前、宴は20時からなので準備を考えるとそうのんびりもしていられない。


 普通に接しているように見えたけど、やはりターニャ達はパトリックがとても怖かったらしく、言葉が通じても、人と魔物との間には深い溝があるようだ。仲良くしてほしいと思うことは、おかしいことなのだろうか?


 私の感覚では、魔法を扱うこの世界の人達だって充分亜種だ。


「 さっきのグレンはちょっと怖かったわよね。」


 顔があれだけ綺麗で殺気を出されると、見惚れていいのか震えていいのか感情のコントロールが難しい。


「 あれが本来のグレン様のお姿ですわ。」


 ターニャの以外な言葉にサラも頷く。


「 そうですわね。グレン様は騎士団の中でも群を抜いて人気ではございますが、人当たりの良さと同時に、その冷酷さも評判でございますもの。」


「 えッ!? そうなの?? 」


「 ええ、悪事を働く者はグレン様に捕まるくらいなら、自害したほうがマシと言う者もいると聞いたことがありますわ。」


 セナ様の前では優しいお姿ばかりでしたし、敢えて言うことではないと思っていましたの。と首を傾けた。


 それに …… とサラは付け加える。


「 グレン様は割と来る者拒まずで、基本女性からのお付き合いを申し込まれた場合お断りしません。ですが、心から愛された女性は一人もいないのではと噂されておりますわ。」


「 なにそれ、ひどくない??」


 えぇ、とサラが笑うとターニャは目をキラキラさせた。


「 だからこそですわ!我こそはとグレン様にチャレンジする者が後を絶たないのは!噂によりますと、実際お付き合いした方は、どんどん心が壊れてしまい、自ら別れを切り出してしまうそうですわ。」


 正に魔性の男ですのッ!とターニャは嬉しそうだ。彼女は『 魔性の男 』の意味が分かってるのだろうか? 私はよく分からない。


「 どうして壊れるの?? 」


 それは ……。と二人は顔を見合わせた。私達はグレン様とお付き合いした事がございませんので ……と苦笑い。


 もぅ!肝心なところは何も分からないんじゃない!噂噂で何が真実なのやら。


「 そんなグレン様が、前回の宴では初めて女性のお誘いを断ったのです。今回はどうなるかとても注目されてますのよ? セナ様。」


「 どうなるって何が?」


 二人がシシシと笑みを浮かべたから、私は何となく察して話を逸らそうと立ち上がった。


「 さぁっ、そろそろお風呂入って宴の準備に入るわよッ!! 」


 もう!この二人はすぐに身近な人で遊ぼうとするんだから!ないない!私はそんな事なんてなぁんにも無いの!!それよりも腕が鳴るわ、今夜は二人ともとびきり綺麗にしてあげるからね!!

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