94【フレデリック VS パトリック】
「 私達のことは気にするな …… 続けてくれ。」
グリフォンは顔をキリリとさせてそう言った。
フレデリックを見上げると、彼は片手で目元を覆っている。
変なところを見られて恥ずかしいのかしら?
というかフレデリックの疑問ももっともよね。なぜ彼らがこの部屋にいるのだろう?
「 パトリックはいいとして、あなたは門番はいいの?? 」
グリフォンにそう尋ねると、彼は金色の羽根をフワリとさせる。
「 お前達がダンジョンを脱出したあと、そこの者が入口の村に囲いを作ったであろう? …… それで新たな侵入者が来なくなったのだ。」
で、暇だから出て来たってこと?けっこう自由なのね。
「 それで何でここへ?」
「 まぁそう言うな。お前は面白そうな人間だったから興味が湧いたのだ。」
それって褒め言葉? 面白そうといわれても素直に喜べない。
「 どうだ? 娘よ、私と契約を結ばぬか?」
「 契約って …… 何の契約?」
私が今までの人生で結んだことのある契約は、自宅のマンションと、式場に訪れたお客様との契約だ。あと携帯とか?
「 ほう、何も知らぬのだな。おい!そこの … 娘に説明してやるのだ。」
グリフォンに顔を向けられると、フレデリックはシャンと背筋を伸ばしメガネを直した。
「 かしこまりましたグリフォン様 …… 僭越ながら、聖獣との契約とは主従関係を結ぶことにより、聖獣を自分の従者として使役する事ができます。代わりに契約者は聖獣に望むものを差し出さなくてはなりません。」
「 …… 待て待て! もう少し簡単に …… 小娘を見てみろ!あの顔は全く意味理解できてない時の顔だ。」
「 セナ!口を閉じなさい!…… つまり命を守ってくれる代わりに、何かを差し出すということです。」
「 いらなーい。」
「「「 なっ!? 」」」
私の即答に部屋にいる全員が声を上げた。
えっー? だってやじゃない? そんなの。悪魔と契約するみたいじゃない。
「 セ、セナッ!! 聖獣と契約が結べる事は大変誉れな事ですッ!ここは絶対にお受けするべきです!!」
「 バカでしね ー。」
えー? パトリックにバカって言われた。見るとグリフィンはプライドが傷ついたのか、ワナワナと震えていて羽が広がっている。
受けたほうがいいの? んーでも私に差し出せるものなんて何にも無いからなぁ。
「 だって使役って事は、私が命令したら代わりに戦うってことでしょう? そんなの彼が可哀想じゃない。 」
生き物を道具みたいに扱うなんて、絶対に嫌だもの。
「 セナ、それは誤解です!… いや代わりに戦うという事はあってるのですが、聖獣とはそういった生き物ですから可哀想という次元の話ではないのです!」
フレデリックがオロオロとしている。
「 い、いいだろう。やはりお前は面白い!…… 気が変わって契約したくなればいつでも我を呼ぶがよい。私はお前が願えば何処へでも向かおう。」
ではさらばッ!! とグリフォンは金色の粉をキラキラさせてその場から消え去った。
あっという間に居なくなったわね、なんかいちいち台詞めいててカッコいい。
ふとフレデリックを見ると、彼は小さくしゃがみこんで、また両手で顔を覆っている。そんなに私が契約しなかったのがいけないのかしら?てゆうかね?メガネかけたままでそれやると、まつ毛がレンズにつかないのかしら。
「 はー!もったいないことしたでしねー!聖獣と契約できたらみんなに自慢できるでし!」
自慢ってそんな、ペットはアクセサリーじゃないんだから。
「 妻と子供も喜ぶでしよ!」
「 へっ? パトリックさんて結婚してるの!? 」
衝撃だわッ!そしてなんかショックだわ。私ですらしてないのに!?くぅぅ、何気にこの世界来て一番ショックな出来事かもしんない。
そんな会話をしていると、明るい笑い声と共に部屋にサラとターニャが入ってきた。
二人がパトリックを見て「 あー!! 」と声を上げると、パトリックは慌ててベッドに正座した。
するとサラは、おずおずとパトリックに近寄った。
「 パトリックさんでございますわね? 昨夜は大きな声を出してしまい、申し訳ございません。」
そう言って丁寧に自己紹介する。パトリックがぺこぺこと頭を下げる姿を見て安心したのか、ターニャもそれにならった。
「 セナ様、フレデリック様はどうなさりましたの?何だかいつも以上に呆けてらっしゃいますわよ?」
「 んー、とりあえずそのまま放っといていいと思う。」
小さな声で言ったつもりだけど、聞こえたのかフレデリックは私を恨めしそうに睨んだ。彼は溜息をつきながら体を起こすと「セナは聖獣の凄さを理解していないのですよ…。」とブツブツと文句を呟いている。
「 そうですわセナ様! 今夜は宴が開かれるそうです!お召し物はどれになさいますか?」
ターニャは魔法で次々とドレスを出してくる。淡い色から彩度の高い物まで実に色とりどりだ。
「 また宴? 今度はダンジョン脱出のお祝いとか?」
「 それもありますが、騎士様や魔導師様のご親族様が、彼らの無事を聞きつけて続々と城へと訪れてますの。それに考古学財団の方達もおいでになっておりますから、その方達との親睦の意味も兼ねてるのかもしれませんわね。」
そっかぁ …… そうね、ひとつ間違えると命を落としかねない状況だったのだ、家族が心配して当たり前なのかもしれない。
「 ねぇ、今夜の宴って出ないとまずいかしら?」
私の一言にサラが眉をひそめる。
「 宴の参加は自由でございますから、どちらでも構いませんが ……。」
「 えー!!こんなに素敵なドレスをご用意致しましたのよ!セナ様出ましょうよー!! 」
サラの困った顔と、ターニャの不満顔に押されて
それ以上強くは言えなかった。
「 ごめんごめん…いいの、ちょっと思っただけ! 疲れてるのかな? 出るわ、大丈夫!出るから。」
それを聞いたターニャは「 わーい!」と両手を挙げた。
「 …… セナ、あの魔物に少し質問をしたいのですが。」
聖獣ショックから立ち直ったフレデリックが、コソコソと耳打ちしてくる。 別に私に許可取らなくても、勝手に話せばいいのに。
まぁフレデリックは人見知りだからね。
仕方がないので私はパトリックを呼ぶとテーブルに座らせ、フレデリックと対面させた。
「 フレデリック、こちらがパトリックさん。パトリックさん、こちらがフレデリックです。」
あとはお二人でどうぞ、と笑顔でその場から離れようとすると、フレデリックはガタガタと立ち上がって、私の腕を掴んだ。
「 ど、どこにいくのです!ここにいて下さいッ!! 」
「 なんでよ!? パトリックは良い人よ? 二人で話せばいいじゃない。 」
「 あなたがいないと会話が続きませんッ!!」
「 そこは大人なんだからしっかりしなさいよッ!! 」
そこでフレデリックはハッと真顔をなった。
「 もしやダンジョンでの事をバラしたのを根に持っているのですか!?そうですね?そうなのですね!? 」
やだフレデリックったら!察しがいいじゃない。正にその通りよフレデリックッ!私を笑い者にした罪は重いのよ!
「 オホホ、私は宴の準備がありますの。」
ガタガタと青ざめるフレデリックの背後で、ターニャがテーブルに寄りかかり興味深そうにパトリックを眺めている。彼女はパカっとピースサインを作って、その指をパトリックの目に刺そうとしていた。
「 ターニャッ! おいたしちゃいけませんッ!! 」
私は大きな声で叱咤すると、今度は小声でフレデリックに言った。
「 ホラね、分別のつかない子供もいるんだから、大人のちゃんとした姿を見せてあげて?」
私はターニャの肩を掴んで、サラの所へと連れて行った。途中フレデリックに目で合図する。
彼はしばらくたたずんでいたけど、やがて今日何度目かの長い溜息と共に、おずおずとパトリックと向かい合った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「 じゃあドレスはコレに決まりね!それなら髪型は緩く巻いて片方に流すわ? アクセサリーは …… こっちの方が似合いそうね!」
これで今夜の宴のコーディネートは完璧だろう、私は三人分のドレスを並べると満足気に頷いた。
「 セナ様?フレデリック様は大丈夫でございますか?」
そう言えばあの二人はどうなったのだろう?
時々聞こえてくる感じだと、一応会話はしているみたいだけど 。私達三人は部屋のパーティションからそっと二人の様子を伺った。
「 そうなんでしか?」
「 ええ、まぁ。」
「 それは大変でしたでし。そんなわがまま娘、森に放っておけば良かったんでしよ。」
「 まったくです。」
「 しかし態度はあんなにデカイのに虫が怖いとは!…… 実におかしいでしね!」
オイッ!何の話をしている!!フレデリックは反省の色が足りないようね、ちょっととっちめてやんないと!そう思って腕まくりをしていると、ガヤガヤと部屋への扉が大きく開いた。
「 いやー! 奴ら明日も聞きたいって言ってたぞ !? 同じことを何度も何度ももううんざりだ! 」
「 もう話せる事なんてありませんよ! だいたい私は途中からの記憶が殆どないのですよ?」
「 私だってそうだ!竜族との戦いを細かく話せと言われてもなぁ …… 何だ?」
グレンとリュカは、部屋の中を眺めてピタリと黙り込んだ。彼らの目に仲良さげにテーブルを囲むフレデリックとパトリックはどう写ったのだろう。




