93【新たな訪問者】
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「 それではいただきましょう!」
私が席に着くのを見届けると、リュカが全員にそう声をかけた。それぞれが目の前の美味しそうな料理を口に運びだす。
「 セナ、食べないのか?」
グレンに促され私は一旦フォークに手をかける。だけどそれから手を離し思い切って口を開いた。
「 謝罪の言葉ならいらないぞ?」
言おうとしたことを直前で遮ぎられ、言葉に詰まる私を見てグレンは笑った。
「 結果的には助けられたしな!」
「 ですね!セナ様が戻られなかったら、今ごろ私はここにいなかったかもしれません。」
リュカもお肉を口に運びながら頷く。
「 むしろ …… ダンジョンでの単独行動を謝るべきではありませんか?」
そこは今更蒸し返さなくていいのに、フレデリックはあの日の出来事を細かくリュカに説明し出した。
「 まぁ!セナ様!!そんな危険なことをなさいましたの!? 」
ちょっとサラ、そんなに怒らないで?
ついでにフレデリックは調子に乗って門番のなぞなぞの事までバラし始めた。
「 聖獣相手に何やってる!あり得ないだろ!! ほんっとにお前は規格外だな。」
私のことはもういいからみんな食べようよ。料理というものは作り立てが美味しいのよ? こんな無駄話してたら冷めちゃうじゃない。
「 それで結局セナ様はダンジョンの中で、魔物を何体くらい倒したのですか?」
リュカの質問に私が答えないでいると、フレデリックはもぐもぐしながら首を傾けた。
「 別行動の時の分は知り得ませんが、100体くらいでしょうか?」
「 ちょっと、言い過ぎよ!そんなに倒してないと思うわ!! 」
てことは別行動も含めたら100体を超えてたのね。それだけ斬ったのに刃こぼれの無いあの短剣て凄いのかもしんない。
「 ふわぁ〜!セナ様凄いですわ!!そんなにお強いのですね 〜!! 」
ああターニャ。違うのよ、本当は全然強く無いのよ? あの日はちょっとだけ調子が良かっただけよ。
「 これを見てください。」
フレデリックはゴソゴソと何かを取り出した。あっ!ちょっと!そんな物出してどーするつもり!?
「 まさかそれがダンジョンで話してたヤツか? 」
「 回復薬と書かれてますわね? この色はかなり高価な物でございましょう? 」
「 お兄様が前にお父様におねだりして断られていたお品ですわね。 」
え? サラって貴族でしょ? これっておねだりするような代物なの??
「 これもセナが入手したものです。それも宝箱からではなく、ドラゴンを倒して手に入れたようです。」
キョトンとドラゴンの血を眺めていたサラとターニャが、とんでもないものを見る目で私を振り返るから、私はどんどん小さく体を縮めた。
「 もぉー!ごめんなさいってばー!!何度も謝ってんじゃん!」
なんなのー? 元の世界にあんな形で戻ったことを謝りたかったのに、別の事で吊るし上げじゃない!
「 凄いでしょう? ですがそんなセナにも弱点はあったようです。」
フレデリックは嬉しそうに、ジャングルのことをサラとターニャに話す。
ずいぶんと饒舌ねー。 今朝の孤高のフレデリックはどこへ行ったの? サラ達とはこんなに話すなんてただの人見知りっ子よ。
「 本当にな、アレは傑作だ!岩から降りてこなくなったセナを二人にも見せたかったぞ!! 」
グレンは思い出してたまらなくなったのか、笑いが止まらない。つられてみんなも笑うから私も笑うしかなかった。
「 まっ、そんな感じでこれからも頼むぞ!」
何が「そんな感じ」なのか意味がわからないけど
グレンがその言葉で会話を締める。
「 ですね!」
「 お願いします。」
「「 ですわッ!!」」
私はみんなの顔を見て胸が熱くなるのを感じた。そうか、もう一度ここから始めよう。
「 …… こちらこそ、よろしくお願いします。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「 この少女はロウの屋敷の住人なのではないのか?」
食事を終えると、パトリックが落としていった手紙をもう一度皆で見返した。
「 そんな子は見かけなかったけど、それにしたって全然この手紙の意味が分からないわ?」
手紙の宛名は確かに私の名前が綴られているから、送り先を間違えたようには見えない。
「 セナ様、差し支えなければ今までの手紙を我々に見せていただけませんか?」
リュカは言いにくそうに手紙から顔を上げた。
「 ええ、それは大丈夫よ。前の手紙を皆に見せていいか、ロウに承諾を貰ってるから。」
…… アレ? 了解って取ったわよね??
「 どうしたのだ?」
私の動きがハタと止まり、グレンが顔を覗き込んだ。
「 あーッ! そっかぁ!! 」
完全に忘れていた!私は急いで鞄を開いた。
この世界に戻るとき下着とか思いつくまま放り込んだから、ポイポイ取り出すのを見て男性陣が慌てて目をそらす。
…… あった!
今までロウからもらった手紙の中に、未開封の物が一通あった。
「 パトリックから元の世界に来た時に渡されてたけど、こっちに戻れることに気を取られて、すっかり忘れてたわ!」
道理で会話が噛み合わないわけだ!
私は封を切った。
手紙には、自分やパトリックの事を他の者に話しても構わないという事と、勇者の一人がダンジョンへと引き込まれた事、そしてもう一人の勇者は死霊の館で眠らされたと書かれている。
それからお菓子のお礼と、いつでもこの世界へ遊びに来て下さいと書かれていた。
私は今までロウからもらった手紙を順番に並べ、みんなにそれを読んでもらった。
「 てことは手紙の指す少女は花音ちゃんのことで、彼は花音ちゃんの所へ行ったんだわ!」
最新の手紙には、せっかく屋敷を訪れてくれたのに不在ですみません。という事と、この世界に戻って来てくれて嬉しいと。そして少女が一人だけ目覚めこのままだと危険かもしれない、様子を見てくる旨が書かれていた。
「 セナ、この手紙は本当にこの城に侵入した男が書いた物なのか?」
私は頷いた。グレンがそう疑うのも無理はない。でも私は島のお屋敷で本人を見ているから間違いない。
フレデリックは封筒や封蝋を念入りに調べている。それから「 手紙に書かれている、この者からもらった服を見せてください 」と言ったので、鞄から出して渡した。
「 何か分かったか?」
グレンの問いにフレデリックは首を横に振る。
「 いえ、手紙にも服にも術をかけた痕跡はありませんね。」
どうやらパトリックがどうやって転移しているかを調べているようだ。何しろ相手はフレデリックの結界をかいくぐって城や侵入している。それどころか異世界まで行き来できるすべがあるのだ。
「 私の体にチップが埋め込まれてるとか?」
自分で言っておいてゾッとした。そんなことされてたら泣いちゃう。
「 それだと昨晩の侍女殿らの元へ来た説明がつきません。おかしいですね、この手紙自体に何か仕掛けがあると思ったのですが、たまたまパトリックという魔物が転移先を間違えたのでしょうか。」
フレデリックは考え込んでしまった。
「 しかしこの手紙を事前に読んでいれば、セナ様はダンジョンへ入る前に、あの村が危険だと知り得る事ができたのですね。」
確かにそうだ、とグレンも頷く。
「 この手紙からは奴の目的が分からない。何度もセナを屋敷へと誘ってはいるが、異世界に戻っても焦る様子は見えぬし、少なくとも敵意は微塵も感じられないな。」
「 強制ではありませんね。…… それも奴の手なのかもしれませんが。」
そうなのかしら? 私はロウに欺かれてる? そうは思えないけどここで彼を庇うのも逆効果だろう。
その時、部屋の扉がノックされ隊員が顔を覗かせた。
「 お話中のところすみません!考古学財団の方々、及び鑑定士達が城へ到着致しました!関係者は会議室へお集まり下さいとの事です!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「 はぁ〜 !! つっかれたぁーー !!」
私は会議室を出ると思い切り腕を伸ばした。
面白半分で会議に参加したけど、考古学者がこんなに細かな仕事をしているとは思ってもみなかった。
解放されたのは私とフレデリック、それと一緒にダンジョンに入ったグレンの隊員だけだった。
グレンとリュカはまだまだかかりそうだし、奏太達においては、ダンジョン内に長く滞在してたから二〜三日かかるのではないかと言われている。
凄いと感心したのは学者さんの作る遺跡図で、大きな紙に私達の証言を書き綴ると、その言葉通りに焼き跡が紙に地図となって浮き出てくるのだ。
色んな人の証言が重なると、間違っているところは自然に消え、確定された地点の部屋や廊下の色が変わった。
それを基本として立面図や断面図も同時に描かれていくと、そこに出現する魔物も足されていき、その移動範囲が分かる魔物は、図面上も動き回っているからなんとも見ていて飽きない。
私達がやった、床に穴を空けて階下へ直接おりるやり方はてっきり怒られるかと思ったけど、学者さん達の反応は良く、矢継ぎ早に質問された。
「 セナ様!」
すっかりくたびれた私とフレデリックが部屋へと戻ろうとすると、隊員達に呼び止められた。
「 私達が許可なくダンジョンへ向かったことを咎めないよう、王様へ進言して下さったのは、セナ様だとお聞きしました!」
ああ、その事? 実際に許可を取らせる暇を与えなかったのは私だもん、隊員達に罪はない。私は思ってることを素直に言った。
「 グレンも嬉しそうだったし、あなた達が一緒に来てくれて良かった。足手まといなんて言ってゴメンね?」
あ、泣きそうになってる。…… この世界の人達って割と涙腺が緩いのよね。そういえば右端にいる隊員さんは、私がロウのお屋敷から城へと転移してきた時、剣を向けた子だ。彼も顔を真っ赤にして涙を堪えている。
OK、とどめを刺してあげる。
私は数歩彼らに近づき神妙な顔で少しだけ口角を上げた。結婚式場で働く者のムード作りをご覧あれ。
「 あの時ね …… 一人で無謀に走り回って …… ケガを負ってしまい途方に暮れたとき、穴が空いてあなた達の明るい声が聞こえた。…… 嬉しかった、私を探し回ってくれて本当にありがとう。」
その瞬間、隊員達は顔を両手で覆って崩れた。
はっはっは!ちょろいもんね。
だけどまぁ今言った言葉に嘘はない。ダンジョンなんて初体験だったし、彼らがいたことで心強かった部分も確かにあったのよね。
私が泣き崩れる少年の頭を撫でてあげようと、手を伸ばすと、不意に後ろへと腕を引かれた。
「 もう良いいでしょう、部屋へ戻りましょう。」
こんな場面なのにフレデリックは不機嫌な感情を顕に冷たく言い放つ。
唐突過ぎて隊員達もちょっと驚いてるから、私は彼らに「 じゃあね 」代わりに軽く手を降り、体を進行方向へと向き直った。
「 フレデリック?…… 腕が痛いわ?」
急にどうしたんだろう? 私はフレデリックに腕を引かれたまま廊下を曲がり部屋へと向かった。
足のコンパスが違うのだ、彼が早足だと私は軽く走らなくてはならない。お互い無言のまま部屋へと辿り着くと、彼は私を部屋に押し込んだ。
「 …… フレデリック?」
扉を背に彼はフラリと私から離れると、ため息をつきながら両手で自分の顔を覆った。
えっ!? なになに? 何で??…… もしかして泣いてるの!?
私は驚いて彼に近寄る。
いや泣いてるわけじゃなさそうだけど、何がなんだかさっぱり分からない。体調が悪いのだろうか?どうしたら良いのか分からずオロオロとプチパニックになっていると、フレデリックは両手を前に差し出した。
何となく流れで彼の手を掴むと、彼はそのまま私の手のひらを自分の頬に当て、更にその上から自分の手を重ねた。フレデリックは背が高いからちょっとつま先立ちになる。
つ、つらい …… この体勢ずっとは無理ね。というか、なんかまずくない? このシチュエーション。
「 …… 貴女といると、時々自分の行動が分からなくなります。…… あれ以上彼らに優しくする貴方を見てたくありませんでした。」
そう呟いて私の手首に彼の唇が触れる。そしてそのまま私の体を引き寄せようとしたとき、彼の体がピシリと固まった。
「 …… な、何故ここにいるのです!?」
そうなのよフレデリック。今はなんかよく分からない行動をしてる場合じゃないの、周りをよく見てご覧なさい。
部屋のベッドで寝そべりながら肘をついているのはパトリック。そしてその隣に鎮座しているのは、聖獣のグリフォンだった。
そしてその二匹(?)は、面白そうにこっちを眺めていた。




