92【そして城へ】
「 馬を確保しここから出るぞ!急げッ!!」
大扉をくぐると眩い光に包まれ、気がつくと私達はあの植物の村にいた。正確には村に植物はなく、人気のないさびれた民家だけがあった。
馬との再会を喜ぶ暇もなく、グレンの掛け声に従ってすぐに村から出る。なぜこんなに急ぐのだろう?と不思議に思ったけど、後ろを振り返りその理由が分かった。
村はシュルシュルと音を立てて、再び植物に覆われた。あのまま呑気に村の中にいたら、またダンジョンへと引きずり込まれるのだろうか。
「 すぐにギルドに報告して、新たな犠牲者が出ないように注意せねばならないな。」
普通の人があのダンジョンに飲み込まれればひとたまりもないだろう。
「 直ちに書簡を送ります。」
ダンジョンを出たらすぐに必要だろうと、リュカが昨晩書いていた物を筒の中へ入れた。
本当にリュカは用意がいい。
「 フレデリックさん、すみませんが村の周りに柵のようなものを作れませんか? 僕の隊員はあまり魔力が残ってないので ……。」
奏太がおずおずとお願いすると、フレデリックは軽く頷き村へと向き直った。
愛想ないなぁ。
みんながフレデリックを憧れの眼差しで見てるけど、全く取り付く島がない。
さっきだってあのラスボスを倒したときの魔導師達は、フレデリックにもの凄く褒めて欲しそうだった。けれど本人は大して関心もなさそうで、壁の隅でゴソゴソと何かしていた。
そう考えている間にも村の周りには次々と高い壁がそびえ立つ。するとフレデリックは人差し指を伸ばし、指揮者のように指を動かした。
ああ! なるほどこれは分かりやすい!
村の周囲を取り囲んだ壁に、ツラツラと文字が描かれていく。
『 未開拓ダンジョン 立入りを禁ずる ラグドール王国 』
それを見た隊員達が「さすがフレデリック様だ!」とざわついている。
…… うーん、なんかアイドルみたいね。
これはこれで良いのかな。
フレデリックは「 凄いっすね!」と声をかける奏太にも無表情で答えてグレンに向き直る。
「 城へ転移しますか?」
「 いや俺は近くの村で借りた馬を返さなくてはならない。そこに自分の馬もいるしな。…… ララノア!そっちはどうだ?」
「 私らの隊も数人がそこで馬を借りてる。それに停泊してた宿への支払いもまだだ。主人がイライラして待ってることだろう!」
分かりました。
フレデリックは小さくそう呟くと手をかざす。
次の瞬間には全員が村へと転移していた。
「 ホントすげーな!」
奏太はずっと驚いている。
転移は何度もしてるからそんなに驚かなくてもと思ったけど、後で聞いたら宮廷魔導師と言えど、馬を合わせての転移で可能な人数は限られていて、今回の数は驚異的なようだ。
各自用事を済ませると、村の中央へと集まり今後について話し合った。
奏太はこのまま石探しの旅を続けたがったが、今回のダンジョンについて一番詳しかったのが、奏太達だったため、彼らも一旦城へと戻ることとなった。
私も再びこの世界に戻ってから、王様へ挨拶していない。今後のことも含めて、一度顔を合わせたほうが良いだろう。
奏太の隊員の一人が「 私の調味料を返して下さい〜!」と半泣きになっていて、一人の魔導師と共にどこかへと転移していった。
「 よし!では戻るぞ!! フレデリック頼む!」
グレンの合図でフレデリックは全員に転移をかけた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
城のエントランスホールへと転移すると、なにやら城内は慌ただしかった。
何事だ?と近くを通った隊員に尋ねると、隊員は私達を見て驚き、騒ぎの理由を教えてくれた。
「 皆さま! よくぞお戻りになられました!実は昨夜、侍女殿の部屋に魔物が現れ城中大騒ぎとなっているのです!」
「 何だと!? …… その侍女殿にケガは? 」
「 いえ、それはございません。魔物は侍女殿の悲鳴で驚き逃げてしまったようです。」
グレンがフレデリックを確認すると、彼は首を横に振った。
「 大丈夫です、城の結界は破られてません。…… しかしこう何度も侵入されてしまうとなると、何か対策を考えねばなりませんね。」
「 あの …… それで …… その侵入された部屋の侍女なのですが ……。」
隊員の言いにくそうな態度に嫌な予感がする。
「 サラ殿とターニャ殿でございます。」
「 彼女たちは今どこにいるのッ!? 」
私の問いに隊員は「 ご案内致します!」と先導してくれた。
騎士と魔導師が警備している部屋へ通されると、サラとターニャが駆け寄り、耳元で小さく「お人払いを」と囁いた。
グレンがすぐに対応してくれて、部屋にはサラとターニャ、私とグレン、そしてフレデリックとリュカのみとなった。
こんな時だけど、このメンバーで揃うのが嬉しく思う。
「 皆さま!ご無事でしたのね!私達とても心配しておりましたのよ!」
それはこちらのセリフだ。
「 サラ!魔物に襲われたって聞いたわ!? 」
するとサラはターニャと視線を合わせ、お互いが困ったように笑い合った。
「 ええ、襲われたといいますか……。 昨日の夜お部屋でターニャとくつろいでいたら急に現れて …… 私たち驚いて声を上げてしまいましたの。それを聞きつけた衛兵が部屋へ来て見つかってしまったのですわ。」
そりゃ驚くわ? でも何だか説明が魔物よりになってるような? サラの話をターニャが繋げる。
「 衛兵がこの部屋に入る直前に、その魔物は『アリ? なんでいないでし?』って言ってましたわ!もしかしてあの魔物は …… 。」
私はヘナヘナと力が抜けていく。
『 でし 』…… パ、パトリックね ……。
やっぱりそうですのね!と二人は喜んだ。だけどどうして今回は私の所じゃなくて彼女達の所へ来たのだろう?
「 怖い思いさせてごめんね? それでパトリックはどうなったの?」
「 あの魔物はパトリックというお名前なのですね? 彼は衛兵がこの部屋へと入り剣を向けると、すぐに転移してしまいましたの。」
そしてパトリックのいた場所にコレが落ちていました、と手紙を渡された。封を切って書かれている内容を確認するが、いまいち意味が分からない。
この少女というのは誰のことだろう?
この状況なんだしロウには申し訳ないけど、私は手紙をみんなにも読んでもらった。だけど内容について質問されても私も首をひねる事ばかりだった。
「 セナ、この手紙も含めて尋ねたいことがあるが、我々は一度国王様のところへ謁見に参らねばならない。…… そのパトリックという魔物はお前以外の者を不用意に傷つけたりはしなさそうか??」
「 絶対にしないわ!」
断言して大丈夫だろうか? でもパトリックが人を襲う姿は想像できない。私は手紙をサラにあずけていた鞄へ入れてとお願いした。
それから私は王様や老中の集まる部屋へと向かうと、これまでの経緯を全て話した。
先に奏太とララノアが、王に謁見していたこともあり、私の急な行動もそれほど咎められることもなく、むしろこの世界に戻ったことを喜んでくれた。
私はパトリックのこともロウのことも、自分の身に起きたことは総て話し、今回この世界に戻れたのがその魔物のおかげだということも伝えた。
「 なんとッ!では城へ侵入した魔物は敵ではないと申すのか!? 」
「 それは分かりません。成り行きで手紙のやり取りをすることになっただけで、本人に会ったのは、このお城に侵入した時だけですし ……。」
フム、と王様は考え込む。
「 では次回その魔物が其方の所へ訪ねてきたら、城への侵入の方法を尋ねてみよ!」
まぁそうやすやすと話すとは思えんがな、と言葉を添えた。
「 セナ殿には申し訳ないが、貴女の安全のため、グレンとフレデリックは今以上の警護を命ずる …… 良いな?」
この言葉は私に向けられたものではない。グレン達が返事をしている。安全のためと言っているけど、程のいい『 監視 』だ。
これってつまり私自身がスパイを疑われてるのよね。結界の張ったお城に易々と侵入する魔物と手紙のやり取りしてるんだもの、当たり前か。
状況的に仕方のないことだけど、あまり気分の良いものではなかった。
そこからは今後の事についての話し合いになった。
リュカの迅速な書簡により、考古学財団からお城へと人員が派遣され、ダンジョン調査へのチームが編成される事となるようだ。
また今回のダンジョンにより手に入れた宝箱や魔物のドロップ品も、あまりにも数が多いため、鑑定士による鑑定も、直接城で行われるらしい。
私の想像より遥かにダンジョンの発見とは大事のようだった。
それからダンジョンの詳細を考古学財団に説明した後は、今度は花音ちゃんの救出へ向かう事が決まった。
私と奏太は同じ勇者の位置を特定することが出来るから、それを元に彼女の居場所を突き止めることとなる。正直言ってダンジョンの調査より花音ちゃんの救援の方が優先すべきじゃないかと思ったけど、皆の会話に口を挟むことは出来なかった。
王様への謁見が終わると再びサラ達の元へ行き、今度は全員で私の部屋へと場所を変えた。
パトリックの事は何となく大丈夫という旨が回り、サラ達の警備も解かれていた。
部屋に入ると相変わらず豪華絢爛なインテリアが目に入る。この部屋が自室というわけじゃないけど、私は漸く肩の力を抜いた。
時刻は正午をすでに回っている。
サラとターニャが軽食を用意している間、私はテラスへと向かった。
この国にも四季はあるのか、前にここに立った時より今日は暖かい。緩やかな風が髪をなでると心地よかった。
部屋の中で私を呼ぶ声がする。
振り返ると皆がそれぞれに席に着き、私を手招きしている。
私は一人一人の顔を順番に眺めた。
この気持ちをどう表現したら良いのだろう?
今まで他人とは当たり障りのない付き合いをしてきた。深く知ろうとすれば、自分が傷つくのではないかとそれを恐れた。
私はゆっくりと首を振って、みんなの元へと歩き出した。
本当に …… ここはまるで物語の世界のよう。
この美しい世界から、いつか私は出ていかなければならない。そのとき私はつらい思いをするのだろうか。




