91【そしてダンジョン脱出】
や ー 怒られた、こってこてに絞られた。フレデリックって説教し出すとあんなに止まらないのね。まさかこんな石畳に正座させられるとは思わなかったわ。でも服はキレイになったからいいもん。
「 セナッ!! 」
グレンに肩を掴まれ私はちょっと身構えた。
「 そう固くなるな。あれだけフレデリックに叱られたんだ、俺から言うことは何もない。」
まぁもう少し落ち着いた行動ができるようになると良いがな、と結局お小言を言ってくる。
「 用件は何?」
もともと私は団体行動が苦手なのだ。元の世界では「 列 」からはみ出さないよう必死で自分を抑えていたけど、この世界ではちょっとくらい好きにさせて欲しい。
「 今から最終階と思われる層に降りるわけだが、ソウタ様が何か作戦があるらしい。それで下手に手出しされると困るから、我々の隊は大人しくしてて欲しいそうだ。」
グレンができるか?と眉を上げる。
「 分かったわ。」
私は快く承諾した。
ジャングルでの不快感はこの階でスッキリしたし、何もしなくて良いなら嬉しい限りだ。服だってもう汚したくない。
「 あとな? 隊員達がドロップ品はどうするかって困ってたぞ?」
いま倒した魔物のやつのことか。
「 私は別にいらないけど、グレンが必要なら受け取っといて。」
ドロップ品は何が良い物で、何がいらないものかよく分からない。…… そっか、一年近くこの世界にいるなら、それも覚えたほうが良いのだろうか?
「 …… どうしたの? 」
グレンが何だかホウっとしてる。
「 やはりあれは聞き間違いじゃなかったのだな。」
「 何が?」
「 いやいいのだ。ではドロップ品は一旦私が預かっておくが、必要になったらいつでも言ってくれ。」
私が頷くのを見届けるとグレンは隊員達の所へと向かった。どうしたんだろう? 何だかとても機嫌がいい。
「 世那さんッ!!」
今度は奏太が走ってきた。彼の背後から一緒にララノアもついてくる。
「 ねぇなんでこんな短期間で、あんなに剣を使えるようになってんの!? 」
コツがあるなら教えてよ!と奏太は目をキラキラと輝かせている。私の実家が古武道を営んでいたことを話すと、なぁんだ、とガッカリしていた。
「 それなら俺は俺で地道に頑張るよ!」
奏太はあっさりと前向きだ。きっとこういう人は上達するのも早いだろう。
「 それにしても、さっきはイケメン魔導師さんに世那さんめっちゃ叱られてたねー。」
奏太がニヤニヤしながら嫌なことを蒸し返す。
そうなのだ。フレデリックに離れるなと言われてたことを、私はすっかり忘れていた。
それもこれも全部あのジャングルのせいよッ!魔物の中にあんな恐ろしいものがいるなんて知らなかったわ。思い返すだけでも鳥肌がそう毛立つ、本当に …… 自分でもよく正気を保てたと思う。
「 でもあの人って世那さんの彼氏さんなんでしょ? あんなに暴走しちゃったら心配するのも無理ないよ!」
「 え!? 何言ってんのよ、彼氏じゃないから。」
というか暴走じゃないし。一秒でも早くあの階から遠ざかりたかっただけよ。なんか上の階にアレがいると思うこと怖いから。
「 あれ?そうなの? 隊員達がそう話してたけど。」
隠さなくてもいいんじゃん?と奏太は笑う。
いやいや、ホントに。…… それってあれよね? 隊員さんが見た私とフレデリックの …… そう、多分あれで勘違いしちゃったのね。うん、あれは私自身もよく分かってないんだけど、相手のフレデリックがその後も態度が変わらないから何となく無かったことにしちゃってる。
「 ち、違うから、フレデリックに失礼よ。みんなに訂正しといて。」
そして私はハッとした、ダンジョンのゴタゴタで肝心な話しをするのを忘れていた。
「 ねぇ、奏太って苗字は何?」
「 俺?…… 島津だけど?」
しまづ …… しまづ …… 確かそんな名前はネットニュースに出てなかったわよね。
「 じゃあ花音ちゃんのは聞いたことある?」
「 えっと、どうだったかな? 世那さんは名取だよね?」
うん、と私は頷く。この質問で奏太も真剣な顔つきに変わった。
「 もしかして、あっちで捜索願いとか出てた?」
察しがいいわね。そうなのだ、私達はここへ無差別に召喚されたから、当然元の世界では行方不明扱いになってしまうだろう。
「 あんまり時間がなかったから調べられなかったけど、行方不明の大学生とか女子高生のニュースはなかったと思う。」
あっちではまだ一日しか経ってないからかもしれない。よく知らないけど行方不明の公開捜査ってもっと何日か経ってからなのかしら?
「 大学生って誰のこと?」
「 あっ、違うの? 若く見えるから学生さんかと思ったけど社会人なの?」
奏太はそれを聞いて「タハハ」と頭を掻いた。
「 あのねぇ、俺は28ですよ?」
……… はぁ?
「 やだ、と、年上なんですか? 奏太さん。」
「 今更だよ。女性に歳を聞くのもなんだけど、世那さんはいくつ?」
「 …… 24です。」
「 やめてよー、急に敬語とか。今まで通り呼び捨てのほうが気が楽だし。」
ああ、穴があったら入りたい。
散々年下扱いしてたけど、まさか奏太が四つも年上なんて!もういい、旅の恥は幾つでも捨ててってやる!このまま奏太でいこう。
りょーかい!と返事をしていると、グレンが向こうで手招きしている。そろそろ下の階へと降りるようだ。三人で皆の元へと足を向けはじめると、隣を歩くララノアが何か言いたげな表情をしていた。
「 何か??」
「 えっ!? いやその …… 大したことではないのだが …… その …… セナは本当に魔導師と …… そういう関係ではないのか?」
私は少し驚いた。彼女はそんな事を尋ねそうなタイプの人だとは思わなかった。
そこで勘の良い私はピンときた!ララノアはきっとフレデリックに想いを寄せているに違いないと。だとしたらここはちゃんと否定しておかないといけない。
「 違います! 全然違います! 絶対に違いますから安心して下さい!!」
そう笑顔で答えながら、私は頑張っての意味を込めてララノアの手を握った。彼女は安心したのかまだ疑っているのか何度も表現し難い表情をしている。
ヘェ〜!色んなドラマがあるのね。フレデリックはあの容姿に魔導師長の肩書まであるんだもの、競争率は激しそうだ。
ふふっ!頑張ってください☆
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「 ……… 凄いッ!!」
私は目の前で繰り広げられる光景に息を飲んだ。
「 確かにこれは私達の力は必要ないな!」
階下の魔物は大型の恐竜かと思えるほど大きかった。
世界最大の恐竜ってどのくらいだった? 私の地元では化石の発掘が盛んで、国内でそれ専門の博物館があるのはそこくらいだった。
特に恐竜に興味があったわけじゃないけど、小さい頃から遠足などで化石を見る機会が多く、遥か大昔にこれほど大きな生物が地上にいたのかと、見るたびに圧倒された。
その博物館で書かれていた説明書きには、確か世界にはもっと大きな恐竜の化石が発見されていて、その全長は30mを超えるものだったような気がする。
それがいま目の前にそれを超える大きさの魔物がいる。
その魔物の周りを、奏太を始め騎士達が取り囲み、更にその周りに魔導師達が円陣を作っていた。薄紫の円陣は、瞬く間に立体的な枠組みを作り魔物を囲む。
「 ソウタ様ッ!!魔法陣は整いましたッ!次はそちらの番ですッ!!」
魔導師達が合図を送ると、騎士達は一糸乱れぬ構えで剣を空高くかざした。
「 さっきの光は目眩しだな。」
理解してるようでよく分かってないけど、グレンの意見に私も頷いた。
階段を降りるとすぐに、大きな爆発音と眩い閃光が辺り一面を覆い、視覚が正常に戻った時には、魔導師達は呪文を唱えて魔法陣を作り始めていた。
「 あの魔法陣は、魔物の動きを封じるものです。」
フレデリックの解説を証明するかのように魔物は動けない。抵抗しようともの凄い表情をしているのにピクリとも動けないでいた。
やがて騎士の一人の剣から、オレンジ色の光が出始めると、その光は隣の剣へと伝染していく。
そして更に隣へ …… そのまた隣へと ……。魔物の周囲を一周し、最初の隊員の所へと光が繋がると、その光は剣からフワリと離れた。
すると次の光が剣から生まれ、隣の剣へと流れていく。それを何度も繰り返すと、オレンジ色の光の輪が何重にも魔物の身体を取り囲んだ。
そのあまりの光景の美しさに見とれていて、気がつくのが遅くなった。
「 魔物が斬り刻まれてる!オレンジの光が刃になっているのね! 」
光の輪は鋭い刃物のように、魔物を斬りつけていて、そうしていくうちにもどんどん輪の数は増えていく。
「 これは凄い!…… 勝負あったな。」
「 ええ、実に鮮やかですね。」
グレンは豪華なショーを見たかのように、嬉しそうにフレデリックに同意を求めている。きっと何度も練習したのだろう、全員の動きは完璧に揃っていて、残酷に刻まれ消え逝く魔物でさえ造形美の一つとなっている。
ダンジョンのラストにふさわしい上級魔物だったろうに、その巨体はなす術もなく完全に消滅する。騎士が剣を下ろすと魔導師は一斉に魔法陣を解いた。途端にみんなが奏太を取り囲み魔物退治の成功を盛大に喜び合った。
私達が近づくと奏太は嬉しそうに破顔する。
「 いやー、こんなに上手く行くとは思ってたけど、思ってなかったねッ!! 」
どっちだよ!! と突っ込みながら私が奏太にハイタッチすると、他の隊員達も両手を上げて待っている。その場の勢いもあって体育祭の最後の締めのようなノリになった。それほどに感動するものを見せてもらった。
「 でもいま奏太って魔法使ってなかった?何で使えるの?? 」
私の質問に奏太はシシシと笑う。
「 そう見えたでしょ? あれは俺が使ってるんじゃなくて、剣が魔法を増幅してるんだ! 残念ながら魔法を使ったのは最初の騎士だけ!」
「 そうなの!?なんか全員がめちゃめちゃカッコよかったわ!!」
それに騎士と魔導師がこんなに親しげに盛り上がってる姿を見るのも初めてだ。お城では何となくお互いが線引きされてる印象だった。
「 しかしあれほどの大技を成し遂げるとは ……。」
グレンのどことなく歯切れの悪い言い方に、ララノアが苦笑いを向ける。
「 もちろん私らの実力だけで、あれだけの連携技ができたわけじゃない。」
なぁ、と隊員達を見ると全員が頷く。
「 このダンジョンでの収得物や宝箱で見つけたアイテムをフルに使ったのさ!」
「 やはりそうか、調合を聞いても構わないか?」
「 いいさ、魔力増幅の剣が十二本、閃光弾百八個、一角獣の角三十五個、妖精の涙七瓶、そして魔獣の羽根二十八枚、それからドラゴンの血が三本、まだ聞きたいか?」
「 いやもういい、胸焼けがする。とても覚え切れない。」
グレンは笑いながらララノアを制した。ララノアも笑って話を続ける。
「 私達には時間があったからな!グレンが助けに来てくれたのは分かってたから、最後くらいは自分達でやろうと、ソウタが計画してこの作戦を練り上げたのだ。」
「 あの大技はどこの国の魔法だ?」
「 どこの国でもない、魔導師と騎士団で話し合って作り上げた新技だ。あれだけの豪華な素材があってこその技だけに、今後二度と見る事は出来ないだろうな。」
「 それはもったいないな。」
「 ああ、いろんな意味でもったいない大技だ。」
ギルド職員が聞いたら目を回すぞ?
全くだ!
二人は笑い合った。会話から騎士団の団長同士、会話以上に通じ合っているものがありそうだ。そんな関係は簡単にできるものではない、お互いの経験と信頼からできるものだ。
私は二人の関係を少し羨ましく思った。
「 さてそろそろ進みましょうか、漸くこのダンジョンともここでお別れのようです。」
リュカの声で私達は頷く。
正面の大きな扉が光輝き、その奥へと道を開いていた。
最後の魔物のドロップ品や宝箱を回収すると、私達は全員でその扉をくぐった。




