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異世界ライフは美しい!  作者: 清水悠


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90【気高く美しき戦士ララノア① 後編 】

いつも読んでいただきありがとうございます!

またブクマや評価してくださり

ありがとうございます!


どうぞご覧ください。

 翌朝になり、とはいってもこの階では太陽石のせいでずっと昼間のような明るさだったが、それぞれが身支度を始めた。


 このあと建物を消したら、魔導師に毒性を無効化する魔法を掛けてもらい出発する予定だ。


 水辺へと向かうと、セナとリュカが先に顔を洗っている。


「 これで貸しは二つですからね!よく眠れたでしょう?」


「 ちょっと待ってよ!昨日助けてあげたじゃない!あれで借りは帳消じゃないの!」


「 それはノーカウントです。命を救ってくれたのはフレデリック様であってセナ様ではありません。」


「 えー!もぉ〜!じゃあどうしよっかなー。」


 騒がしいな、何をじゃれ合っているのだ?


 ここがダンジョンの中だという事を忘れているのか? 結局リュカは朝になるまでずっと彼女の傍らから離れなかった。隊員の話によると、何度もリュカがセナの頭を撫でていたようだ。


 まぁいい、少し過保護すぎるような気もするが、異世界からいきなり別世界へと呼び出されたのだ、多少のわがままは仕方ないと言えるだろう。


 私は昨日とは打って変わって気持ちが晴れ晴れとしていた。グレンの隊員の話によると、どうやら彼女は魔導師のフレデリックと恋人同士らしい。


 グレンのあの優しい態度は、彼の騎士としての使命感からくるものだったのだ。


 それにしてもフレデリックか ……。

 私はああいう草食系の男性は苦手だ。物静かな優男といったイメージしかない。華奢で儚げなセナにはお似合いかもしれないな。


 そういえば確か昨日、あの魔導師はセナのことを「 元の世界へは返さない 」とか言っていたか? そうかそうか、そりゃ恋人なら当然そう言うだろう。ああ見えて案外男らしいところもあるのだな。


「 ララノアさん!」


 私を見つけてセナが走ってくる。何の用だろう?


「 昨日はどうもありがとうございます!ララノアさんのお陰で、よく休むことが出来ました!」


 い〜え〜?よく眠れたのは隣にいるイケメン少年のお陰でしょ?


「 セナ様、私のことはララノアとお呼び下さい。」


 一応あなたの方が立場は上ですからね? 相容れない相手とはいえこういう事はちゃんとしておきたい。


「 あら!では私もセナと呼んで下さい。堅苦しいのは苦手なんです。」


 んじゃ遠慮なくそうさせてもらう。


 体を休めたせいだろうか、今朝の彼女は一段と美しく輝いている。朝食の準備ができてることを伝えると、なお一層キラキラと顔を煌めかせた。


 ほんっとうに可愛いわね。おまけに礼儀正しくて社交性まであるなんて世の中は不公平だ。女性の私から見てもセナは魅力的な人物だった。

 良かった、彼女がフレデリックを選んでくれて。


 ふと彼女の近くの植物が揺れた。

 私は剣に手を添える。


「 セナ、後ろに魔物がいます、こちらへ。」


 ここの魔物は動きが遅いものが多いから、そう慌てることはない。だが刺されると毒があり厄介だ。


 セナは後ろを振り返って、魔物の姿を確認した。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「 セナ様!大丈夫です!私達が守りますから!!」


「 イヤッ! 絶対にイヤよッ!! 」


 リュカがどんなに彼女をなだめても、彼女は岩から降りてこようとしない。


「 こんな早くからセナは何をやっている?」


 騒ぎを聞きつけてグレンがやって来た。


「 ああグレン、良いところに来てくれた!彼女はどうやら虫が苦手みたいで、ここの魔物を見て驚いてしまったようだ!」


「 虫?? 廃墟は平気なのにな …… それと岩に登るのと、どう繋がる?」


「 これからこの階を出るのに、この先のジャングルを抜けると話しただろう? 彼女はそれが嫌で岩に登ってしまったのだ!」


 まさかそこまで驚くとは思わなかった。

 30センチを超える芋虫は、見た目は悪いが攻撃してくる魔物に比べたらカワイイものだ。


 いい加減降りて来なさいッ!!とリュカに叱られても、彼女はイヤ〜!!と半泣きで叫んでいる。


 隊員達は一応困ったそぶりを見せてはいるけど、皆が必死で笑いをこらえていた。


「 しょうがないな、私が何とかしよう。」


 グレンは爽やかに笑顔を見せると、セナに優しく声をかけた。


「 セナ、心配しなくても大丈夫だ。ここには強い騎士も魔導師も沢山いる。私もお前を守るから安心して降りてこい。」


 彼女がフレデリックの恋人だと分かっていても、グレンが女性に優しい言葉をかける姿を見るのは胸が痛んだ。


 …… わがままも大概にして欲しい。


 すると岩の上から何かゴニョゴニョと言っているのが聞こえてきた。耳を澄まして聴いてみると、彼女は「 上に戻って入口から出るもん 」と何度も呟いている。


「 いいから早く降りて来いッ!みんなに迷惑をかけるだろう!!」


 ちょっとだけいい気味だ、グレンに本気で怒られている。


「 …… 岩を砕きましょうか?」


 なんて過激な事を言う者がいるのだと振り向くと、いつの間にかフレデリックが隣まで来ていた。


 岩を砕く?? 彼は彼女の恋人だろう?

 いや恋人だからなのか??


「 大丈夫です、彼女を傷つけることは致しません。」


 彼は容赦なく手を岩へ向けた。


 へぇ!見かけによらず結構ワイルドなのね? 昨日はあんなにお姫様扱いだったのに、今朝は随分と雑ね。グレンだって「 やっちまえ!」と言わんばかりに場所をあけた。


「 聞こえてるわよフレデリックッ!そんなことしたらもう二度とお菓子作ってあげないからッ!! 」


 彼女の一言で、彼は無言で手を下ろす。


 お、お菓子くらいで引くのか!?見かけ通りの軟弱ぶりじゃないか!


「 ではこうしたらどうだッ!? 」


 グレンは再び大声を上げた。


「 皆でジャングルを歩く間、お前を抱きかかえて進もう!セナはずっと目を閉じていればいい。…… これならどうだッ!? 言っとくが入口からはどうやっても出れぬぞ!! 」


 はぁ!? なんてことを言い出すのだ!一体誰が彼女を抱えるのよ!?フレデリックやリュカは体力面では厳しいんじゃない? ではその役目はグレンになってしまうのではないか!!


 こんなくだらない時間は早く終わらせたかったが、できれば今の提案は彼女に却下して欲しかった。

 だけど残念なことに彼女はソロリと岩影から顔を出し、グレンに両手を伸ばした。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ようやくセナを岩から降ろし、朝食を食べ始めたが、彼女は少しの物音や動きでビクビクと怯えている。


 リュカがふざけて「 あっ虫が!」と脅かすと、セナは文字通り飛び上がっていた。余談ではあるが久しぶりにグレンにガチで叱られているリュカを見た。


 隊員達は彼女の様子を見て顔をほころばせ「 カワイイな!守ってあげたいよな!」と口々に囁いている。


 ハイハイ、本当にか弱き女性はいいわよね?「 守ってあげたい 」なんて生まれてこのかた言われたことがない。


 そうこうしているうちに準備が整い出発になると、やはりグレンが彼女を抱き上げようとする。しょうがないことなのだが、昨日からのイライラが積み重なって胸がムカムカした。


 本当はグレンに抱っこされて、楽したいだけじゃないのか?とまで疑ってしまう。


「 ままままって!!」


 この期に及んで彼女はまだグズグズしている。これ以上わがままを言われたら、いい加減キレてしまいそうだ。


「 わ、私 …… あの人がいい ……。」


 彼女が指をさしたのは、私の隊員の一番大柄の者だった。彼はお世辞にもイケメンとは言えない風貌だが、身長は2m30㎝はある。

 セナは彼の前にヨロヨロと進むと、涙目で「 お願い ……。」と彼のマントを掴んだ。


 隊員は顔を真っ赤にして「 私でよろしければ喜んで。」と答えている。


「 まぁ、私は手が空いてたほうが魔物を倒せるから、彼がセナを抱えたほうが良いだろうな。」


 グレンは明らかに不満げだ、口を尖らせて棒読みになっている。


 それにしても本当に虫が苦手なのだな。彼女があの隊員を選んだのは、少しでも地面から高いほうが良いからだろう。私は先ほどの自分の考えを訂正した。


 更にセナは「 目を閉じてもうっかり開けちゃうから 」と隊員から布をもらって目隠しをしている。念には念を入れる入念さだが、体の震えが止まらないのか何度も結び直している。…… これもまたギャップ萌えか。セナの動きは何だかカタカタしていて面白い。私もちょっと笑い出しそうになるのを必死でこらえてる。


 そして隊員に向かっておずおずと両手を上げる。その姿は本当に可愛い。拐ってしまいたくなるのでは?と少々不安になる。


「 で、では失礼致します!」


 隊員がお姫様抱っこをすると、彼女は震える手を隊員の首に回し、寄り添うようにしがみつく。それはもう顔同士もほとんどピタリとくっついている。

 隊員はますます顔を赤らめた。


 事情を知らない者が見れば、何かのプレイのようだ。私の隣でソウタが「 美女と野獣の実写版だな 」と呟く。


 そっとフレデリックの表情をうかがうと、彼は無表情でそこからは何の感情も読み取れなかった。


 兎にも角にも、ようやく私達はジャングルに足を踏み入れることができた。先頭を歩く隊員やソウタは、すっかりこのジャングルに慣れてしまっているので、サクサクと進んで行く。


 途中何度もセナを抱えた隊員が「 大丈夫です!」と彼女を宥めている。おまけにその周囲を取り囲む隊員達も、必要以上に勇猛果敢になっていた。


 大丈夫も何も芋虫やムカデたちは殆ど攻撃してこないのだ。だが彼女は魔物を潰す音にいちいち反応して、小さく悲鳴を上げるのだ。


 あぁ本当に疲れるわね。

 虫の一匹も殺せない、心やさしきお姫様を全員で守るのは ……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「 さぁ、ここにはもう虫はいないぞ?」


 ジャングルを無事に抜け、階段を降りるとグレンがセナにそう言った。


 彼女を抱えてる隊員も嬉しそうなのだし、そのまま抱かせておけば良いのに、グレンは隊員から彼女を引き剥がした。


 なんだかこうして見てると、フレデリックよりもグレンの方がセナの恋人に見える。護衛を任された責任感があるのは良いけど、普段と違う彼を見るのは耐え難かった。


 まぁここからはしっかり自分の足で歩くことね。大丈夫よ!お姫様。何なら私があなたには傷の一つも負わせないから。


 セナは隊員に丁寧に礼を述べて下ろしてもらうと、目隠しを外した。


 …… ん?…… あれ??


 彼女はキョロキョロを辺りを見回し、草木が生えてないことを確認している。


 なんだか顔つきがさっきまでと違う?…… 機嫌が悪いのかしら??


「 ねぇソウタ。この階にもあなたの順路はある?」


「 あ? ああ、あるよ? それに沿って進めば階下へ直行できるよ。」


 そう、と彼女は呟くと自分の短剣を鞘から抜いて、目を閉じた。そしてゆっくりと腰を落として目を開く。


『 その所作がとても美しかったから。』


 私達が瞬時に動けなかった言い訳をするなら、その一言に尽きる。


 彼女はその場に全員を残し、通路の奥へと爆発的に走り去った。数人の隊員と魔導師が慌てて彼女を追いかける。


 パニックになってしまったのだろうか? 私も遅れを取らないよう走り出したが、途中何体もの魔物が倒れている。


 えっ? これって全部あの娘がやったの!?


 というか私達だって全力で走っているのだ。そりゃ大人数だから多少はまごついているけど。

 道は複雑に折れ曲がっているが、魔物を倒しながら進む彼女にどうして追いつけないのだ!?


 だけど実際に、姿が見えるのはスローモーションで倒れ込む魔物ばかりで、本人の姿は見えない。


「 後ろの者は魔物のドロップ品を確保しろッ!! 」


 グレンが隊員達にそう叫ぶ。こんな時にドロップ品を気に掛けるなんてと足下を確認すると、なるほどと納得する。この階の魔物のドロップ品はレア物ばかりだ、ラグドールの騎士規約で最優先収集品に書かれているものばかりだった。


 角を曲がると一瞬皆の足が止まる。

 信じられない …… まさかこの魔物も一人で倒したというのか!?


 もはや信じられないというより、信じたくない気持ちでいっぱいだった。グレンまでもが「 マジか。」と呟き、リュカは「 やりますねー。」と感心している。


「 急がないと下の階に行ってしまいますよッ!! 」


 フレデリックが二人に向かって叫ぶと、ハッとして再び駆け出す。


 いや、下には降りれない。

 私は何度もこの階を調査していて知っている。もうすぐ下の階へと降りる階段があるが、その手前の部屋にはあの魔物がいる。あれに一人で戦いを挑むのは無謀にも程があり、絶対に勝てない。

 早く追いついてセナを助けなければッ!!


「 …… セナッ!! 」


 ─── ウ、ウソでしょ!?


 私達がその部屋に駆けつけると、あの魔物は耳をつん裂くような断末魔をあげ、ゆっくりと倒れ込んだ。


 セナは振り返ると、長い髪を片手で後ろへと払った。


「 …… フレデリック、服が汚れたからキレイにして。」


 …… や、やだ、この娘 …… かっこいい!!

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