84【独りぼっちで後悔】
いつも読んでいただきありがとうございます!
また、ブクマや評価もありがとうございます!
今回も物語の中に残酷な描写が含まれます。
苦手な方はご遠慮下さい。
それではどうぞ!
…… 怒ってるかしら?
私は物陰からそっと顔を出し、目の前の一つ目の巨人が通り過ぎるのを待った。
…… 絶対怒ってるわよね。
巨人が部屋の角を曲がったのを見届けると、足音を立てないように廊下を進んだ。ここはフレデリック達と別れてから四階ほど下りてきた場所だ。
最初は勢いで魔物を倒してたけど、倒しているうちに他の魔物が集まってくるからきりがない。あまり派手に騒がないほうが良いと判断した。
出来るだけ目立たないように進み、魔物と闘うのは鉢合わせしたときだけに心がけた。
…… あった。
散々迷った挙句、漸く私は下へと続く階段を見つけた。もうすぐグレン達と合流できそうだ。
下りた階は石畳みの通路だったので胸をなでおろす。ここも魔法を使わないとどうにもならないような構造じゃなくて良かった 。
それにしても、この「ダンジョン」という所は、本当に不思議な場所だった。至る所に罠が仕掛けられていて、さっきも危うく命を落としかけた。
やっと見つけた階段も、降りたと思うとそこは行き止まりだった。
まぁ、キラキラと輝く宝箱はあったけどね。
私はポタポタと血が滴り落ちる腕を見てため息をついた。剣でスカートの裾を切り取ると、包帯がわりに腕に巻き直した。
くぅ〜 …… 痛い。
次々と魔物を倒していたときは、必死だったせいかあまり痛みを感じなかったけど、一人きりでこうやってコソコソと歩き回っていると、そこはかとなく痛みが伝わってくる。
それに切った場所が悪い。血管をやってしまったのか出血が止まらない。新しく替えた布にもすぐに血が滲んできた。
人ってどのくらい血を流したら死ぬんだっけ?
フレデリック達はいまどの辺りだろう? 先に行きたくて分かれたけど、案外すでに追い越されてるのかもしれない。
…… 怒ってるだろうな 〜 。
私は石を探せる人間だ。
自分で言うのもなんだけど、この世界でのその貴重さはわかる。それなのにこの危険なダンジョンで、無謀とも言える単独行動だ。フレデリックは相当怒ってることだろう。
もしこのままここで私が死んじゃったら、彼は何か責任を取らされたりするのだろうか? そうだったら本当に申し訳ない。
だからといって、あのまま皆に無理はさせたくなかったし、皆が望むようなのんびりダンジョン探索もしたくなかった。
自分の行動は間違ってない!と思いたいけど、こう出血が止まらないと、やはり間違っていたと思わざるを得ない。
私は廊下の突き当たりに宝箱を見つけた。
見つけたところで、あんな重い物持ち歩けない。それに、さっきの宝箱は部屋の中にあったけど、今度は見通しの良い廊下の突き当たりだ。
なんだか怪しくない? まるで誘い込むように目立った位置にある。
もしかしたら、あの中に回復薬があるかもしれないけど、確かあーゆーのって『 呪い 』がかかってるとか言ってたわよね? 私にはそれが判別できない。
そもそも呪いってなんだろう?
末代まで祟られる、とか? それは異世界を通して両親とかにまで届く呪いなのかしら??
それとも何か得体の知れない幽霊につきまとわれる、とか? そりゃテーブルの下に青白い顔の子供がうずくまってたり、テレビからいきなり髪の長い人が出てきたらビビるわね。
それに、そんなのにストーカーされてたら結婚式場で働けないじゃない? 写真とかにガンガン写っちゃって、縁起の悪い式場って評判になっちゃうわ。
ダメダメダメ!!
私は首を激しく振った。そして宝箱に背を向けると今度はポケットからガラスの容器を取り出して、それらを眺めた。
魔物のドロップ品、全部色が違うのよね ……。
ギルドの売店で売られてた回復薬は、このどれとも容れ物が違っていた。だからといって毒薬もこんな感じじゃなかったような気がするけどなぁ。
この墨汁のような黒い液体は絶対に悪いやつだろう。だけどあとの二本は割とキレイな色をしている。結局これも一応拾ってはみたけど、中身が怪しすぎるから使えないでいた。
「 あっ ……。」
ポケットに容器をしまって顔を上げると、いつの間にか目の前に一つ目の巨人が立っていた。その手にはトゲのある棍棒を握りしめている。
…… やば 。
すると巨人がゆっくりと首をかしげた。
なので私もそれにならって首をかたむけた 。
ご、ご挨拶??
巨人は首を元の位置に戻すと、向きを変えて去って行く。
ああ驚いた、なんなのよ!
どうやらあの魔物は人を襲わないタイプだったようだ。一先ず安心しながら、私も巨人が向かった方に足を進めようとした。
すると少し前の天井からもの凄い音がして、石のブロックが崩れ落ちてきた。
今度はなにッ!? 何が起こるの!?
私は剣を構える。
「 あ ──ッ!!いましたッ!フレデリック様!!ここにセナ様がおります!!! 」
そんな声がしたと思ったら、穴から滑り台が組み立てられ、皆が次々に降りてきた。
「 良かった〜!ずいぶん探したのですよ!!」
「 こんなとこまで降りてたのですね ー!!」
隊員は嬉しそうに私に駆け寄り、その後ろからフレデリックがゆっくりと近づいて来る。
顔は無表情に近いけど、あれは完全に怒っている顔だ。隊員らもそれが分かってるのか静かに道を開けた。
と、向こうからさっきの巨人が棍棒を振り回しながら、怒号をあげてドスドスとこちらに向かってきた。
アレッ!? あの魔物って襲って来るのッ!?
魔物の大きさに身構えた私達をよそに、フレデリックは片手を上げ、一瞬で巨人を消し去る。魔法が凄いのか彼が凄いのか分からないが、赤子を捻ると言う表現は彼の為にあるのかもしれない。
騒ぎを聞きつけた魔物達も、続々と通路の奥から湧いてくる。フレデリックはそれを忌々しそうに睨み、激しい音を立てて通路を塞いだ。
それはさっきまでとは異なり、通路全部を石で埋め尽くす塞ぎ方で。逃げ場のない魔物たちは一体どうなったのだろう ……。
辺りが静まり返る。
隊員達も、フレデリックの感情のぶつけ方にかなり怯えているようだった。
フレデリックは軽くメガネの位置を直すと、キッと私に向き直り、ツカツカと向かって来て手を上げた。
叩かれる!!
私はそう思って目を固く閉じた。
……………。
予想に反して、私はフレデリックに抱きしめられた。思いがけず強い力にうまく呼吸ができない。
何とか頭をもごもごと動かし、新鮮な酸素を確保しようとするけど、フレデリックの片手が私の後頭部を押さえると、その度に呼吸ができなくなった。
落ち着いてくると、フレデリックの体が小刻みに震えているのが伝わってくる。頭を慈しむように何度もなでられると、自分の軽率な行動を悔やんだ。
ごめんなさい。
隊員の中には、それを見て泣き崩れる者もいる。
みんな先へ進まないで、ずっと私を探し回ってたの?
…… 本当にごめんなさい。
「 セナ様ッ!!腕を痛めておられるのですか!? 」
フレデリックは隊員のその声で私から体を離す。
「 あぁそうなの、やっちゃった。…… やっぱりフレデリックがいないとダメねー?」
すでに布は包帯の役目を果たさず、そこから血が流れ落ちている。
「 あーごめんなさい!!フレデリックの服に血がついちゃったかも!」
「 どうすれば ……。」
フレデリックはベチャっとなった包帯を震える手で外しながら呟く。傷は手首から10センチほど裂けていて、どす黒い箇所からはまだ血が出続けている。その傷口を見てフレデリックは顔をクシャリと歪めた。彼の指がそれをなぞると、見る見るうちに傷が消えていく。
フレデリックの呪文一つで、私の身体中のすり傷などもなくなり、服も下ろしたてのように元に戻った。
やっぱり魔法って凄いわね!
このワンピースはとても気に入っている。
元の世界ではスカートではなく、パンツかジーパンばかりだった。きれいに戻してもらえて嬉しかった。
私はフレデリックに礼を言おうと顔を上げると、彼は私の腕を引き、そのまま私の唇に自分の唇を重ねた。そして、そっと離れると再び私を抱き寄せて耳元で囁く。
「 どうすればあなたを閉じ込めることができるのです?」
と、閉じ込める??
私はその質問の意味が分からず、フレデリックを見上げると、また唇を塞がれる。
あ、あの …… ま、周りに隊員さんがいるから!!
この状況をどうしたらいいの!?と、半ばパニックになってると、その場にいた隊員達も目のやり場に困ったのか ( そりゃー困るよね?)、慌てて別のことに関心を向けた。
「 ややっ!あそこに宝箱があるぞ!?」
実にわざとらしく小さな声でそう叫んで、皆がいそいそとその場を離れて行く。
ちょ、ちょっと!お、置いていかないで!!
いやそのまま鑑賞されても困るけど、二人きりにされるのもどうしたら良いのか分からない。大体なんで私は今フレデリックにキスされてるのだろう?
「 セナ、約束して下さい。この先いかなる状況でも、もう絶対に私の側から離れないで下さい。」
じゃないとあなたを守れません。
そう言ってまたギュウッと強く抱きしめる。
ででででも、そそそそんなこと言われても、状況次第ではどうにもならないわよ? なるべくできない約束はしたくない。そう言い返したかったけど、こんなこと初めてで力が抜けて言葉にできない。
フレデリックは返事がないのがご不満だったのか、私の顎のラインに手を添わせ、私の顔を上げさせた。
「 分かりましたね?」
と優しく言ってまた顔を近づける。
あぁなんかもう、されるがままになっている。
私ってこんなに流されやすい性格だった? それともイケメンには逆らえない何かがあるのかしら!?
「 わあぁぁぁッッ!!!! 」
急な悲鳴に驚いて声のした方を振り向くと、隊員達の姿は忽然と消えていた。
そこには宝箱だけが、キラキラと輝きを放っていた。




