81【そして救助へ】
フレデリックとラグドール城へ戻ると、城の中は大騒ぎだった。彼は素早く私を物陰に隠し懐中時計を取り出した。
「 ここはまずいですね、サラ殿とターニャ様の所へ転移しましょう。」
私は頷いて自分も時計を取り出し、次の瞬間にはサラたちの部屋へと転移していた。この時計は本当に便利ね。
二人はすぐに駆け寄ってきて、フレデリックが一緒のことをとても喜んだ。ターニャのハイタッチに、フレデリックはかがんで対応している。
こんな何気ないことすらジンと胸が熱くなり、私ってこんなに感情豊かだったかしら?と戸惑った。
「 たいへんでございますわ!先ほど王宮の者よりセナ様が戻り次第すぐに王様へ謁見するように、とご伝言を承りましたの。」
あら、そうなの?
「 でも王様に会ったら、グレン達の所へ行くのを止められないかしら?」
奏太のグループがいなくなって、更にグレン達までいなくなったのだ。そんな危険かもしれない場所にすんなり行かせてもらえるだろうか?
「 確かにそうですわね。いまやこの世界の希望はセナ様に託されておりますもの。たとえフレデリック様がご一緒という好条件を加味しても、グレン様達の捜索は許可がおりないかもしれませんわ。」
そ、そんなに壮大な感じに言わないでよターニャ。
「 待ってください!グレン達の捜索とは何の話です??」
驚いた事にフレデリックは二人が消息を絶っている事を知らなかった。サラが手短に説明してくれる。
「 なんて事です!まさかあの二人がそんな事になっていたとは知りませんでした。」
フレデリックは深く息を吐いた。
「 …… そうか、グレン達がこの城を出ていくとき、私が共に行かなかったことで、王宮の者は私達が仲違いしたと思っているのかもしれません。」
城の者がそう受け取っているなら、当然渦中のフレデリックには言いにくいだろう。
「 だからセナはそのように慌てているのですね?漸く理解出来ました、それならば一刻も早くグレンとリュカの元へ急ぎましょう。」
私達は頷き合った。申し訳ないけど王様へのご挨拶は、みんなと無事に戻ってからにさせてもらおう。
そう思ったとき「 バタンッ!!」と部屋の扉が大きく開かれた。扉の向こうには数人の騎士達が揃っている。
やば、見つかっちゃった。
一瞬そう思った。しかし隊員の一人が前へ出ると、彼は意外な言葉を発した。
「 勇者様お願いでございます!私達も共に連れて行ってくださいッ!! 」
私たちは顔を見合わせる、すると別の隊員が言葉を繋いだ。
「 我らはグレン隊長の率いる隊の者でございます!……… どうか共にグレン様の捜索を手伝わせてください!! 」
んーと、つくづく思う。この国の人って立ち聞き多くない??
どうしますか?とフレデリックが私を見てくる。
えー? 私にが判断するの?? だったら ……
「 いやよ。…… 足手まといになるじゃない。」
その一言で場の空気がピシリと凍りつく。
フレデリックやサラ達まで若干引いている。
いいのよ。前みたいにいちいち気を遣ってたら全然話が進まない。もう今からは「地」で行かせてもらうことに決めた。それに言わせてもらえば私はもともと団体行動は好きじゃないのよね。
行きましょう、とフレデリックを促して私は隊員達に背を向けた。続けて懐中時計を握りしめる。
「 お、お待ちくださいッ!!どうかお願い致しますッ!! 我々は決して足手まといにはなりません!!命に代えても勇者様をお守り致しますッ!!」
あぁもう面倒くさい。こうしてまごついている時間すら惜しいというのに ……。
私はゆっくりと隊員に向き直り口を開いた。
「 誰が …… 誰を …… 守るですって??」
その物言いに一瞬隊員達は怯む。フレデリックはその間でオロオロと困り顔をした。
「 セナ、グレン達がどんな状態なのか分からない今、人数は多いほうが良いかもしれません。もし山賊などの敵が相手なら、私一人では魔法の対応にも限界があります。」
「 そうでございますわ、セナ様。」
見るに見かねたサラも、その場を和ませるように隊員達を気遣った。
「 このお方たちはグレン様の事を心から想っておられます。騎士様としてこのまま城で帰りを待つのはとてもおつらいことかと思いますわ。」
その一言でこの物語のヒロインは決まった。
隊員達はサラを天使を見るような眼差しで見ている。
魔法ねぇ……。
それを出されちゃうと私も言い返せないわ。
まぁ仕方ない …… か。
「 あなた達すぐに出れるの?? 王様の許可を取ったりとか城から出る手続きとか、面倒な事で手間がかかるなら置いてくわよ?」
私の非情な言葉に隊員たちは少しざわつく。だけどみんなでゴニョゴニョと話をまとめ「 処罰は後でお受けします。」と腹をくくったようだった。
同行するグレンの隊員たちは全員で五人。危険かもしれないので、サラとターニャにはお留守番をお願いした。
隊員の情報では、奏太たちもグレン達も同じ村が最後の書簡の送信場所となっている。そこまで七人と馬を連れて転移した。
村に到着しグレン達が宿泊した宿を探し当てると、宿屋の店主は「 またか ……。」と頭を抱え、「 西の森の先にある廃村に行け!」と追い払われた。
城を出てから馬で森を抜け、植物で覆われた村に辿り着くまで、三時間ほどの時間を使ってしまった。それでも隊員達は捜査の段取りが迅速で、私とフレデリックの二人だけならもっと手間取ったかもしれない。足手まといと言い放ってしまったことを少しだけ反省した。
時刻は夕方5時を過ぎている。陽が沈むまでもう時間がない。緑深い村の中を探し始めるとすぐにたくさんの馬を見つけた。
この場所で間違いないはずなのに、人の気配は全くしない。私が立ち止まって足下を見ていると、フレデリックがそれに気がついた。
「 先程から何か気になることでもあるのですか? 」
「 そうなの。この村ってどこか下へ降りる階段があるんじゃないかしら? みんなはこの下にいるもの。」
「 下にですか??…… なるほど、セナは石の在り処が分かるのでしたね。という事はグレンが持っている石も?」
私は頷いた。
「 では地下への入口を探しましょう。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「 …… まさかダンジョンだったとは ……。」
地下への入口を探す必要はなかった。急に植物が襲ってきて、地中に引きずり込まれたのだ。
ここは特殊な空間になっているらしく、このダンジョンに限っては、恐らく最下層に出口があるのではないかとフレデリックは説明してくれた。懐中時計の転移が無効化されるのも、ここなら仕方ないと彼は一人で頷いていた。
「 次々と魔物が出てきます。気を抜くと簡単に命を落としてしまいますから、セナは私の側を離れないで下さい。」
カッコいいー 。普通の女子ならフレデリックにキリリとそう言われればときめくわよね。だけど私はこの世界に戻るときに決めた事がある。
「 それには及ばないわ。私ね? 前回は観光気分だったけど、今日からは冒険者としてこの世界に参加することにしたの!」
おどけながら短剣を抜いて構えると、フレデリックはクスリと微笑んだ。
「 それは頼もしい。ですがここの魔物は今までのものとはレベルが違います。あまり無理をしないで下さいね。」
石畳みの廊下には所々に松明が設けられていて、多少は薄暗いが灯りの心配はなかった。まっすぐな廊下をひらすら進むと、急に開けた場所に出る。
「 すご〜い!!あの村の地下にこんな施設があるなんて!」
天井までは30メートルはあるだろうか?
石畳みは白の大理石へと変わり、唐突に豪華な雰囲気に変わった。通路を挟む両サイドの壁には、外国の神話に出てくる神様の石像が台座に並んでいる。正面の廊下の突き当りには、とても大きな石の扉があった。
それを見てフレデリックの表情が険しくなる。
「 セナ、門番がいます。いよいよここからがダンジョンへの入口です。」
えっ!? 入口って今からなの?? てっきり植物の村からここへ引きずり込まれたのが入口だと思ってたわ。
だけどいくら目を凝らしても、フレデリックのいう「 門番 」が見当たらない。私たちは扉の前まで辿りつき、それぞれが立ち止まった。
扉を開けないのだろうか? まさか「 ひらけーごま!!」とか言ったりしちゃう? 天才魔導師が一緒だからか不安よりもワクワク感が勝る。私はテーマパークに入場するような感覚で胸がドキドキした。
そんな事を考えていると、どこからともなく何者かの声が聞こえて来る。
「 ようこそ緑の迷宮へ 。……… 我が名はグリフォン …… この門をくぐりたくば、我の質問に答えるがよい。」
驚いたことに、目の前の台座からライオンの石像が飛び降りてきた!!それは床に着地すると、ブルブルを全身を震わせる。すると石が粉末のようにサラサラと剥がれ落ち、その下から鮮やかな金色の体毛が現れた。
んん?? よく見ると、私が知っているライオンとは何だか違う。
まず大きな翼がある。本体との付け根部分は黄金色なのだが、翼の先に行くにつれてグラデーションとなりアッシュブラウンに変わっていた。
それに何だか顔と前脚も変だ、鳥みたいになっている。全体的には金色だし見栄え良くバランスが取れてるけど、こういう魔物の失敗作もいるのだろうと、私はなんとなく同情した。
「「「 なっ!? グ、グリフォンだって!??」」」
みんながこの魔物の名前を口にしてざわついている。
へぇ、こんな地下にいるのに知名度は高いんだ?そんなに強い魔物なのかしら? それともやっぱり変な形だから有名なのかな?
グリフォン は私達と扉の間をゆっくりと往復しながら口を開いた。
「 それでは第一問 ……。」
私たちは息をのむ。
そう言えば質問に答えよとか言ってたわね。「 何故ここへ来た 」とかだったら割と素直に答えれるけど、もっと崇高で哲学的な質問だったらどうしよう?…… そうね、例えば「 死とは何か?」とか「 迷いとは?」なんて大雑把なやつ。…… うん、無理無理。理系女の私にはそんなの絶対答えられない。
「 それを閉じると見えなくなり、それを開くと見えるようになるもの …… それとは何か答えよ。」
グリフォンは質問を言い終えると、扉の中央まで戻り私達を正面から見据える。まるで「さぁ答えてみろ!」と言わんばかりの得意げな顔をした。
「 ねぇ、あいつやっつけていい?? 」
思ったことがつい口から漏れた。
私の言葉に魔物も含めて全員が「 なッ!? 」と非難めいた声を上げる。
こんな壮大な出で立ちで何アホな質問してんのよ。
このダンジョンという場所が危険と言うならば、出来るだけ早くグレン達に合流したい。こんな茶番に付き合えるほど暇じゃないのよね。
私は魔物に向かって真っ直ぐに剣を構えた ……。




