80【再会】
「 サラ …… 私、戻ったの ……。 」
一番にお城を目指して正解だった。
サラは二階の手すりから急いで降りてくると、その勢いのまま私に抱きついた。
私にとっては数時間ぶりだけど、サラにはもう五日も経っている。怒ってるかな?とか悲しませたかな?とか、あるいは軽蔑されてないかな?なんて色んな感情がごちゃ混ぜになってるけど、私も彼女を力一杯抱きしめた。
この世界の人はストレートに感情を表現するから、私も素直に出しやすい。というかこんな風に悦びを態度で示すなんて、私にとっては初めての経験だ。
「 ごめんね、あんな別れ方しちゃって。」
途端にサラの目は大きく見開き、大粒の涙が溢れ出す。
「 いいえセナ様、いいえ。元の世界へお戻りになるのは仕方のない事だと …… ですが …… やはり …… 私とても悲しくて ……。」
言葉が続かない。でも話さなくても彼女の気持ちは充分に理解出来る。だって私も同じ気持ちだったから。
「 ターニャはどこにいるの? あの子にも会いたいわ。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「 …… ターニャ??」
サラに案内してもらうと、ターニャはオルゴールガーデンの東屋に一人で座っていた。近づくと彼女から何やら歌声が流れて来る。
このメロディは私が小さな頃から歌ってた童謡?? 私がいつも歌っていたから覚えたようだ。だけど本当はもっと明るい曲なのに、いまのターニャが口ずさむと何だかとても物悲しい。
「 …… みんなと話してる時は、いつものターニャなのですが、ふらりと居なくなると、ここにこうして一人でいるようですの。なんだか声を掛け辛くて ……。」
ターニャは歌い終わると、東屋から下がるチェーンを引っ張り鐘を鳴らす。庭一面にブワリと妖精が舞い出すと、彼女の小さな姿は隠れてしまった。
私はゆっくりとターニャへと近づき、背後から彼女に目隠しをする。彼女の耳元で優しく問い掛けた。
「 …… さて問題です、この世界で石を探すことができる者は、花音ちゃん、奏太と、あと一人は誰でしょう?」
ターニャは目隠しをされたまま身動き一つせず、私の言葉に耳を傾けている。
「 …… セ、セナ …… 様 … ですわ。」
「 では大切な友人を傷つけてしまい、ターニャを悲しませてしまったのはだぁれ??」
「 そ、それは ……。」
ターニャは答えない。彼女の肩がぷるぷると震え出した。
「 じゃあね、あなたを悲しませた事を謝りたくて謝りたくて … 」
「 セナ様ッ!!」
ターニャは勢いよく振り返ると、涙目で私に飛び込んで来た。
「 これは …… ゆ、夢ではございませんの!?…… ゥック、わ、わたくし …… もう二度とお会い出来ないと …… 思って …… おりましたのよ!!」
うん、私もそう思ってた。だけど奇跡って起こるものなのね。私だってここでこうして居られることが未だに信じられない。
「 ただいま、ターニャ。悲しい思いをさせてごめんなさい。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ターニャの号泣がなんとか落ち着き、グレンやフレデリック達のことを尋ねると、二人の表情は曇った。
聞けばグレンとリュカは城に戻ってすぐに、奏太を探す旅に出たらしい。そしてその二人も奏太と同じく消息を絶ってしまい、今は城中大騒ぎとなっているようだ。
「 二人って、フレデリックはどうして一緒に行かなかったの!? 」
それは ……と二人は顔を見合わせ口を噤ぐ。
「 もしかして私のせい!?」
そうとは限らないと二人は言い張る。だけど奏太だって私と同じ勇者であり、行方がわからなくなれば魔導師は捜しに行かされる立場ではないのだろうか? それとも他にもっと優先すべきことがあったのだろうか?
私は立ち上がった。
「 フレデリックはどこにいるの?」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「 困ったわね 。」
魔導師の集まる塔へと向かい、フレデリックを訪ねるが、彼はどこにもいなかった。
侍女さんが言うには、彼が行き先を告げることなくフラリと居なくなることはたまにあるらしく、それほど気にとめてはいなかった。
それよりも私が魔導師の塔に顔を出したことで、当たり前だけどその場が騒然となった。
そりゃそうよね? なんで戻ってきたんだ?って話だし。今は勇者の二人が行方不明で、多くの騎士や魔導師まで消えている状態だ。騒ぎにならないほうがおかしい。
それにしても、フレデリックはいったいどこへ行ったのだろう?
「 セナ様!こんな時こそ懐中時計をお使いになってはいかがですか??」
そうですわね、とターニャの言葉にサラも頷いている。
んん? 懐中時計を使うって一体何のこと??
ターニャはサラのブレスレットと、自分の首のチョーカーを指差す。
「 フレデリック様からいただいたこの時計には、転移魔法が掛けられていて、時計をつけているもの同士であれば、強く願うと相手の元へ転移することができるのです。」
なんと!? デザインだけでも素敵なのに、この時計にそんな高機能が付いてるの!? あ、携帯じゃないんだから機能じゃなくて魔法ね。
えっ!? じゃあこれを使えば私はもっと早くこの世界に戻れたんじゃないの!? そんな疑問が顔に出てたのか、サラが慌てて訂正する。
「 アッ!ですが私たち何度かセナ様の元に行けないか試しましたが、それは出来ませんでした。」
ね?っとターニャを見ると、彼女も残念そうに頷く。
「 そうですわ。転移できるのはこの世界の中だけのようですの。…… それに、なぜかは分かりませんが、グレン様とリュカ様の元へも転移出来ませんの。」
そうなんだ、私は肩を落とした。
でもサラとターニャが、私の世界に行こうとしたことは嬉しかった。
部屋の外がバタバタとしてきた。王宮の人達の前に出ると、会議やなんやで話が長くなるだろう。
グレンとリュカを探しに行きたいいま、そんな事に時間を取られたくはない。
私は立ち上がり二人に鞄を預けると、首から下がる懐中時計を握りしめた。心の中で「 フレデリックの元へ!」と願うと、私の周りが淡い水色の光に覆われた。
「 すぐに戻るわね 」と二人に言い終わる前に、私は目の前が暗転した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「 みぃ〜つけた!」
私は野原に寝そべるフレデリックを覗き込んだ。
「 こんな所にいたんだ!ずいぶん景色の良い場所ねー!」
私はそう言って海を眺めた。転移先が会議室だったり、お風呂場だったりしたらどうしようかと思ったけど、意外にもここは人気のない草原だった。
……… ?? あ、あれ? フレデリックに反応がない。目は開いてるから起きてるわよね? もしかして寝ぼけてる?
私はフレデリックの傍に座ると今度は小声で囁いた。
「 もしもーし!世那でーす!」
ようやく彼は上半身を少し起こすと、眩しそうに私を見る。
あっ!そうか、太陽が真上にあるから逆光だったのね? フレデリックから見たら私は真っ黒のシルエットだったのかしら? でももう起きたからハッキリ見えるわよね?
彼は完全に体を起こして、今度は怪訝な顔で私を見てる。
あれぇ? 寝起き悪いタイプなのかなぁ??
「 あのねフレデリック、何とかこっちに戻ってきたの。…… それでグレン達の所へ行きたいんだけど、あなたも一緒に行きましょう!? 」
フレデリックは無言のままなので、私は一気に用件を伝えた。しかしブワッと突風が吹いたと感じた瞬間、私の体はひっくり返り地面に押し付けられた。
…… な、なに?なに?なに?
…… 体が全然動かない。
立ち上がったフレデリックが私を見下ろす。さっきまでの二人の格好が逆になった。
「 フレデリック!何するのよ!?」
フレデリックは眼鏡の位置を整えると、静かに口を開いた。
「 セナの姿を真似るとはたちの悪いことをされますね …… そんなものに私が騙されるとでも思いましたか? 正体をさらけ出して差し上げましょう。」
そう言って黒い手をこちらに向ける。
「 ちょっ!ちょっとフレデリック!!私は本物だってば!! 」
「 黙りなさいッ!!」
彼が呪文を唱える、だけど当然何も起こらない。その場にサァッと悲しい風が流れる。
「 ほーらッ!! 何も変わんないじゃんッ! だから私だって言ってるでしょう!? 」
それでも彼は二度三度と同じ呪文をやり直すが、やはり私の正体は暴けなかった。
だって、私は私だもん。
フレデリックは信じられない、といった表情でしゃがみ込むとまじまじと私を見た。
「 しかしセナはもうこちらの世界には来れません、あなたは誰なのです!?」
天才魔導師は本格的に焦り出した。
「 だーかーらー!!それが来ることができたの!」
いいから術を解いてよ!と叫ぶけど、フレデリックはなかなか信用してくれない。
な、なに?…… 何してんの??
フレデリックは片腕を地面につけると、もう片方の手を私の頬に添えた。触感を確認してるのか、顎のラインから耳元までさわさわと撫で回す。
ちょッ!…… あの。…… こそばいんだけど!
それに近いわ!そんな至近距離で見つめられるとこっちが焦ってしまう。
彼の親指が私の唇をそっとなぞる。
その時「 チャリ 」っと私の懐中時計が首の鎖骨部分を転がった。彼の視線もそれを追う。
「 信じ難いことですが、まさか本当にセナなのですか!?」
私は頷く、だけど彼はまだ疑いの表情を崩さない。理系男子ってこんなとき本当に頑固ね。
「 どうやってこちらへ?? 」
私はここまで来た経緯を全て彼に話した。
「 …… ということにゃんだけど …… にゃにひてんにょよ?」
フレデリックが私の頬をつまんで伸ばしたりするからまともに喋れない。
体の力がフッと抜ける。
ようやく信用してくれたのか、拘束を解いてくれた。しかし見上げる目の前に彼がいるので、引き続き動けない。
「 セナ、私はあのとき ……。」
フレデリックは言葉に詰まる。
なんてつらそうな顔をするの?
私も彼の頬に触れそのまま頭をなでた。
「 随分ひどいことを言ったわ。本当にごめんなさい。」
「 いえ、そんなことより私はこの五日間、あなたを返したことをずっと後悔していました。」
そう言って彼は体を起こすと、私の体も起こしそのまま私を優しく抱きしめる。そして耳元で囁いた。
「 ですからもう二度と、私はあなたを返しません。」
…… ん?…… ちょっと待って!? 今なんて言った??
私はフレデリックに抱きしめられたまま顔を上げた。彼はさらっさらの髪を揺らして微笑んでいる。
うぉ!…… 超美形 〜 …… じゃなくて!!
私はフレデリックから体を離した。
「 やッ!フレデリック!? いずれはまた帰るわよ? そりゃ今すぐじゃないけどいずれはね?」
その言葉を聞いても、彼はニコニコと微笑んだまま表情を崩さない。
フレデリックは立ち上がり、体についた草を払うと次は私に手を差し述べた。彼の背後に見える海の水平線が眩しく輝く。
私はその手を掴んだ。
「 いいえ、絶対に返しませんよ。」
………… へ??
彼は私の頭や体についた草を丁寧に落としながら、サラッと恐ろしい言葉を吐き続ける。
「 これは決定事項です。この先どんなにあなたに泣きつかれても、私は絶対にお返しませんから覚悟して下さい。」
私は言葉を失った。
彼は「う〜ん!」と背伸びをすると、実にスッキリとした表情で振り返る。
「 それでは行きましょうか!」
「 …… どこへ?? 」
「 決まってるでしょう? グレンとリュカの所へです。石集めの旅を再開するのでしょう??」
……… まぁいいかぁ。後のことは後で考えれば良い。いや、絶対帰るけどね?
今は仲間達との再会を喜ぼう。
「 ねぇフレデリック、あんまり酔わないように転移してよね!」




