78【哀しい幻覚】
どうにか今日中に間に合いました!
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「 …… ッツゥ ……。リュカッ!!」
モウモウと砂煙りが舞い上がり、視界が確認できない。天井を見上げると、落ちてきた穴は何事も無かったかのように塞がっている。
あの高さから落ちたのか? 幸い落ちた先は石畳みではなく土だったが、身体に受けた衝撃は耐えがたいものであった。
暗い …… ここは小さな洞窟か?
事態を把握するため立ち上がると、利き腕に激痛が走る。どうやら落ちたときに肩をやってしまったようだ。
それよりリュカだ、なぜ返事をしない!?
砂煙が落ち着くと、離れた場所に人影が倒れている。駆け寄り声をかけるが反応がない。
頭を打ったのか!?
身体を揺さぶり名前を呼んでもリュカは意識を戻さない。何度も頬を叩きながら、ふとリュカの首すじにあるものを見つけた。
「 この痣は!?」
嫌な予感は外れてくれ、そう願いながら慌ててリュカの右手の手袋を剥がし愕然とする。
あの時リュカは避けきれてなかったのだ ……。
魔物の鉤爪はリュカの右腕を切り裂き、そこから毒が回っていた。右手の先から肩の付け根まで、痣よりも深く真っ青に変色している。
なんてことだ!私に心配かけまいと黙っていたのか。
「 も … 申しわけ …… ありません。」
薄っすらと目を開けリュカは悔しそうに笑う。
「 大丈夫だ!! すぐに治してやる!」
なんとか励ましながら、リュカの身体を起こすと彼は顔を歪めた。
ダメだな、動かせない。足が折れてしまっている。彼の甲冑の隙間から血が流れ出ててきた。
「 …… レン …… さま、僕を …… 置いて行って下さい。」
崩落とともにさっきの宝箱も落ちてないかと、私は洞窟の中を見回す。…… 畜生、宝箱もまとめてこのダンジョンの罠だったのか!
「 …… グレン様は …… 僕を特別扱いしなかったから …… 嬉しかったです ……。」
リュカの焦点はだんだんと私の顔から逸れてゆく。何とか彼の出血を止め、再び辺りを見回すと洞窟の先に明かりが見えた。そこがこの洞窟の出口らしい。
「 待ってろッ!! 必ず助けてやる!! 」
「 ……… も ……… ど ………。」
…… 何だ!? 何と言っている??
私はリュカを振り返った。
「 …… もう一度 …… セナ様の料理 …… 食べたかったな ……。」
それだけ言うとリュカは意識を失い、その目から一筋の涙が流れ落ちた。あれ以後に初めてセナの名を口にするのがこの言葉なんて、そんな無情なことがあるのか!?
私は前を向き洞窟の淵へと駆け寄る。
なんて事だ ………。
目の前の光景に絶望感が広がる。
私とリュカのいる洞窟は、大きな空間の横穴で、遥か先の崖下には大きな竜族の魔物が三体歩き回っていた。
あれはッ!!
なにも悲観することばかりでは無い、魔物の奥に宝箱が見える。それに竜族の魔物は回復薬を落とすことが多い。あいつらを倒すことが出来ればリュカを …… この場を切り抜けることができる。
しかし相手は二足歩行で鎧を装備し、剣や槍を携えている。しかも最悪なことに竜族は、自分が最も得意とする「炎系」の攻撃に強い。恐らくだが魔法攻撃も使える魔物だろう。利き腕の負傷と殆ど尽きた魔力でどこまで立ち向かえるか無謀とも言えるが。
私は再び背後を振り返った。
リュカ、お前を死なせるわけにはいかない。
覚悟を決めて一気に崖を滑り落ちた 。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
倒すべき魔物はあと一体のみだ!!
残るその一体も既に息も絶え絶えであり、上手くいけば次の一手で倒せるかもしれない。
私は剣を持ち替えた。利き腕はさっきの攻撃でもはや使い物にならない。もともと落下の際に負傷していたが、今では骨が砕けてしまっている。
グラリと目眩がして、私は足に力を込めた。
だが踏ん張りがきかない。理由は分かっている、脇腹に刺さっているこの槍だ。
最後の魔力で攻撃を放ったとき、敵も残された力で槍を投げてきた。かろうじて急所は避けれたが、この槍を引き抜けば多量の出血で命が危ぶまれる。
目眩以外に視界がグニャリと歪んでいる。
槍の先に毒が仕込んであったのか、それともそういった魔法をいつのまにか掛けられたのか、さっきから体が思うように動かない。
意識まで朦朧としてきた。
「 グレン様ッ!! 正気を保って下さいッ!! 」
隣でリュカが叫ぶ。
分かってる …… 大丈夫だ。
「 グレン、あと一太刀で我々の勝利ですよ。」
あぁそうだな …… フレデリック。お前が共に来てくれたからここまで来れた。
「 それくらい早くやっつけちゃってよッ!」
そう急かさないでくれ、セナ。それくらいというが、この魔物はA級クラスの魔物だぞ?
「 あら!だったら私がやっつけましょうか? 」
彼女は優しく微笑む。ほんの数日会わなかっただけなのに、随分と懐かしく思える。
「 早く次の石を探しに行きましょう?」
そうだな、私達の旅はまだ終わっていない。さっさとこの魔物を倒して、侍女達の待つ宿屋へと戻るとしよう。
──── なんだこれは??
体に温かいものが流れる。
それが自分の血だと漸く気がつき不思議に思う。いつの間にこんな傷を負ったのだろうか? だが不思議なことにあまり痛みは感じない。
周りを見ると、さっきまでいた皆の姿が見えない。前を見ると魔物の足元に仲間達が無惨な姿で横たわっていて、顔から血の気が引く。
なんて事だ …… 魔物にやられてしまったのか!?
私は目を閉じ頭をブルブルと振った。その反動で体がよろめき片膝をつく。辛うじて歯を食いしばり魔物を睨むと、そこに仲間の姿は無かった。
やはり幻か。そうか、私は幻覚を見る魔法か毒におかされているのだな。これはまずい、早く相手に留めをさして回復処置を施さねば精神までやられてしまう。
私が剣を構えると、魔物も片腕を上げながら何か大声を挙げた。その手に炎がゆらゆらと膨らみ始める。
あいつ、まだそんな力が残っているのか? 攻撃を避けなければ死は免れないだろう。頭ではそう分かってるが体が一歩も動かない。
ダメだ …… 血を多く流しすぎた。せめてリュカだけでも更なる応援部隊に救われれば良いが ……。
その時、背後から大きな声が響く。
「 グレンッ!! 伏せなさいッ!! 」
私はその声に従いながら …… もしくはすでに立っている気力すらなかったのかもしれないが、その場に倒れこみ、かろうじて声のした方を振り返る。
本当に幻覚とは都合の良いものを見せてくれる。
崖の上の弓を構えるセナの姿を見て、思わず笑みがこぼれる。
彼女は誠に勇ましくも美しい。
そんな姿を見て胸は張り裂けそうに傷むが、最期に彼女を見ることができ嬉しさの方が勝る。
そうだな、彼女の記憶を消すなどあり得ない。
私は薄れゆく意識の中で、自分がどれほど彼女を望んでいるのかを思い知った。




