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異世界ライフは美しい!  作者: 清水悠


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69【夕食後】

「 あっ!ちょっと待って!そこで待ってて!!」


 私は部屋へ行って、窓辺に吊るしていたバラを外すと、急いでリュカの待つ談話室まで戻った。


 すでに時刻は20時を回り、夕食を終えたそれぞれは部屋へと戻っている。キッチンで明日のお菓子の下準備をしていると、たまたまそこへリュカが通りがかった。


「 なんです? この汚い花は。」


 テーブルに置いたバラの花を見て、リュカは怪訝な表情を浮かべる。


「 汚くてもいーの。…… もうほとんど乾いてると思うんだけど、これを完全に乾かしたいのよね。」


 私は人からもらった花を、乾燥させて保存するのが好きなのだ。思いがけずこの世界でも手にすることの出来たこのバラを、どうにか形にして残したかった。


「 …… つまり、それを私にやれという事ですか。…… どんどん貸しが増えますね?」


 リュカはニッコリと悪戯好きな顔をする。こんなに綺麗な顔立ちで、貴族だというのに大らかな心は持ち合わせてないのだろうか?


「 ま、いいですよ。花を干からびせるなんてやった事ありませんが、こんなの魔法で簡単に出来ますから。」


 リュカはしばらくの間、バラの花を見つめ何か考えていたが、やがて首を捻った。


「 アレ? ち、ちょっとお待ちくださいね ……。因みに花本体を傷付けるのは …… ダメですね、了解。」


 そんなに睨まなくても良いのに … と不満を露わにしながら、リュカはキョロキョロとテーブル付近を見渡す。すると、なぜかテーブルにあるグラスに水を注ぎ、それに手をかざした。


 瞬時に水は沸騰して、その熱さに耐えきれずグラスはパリンと割れてしまう。


「 あー! 何やってんのよ! リュカ!! 」


 私は驚いて声をあげたが、リュカは腕を組んで更に考え込んでいる。


「 そうか …… てことは ……?」


 再び別のグラスに水を注ぎ、グラスに手をかざすと、やがてコポコポと音を立てはじめた。

 リュカがハッと手を振り払うと、水の沸騰はおさまる。どうしたのだろう? また割ってしまいそうだったから魔法を解いたのだろうか?


「 リュカ ? 」


 恐る恐る声をかける。だけど彼は私の声が全く届いてないようだった。今度は目を閉じると深く呼吸を整え、もう一度グラスに手をかざした。


 次の瞬間、リュカが目を開いたと同時にグラスの水は一気に煙となった。いや、煙に見えたのは蒸気であり、グラスの水は一瞬で気化したのだ。


「 …… 信じられない、セナ様!! 私は天才かもしれません!」


 リュカは私に向き直るとキラキラした笑顔でそう叫ぶ。だが、グラスをよく見るとピィーッと亀裂が入ってしまっている。


「 この魔法はバランスが難しい上に、魔力の消費も意外と …… 上手くいったと思ったのですが、もっと訓練が必要ですね。厨房からグラスを借りてきます!!」


「 ちょっ!ちょっと!!バラはー!?」


 珍しく年相応に興奮気味のリュカを引き止めると、彼は一瞬面倒そうな素振りは見せたが、バラに手をかざした。


「 多分これで花の水分は抜けたでしょう。私はやることがあるのでこれで失礼します!」


 一体なんなんだ、忙しい子ね。

 でもまぁ、頼み事をした割に嬉しそうな顔で部屋から出て行ったから、私も気分が明るくなった。


 バラに触れてみるとカサカサに乾いている。

 よし!これでドライフラワーの完成!


「 この惨状は何ですか?」


 リュカと入れ替わりに部屋へと入ってきたのはフレデリックで、どうやら彼はお風呂上がりのようだ。寝巻き姿もスタイリッシュってどんだけよ。

 彼はテーブル上の割れたグラスとこぼれた水を見ると「 ケガはありませんか?」と心配そうに覗き込んだ。


「 ごめんなさい!すぐ片付けるわね。」


 改めてテーブルを見ると酷い有様だ。私がキッチンへ掃除用具やトレイを取りに行こうとすると、背後から「 その必要はありません。」と呼び止められた。


 振り返ると、フレデリックは何事も無かったかのようにグラスに水を注いで飲んでいる。テーブルには、割れたグラスやこぼれた水はどこにもなかった。


 …… 凄い。


 リュカはさっきの魔法で、新しい魔法を閃いたみたいだけど、やはりフレデリックの魔法は突き抜けているような気がする。そもそも騎士と魔導師とでは魔法のレベルがケタ違いなのかもしれない。


「 今も石は移動していますか?」


 フレデリックにそう聞かれて我にかえる。意識を集中すると、やはりこの町にある石はさっきとは別の場所にある。


「 変よね、村から出るほどではないけど、今までと違って石が動き回るなんて。」


 今思えば、この町で一番身近に感じたのは、ギルドにいる時だった。だけどあのとき私は所長さん達の画策で催眠状態に陥っていて、ぼんやりと近くにあるなぁとしか思えなかった。


「 ギルドで、ですか。それならば石は人が持っている、と考えたほうがよさそうですね。そうなると、なぜこの世界の者が見つけることができたのか疑問が浮上します。」


 そうなのだ。私達の集めている石は、異世界から来た者にしか見つけられなかったはず。別の国で、私と同じように召喚された人がいるのだろうか?


「 その可能性は有り得ません。召喚魔法を使える者が、私以外に存在するとは思えません。」


 そんなの分かんないじゃない。フレデリックが凄いのは分かるけど、世界は広いんだからどんな人がいるかなんて完全に把握するなんて無理だ。ましてここはネットも普及されてない異世界なのだから、未開の土地に隠れた魔導師がいてもおかしくない。


「 ふふっ、セナは想像力が豊かですね。そのような者がいるのなら、是非お会いしたいです。」


 まぁ、石の事は明日はっきりするでしょう。と彼は微笑むと「おやすみなさい」と部屋へと消える。私もキッチンでの用事を済ませると、お風呂に入り部屋へと戻った。


 完成したドライフラワーを、ガラスの小瓶に入れて蓋をする。短期間で水分を抜いたから、バラの赤い色がいつもより鮮やかに残っているのが嬉しかった。私はしばらくそれを眺めると、そっと鞄の中にしまった。これでまた一つ自分へのお土産が増えた。


「 さてと …… パトリックさーん、何か飲みますか?」


 ソファーにゴロリと寝そべっているパトリックは、私の声掛けに顔だけこちらに向ける。


「 いいでしよー。今はノドが渇いてないでし。」


 ノドが渇いているときっていつなの?

 それに、一応私も独身女性に入ると思うんだけど、ちょっとまったりし過ぎじゃない?


 一体いつからいたのか。自室に何の前触れもなく魔物がいても、あまり驚かなくなってきた。


 魔物がというより、それなりの大人の男性と二人きりでいる事の方が、問題なのではないかと不安になりはじめる。


 いやでも、異種間でそんなこと考える方がおかしいのだろうか?…… ほら!私達の世界でもオウムやインコなんかは人語を喋るじゃない? 鳥相手に異性感じてたら不自然なんだから、やっぱりここは気にしなくて良いのかしら?


「 手紙でしよ〜。」


 私はハッと意識を戻すと、テーブルに置いてある手紙を開く。


「 早く返事を書くでしよ! ロウ様がお待ちなんでしからね〜。」


 急げと言うわりにパトリックはのんびりと、仰向けになりソファーのクッションを天井に向かって投げたりキャッチしたりを繰り返している。


 へぇ、パトリックが屋敷のご主人を名前で呼んでる。


 前回の手紙のやり取りで、あの男性には名前がなく、私につけて欲しいと言われたので「ロウ」と提案した。──意味は『 秩序 』。彼がどんな人なのか分からないから、正しい行動や考え方をしてもらえるよう願いを込めて、その名前にさせてもらった。

 今回届いた手紙を読むと、どうやら名前をとても気に入ってくれたようだ。


 手紙を読み進めると、バーミーズマウンテンの残された人達のことも、わりとあっさりと教えてくれて逆にこちらが驚く。ロッドの弟の事もあるし、この事はグレン達に話さないといけない。頭ではそう思っているのだけど、なかなかタイミングが難しかった。


 あと二日で元の世界に帰るのだから、明日は絶対に話そう。


 そう心に誓うと、私は早速お手紙の返事を書くべくペンを走らせる。

 内容はパトリックの事を仲間に話すこと、バーミーズマウンテンの詳細を教えてくれたお礼、そして、手紙に添えるお菓子の食べ方などを書くと、手紙の封を閉じた。


「 パトリックさん、手紙書けましたよ。」


 パトリックに声をかけると、彼はクッションを受け止め損ね床へ落とした。数を数えながら投げていたから、パトリックは急に声をかけた私にプンスカと怒っている。


 いや、毎回六回目で落としてたし、だいたい数の数え方も間違ってるから。


 パトリックは手紙とお菓子を受け取ると私をジッと見つめた。


「 今日は一緒に行くでしか?」


「 いーきーまーせーんー。」


 このやり取りも飽きてきた。毎回行かないって答えるのに、パトリックはよほど私を屋敷へ連れて行きたいようだ。


「 あっ、そうだ!忘れるところだったわ。」


 私は声を上げると、パトリックにギルドでもらった剣を渡した。


「 ええと、これはドロップ品で新しい物じゃないから、良いものなのか分からないけど、斬れ味はそんなに悪くないと思うの。」


「 ロウ様は立派な剣をお持ちでしよ?」


「 あぁ違うの、この剣はロウさんにじゃなくてパトリックさんにあげようと思って。」


 彼がいつも携えている剣は、刃先が欠けていてボロボロになっていた。パトリックは、しばらく自分の剣を見ていたけど、新しい剣と見比べて、いそいそと交換する。


「 代わりにこれをあげるでし。」


 いや、いらないし。


「 似合ってましか?」


「 ええ、とっても。」


 私が笑顔で頷くと、パトリックも表情は分かりにくいけど嬉しそうだった。彼も私がこの世界でお世話になった人(?)の一人、何かお返しができて良かった。


「 ん?…… 誰かいましか?」


 ふとパトリックが部屋の扉のを見て首を傾げる。私は慌てて廊下を覗いたけど、そこはシンと静まり返り誰もいなかった。


「 じゃあ手紙お願いします。私は今夜はもう寝るから、お返事があっても明日にして下さいね。」


 そして、くれぐれも深夜になってから来て下さいね!と念を押す。パトリックは「 分かった分かった 」と軽い返事をして消えてしまった。


 本当に分かってるのかしら?

 まぁ、明日になったらみんなにロウの事も話すから、その後にパトリックの事も紹介しよう。いくら魔物といっても、ちゃんと話せばグレン達も彼を攻撃することはないだろう。


「 あぁ、疲れたぁ……。」


 今日は本当に色々なことがあった。だけどこんな体験も、あと少しで終わってしまうかと思うと、この疲労感さえ心地良かった。

 私はベッドに倒れ込むと、そのまま深い眠りへと落ちていった。

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