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異世界ライフは美しい!  作者: 清水悠


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63【波風を立てない方法?】

「 パトリックさん! ねぇ、パトリック!起きて ! 」


 私は小さな声で彼を起こした。いつからいたのだろう? どうやら待ちくたびれて眠ってしまったようだ。


 寝息をたてているから眠っているのだろうけど、なんせ顔が骸骨で目が開いた(?)ままだ。よく分からない。


 あっ、起きた? なんとなくだけど表情が分かるようになってきたかも。


「 あなたは一体誰でしか?」


「 何の用? パトリックさん。」


 私はため息をついて逆に質問した。相変わらずこの魔物は危機感がない。誰かが部屋に入ってきたらどうするつもりなのよ。


 パトリックはキョロキョロと辺りを見回している。しばらくするとここにいる理由を思い出したようだ。


「 そうでした、コレを受け取るでしよ。」


 手紙? あのやりとりはどうやらあの日限りではなかったようだ。私はそれを受け取ると中を開いた。

 手紙の内容は「元気ですか?」とか「最近は過ごしやすい天気だ」とか「また屋敷にお越し下さい」など当たり障りのない内容だ。差出人には「屋敷の主人より」とある。


「 今回は屋敷に行くでしか?」


「 いーきーまーせーんー。」


 私はきっぱりと断る。

 あの男の人は、なぜこんな手紙をよこすのだろう? 初めて城のテラスで会った時のことを思い出すと、もっと …… なんていうか『悪意の塊』みたいな印象だった。


「 ねぇパトリックさん!どうして私がここに居るって知ってるの?」


 時計の町の宿屋では、あの緋色の鏡から私を追って来たのだろうと思った。だから特に不思議は無かったけどここは別の場所だ。


「 ずっと跡をつけてたの?? 」


「 跡をつける? …… そんなことしてないでしよ?ご主人様がここに届けてくれたのでし。」


「 じゃあどうやって帰るの ?」


「 帰りたいと思ったら帰れるでし。」


 そういう魔法があるのだろうか? グレンはホイホイ好きな所に転移は出来ないと話していたわよね? あぁそっか、あの屋敷のご主人はラグドール城に侵入出来るほどの魔導師だっけ?


 そもそも屋敷の主人は「悪い人」なのだろうか?この村には、魔物を連れて歩いてる人を何度も見かけた。実際、私にはパトリックが悪い魔物だとは思えない。このご主人だって崖から落ちる私を助けてくれたわけだし、手紙の文面もいい人だ。


 でもそうじゃないときもあった。城のテラスであの男はグレンに向かって失礼な事を言っていた。あの言葉はラグドールの騎士達に対してあまりにも冷酷である。それではやはり「悪い人」?


「 返事を書かないのでしか?」


 パトリックに声をかけられ、私はサイドテーブルの引き出しから紙とペンを持ってきた。


 良い人か悪い人かは分からないけど、どうせならこの国にいるみんなのために、私ができる事はやってみよう。


 私は手紙に「あなたは悪い人なのですか?」「バーミーズマウンテンに残された人は無事ですか?」そして「あなたの名前を教えて下さい。」と書き綴った。


 ちょっと直球過ぎるかしら?


 それから、「自分はあと二日で元の世界に帰るので、パトリックさんがこちらに来ると、退治されてしまうかもしれません。くれぐれもご注意を。」とも添えた。


 パトリックに手紙を渡し、何かお菓子でも添えようかと振り返ると、魔物の姿は既に消えていて、部屋の中は私一人となっていた。


 パトリックは転移を使えるのだろうか?

 鎧を着ているし、ボロボロだけど剣も携えているから、剣士なのだろうけど。それとも魔物の種類によっては瞬間移動に長けてる種族なんかがいたりするのだろうか。


 さっきまでパトリックが座ってた場所を呆然と見ていると、部屋の扉がノックされた。


 パトリックが転移し損ねて部屋の外に出たのかと、慌てて扉を開けるとそこにはグレンが立っている。こんな時間になんだろう?


「 …… 少し時間いいか? 話したい事がある。」


「 そ …うね、いいけど …… じゃあ談話室でも行く?」


 万が一パトリックが戻ってきたらと思うと気が気じゃない。チラチラと部屋の中を振り返ると、グレンが訝しんだ。


「 部屋に誰かいるのか?」


「 い、いえ誰もいないわよ。…… そうね、だったら私の部屋でも問題ないし、どうぞ?」


 前にパトリックが来たときも、その事をみんなに話しそびれてしまった。それならいっそグレンとパトリックがばったりと会ってしまった方が、話が早くて良いのかもしれないと思い直した。


 テーブルの上には手紙が置いたままだ。私はさりげなくそれを掴むと背中のほうに隠す。話すにしてもタイミングって大事よね?


「 それで、話ってなに?」


 何か態度が不自然だったかしら? グレンはしばらく私を眺め、それから深いため息を漏らした。


「 まぁ良いだろう。…… 実はロッドには弟がいる。彼も兄と同じでラグドールの騎士を務めている。兄弟とも剣士として優秀であり、セナがこの世界に来る前、私達がバーミーズマウンテンへと調査に行ったとき、そのメンバーに二人とも含まれていた。」


 フンフンと話を聞きながら思う、冒頭の「 まぁ良いだろう」って何のこと? 話の内容が大切な事だとは思うけど、今のグレンはピリピリとした空気を纏い威圧感がある。


「 前に、塔に残された者がいるという話をしたのを覚えてるか?」


 もちろん、たった今その事を手紙に書いたばかりだもの。そしてそこまで聞けばその後に続く言葉は容易に想像できた。

 そうか、そういう事なのね。確かにそれは軽々しく話せる事ではないだろう。


「 その中に、ロッドの弟がいるのね?」


 グレンはつらそうに頷いた。その弟の安否がわからないだけでも団長としてかなりの重圧がかかる。その上その家族に拒まれることは相当心苦しいに違いない。


 確か塔に残された者は、生存の確認がとれていないから、家族には知らされていない。と言っていたわよね。


「 ロッドのお父様はどこまで把握してるの? 何も知らないならあなたを拒むはずがないでしょう?」


「 そうだ。ロッドのお父上は、調査から戻ったとき、たまたまラグドール城下町を訪れていて、息子達に会いに来たのだ。だが状況が状況だったため面会の許可は下りず、その事をロッドに問い詰めたらしい。」


 詳細は話していないが、息子にただならぬ事が起きてる事は勘づいてる、と。更にグレンは話を続けた。


「 ロッドがこの村を管轄としてるのは、彼のお父上の行動を監視するためでもある。」


「 監視? どうして自分の父親を監視する必要があるの?」


「 この村にはギルドがありハンターを生業としている者が多く訪れる。ロッドのお父上がそのハンターを雇いバーミーズマウンテンへ向わせぬよう、ロッドが見張っているのだ。」


 そんな複雑な事情があったのね。


「 聞くところによると、ロッドのご両親はかなり憔悴し、眠れぬ毎日を送っているようだ。」


「 …… 明日私は、そのお宅へ訪問しなければならないのね。」


 グレンは絞り出すような小さな声で呟く。


「 すまない ……。」


 こんなときなんて声を掛ければ良いのだろう。「あなたは悪くないわ」とか「大丈夫よ」とか?


 グレンは騎士団の団長なんだから、全責任を負わなくてはならない。だから彼が悪くないかどうか私には分からないし、明日私の精神が大丈夫かどうかも分からない。気休めや不確かな言葉を口にするのは嫌だった。


「 話してくれてありがとう。」


 何も事情を知らないまま訪問するよりか、知ってたほうがいい。私は素直に礼を言った。


「 ロッドのお父上がセナに何かするとは思えないが、招かざる客である事は間違いない。私達のせいで嫌な思いをさせてしまい申し訳ない。」


 グレンは話を終えると部屋を出て行く。おやすみを言って扉を閉めようとしたとき、その手で扉を押さえた。


「 セナ、何か私に話したい事はないか?」


 話したい事? そりぁたくさんある。パトリックのことや元の世界に戻ること、それにキ、キスの …… これはもういいか。

 だけど、明日のことを考えると気が重く、どうせあと二日でこの世界ともお別れだと思うと、何だか色々と面倒になった。


 私は無言で首を横に振って扉を閉めようとすると、ふいに体を引き寄せられキスされる。


「 …… おやすみ。」


 そのまま扉は閉じられ、グレンの足音が去って行く。私はフラフラと椅子へと座り、ゆっくりとテーブルに肘をつき、それから両手で顔を覆った。顔が熱い。


 ダメだ …… なんか ……「おやすみのキス」が習慣化している。


 そ、そりゃあ私の世界にも挨拶でキスをする国はある。だけどそれは私の国ではないし、そもそも恋人同士じゃない場合は唇にしない。…… そんなこと今更訂正しにくかった。


 そして、そのままテーブルに顔を伏せる。


 フレデリックがいた。

 こっちを見ていたわよね?


 グレンが私にキスをしたとき、彼の背後にフレデリックが立っていた。距離はあったけど目が合ったような気がする。

 理由は分からないけど、何故か見られたことにショックを受けている自分がいた。


 あぁもう、ただでさえ石を戻して体力を減らしているときに、余計な事で考え込みたくない。


「 どうせあと二日よ。旅の恥はかき捨てって言うじゃない。」


 私は顔を伏せたまま呟いた。


「 おや、まだ起きてたでしか。」


 顔を上げると、パトリックが立っている。この魔物の登場はあまりにも唐突過ぎて心臓に悪い。


「 パトリックさん!帰るときはちゃんと『帰る』って言ってから帰りましょうね?」


 来るときだって、本当ならあらかじめ予告が欲しいくらいだ。


「 言わなかったでしか?」


「 私は聞いてません!」


 プンスカと罪の無い魔物に当たり散らし、手紙を受け取り中を開いた。


 手紙はとても丁寧に書き綴られている。

 不躾な質問ばかりだったのに、文章には気分を害した様子は見られなかった。


 ふーん、なになに? …… 自分でも「良い人間」なのか「悪い人間」なのか分からない? まぁ自分で良い人と言う人は絶対悪い人だわ。ああ、バーミーズマウンテンの事も書いてあるわね、…… えっ!?そうなの!?…… 元の世界に戻ったら石探しはどうなるのか?ですって?そんなの知らないわよ。そして自分には名前がないからつけて欲しい …… って。


 ええ? 名前がない?彼はフランケンシュタインなの??


 それから、パトリックは割と強いからお気遣いなく、とある。いやいや、こちらとしては無用な戦闘は出来るだけ避けたいのよ。ってゆーかさぁ……。


「 パトリックさんて強いの ?」


「 ん? 剣の腕前の事でしか? それともボードゲームの事でしか?? 」


「 剣のほう。」


 どちらかといえば、気になったのはボードゲームだけど。


「 それは強いでしぞ! 私はレベル99を極めた者でしからな!」


 ふ〜ん、よく分からないけど凄そうね。何で100じゃないのかしら?…… あれ?「それは」ってことはボードゲームの方は弱いの??


「 あのね、どんなに強くても、私の仲間は傷つけないでよ!約束よ?するならボードゲームにしてね?」


 くれぐれも念を押すと、パトリックは「 あいあい」と軽い返事をしていた。


 さて、お返事を書かなきゃね。パトリックのお陰で落ち込んだ気持ちが少しだけ浮上出来た。

 私はペンを持ち少しだけ考え込むと、やがて紙の上にそれを走らせた。

いつも読んでいただきありがとうございます。


ブクマと評価をしてくれた方もありがとうございます!




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