61【バリニーズ村】
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「 わぁ〜! なんて大きい街なの!!」
たくさんの人が賑わうこの街に、私達が到着したのは、そろそろ日が沈みはじめた頃だった。
「 グレン様 !!」
正面から一人の騎士が向かってくる。グレンはその騎士に軽く手を上げた。
「 そろそろ到着する頃かと思い、こちらで待機させていただきました!どうぞ!村をご案内致します!」
彼は一息にそう挨拶すると、私達にも爽やかな笑顔向けた。
「ようこそおいで下さいました!バリニーズ村へ!」
うわぁ!なんかいい感じの騎士様じゃない? 彼は視線を私へと移すと、その場に跪いた。
「 勇者セナ様でございますね。私はロッド・バックルガー、グレン様の隊員に所属しております。お噂はこの村まで届いております、お会いできて光栄です!」
う、嬉しい〜! なんだろう? この世界にきて一番嬉しいご挨拶かもしれない。だってグレンもフレデリックもリュカも初対面は微妙だったじゃない。
村の中を歩きながら、グレンが彼を紹介をしてくれる。ロッドはこの村出身で、現在は駐在騎士を勤めている。
そっか、騎士と言ってもずっとお城にいるわけじゃなくて、その国のいろんな所が管轄になることもあるのね。
「 それでは皆様、この村に滞在する間ホテルになさいますか? 宜しければ一軒家のご用意もございますが。」
そこまで言って、ロッドは気まずそうに目を伏せた。
「 本来なら当家にお招きするべきなのですが …… 申し訳ございません。」
「 いや、構わない。これ以上バックルガー家に迷惑をかけることはできないからな。お前も気を遣わないでくれ。」
グレンは即座にそう言って、ロッドの頭を上げさせた。何か事情がありそうだったけど、すぐに話題が身を寄せる場所の話となってしまったから、なぜロッドが謝ったのか分からずじまいだった。
気兼ねなくいられる一軒家が何かと楽だろう、と私達がそちらを選ぶと、早速ロッドが案内してくれる。私達は通りに並ぶお店をチラチラと見ながら彼について行った。
村の中を歩いていると、さまざまな人種の人たちとすれ違う。中には魔物を連れていたり、獣みたいに身体中毛に覆われていたり、むしろ魔物じゃないのか?といった風貌の者も普通に歩いている。
目の前を歩く人物は、二足歩行をして腕もちゃんとあり、甲冑を着込んで腰には剣を携えている。しかし首から上はどう見ても魚にしか見えない。
半魚人なのかしら?
ジロジロと見るのは失礼だと思っても、つい見てしまう。その人(?)は、前に歩いていた小さな女の子が転ぶと、ソッと起き上がらせ頭を撫でていた。
ここは元々は小さな村だったけど「ギルド」という特別な商業施設ができてからは、訪れる人が増え大きな街へと発展したらしい。
そしてこの街をまとめているのが、私たちを案内してくれているロッドのお父さん、ということだった。
「 なかなかのイケメンですわね。」
歩きながらターニャが小さな声で話しかける。サラも「そうですわね」と微笑んで返していた。うんうん、私もそう思う。
ロッドは長身で赤みががった長い髪。よく見ると長く伸びた後ろの髪は一つに束ねていた。美形は美形だけど、目尻はキリリと釣り上がり、どちらかというと快活そうな印象を受ける。
物事をハキハキと歯切れよく話し、男女問わず誰からも好かれそうなタイプの男性だ。
アレ? てことはサラの好みに近いのではないのかしら?
そう思い直接本人に聞いてみると、サラは「さぁ、どうでしょう。」と、困ったように首を傾けていた。
「 こちらでございます!」
ロッドが立ち止まり、利き手を建物のほうへと向けた。
へ、ヘェ〜、これが一軒家??
「 ロッド、少し …… 大きすぎる。」
グレンが一同の意見を代表で言ってくれた。ロッドは心外とばかりに驚き、もう一度お屋敷を見上げる。
「 左様でございますか? しかし、勇者様のご滞在に、あまり小さな屋敷では……。」
グレンは控えめに言ったけど、このお屋敷は時計の町のお宿が十軒くらいスッポリと入りそうだ。っつうか、これは国の重要文化財のレベルよ? 私の世界でこのレベルの建物は、宮殿とか迎賓館と呼ばれる建物ですよ?
何度も出入りするため、できればもっと手軽な家が良いとお願いすると、少し離れた場所の一軒家に落ち着くことができた。
「 本当にこのような小さな屋敷でよろしいのでしょうか??」
いえいえ、このお屋敷でも十分広いから。このお屋敷は客室だけでも十二部屋あった。
「 ん ───ッ!!気持ちいい!!」
ここでも各自お部屋を割り当てられ、私は荷物を置くとベッドに横になり、思い切り背伸びをした。何時間も馬車に揺られていて、身体が固まっていたのだ。
少し休んだら、ロッドが街で評判のレストランへと案内してくれる。どんな料理なのか今から楽しみだった。
それにしても、改めて考えても最初に紹介されたお屋敷は大きかった。あれがロッドの家の別荘というのだから、本宅はきっとそれ以上なのだろう。私が「 すごいわね!」と驚いてると、ターニャは「 まぁ別荘としてはお手軽な大きさですわね。」と微笑を浮かべていた。
だいたい私のマンションの部屋は、キッチンと浴室、玄関部分まで含めてもこの客間より狭い。元の世界に戻ったら、とうぶんはこの落差に凹むかもしれない。
ヨッ!と体を起こし部屋の窓を全開にすると、心地良い風が外の空気を運んでくる。そしてテーブルへと向かうと、鞄の留め金を外した。
この鞄は、私専用で白地にキャメル色のベルトが付いている女の子仕様だ。中を開くとオレンジ色に近いピンクに、小さな白い花柄の入った布地が張られている。
かわいいでしょ? サラがくれたの。
鞄の中央には封筒が一通と乾燥したバラが一本入っている。私はそのバラを取り出すと、花びらの付け根や茎の部分を丹念に調べる。
まだ乾燥しきってないわね、もう少し乾かそう。
部屋の中で、直射日光の当たらない場所を探すと、窓を開けそのバラを陰干しした。
次に、フレデリックから受け取った短剣を取り出して、グレンから渡されたベルトに嵌め込む。それからワンピースの上にそのベルトを装着して、剣を抜いてみた。
私は短剣をクルクルと回すと、もう一度ベルトに収まってる鞘にしまい、再び取り出し、またしまう、それを何度か繰り返した。
へぇ!抜きやすい。
ベルトは着けていても違和感なく、その高さも悪くない。短剣はもう少し重い方が好みなんだけど、柄の部分の握りやすさが気に入った。
当たり前だけど、元の世界では実戦なんてなかったから、剣舞で使用する物も見栄えする派手なものが多かった。対してこちらの物は、実用性に優れていて殺傷能力も高そうだ。
私はふと、窓の外に視線を移した ……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「 全く。どうしてこんな事になるのですか?」
「 …… ごめんなさーい。」
「 あそこの窓から投げたようですね。」
「 …… すみませーん。」
「 はぁ、とても女性のする事とは思えません。」
「 …… 反省してまぁす。」
リュカは冷ややかな目で私を睨むと半ば本気で怒り出した。
「 僕の魔法はこんな事のためにあるのじゃないのですが。」
「 もぉ〜ごめんてば!!いーから、早く取ってよ〜!!気がついたら投げちゃったんだもん!仕方ないじゃない!!」
見上げると、庭の大きな木のかなり上の方に短剣がザックリと刺さっている。部屋で何度も触っているうちに、うっかり窓の外に見える木へと放ってしまったのだ。
ヤバイヤバイッ!!誰か来る前に、特にフレデリックが来る前に速やかに処理しなきゃ!
と言うわけで私は半泣きでリュカにお願いした。彼はブツブツと文句を言いながらも片手を延ばす。
「 落ちてくるから離れてて下さい。」
「 あっ!出来れば傷つけないでね!」
注文をつけると、再びジロリと睨まれた。
あは!リュカはとっても綺麗なお顔だから、その大きな猫目で睨んでも、とってもかわいいわよ!?
呪文を唱えると、リュカの指先から氷が放たれ短剣の柄の部分に当たる。剣は弾かれたように木から離れ、反動でくるくると回転しながら落ちてきた。私は短剣が地面に落ちる前に片手でそれを受け止めた。
「 エヘヘ、ありがと〜!!見てー、ナ〜イスキャーッチ!!」
柄にもなくポーズをつけてリュカを見ると、彼はは真顔に戻りその大きな目を更に大きく見開いた。
「 驚きです、セナ様は本当に剣の扱いに慣れてるのですね。…… どうです? 一度私と手合わせしませんか?」
リュカは少年らしいワクワクした表情で腰の剣に手を当てる。あら、女性相手に短剣と長剣で勝負するつもり??
「 別にいいけど …… 負けるわよ?」
そう返して私も軽く剣を構える。しばらくの間彼は身動き一つしなかった。だけどやがて口の端を上げ、木の上を指差してニコリと笑う。
「 セナ様!これで貸し二つですからね!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「 ちょーっとちょっと!私まだそれ食べてなぁいっ!!」
「 早い者勝ちです。」
「 やだー!これかわいい!!皮が透き通ってる!」
「 コレも美味しいです!おかわりですわっ!!」
「 えー!? どれどれどれ??」
「 あっ。その蒸篭はまだここに置いといてください。」
「 待てッ!!これは四つ入りだ!どうやって分けるのだ!」
「 ちょっとー、誰ですか二つも食べた人はー?? ︎」
「 すみませーん!コレとコレとコレ追加でー!!」
「 ついでにコレとコレも追加でお願いします。」
ロッドに連れてきてもらったお店は、蒸し料理専門店で、蒸篭で出されるお料理が多かった。
蒸し鶏、蒸し餃子、蒸し野菜など、どの料理も熱々で提供される。蒸篭は竹ではなくこの世界の木で作られていて、とても清々しい香りがする。その為か料理の油っこさを全く感じさせなかった。
加えて、料理はそのまま食べても充分おいしいけど、つけダレや薬味の種類も豊富で、お好みで様々な味を楽しめるのも嬉しかった。
そんなに急いで食べる必要はないんだけど、なんでかな? こう順番に出でくると、早く食べなくちゃいけない衝動に駆られる。
更に蒸篭の中身が七個入りならまだいい、平和的解決が望める。しかし中の数がそれ以下だと誰が食べ、誰が譲るかで変な緊張感が生まれる。
ちなみに、上のセリフにはロッドも含まれている。彼は顔だけじゃなく順応性もハイレベルだった。それぞれのキャラをお好みのセリフに自由に当てはめてほしい。
「 アァッ!しまった!!すみませんが大事なことをお伝えするのを忘れてました!!」
ロッドがそう叫んだにも関わらず、みんなはろくに話を聞かず蒸篭に夢中だ。
「 ここの店、デザートも美味いので余分に腹を空けといて下さいねー!?」
「 はぁー !!」
「 なんだとッ!?」
「 遅いですわっ!!」
「 そんな大事なこと!もっと早く言えッ!! 」
「 ダメです …… もう入りません …… 。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それでも全員デザートまでしっかり食し、温かいお茶を飲む。このお店のお茶は、紅茶より発酵が強く、苦味がかえってさっぱりとした。
「 それでセナ、この村にも石はありそうか??」
そうグレンが聞いてくる。彼は昨夜以来少し態度がよそよそしい。キ、キスの事で誤解があったのは分かるけど普通に接して欲しい。あとあなたのあのキスは、おやすみのキスとしても何かおかしいからね?
「 …… あるわ。二つあるみたいなんだけど、一つは目立つ場所だから見つけやすいかもしれないわね。」
「 目立つ場所? この前の時計塔みたいにか? 」
「 えぇ、ホラ!この村に入ってから最初の角を曲がった所のずーっと先の高台に、立派なお城があったでしょう? そこ。」
「 えぇッ!? そんなまさかッ!! ︎」
ガタンッ!!と立ち上がり、声を上げたのはロッドだった。
「 セナ様、それは本当ですか!? 」
「 えぇ、多分そうだと思う。…… どうして?」
「 その城は …… 私の家です。」
んん? 大きな大きなお城よ?? あなたいま私の家って言った?




