60【警備問題】
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要するに、セキュリティが甘いのよ。
今まで一度もウィルスに侵入された経験がないから油断していたけど、環境が変わったんだもの、よりレベルの高いセキュリティシステムが私には求められていたのよ。
だからあんなに何度も …… 。
私は昨晩の事を思い出し、血の気が引くのが止まらない。
半裸を見られ何度もキスされ …… 気がつけばこのまま一緒に風呂でも入りかねない状況になってるじゃない!!
ダンッ!!と私はフォークでお肉を突き刺した。
こんな事ではダメ!!
ウィルスバスターを強化しなきゃ!!
「 あの …… セナ様 ?」
「 なぁにサラ??」
私は微笑んで返事をしたけど、サラの顔は引きつっている。
王宮のテラスで食事をするのは久しぶりだし、恐らくここでの食事はこれが最後になるだろう。
グレンやフレデリックへのセキュリティ対策は、後でしっかりと考えることにして、今はサラ達との食事を楽しむこと専念した。
サラ達も同じ事を考えているのか、用意された朝食兼昼食はとても豪華だった。
時計の町の宿の寝心地も良かったけど、王宮とは比較にならない。昨日の大捕物や石を戻した疲れがなかったかのように、今朝はスッキリとした寝覚めだった。
「 それにしても、昨日のセナ様は本当にお綺麗でしたわ!」
「 あら、サラもかなり男の人に囲まれてたじゃない! ねえねえ!あの後どうなったの?? 」
宴の後半になってくると、料理はテーブルに直接運ばれるのではなく、会場の三ヶ所にバイキング形式で提供される。
サラは、料理を取りに行くたびに男性に話しかけられ、身動きが取れなくなっていた。
途中で私が部屋に戻る旨を伝えると、それに合わせてサラも戻ろうとしたのだが、男性達がそれを許さなかった。
グレンに放っといても大丈夫かと確認したら、みな貴族だったり家柄が良く、家名を貶めるような事はしないと言っていた。
本来サラがこの城に侍女としているのも「お見合い」が目的だったということを思い出して、私はそのままそっと会場を後にした。
「 サラは三人から求婚されたんですって!」
ターニャが爆弾発言をさらっと述べて、ブロックベーコンを頬張った。
「 ええっ!?さ、三人も!? …… どーするの? サラ?」
「 どうすると言われましても……。」
サラは「どのお方も今ひとつピンと来ない」とため息を吐く。
「 そうですわね〜、どの男性もお家柄も申し分ございませんし、器量もよく話術も長けているご様子でございましたが。」
正直羨ましい話だ。
私も昨夜は色んな人に話しかけられたけど、宴の前半は平均年齢七十オーバーの方とばかり話していたし、後半はむしろ髪型やメイクのことで女性とばかり話していたような気がする。
モテたいわけではないけど、モテたくないわけでもない。そういうもんでしょう?
「 私なんて、お一人だけでしたわ。」
「 えっ!?ターニャも求婚されたの!?」
衝撃ー!だって彼女はまだ13歳なのよ?それでどうするのかターニャに尋ねると、彼女はブンブンと首を横に振った。
「 だってセナ様、そのお方は23歳ですのよ? いくらお顔が整っていましても、おじさん過ぎますわ!」
そう …… 地味に凹むわね。そっか、10歳も差があれば、23歳でも「おじさん」になっちゃうのね。
「 サラはどんなタイプの男性が好きなの?」
「 そうですわね …… 大人しめの男性より割と押しが強いお方のほうが……。いぇ、押しが強いというより、ワイルドとかやんちゃな男性の方がタイプかも知れません。」
「 つまり個性的な人ね!」とターニャにズバッとまとめられている。ついでに、ターニャの好きなタイプは「顔のキレイな人」と、とても分かりやすかった。それって王宮の人はだいたいOKだよね。
薄いカリッとしたココア色のパンに、崩したポーチドエッグとソースを絡めると、それを口に運びながら私は唸った。
「 いいわねぇ二人とも、ちゃんと女の子してる。」
求婚なんて、今までの人生で誰からも言われたことない。
だけどそれを聞いたサラとターニャはガバッと背筋を伸ばし、凄い勢いで首を振った。
「 イヤイヤイヤッ!!セナ様こそグレン様とフレデリック様のどちらをお選びになるのか、王宮中で注目の的でございますわよっ!!」
「 へっ!? 私が?? 」
「 へ?ではございません!!昨夜の宴には、あのフレデリック様が来られたのですよ!前代未聞でございます!天変地異が起こりますわ!!」
天変地異? もう起こってるんじゃない?というツッコミは不謹慎だから控えといた。
「 フレデリック様はセナ様がご出席されたからお出になられたのです!あのお方のお姿!!宮中の全ての女性が網膜に焼き付けておりましたのよ!」
もの凄いターニャの熱演にサラも援護射撃をする。
「 まあ、フレデリック様はお返事をされるのみで、自ら話しかけるのも笑顔をお向けになるのも、セナ様のみでございましたわね。」
あぁそれは私も気になった。人見知りが凄いのは薄々気が付いてたけど、王様とかおじいちゃん達にはもう少し愛想良くして欲しい。
「 それだけではございません …… あのノーと言えないグレン様が、女性のお誘いを断ったとの話も出回っております。これはやはりセナ様が本命なのではないかと、私とターニャもかなり他の女性から聞かれてますの。」
まぁ、フレデリックはたまたま宴に参加しようと思っただけだろうし、グレンだって、例え「女性のお誘いを断った」話が本当だとしても、それこそタイプじゃなかっただけだろう。
というか「ノーと言えない」ってどうなのよ? そこは問題じゃないの??
「 それでセナ様、実際は何かアプローチ的な事はございませんの??」
思い当たる事ねぇ。うーん、フレデリックは …… 無いわよねぇ。セキュリティ問題は、私自身がうっかりしてるせいでもあるわけだし、となると、グレンの方も微妙なのかもしれない。昨晩の会話はちょっと焦ったけど、彼が困らないよう何とかフォロー出来たと思う。
「 ない …… かな。」
二人はガックシと肩を落とす。ターニャなんかは「やっぱりね。」とため息までついてる。
だいたいあなた達だって一緒に旅してるんだから、それくらいわかってた事だろう。
「 では、セナ様はどんなタイプの男性がお好きなのですか? 」
サラにそう聞かれて、私はフォークでサラダを突きながら考える。
「 そうねぇ、この世界に来て一人だけドストライクな男性がいたわね。」
「まぁ!」とターニャが歓声を上げる。「それはどなたですの?」サラも真剣な表情で身を乗り出した。
私はフォークを置き、ナプキンで口元を拭いて二人を見た。
「 王様 ?」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「 全員揃ったな!では先へ進むとしよう!!」
食事が終わる頃にリュカが部屋へと迎えに来てくれて、私達は城のエントランスホールへ向かった。グレンとフレデリックは、まだ何やら役人さんと話し込んでいる。
このお見送りのなか、私はちゃんと王様達に挨拶をするべきか迷った。
この国に召喚されて今日で十一日目だ。何事もなく旅が進めば、私は城に戻らず旅先から元の世界に戻るかもしれない。というか本来は元の世界への直前に城へと戻るのかもしれないが、そこで引き留められたりすると面倒だからそのまま帰りたい。
でも何だか言い出しづらい雰囲気だ。
分かってる。気づかないふりをしているけど、数日前から皆がその話に触れないように気遣っていることは。昨日の宴だって、王様や長老達の口からその話が出ることは一切なかった。
でもね? このままなし崩しで、この世界に居続けることはできないわ。誰に何を言われても、三日後には必ず元の世界へ帰るんだから。
石集めの大変さは分かってるけど、あとはもう花音ちゃんや奏太に頑張ってもらうしかない。
だからいまこのタイミングで、お世話になった王様やおじいちゃん達に、別れの挨拶をした方がいいと思ったのだ。
あー!でももし、また旅先で何か事件があって、城に戻ることがあったら? 一度お別れしたのに顔を合わせるのって、気まずいし格好がつかないのよね。
えっと、じゃあどうしようか?
ふとそこで王様と視線が合い、私たちは見つめあった。王様が優しげな眼差しでゆっくりと頷く。
いい感じ!!言うなら今よ!!
………………………… 。
身体にフワリと浮遊感があり、一瞬で目の前の景色が変わる。私の視線の先には、王様の姿はなく時計塔があった。
「 セナ?どうした口を尖らして。」
「 いい、なんでもない。」
まぁ、仕方ないわね。ぐずぐずしていた私にも非があったと認めるわ。そういえばグレンが「みんな揃ったな」と点呼を取っていた。
ここは時計の町の外なのね。またこの町に滞在するのかと思ったけど、フレデリックは馬車を出し、グレンとリュカは馬に乗った。
そうか、みんなの話をよく聞いてなかったけど、どうやら次の町へと進むらしい。私はフレデリックに促され馬車に乗り込んだ。そしてゆっくりと進みだす。
私は馬車の窓から離れてゆく時計塔を眺めた。暫く進むとポツポツとあった家もなくなり、景色は草原へと変わる。小さな魔物が林へと走ってゆく姿が見える。あの魔物はよく見かけるけど全然襲ってこない気の小さい魔物だ。
流れる景色を見ながら、私はどれだけ考えても答えが出なかった。
ねぇ、セキュリティの強化ってどうやればいいの??




