↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ライフは美しい!  作者: 清水悠


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/174

59【グレンの乙女心⑤】

「 気持ちはありがたいが、今はそういったことを考える余裕はないのだ。」


 目の前にいる女性はとても美しく、憂いを含んだ瞳で私を見上げる。


「 いぇ、良いのです。愛しいグレン様が旅から戻ったと聞いたら我慢ができず、この溢れる気持ちを抑えることができませんでしたの ……。」


 女性はまだ何か話しを続けていたが、その内容は全く頭に入ってこなくなった。


 宴の会場に、セナが入ってきたのだ。


 …… なんと美しい。


 先ほど、侍女達が宴用のドレスをセナの所に運んでいたが、銀刺繍の入るアイスグレーのロングドレスは、彼女の洗練されたイメージを引き立てている。


 目を奪われたのは、何も私だけではない。会場中の人間が感嘆の声を上げている。つい今しがた、自分の気持ちを私に打ち明けた、目の前の女性ですら、彼女から目を離せないではないか。


 面白くないな。


 王様や老中達まで、嬉々として自分の隣に彼女を座らせようとしている。


 セナが困っている。彼女は礼儀に厳しく、ハッキリとものを言うわりに意外と流されやすい。


 仕方ない、助けてやろうか。と足を踏み出そうとして止まる。会場に再びどよめきが起こった。


 なんと、現れたのはフレデリックだ。

 これは驚きだ、彼は今まで一度たりとも宴に参加したことなどない。相変わらず全身黒一色のいで立ちだが、TPOはわきまえていてタキシードを嫌味なくらい秀麗に着こなしている。


 彼はセナに近寄ると何か声をかけている。心なしかセナは頬を染めているように見え、胸がチクリと痛みを覚える。


 独占欲か? …… らしくない。フレデリックはセナの事を、どう思っているのだろう。

 彼は今まで女性との浮いた話など聞いたことがない。一部ではジャスパーとの仲を面白半分に囁かれていたくらいだ。


 しかし、あれほど他人に興味の無さそうな男が、セナが倒れたときは必ず付き添いを申し出る。もちろんそれは万が一のときに、魔法ですぐに対応する為なのだろうが、その献身的な態度は意外だった。一度は眠っているセナに、キスをしていると勘違いしそうになり、目の前が真っ暗になった。


 時計の町の山で彼女が崖から落ちたとき、私の取り乱しようは彼の目にどう写ったのだろう? あの時フレデリックに「冷静になりなさい!」と頬を殴られてなければ、私はそのまま崖から彼女を探しに降り、命を失っていたかもしれない。まったく団長ともあろう立場で、どうかしていた。


「 …… ン様 ? グレン様 ?」


 我にかえると、女性が指をさしている。

 フレデリックとセナ、サラ殿とターニャ様、そしてリュカの皆がこちらを見て手を上げている。


 私は眩しそうに目を細めると、そちらへと向かった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 彼女には本当に驚かされる。


 もう何日も一緒にいるのに、まだ私の知らない彼女がいる。宴が始まると、彼女は王様や老中らに旅の話を面白おかしく話し、その場を賑わせた。


 その話の端々には、この国を称賛する言葉や敬意が込められていて、王たちをとても喜ばせる。


 彼女はそんなに面識はないはずだが、席にいる老中全員の名前を知っていて、話しかけられるとコロコロと笑顔を浮かべ「 本当にそうですわ!マーティン様!」と、答えている。


 席の誰かの酒がなくなりそうだと、すぐに気がつきさり気なく注ぐ。その上誰かの皿が汚れていると、新しい皿と取り替えていた。その振る舞いはとても上品で、ついつい飲み過ぎ、食べ過ぎてしまう。


 そういえば、時計の町のレストランでも彼女の仕事ぶりには舌を巻いた。なぜ来たこともない店で、あのような働きができるのか? まるで入ってくる客の人数、食べる速度、料理のできるタイミングまで、彼女が自在に操っているようだった。


 彼女は時々席を立つ。

 他のテーブルで飲み食いしてる者が、セナに話し掛けに来ると、セナはしばらくしてその者の席へ訪れ、話しかける。宴に参加している者の全てが、彼女が自分のテーブルに来ると喜んだ。


 一度、席を何度もはなれるセナを王様が止めた。

 するとセナは「 まぁ!いま王様にお酌させていただこうと思いましたのに!それではやめときますわ?」と軽くおどけて皆は笑い、王様が目を剥いた。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 宴はいつもよりだいぶ長引いた。しかしそろそろ時計の針も日付けを超え、会場はお開きムードとなっている。


 セナが部屋へと戻るため、それに私も付き添う。


 すると彼女は厨房へと立ち寄り、料理長へ何やら声を掛けている。何だろう?と見ていると、今夜の宴の料理が皿に盛られていて、彼女は嬉しそうにそれを受け取っていた。


 そうか、あれだけ皆の相手をしていれば料理を楽しむ余裕など無かったのだろう。彼女が食べる事が大好きなのは、旅を共にしている者はよく分かっている( 多少食べ過ぎではないかと心配にはなるが)。


「 他の者など構わず食べればよかったのに。 」


 と私がぼやくと、彼女は困った顔を浮かべて微笑んだ。


「 えー? だって私はこの世界で沢山のものをもらってるのに、何一つ返せてないから。」


 それは衣食住の事を述べているのだろうか? こちらから無理矢理この国へと召喚したのだ、それは保障されて然るべきだと思えるが。

 だが彼女の呟く「 もらっているもの 」とは、そういった事では無いような気がする。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 部屋に入ると、セナは料理の乗った皿をテーブルへ置いて、私に石を出させた。


 何の疑問も持たずに、石の入った箱を彼女に渡すと、セナはまだ輝きを戻していない石に触れようとする。


「 待て!何をするのだ !? 」


 私は彼女の手首を掴みそれを止めた。


「 何をするって …… 今日はまだ石を戻してないから戻そうと思って。」


 余裕のあるときに戻しといたほうがいいでしょ?

 と、実にさっぱりとした表情の彼女をみて、私は急に寂しい気持ちに包まれた。今宵は誰もが気を休める宴だったというのに、彼女はいつ心を休めるのだ?


 彼女は時間を無駄にしないよう、常に心掛けている。その行動に隙はなく、誰かに頼ったりする事などまるで考えたことも無いようだった。


 私の静止もきかず彼女が石を持つと、途端に石は神々しい光を石は放つ。この行為は私たちの世界を救う為のものなのに、私は時々彼女の精気を奪うこの石を疎ましく感じることがある。


 石を宝石に戻したとき、彼女は慈しむように微笑む。その瞬間私は愚かにも石に嫉妬し、その弱々しい肩を抱きしめたくなるのだ。


 しかし彼女は「かよわい女性」ではなく、強い女性だった。はは、強いなんてもんじゃない、想像以上だ。


 私は彼女が誘拐犯を倒した所を実際に見たわけではないが、リュカに確認をすると、彼女が男達を倒したことに間違いはないようだ。


 コレは少しにわかに信じ難い。


 このような細腕で、どうやってそんなことができる? 最初にフレデリックに「 セナという可能性はありませんか?」と言われたときも、状況的にそれしか無いにも関わらず、私はそれを即座に否定してしまった。なぜなら男達の暴行跡は …… 暗殺レベルだと思われたからだ。


 だが、あの時 …… 馬が暴れザゴバが逃走をはかったとき、私は認めざるを得なかった。

 あの瞬間は何度思い返しても鳥肌が立つ。


 逃げるザゴバの足に、セナは迷いなく剣を振り投げ、腿のど真ん中に当てた。

 使い慣れた剣でもない物を、だ。


 一体、どの様な訓練をすればあの反応が出来る?

 そして、そうなるとこれまで魔物と戦うのを嫌がった理由は何故なのか。

 彼女に欺かれていたのかと思うと、少し寂しく感じた。


「 どうしたの?? 」


 いやそうではない。目の前の優しい表情を浮かべて私を見上げる女性は、人を欺いたり笑い者にするような人物ではない。それは先ほどの宴の様子からも伺える。彼女は自分の事より、相手の事を気遣う心を持っているのだから、私達が護衛する事となり、言い出せなかったのかもしれない。


「 あのね? 明日なんだけど。」


 私はギクリと身を固めた。


「 まだお城にいる? それとも旅の続きに戻れそう? みんな宴の翌日ってのんびりでしょう? 何時に起きれば良いのかなと思って。」


 私は内心の安堵を面に出さないよう努めた。明日はゆっくりと起きて、お昼過ぎに皆で転移して、時計の町からまた石探しを続けよう、と慎重に伝える。彼女はニッコリと微笑んだ。


「 分かったわ、じゃあ今夜はもう少しゆっくり出来るかな。…… 紅茶でも入れるわね!」


 良かった。元の世界に戻るとごねられたらどう説得しようかと、ここのところ逡巡していたのだ。それならば今度は別の問題を解決せねばなるまい。


 部屋のミニキッチンへと向かうセナに、私は軽く咳払いして声を掛けた。


「 あの …… セナ?」


 彼女は「 なぁに?」と問い返す。


「 あの村で …… その …… 私がしたことについてなのだが ……。」


 セナが手を止めてこちらに体を向ける気配がする。


 ちゃんと言わなくては!自分のした事に責任を持て!


 そう自分を奮い立たせるが、彼女の顔をまともに見ることができない。


 何をモタついているのだ!青臭いガキじゃあるまいし!


 あのとき彼女にキスをしてしまったのは、衝動的とはいえ自分の心に嘘はない。

 きっと彼女は、なぜ私があんな事をしたのか疑問に思っているはずだ。


 カラカラに喉が乾く。考えてみれば自分から女性に気持ちを伝えることなど初めてではないのか?


 なかなか話を切り出せない私に、セナは水を差し出す。本当によく気がきく人だ。


 私はそれを一気に飲み干し、息を吸った。

 ヨシッ!!言うぞ!自分の正直な想いを彼女に伝えるのだ!!


「 あ、あれね? 無事に再会できて良かったね〜!のキスよね? 分かってるから大丈夫よ?」


「 …… んあ!? 」


「 私たちの世界でもあるのよ、親しい家族や親友との間で嬉しいときや、おはよう・おやすみの挨拶をする時に、ハグとかキスをするの。」


「 そうなのか?…… キ、キスを??」


「 そ、そうそう、だからあれくらい気にしなくていいから!とにかくみんな無事に再会できて本当に嬉しかったし。」


 私は何だか悲しくなってきた。セナの国には、そういった習慣があるのかもしれないが、こっちの世界にはそんなものは無い。


 キスはたった一人の、愛する人にするものだ。


 それなのに「 気にしないで。」ときた。いやそれよりも「 あれくらい 」の方が地味にボディーブローで堪えるぞ。


「 とにかくそう言うことだから。ええと、この食事をしたら私はもう寝るだけだから、今夜の護衛はもういいわよ。」


 ─── 護衛??


 そうか、彼女の中で私の存在はそれ以上でもそれ以下でもないのだ。そうだよな、たかだか数日旅を共にしただけの間柄だ。


 急速に自分の心が冷えていくのを感じる。外面の良いセナが、自分には素の状態を見せていると勘違いしていた。


 それならば、この気持ちは胸の奥へとしまい、私は自分の役目を全うしようではないか。


「 一つ確認していいか? 」


 彼女は素直に頷く。


「 セナにとって、私はこの世界で家族や親友のような存在なのか?」


「 ええ?どうだろう?…… あなたがそう思うならそうなのかもしれないけど ……。」


 なんだそれ、自分の意見など入ってないではないか。バカにしてるのか?


「 では私はそう思うことにしよう。」


 私はそう言って、彼女を抱き寄せキスをした。


 だってお前の世界では、こんな事なんでも無いんだろ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。